労働者の自殺の業務起因性(肯定)
大阪高裁H29.9.29
<事案>
A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。
<争点>
労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか
<解説>
厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。
認定基準は、
①対象疾病を発病していること
②対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
<一審>
出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない
⇒
当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
<判断>
労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。
本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
<解説>
本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断を行った。
判例時報2372
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 退職の意思表示が心裡留保により無効とされた事例・仮執行宣言に基づく支払と付加金請求の当否(2023.09.28)
- 市議会議員による広報誌への掲載禁止と頒布禁止の仮処分申立て(消極)(2023.09.28)
- 頸椎後方固定術⇒第1手術で挿入したスクリューの抜去・再挿入術⇒四肢麻痺の事案(2023.09.27)
- 凍結保存精子による出生と認知請求権の事案(2023.09.26)
- 地方議会議員の海外視察が不当利得とされた事案(2023.09.25)
「労働」カテゴリの記事
- 退職の意思表示が心裡留保により無効とされた事例・仮執行宣言に基づく支払と付加金請求の当否(2023.09.28)
- 従業員に対する不利益取扱いにつき、不当労働行為意思を認め、理由の競合を認めなかった事例(2023.09.01)
- 新人看護師が精神障害を発病して自殺⇒業務起因性(否定事案)(2023.08.15)
- 二重の労働者供給(二重派遣)の状態にあった事案(2023.08.02)
- 社員同士の争いについての退職の意思表示等(否定)(2023.07.05)
コメント