被爆者援護法の「医療」の意味等
名古屋高裁H30.3.7
<事案>
被爆者健康手帳の交付を受けている控訴人ら2人が、原子爆弾の傷害作用に起因して疾病にかかり現に医療を要する状態にあると主張し、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づき、当該疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請
⇒厚生労働大臣が前記申請をいずれも却下する旨の処分
⇒本件各処分の取消しを求めた。
<争点>
①控訴人らの申請疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか否か(放射線起因性)
②当該疾病が現に医療を要する状態にあるか否か(要医療性)
③原爆症認定要件としての要医療性の要否
<判断>
●放射性起因性については、一審判決をほぼそのまま引用し、これを肯定した。
●要医療性の意義:
一審判決:
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合、特段の事情がない限り、定期検査等は被爆者援護法10条1項所定の「医療」に当たらない。
本判決:
①経過観察が特定の疾病等の治癒を目指すもの⇒治療の一環といえる
②経過観察も診察が基本となるところ、被爆者援護法10条2項がまずは「診察」(1号)を予定
⇒
同条1項の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷又は疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当。
X2の申請疾病である右上葉肺がんについて:
①手術日から原爆症認定申請日までに約14年6か月余りが経過
②前記疾患は既に治癒
⇒要医療性を否定。
X2の申請疾病である左乳がん:
①再発の可能性が特に長期にわたる疾患
②当時の主治医がなお長期間にわたって経過観察が必要であると判断したのは申請疾病(左乳がん)が多重がんの性質を有するものであることを考慮したものと考えられる
⇒
少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては、いまだ再発のリスクが否定できないから経過観察の必要性があった
⇒要医療性を肯定
X3の申請疾病である慢性甲状腺炎(橋本病):
同疾患が甲状腺機能低下症等様々な合併症・続発症が生ずるおそれがあり、経過観察によってこれらの続発症等が発生している兆候の有無を見極める必要があるため長期にわたる経過観察が欠かせいない等
⇒
少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては経過観察を行うべき状態にあった。
⇒要医療性を肯定。
<解説>
要医療性について:
A:被爆者援護法10条1項の「医療」は原則として積極的治療を要し、経過観察の状態にある場合はこれに当たらない
B:積極的治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合でもこれに該当する
C:Aの見解に立ちつつ、申請時点ないし申請に対する判断時点において定期的な経過観察にとどまっている場合であっても、当該疾病の予後として一般に悪化や再発が予想され、その状況に応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行うことを要する場合などは要医療性がある
原爆症認定要件としての要医療性:
旧法当時の裁判例であるが、
石田原爆訴訟判決(広島地裁昭和51.7.27)がこれを肯定し、その後の松谷訴訟最高裁判決(最高裁H12.7.18)も同様の立場を採用。
判例時報2373
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