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2018年9月

2018年9月30日 (日)

危険運転致死傷罪の共同正犯と救護・報告義務

札幌高裁H29.4.14      
 
<訴因>
①Aの酒気帯び運転
②A・Bにつき被害者5名それぞれに対する危険運転致死傷の共同正犯(予備的にAの過失運転致死傷、Bの過失運転致死)、
③Bの救護・報告義務違反 

<主張>
被告人両名:
①赤信号を見落としただけで殊更に無視していない
②信号無視高速運転の共謀はない

被告人B:
③Aと共謀していない⇒B車が轢跨したV3以外の被害者に対する交通事故については救護・報告の義務を負わない
④V3に対する交通事故については、V3を轢跨し引きずった認識がなかった⇒救護・報告義務違反の故意を欠く
 
<解説>
●危険運転致死傷罪の共犯に関する裁判例 
危険運転致死傷罪:
構成要件として、
正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為や重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為等を行い、
よって人を死傷させたことを規定

その「運転する行為」を行う者として想定されるのは「運転席に位置して運転操作をする者」
最高裁H25.4.15:
①運転者と被告人両名(先輩)との関係
②運転者が被告人両名に車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況
③これに対する被告人両名の応答態度等

運転者が車両を運転するについては、先輩であり、同乗している被告人両名の意向を確認し、了解を得られたことが重要な契機となっている一方、
被告人両名は、運転者がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、車両発進に了解を与え、その運転者の運転を制止することなくそのまま車両に同乗してこれを黙認し続けた

上記の被告人両名の了解とこれに続く黙認という行為が、運転者の運転の意思をより強固なものにすることにより、運転者の危険運転致死傷罪を容易にしたこと明らか

危険運転致死傷幇助罪の成立を肯定
 
●複数の車両で走行した場合の共同正犯 
◎ 本件:信号無視高速運転類型の事案であり、共同正犯として起訴されたのは競い合うように高速度で走行した2台の運転者
 
<原審>
①AとBがそれぞれ相手の車が高速度で走行する状況を認識した上で、一方が速度を上げれば他方も速度を上げるなど、速度を競うように高速度で走行しており、事故交差点に接近する際も、相手方停止しようとしない走行状況を認識していた
②AとBの双方が、相手が赤色侵害に従わずに高速度のままで交差点を通過しようとする意思を有していることを認識し、自らも一緒に赤色信号に従わずにそれまでの走行と同様に競うように高速度のまま交差点を通過しようとする意思を有していた

交差点に侵入する時点において、赤色信号に従わずに高速度のままで交差点を通過する意思を相通じていた

共謀の成立を認めた

 
<判断>
AとBとが、交差点に至るに先立ち、殊更に赤色信号を無視する意思で、両車両が交差点に進入することを認識し合い、
そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた上、
各自がそのままの高速度による走行を継続して交差点に進入し、危険運転行為に及んだ
ことが肯認できる

原判決を支持 
 
◎運転者AがA車を運転して赤色信号を無視して高速度で交差点に進入した行為がA車による危険運転致死傷罪の実行行為。

B車の運転者であるBは、実行行為を分担したのではなく、共謀により加担した者と位置づけられる。
B車による危険運転致死罪の実行行為に対するAの関与も同様。

観念的には、
Bと共謀してAが実行行為に及んだA車による危険運転致死傷(V1~V5)の共同正犯と、
Aと共謀してBが実行行為に及んだB車による危険運転致死(V3)の共同正犯とが並立

控訴審判決でも、AとBが共謀を遂げた上で各自が危険運転の実行行為に及んだとして、この点が明確に。

本件のような類型の危険運転致死傷罪の共同正犯は、
運転者の信号無視高速運転について意思を連絡した者すべてに共謀共同正犯が成立するのか、限定的な範囲で成立するとすべきなのかは、
今後の検討課題。
ex.
A社の同乗者がAの危険運転行為を提案し、積極的に賛同した場合。
AとBが信号無視高速運転の意思を共有して交差点に接近したが、A車のみが交差点に進入して交通事故を起こし、B車は交差点に進入しなかった場合。
 
●救護・報告義務を負う運転者 
 
<規定>
道交法 第七二条(交通事故の場合の措置)
 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

道交法 第一一七条
車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
 
道交法72条の義務は、当該交通事故に関与した車両の運転者に課せられたもの
名古屋地裁H22.1.7:
危険運転致死傷に基づく運転者の不救護・不申告について、同乗者が共謀共同正犯又は幇助犯として起訴されたが、いずれも成立しないとされた。
 
◎ 本件の事案:
Bだけでなく、V車と衝突したAも現場から走り去ったとした場合、危険運転致死傷罪の共同正犯たるAとBに救護・報告義務違反の共同正犯が成立するのか、それぞれが単独犯になるのか?
本件では、A車がV車と衝突してV1~V5を負傷させた事故(A車事故)と、B車がV3を轢跨して負傷させた事故(B事故)が連続して発生。

運転者の救護・報告義務を検討するに当たり、両方の事故を包括して考えるのか、個別に考えるのか?

