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2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

判例時報2372

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