給与が振り込まれた当日に貯金差押⇒不当利得返還請求と国賠請求が認められた事案
前橋地裁H30.1.31
<事案>
Xが、滞納していた市県民税及び国民健康保険税の徴収のため、Y市長によって2回にわたってなされたX名義の貯金債権の差押えは差押禁止債権を差し押さえたものであるから違法⇒これらの差押えに引き続いて取り立てた12万6226円は支払を受けるべき法律上の原因を欠く
⇒
Y市に対し、
前記2回の差押処分の各取消しを求めるとともに、不当利得返還請求として12万6226円の支払を求め、
国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として55万円の支払を求めた。
<判断>
●Xに本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益があるか
市県民税及び国民健康保険税に係る滞納処分による差押えは、国税徴収法(「法」)に規定する滞納処分の例によることとされ、
債権の差押えの場合、
第三債務者に対する債権差押えの効力が生じ、
差し押さえられた債権の取立として金銭を取り立てたときは、
その限度において、
滞納者は滞納税を支払ったものとみなされる。
⇒
Y市は既に取り立てを終了しており、
本件各差押処分はいずれも目的を達してその法律効果は既に消滅
⇒
本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益はない。
(最高裁昭和55.11.25に立脚)
●Y市が本件各差押処分に基づいて取り立てた12万6226円が、支払を受けるべき法律上の原因を欠くか(=不当利得返還請求権が成立するか否か)
Y市長が差し押さえた貯金口座は、Xの給与が払い込まれる口座。
給与が払い込まれる口座の預金を差し押さえることは、地方税法41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項、2項(給与の差押禁止)に反するかが問題となるところ、
原則として、給与等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではない。
(最高裁H10.2.10)
⇒
本件各差押処分自体は違法とはいえない。
給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法76条1項、2項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき。
⇒
滞納処分庁が、実質的に法76条1項、2項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合がある。
本件では、Y市は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図して本件各差押処分を行ったと認めるべき特段の事情がある。
⇒不当利得返還請求を肯定。
●国賠法1条1項の損害賠償請求
本件各差押処分は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図してなされた
⇒国賠法上も違法。
⇒
慰謝料5万円、弁護士費用5000円の合計5万5000円を認容。
判例時報2373
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