被告人Bは、A車事故については救護・報告義務を負わない、B事故について認識がないと主張。
but
原審は、B車事故についての救護・報告義務違反について検討するまでもなく、A社事故についての救護・報告義務があったとし
Bは、Aとの間で危険運転致死傷罪の共謀が成立する⇒A車がV車に衝突したことについてもBは責任を負う関係にある。すなわち、A車がV車に衝突して被害者らを負傷させた交通事故も、Bの運転に起因する。

罪となるべき事実として
「Bが、B車を運転中、V1及びV3らに傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに、B車の運転を停止して同人らを救護する等必要な措置を講じず、事故発生の日時等を警察官に報告しなかった」との事実を認定。
 
車両や歩行者との衝突・ 轢過など車体が直接接触することがなくても、車両の交通により人が死傷し、これとの相当因果関係が認められることもあり得る(最高裁昭和38.1.24)。
控訴審も、BがAとの間で危険運転行為の共謀を遂げたことを理由として、BにA車事故に基づく救護・報告義務の違反が成立するとした判断を支持

判例時報2373

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東日本大震災直後の被災地支援で派遣⇒くも膜下出血で搬送、死亡⇒公務上の死亡(肯定)

大阪高裁H29.12.26      
 
<事案>
大阪府職員の被災地派遣先における死亡が、地方公務員災害補償法(地公災法)所定の公務災害にあたるかどうかが争われた事案。
 
<原審>
2回にわたる派遣の経緯等を認定。
地公災法31条にいう公務上の死亡(同法施行規則別表第1第8号にいう「相当の期間にわたって継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したために生じた」もの)には当たらない
⇒Xの請求を棄却。
 
<判断>
東日本大震災の被害の甚大さ、
宿泊先ホテルの状況、
被災地における自動車運転の困難性
発症当日午前の頭痛(前駆症状)と服薬
被災地において公務に従事する職員のトラウマティックストレス(惨事ストレス)に関する知見等
を新たに認定。 

本件被災地派遣における運転業務は軽度のものとはいえず、強い精神的緊張を強いられるもの
前記のような体調不良があっても休めるような状況にはなかった
③本件疾病はX(職員の妻)主張の脳出血(脳内出血)ではなくY(地方公務員災害補償基金)主張のくも膜下出血であった

前記業務はくも膜下出血の発症要因となり得る程度の高度の負荷であったというべき
前駆症状が生じた後も前記業務を継続せざるを得なかったこと等によって早期の治療機会を喪失したといえる

本件疾病による死亡は公務上の死亡に当たる

地公災法にいう公務上の災害とは、職員が公務に起因して負傷又は疾病を発症した場合をいい、
公務と疾病等との間に条件関係が存在することのみならず、社会通念上、その疾病等が公務に内在又は随伴する危険が現実化したと認められる関係、すなわち、相当因果関係があることを要する

本件のような脳血管疾患にあっては、当該職員と同程度の年齢・経験等を有し、基礎疾患を有していても通常の職務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として、
公務による負荷が、医学的経験則に照らし、客観的に、脳血管疾患の発症の基礎となる病変を、自然的経過を超えて著しく増悪させ得るものと認められる場合に、
当該疾患発症は公務に内在する危険が現実化したものと評価して、
公務起因性を認める
のが相当であり、
Yが援用する認定基準等には法的に拘束されない
 
<解説>
●本判決:
原判決と異なり、認定事実を加えた上で、
公務自体の過重負荷
公務中の治療機会喪失
の両方を認めた。

分岐点は、
①従前と同じ自動車運転業務に従事しており、
②運転時間自体はそれほど長いとはいえず、
③業務終了後の休養中に倒れた
といった点を重視するか、
本件被災地派遣における自動車運転業務の特殊な状況等を重視するか。

●参考判例
支店長付きの運転手が自動車運転の業務中に発症したくも膜下出血が業務上の疾病に当たるとした最高裁H12.7.17

公務として行われたソフトボールの競技に参加した地方公務員の急性心筋こうそくによる死亡が地公災法上の公務上の災害に当たるとした最高裁H6.5.16

心臓疾患を有する地方公務員が公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症した場合につき同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の相当因果関係を否定した原審の判断に違法があるとした最高裁H18.3.3

地方公務員(小学校教諭)が午前中に出血を開始した特発性脳内出血により当日午後の公務(児童のポートボールの試合の審判)に従事中に意識不明となってとあれ入院後死亡した場合につき死亡の公務起因性を否定した原審の判断に違法があるとした最高裁H8.3.5

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2018年9月29日 (土)

校外授業中の交通事故で死亡⇒国賠請求(肯定)

横浜地裁小田原支部H29.9.15      
 
<事案>
小学校6年生の児童が校外授業中に交通事故に遭い死亡した事例。 
 
Aの両親であるX1及びX2が、
Y2に対し運行供用者責任及び不法行為責任を、
Y1市及び費用負担者であるY3県に対し、本件小学校の教員Bが授業の実施にあたって児童の生命身体に対する安全を確保するために必要な措置を講じていなかったとして国家賠償責任を、
それぞれ求めた。
Aの弟であるX3も、Yらに対し、共同不法行為に基づき、固有の慰謝料請求を求めている。
 
<判断> 
●自動車を運転していたY2について、
進路前方の安全を十分に確認しないまま漫然時速5キロメートルで発進させて本件交通事故を発生させた
運行供用者責任及び不法行為責任を認めた

過失相殺の主張:
Y2は、本件小学校正門前でAがしゃがんで絵を描いていることを認識しながら、その直後、車を発進させる際にこれを失念し、本件交通事故を生じさせたのに対し、
Aは図工の授業中に絵を描くためにB教諭の許可を得て事故現場にいた

本件交通事故はY2の一方的な過失によって生じたものというべきであり、Aに過失相殺すべき落ち度はない
 
●本件交通事故当時、
本件小学校の児童を迎えに来た保護者の車両が本件小学校正門前に複数台駐車することが常態化していた。

B教諭としては、児童が図工の授業中に本件公道を含む校外で絵を描くことを認めれば、前記状態のため本件公道をさほど危険なものと認識しない児童において前記車両の付近でしゃがむなどして絵を描く者が出てくることや、その結果児童が前記車両によって死亡することを容易に予見することができた

B教諭の過失を肯定

Y1市の公権力の行使にあたる公務員であるB教諭が、その職務を行うについて、過失によって違法にA及びXらに損害を加えた
⇒Y1市は国家賠償責任を負う。

Y3県は、本件小学校の職員の給与その他の費用も負担していた
⇒Y3も国家賠償責任を負う。
 
●損害額:
Aの死亡による損害を6310万円余
Xらの固有の損害額を各100万円
弁護士費用を加算し、
両親のX1、X2にはそれぞれ3580万円余
弟であるX3には110万円
を認めた。 
 
<解説>
校外活動における担当教諭の注意義務を考えるにあたっては、
時間の経過に従い、
安全な授業計画を立案しているか、
授業前に児童に対して適切な指導をしていたか、
授業中に児童を適切に指導監督していたか
事故後に適切な対応をしたか
の観点から検討するのが大切。 

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2018年9月28日 (金)

冬季の富士山登山の救助で死亡⇒国賠請求(否定)

京都地裁H29.12.7      
 
<事案>
冬季登山の救助中の市消防局のヘリコプターでの事故⇒国賠請求(否定) 
Aの妻及び子である遺族Xらが、Yし消防航空隊の救助活動には、救助器具の選択を誤ったなど5つの過失がある⇒Y市に対し、国賠法1条1項に基づき、約9169万円余の損害賠償請求を求めた。
 
<判断>
山岳遭難者の救助に際し、救助隊員らに課される義務:

適切な救助方法の選択に当たっては実際に救助に当たる救助隊員の合理的な判断に委ねられるのが相当


本件のような高高度における救助隊員の救助活動については、救助時の救助隊員及び要救助者が置かれた具体的状況に照らし、救助隊員が、救助に際して明らかに合理的と認められない方法をとった場合は、職務上の注意義務を欠いた違法なものとなるが、
そうでない場合は、救助方法の選択等は救助隊員の合理的裁量に属し、違法とはならない
と解すべき。 

争点①のY救助隊員らが救助器具としてDSVを選択したことについて、かかる選択に問題ない。
争点②のDSVの装着時、D救助員がAにした胸バンドの縛着が不十分であったかという点については、これを推認させる的確な証拠はない。

その他、Y救助隊員らが救助に際して明らかに合理的と認められない方法を採ったことは認められない。

Y救助隊員らには過失はない。
 
<解説>
北海道積丹岳の遭難死で、北海道警察の救助活動の違法性が問われた事案:
違法というためには、救助を行う際の救助隊員及び遭難者が置かれている具体的状況に照らして、明らかに合理的と認められない方法を採ったと認められることが必要

本判決とほぼ同様の判断基準。

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2018年9月27日 (木)

陳述書の作成等が名誉毀損による不法行為となる場合

大阪地裁H30.1.11      
 
<事案>
A大学の教授であったXが、当時A大学の学生であったYが
「私が、A大学大学院在学中にX教授からセクハラ・アカハラ被害を受けたことは事実であり」などと記載された陳述書を作成し、本件陳述書がYの了解の下に、Xと第三者との間の別件訴訟において書証として提出
⇒名誉を毀損されたなどとして、Yに対し、不法行為に基づき慰謝料等を請求。 
 
<争点>
①本件陳述書によってXの名誉が毀損されたか
②Yが本件陳述書を作成し訴訟において提出されることを了解したことが違法か 
 
<判断>
●争点① 
XがYに対するセクハラ・アカハラ行為をした旨の本件陳述書の記載内容がXの社会的評価を低下させることは明らか。
本件陳述書が作成され、別件訴訟において書証として提出されたことにより、Xの社会的評価が低下し、Xの名誉が毀損された。
 
●争点② 
民事訴訟における陳述書が主尋問を一部代替又は補完する機能のみならず作成者の法廷での供述内容を事前に相手方に明らかにする証拠開示機能(反対尋問権保障機能)を有している
⇒その真実性の要請のみを過度に重視すべきではない。

仮に、・・・とすれば、、陳述書の作成者は自己の認識にかかわらず裁判所によって認定されることが確実と思われる事実しか記載しなくなる
⇒陳述書の前記機能が失われるとともに当事者の立証活動に大きな萎縮的効果が生じ、ひいては実態の解明を困難にするなど、民事訴訟の運営に支障を来すことが容易に生じ得る。

当事者等の社会的評価を低下させる事実や当事者等の名誉感情を害する事実が記載された陳述書を作成し訴訟において書証として提出する行為は、
作成者が陳述書記載の当該事実の内容が虚偽であることを認識しつつあえてこれを記載し行なった場合に限り、違法性を帯びる。

本件陳述書についてはその内容(セクハラ・アカハラ被害)が虚偽であるとまでは認められない
Yが本件陳述書を作成し訴訟において書証として提出されることを了解したことは、違法性を帯びず、Yに不法行為は成立しない。
 
<解説> 
民事訴訟におけつ当事者等による陳述書の作成・提出行為がどのような場合に名誉毀損として不法行為に当たるか? 

①当該陳述書の内容が、要証事実に関連性を有し、明らかにする必要性がある限り、他人の名誉を毀損し、もしくは侮辱することになったとしても、それが真実と認められる場合には、違法性を阻却し、不法行為に当たらない。
(東京地裁H13.4.25)

②その当事者において、特に故意に、しかも専ら相手方を誹謗、中傷する目的の下に、粗暴な言辞を用いて主張立証行為を行ったような場合等特段の事情がない限りは、原則として違法性は認められない。
(東京地裁H14.12.17)

③~⑥

違法と評価されるには、「その記載内容が客観的な裏付けを欠く(客観的裏付けのあることを立証できない場合を含む。)というだけでは足りず、少なくとも、陳述書に記載された事実が虚偽であること、あるいは、判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり、作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要する」(東京地裁H27.10.30)

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2018年9月26日 (水)

離婚後再婚と養子縁組⇒事情変更ありで養育費算定

札幌高裁H30.1.30      
 
<事案>
XがYと離婚後、公正証書により両名間の子の養育費として月額4万円を支払うとの合意⇒その後再婚し、再婚相手の子らと養子縁組⇒事情変更があたっとして、養育費を月額6616円に減額することを求めた事案。 
 
<原審>
事情変更を肯定⇒養育費の額を3万3000円に減額する旨の審判。 
 
<判断>
①前記公正証書作成後、Xが再婚相手の子らに対する扶養義務を負うに至った
②当事者双方の収入が変動
⇒公正証書が作成された後の事情を考慮して未成年者の養育費を算定するのが相当。 

前記公正証書が作成された当時の双方の収入や扶養家族の状況を前提として、標準算定方式を参考に養育費を試算⇒試算額は月額1万5282円。

当事者双方は、同公正証書において、これを2万4718円加算する趣旨であったと解するのが合理的

以上を参考に、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、Xの負担すべき未成年者の養育費の額を月額2万円とするのが相当
 
<解説>
民法 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

民法766条3項:
家庭裁判所は、離婚後の子の養育費に関する協議又は審判による定めを、必要があると認めるときは、変更することができる。

一般に、
法的安定性の要請から、前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度の事情の変更が顕著であることを要する」と解されている。

養育費の算定方式:
労研方式、生活保護基準方式、標準生計費方式等

養育費の程度を決める算定基準:
一般的には、収入を按分し、同一水準の生活費を出す方法

本件:
新たな養育費の負担を定めるものではなく、合意で定められた養育費の額を変更⇒合意の意思を尊重するのが相当。
経済的には、一切の事情を考慮し、月額2万円が相当と判断

判例時報2373

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2018年9月25日 (火)

私立大学医学部に通う申立人が、父である相手方に、扶養料の支払いを求めた事案

大阪高裁H29.12.15      
 
<事案>
Y(医師)と母(薬剤師)は、平成5年に婚姻し、Xと長女をもうけた。
Yは、平成19年頃不貞が発覚⇒平成21年に医院を開業して自宅を出た。
平成23年に離婚を申入れ、平成23年に5000万円のローンを組んでマンションを購入し、Xらは箱はそこに移り住んだ。
Yは、母に対し、平成23年に離婚の調停申立て、平成24年にXと長女の親権者を母と定めて離婚する旨の調停が成立。

養育費:
子ら1人500万円の一時金と
子らが大学(医学部を含む)卒業まで1人月額25万円を支払う。
私立大学医学部に進学する場合、子らが直接Yに希望を解絶え、不足分については別途協議する。

財産分与として、母に前記マンションの持分2分の1を分与し、母子に住まわせ、Yにおいて住宅ローンを完済し、将来Yの持分(残り2分の1)もXに譲渡。
Yは、平成25年に再婚⇒養育費の減額調停⇒大阪高裁は、標準的算定方式に準拠し、養育費減額の申立てを却下。
母は、Yに対し、子らとの面会交流を求める調停を申し立てたが、Yはこれを拒み、審判で認容された後も子らとの交流に応じていない。
母は、Yに対し、奨学金を受けるためXを扶養家族から外すよう求めたが、これも拒否。

Xは、平成27年4月、2浪して私立大学医学部に入学。
医学部進学後の学費を扶養料として支払うよう求めて調停を申立てが、平成29年不成立⇒審判手続きに移行。
 
<原審>
Xの私立大学医学部への進学に係る追加費用の負担について、
離婚時の調停条項

YはXが医学部に進学した場合を含め、大学卒業まで扶養義務を履行することを合意。
本件離婚の養育費は、私立大学を含む医学部進学を前提として、既存の養育費では不足が生じる場合、XからYに対し、扶養義務の履行として追加費用を請求できることが規定
Xが医学部在学中に要する追加費用は、学納金や書籍代等(合計3230万円)であり(Xの生活費等は除かれる)、
これをYと母の基礎収入で按分弁済(9対1)
⇒Yの分担k額2907万円程度。
ここから、養育費一時金500万円と毎月25万円の6年分(1800万円)、さらにXが高校卒業後(2浪中)の養育費(600万円)のうち200万円の合計2500万円を控除⇒Yが分担すべき追加費用は、6年間で407万円(月額5万7000円)
   
X・Y双方が抗告
 
<判断>
Yは、離婚時、Xの私立大学医学部進学への希望に沿い、
養育費だけでは医学部の学費等を賄えない事態を想定し、Xに対し、追加費用(扶養料)を負担する意向を有していた
。 

分担の対象:
大阪高裁決定のいて、先に定められた養育費が標準的算定方式に基づく算定金額を下回ることがないとの判断に着目。
既存の養育費のうち標準的算定方式では賄えない部分(これが医学部の学費に当たる。)のみを扶養料として請求できる

Yが負担すべき前記追加分(扶養料)の額の認定:
Xが医学部在学中に要する追加費用は、学納金等約3200万円。
そこから公立学校の教育費相当額(年間33万円)の6年分を控除した3000万円程度。


Yと母との按分割合:
母がその後、薬剤師として稼働し始めたほか、Yがローン全額を負担するマンションに居住
Y4に対し母1とし、Yの負担額は2400万円
ここから、先の養育費一時金500万円とXの2浪目の養育費(年額300万円)を控除し、さらに、
Xの養育費(月額25万円)が標準的算定方式の上限(月額18万円)を越えている⇒そこに私立大学の学費も一部考慮されたものとみて、本件の医学部在学中の6年間の養育費のうち月額10万円(720万円)を控除すべき

Yの分担額を6年間で880万円程度(年額150万円)と認定
支払方法は、学納金の納期限に合わせて年3回の分割払い。
 
<解説>
●父母が離婚に際し子の養育費を定めても、その後、子が要扶養状態にあるならば、子は自ら申立人となって義務者に対し、扶養料を請求できる。 
子が成人に達すると、原則として要扶養状態は解消される。
but
大学生など独立して生計を営むことができない場合、義務者の承諾(黙示を含む)があれば、大学卒業まではなお未成熟子として扶養料を請求することができる
 
●分担の可否
原審・抗告審とも、
Yと母の離婚時において、YはXが大学卒業まで扶養義務を履行することを合意した上、私立大学を含む医学部進学を前提として、養育費に不足が生じる場合、Xから扶養義務の履行として追加費用を請求できることが想定

①離婚時の調停条項の記載内容や、
②Y・母ともに医師一家に育ち、Yには医師として高額の収入がある
ことからすると、Y(義務者)の承諾を十分認め得るケース。

判例時報2373

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給与が振り込まれた当日に貯金差押⇒不当利得返還請求と国賠請求が認められた事案

前橋地裁H30.1.31      
 
<事案>
Xが、滞納していた市県民税及び国民健康保険税の徴収のため、Y市長によって2回にわたってなされたX名義の貯金債権の差押えは差押禁止債権を差し押さえたものであるから違法⇒これらの差押えに引き続いて取り立てた12万6226円は支払を受けるべき法律上の原因を欠く

Y市に対し、
前記2回の差押処分の各取消しを求めるとともに、不当利得返還請求として12万6226円の支払を求め、
国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として55万円の支払を求めた。 
 
<判断>
●Xに本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益があるか 
市県民税及び国民健康保険税に係る滞納処分による差押えは、国税徴収法(「法」)に規定する滞納処分の例によることとされ、
債権の差押えの場合、
第三債務者に対する債権差押えの効力が生じ、
差し押さえられた債権の取立として金銭を取り立てたときは、
その限度において、
滞納者は滞納税を支払ったものとみなされる。

Y市は既に取り立てを終了しており、
本件各差押処分はいずれも目的を達してその法律効果は既に消滅

本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益はない。

(最高裁昭和55.11.25に立脚)
 
●Y市が本件各差押処分に基づいて取り立てた12万6226円が、支払を受けるべき法律上の原因を欠くか(=不当利得返還請求権が成立するか否か)

Y市長が差し押さえた貯金口座は、Xの給与が払い込まれる口座。
給与が払い込まれる口座の預金を差し押さえることは、地方税法41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項、2項(給与の差押禁止)に反するかが問題となるところ、
原則として、給与等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではない
(最高裁H10.2.10)

本件各差押処分自体は違法とはいえない

給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法76条1項、2項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき

滞納処分庁が、実質的に法76条1項、2項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合がある

本件では、Y市は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図して本件各差押処分を行ったと認めるべき特段の事情がある。
⇒不当利得返還請求を肯定。

●国賠法1条1項の損害賠償請求 
本件各差押処分は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図してなされた
⇒国賠法上も違法。


慰謝料5万円、弁護士費用5000円の合計5万5000円を認容。

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2018年9月24日 (月)

被爆者援護法の「医療」の意味等

名古屋高裁H30.3.7      
 
<事案>
被爆者健康手帳の交付を受けている控訴人ら2人が、原子爆弾の傷害作用に起因して疾病にかかり現に医療を要する状態にあると主張し、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づき、当該疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請
⇒厚生労働大臣が前記申請をいずれも却下する旨の処分
⇒本件各処分の取消しを求めた。 
 
<争点> 
①控訴人らの申請疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか否か(放射線起因性
②当該疾病が現に医療を要する状態にあるか否か(要医療性
③原爆症認定要件としての要医療性の要否 
 
<判断>
●放射性起因性については、一審判決をほぼそのまま引用し、これを肯定した。 
 
●要医療性の意義:

一審判決:
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合、特段の事情がない限り、定期検査等は被爆者援護法10条1項所定の「医療」に当たらない。

本判決:
経過観察が特定の疾病等の治癒を目指すもの⇒治療の一環といえる
②経過観察も診察が基本となるところ、被爆者援護法10条2項がまずは「診察」(1号)を予定

同条1項の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷又は疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当。 

X2の申請疾病である右上葉肺がんについて:
①手術日から原爆症認定申請日までに約14年6か月余りが経過
②前記疾患は既に治癒
⇒要医療性を否定。

X2の申請疾病である左乳がん:
①再発の可能性が特に長期にわたる疾患
②当時の主治医がなお長期間にわたって経過観察が必要であると判断したのは申請疾病(左乳がん)が多重がんの性質を有するものであることを考慮したものと考えられる

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては、いまだ再発のリスクが否定できないから経過観察の必要性があった
⇒要医療性を肯定

X3の申請疾病である慢性甲状腺炎(橋本病):
同疾患が甲状腺機能低下症等様々な合併症・続発症が生ずるおそれがあり、経過観察によってこれらの続発症等が発生している兆候の有無を見極める必要があるため長期にわたる経過観察が欠かせいない等

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては経過観察を行うべき状態にあった。
⇒要医療性を肯定

 
<解説>
要医療性について:
A:被爆者援護法10条1項の「医療」は原則として積極的治療を要し、経過観察の状態にある場合はこれに当たらない
B:積極的治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合でもこれに該当する
C:Aの見解に立ちつつ、申請時点ないし申請に対する判断時点において定期的な経過観察にとどまっている場合であっても、当該疾病の予後として一般に悪化や再発が予想され、その状況に応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行うことを要する場合などは要医療性がある

原爆症認定要件としての要医療性
旧法当時の裁判例であるが、
石田原爆訴訟判決(広島地裁昭和51.7.27)がこれを肯定し、その後の松谷訴訟最高裁判決(最高裁H12.7.18)も同様の立場を採用。

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2018年9月23日 (日)

国籍留保の届出が届出期間経過後になされたものとされた事案

大阪高裁H29.11.28         
 
事案 F区長は、平成28年、Gの出生届を受理したが、本件国籍留保の届出については、Bが届出できるに至った時点は、E(Bの父、Xの祖父)につき就籍の審判がされた平成20年であることを前提に、
本件国籍留保の届出は、戸籍法104条1項及び3項の期間を経過した後にされたもので、Xは日本国籍を喪失(国籍法12条)⇒本件各届出をいずれも不受理とする処分をした。 
 
<原審>
B(昭和39年生)は、平成20年、E(Bの父)が就籍⇒出生により父の日本国籍を取得(昭和59年改正前の国籍法2条1号、父系主義)。
G(Bの長男、Xの兄)は、前記改正後の国籍法施行日(昭和60年1月1日)よりも前(昭和58年)にC国(血統主義)で出生⇒国籍留保の対象ではなく、そのため、Xと異なり日本国籍を有する者として出生届出が受理。
X(昭和60年生)は、改正後の国籍法施行後に出生⇒国籍留保制度(国籍法12条)の対象となる。
but
Eの就籍(平成20年)に先立ち、Xの国籍留保の届出を戸籍法104条1項所定の届出期間内(Xの出生から3か月)に求めるのには無理がある。

Bに同条3項の届出人の「責めに帰することができない事由」があるかが問題。

Eが就籍審判の通知を受けた時点(平成20年)で同項の「届出をすることができるに至った」と解すべき⇒そこから14日を経過すると、Xの出生届や国籍留保のの届出をすることはできなくなる。

当時、Bは戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなかったが、それは、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害とはならない
Xは、出生時に遡って日本国籍を失ったとして、Xの就籍許可の申立てを却下。
 
<判断>
戸籍法は、出生届出書には父母の氏名および本籍の記載を要するが(同法49条2項3号)、記載すべき事項が存在しない場合にはその旨を記載し(同法34条1項)、本籍のない者が届出後に本籍を取得したときはその旨を届け出ることを要する

Bの戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなくても、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害にはならない

Xの抗告を棄却

<解説> 
●国籍留保:
日本国民が国外で出生し、重国籍となった者について戸籍法の定めに従い留保をしない限り、出生の時に遡って日本の国籍を失うこととして、国籍の積極的な抵触(重国籍)の防止を図る制度。
国籍留保をしないと、自己の志望で日本国籍を喪失⇒国籍離脱の自由を実現。
国籍留保には届出が要件⇒戸籍に記載されない日本国民の発生を防止し、戸籍上日本国民の範囲を画する機能。 

国籍法は、昭和59年改正後の12条において、
「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」と規定。

国籍留保の適用範囲が拡大
←昭和59年の国籍法改正により、父系主義から父母両系主義に変更されたことに伴い増加する重国籍の発生を防止するため。.
 
●国籍留保の要件(国籍法12条)
①日本国外で生まれ、出生により外国籍を取得し、日本国籍と重国籍の状態となったこと、
②法定の期間内に日本国籍留保の意思表示がされること

①について:
(a)出生により外国籍を取得したこと(出生地主義、血統主義)
(b)血統により日本国籍を有すること
(c)国外で生まれたこと

②について:
国籍留保の意思表示は、
天災その他届出人の責めに帰することのできない事情のない限り、出生の日から3か月以内に、
原則として父又は母から出生届とともに届け出なければならない。(戸籍法104条1項、2項)
天災その他届出人の責めに帰することができない事由⇒届出をすることができる時から14日以内に国籍留保の届出をしなければならない。(同条3項)

●戸籍法104条3項にいう、届出人の「責めに帰することができない事由」:
①国籍留保の制度趣旨、目的
②同項が「天災」と例示

客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情やその程度を勘案して決せられるべきもの。 

最高裁H29.5.17:
父母が戸籍に記載されておらず、父母の本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは、客観的にみて、子に係る国籍留保の届出をすることの障害とならないことは明らかである旨を判示。

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2018年9月22日 (土)

てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故⇒危険運転致死傷罪の故意が争われた事例

神戸地裁H29.3.29    
 
<事案>
てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故。 
 
<解説>
●てんかん:脳の神経細胞の一部が過剰な電気活動を起こすことによって全身のけいれんや意識消失などの発作症状を繰り返し発症する病気。
抗てんかん薬の服用⇒神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくする
 
てんかん発生時に意識障害が発症⇒一時的に見当識を失い、もうろう状態になる⇒その時点での運転が過失行為として起訴された事案について、心神喪失時の行為とされた裁判例。 
 
運転開始時点における過失行為が基礎された事案
運転を差し控えるべき注意義務とその違反が認定。
but
その注意義務の前提となる事情は事案によって異なる。 

事例①:
てんかん性発作により事故を起こしたことあがり、投与治療を受けて、運転を差し控えるよう注意されていた⇒運転を差し控える義務があった。

事例②:
突然意識に障害を来たしてもうろう状態に陥るてんかん発作の持病がある者は、将来、突発的に同じような発作が起こるかもしれないことを予見すべき⇒運転を差し控える義務があった。

事例③~事例⑧
 
●自動車死傷法3条2項による規制 

<規定>   
第三条
 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

2自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令〔平二六政一六六〕第三条(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気) 

法第三条第二項の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。

一 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症

二 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)

三 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)

四 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症

五 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む。)

六 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

自動車死傷法3条は、運転開始時点において、運転開始後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になっていた場合に、そのことを認識した上で運転を開始し、走行中に正常な運転が困難な状態に陥ったことにより事故を起こして人を死傷させる行為を処罰することとしたもの。

同条1項:アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。
同条2項:病気の影響により走行中に症状が発現して、正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。

同項は、その病気を政令に委任しているところ、同法施行令3条2号は、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。
 
<判断>
本罪の故意があるというためには、自動車死傷法施行令3条各号に規定された病名の認識を必要とするものではなく、規定された病気の特徴の認識、すなわち、本件でいえば、意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により正常な運転に支障が生じるおそれがあるとの認識があれば足りる。
被告人は
①5年前に意識障害に陥ったことで、自分にはてんかんに見られるような意識消失発作を起こすおそれがあることを認識した
②過去に交通事故を起こした際、相手方等のやりとりから自分が意識を喪失して自己を起こしたことを理解しており、運転を繰り返せば同様の意識喪失の状態に陥るおそれがあることを認識した

被告人は、本件当時、少なくとも意識障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していた

本罪の故意がある

本件に至るまでの間で医療機関でてんかんの疑いを持たれ、検査を経たものの、てんかんの診断を受けてなかった

意識障害の発作が再発するおそれのある何らかの病気の影響で運転中に意識喪失の状態に陥るおそれがあることについての認識の程度は必ずしも高いとはいえないと評価しており、
社会内更生の機会を与える際に考慮すべき事情とした。
 
<裁判例>
大阪地裁H29.2.7:
主位的に、運転開始時における実行行為と故意の存在を主張:
①最後の発作から10年が経過
②当時、発作のリスクが高まっていたとはいえない
⇒運転開始は本罪の実行行為とはいえず、その時点で正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していたとは認められないとして故意を否定。

予備的主張に関し、
前兆を感じてから体が動かなくなるまでの数十メートルの間に道路端に停車し、再発進しないことが可能であたっとした上で、
前兆を感じた時点以降、正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していた
⇒故意を認定。 

東京地裁H29.6.27:
治療歴などから、抗てんかん薬を処方通り飲んでいても、疲労などの要因から複雑部分発作が起きうることを認識しており、
事故直前に前兆を感じていたにもかかわらず運転を開始した

発進時、走行中の意識障害を伴う複雑部分発作を起こす具体的危険性を認識していたとして故意を認定。

宮崎地裁H30.1.19:
車を歩道に侵入させて6名を死傷させた事案において、
てんかん発作により意識レベルの変動があったのではなく、被告人の認知機能の低下により事故が引き起こされた可能性があると判断。

判例時報2372

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2018年9月18日 (火)

高齢者の万引きで責任能力が争われた事例・精神鑑定の必要性

高松高裁H28.6.21①
高知地裁H29.8.7②      
 
<事案>
②事件は①事件の差戻審。
 
被告人(女性、犯行当時69歳)は、平成27年8月、青果店で食料品4点を万引き。
被告人は、平成21年以降、万引窃盗により罰金刑、執行猶予付き懲役刑、保護観察付きの執行猶予付き懲役刑に各回処せられ、本件各判決当時は最終刑の執行猶予期間中。 
 
<差戻前1審>
弁護人は、心神喪失又は上津役を主張して精神鑑定を請求。
その必要性を明らかにするため、精神科医師A作成のA意見書2通を提出⇒取調べ。 

A意見書
2回の問診、脳画像検査(SPECT)、心理検査、親族からの聴取を踏まえて、被告人は前頭側頭型認知症にり患。
被告人の異常な窃盗行為は、脳の前方連合野から大脳基底核への抑制が外れた結果として発生する前頭葉の機能が障害された結果、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害等につながり、状況の判断ができず、同じ行動を繰り返す傾向のため、窃盗行為という形で病的に行動を継続してしまう
として、同認知症が本件犯行及び弁識制御能力に与えた影響を説明し、正式な精神鑑定の必要があると述べていた。

前記精神鑑定請求を却下

被告人が前頭側頭型認知症にり患していたことは否定しなかったものの、
①一部を購入し一部を窃取した、
②夫等と一緒のときは万引きをしていない、
③窃取品は食料品という無用でない物であり、その一部を警察署まで隠匿
④同認知症が表れたとされrかなり前から万引きをしていた

完全責任能力を認めた
 
<控訴審>
(①)
①A医師の精神医学に関する専門家としての能力や公正さに疑問を抱かせる事情はうかがわれず、
A意見書は、正式鑑定ではないことから十分とへいえないものの、前提条件についての重要な誤りがあるとはいえない
原審証拠には、A意見書に示された前頭側頭型認知症の診断及び同認知症の診断及び同認知症が弁識制御能力に与えた影響を否定できるだけの証拠はない
本件当日の被告人が責任能力に疑問を抱かせるような無軌道な行動をとっている

原審裁判所は、より十分な資料と精神医学の専門的知見を得て、被告人の精神障害、具体的には発症時期を含めた前頭側頭型認知症り患の有無及び程度並びにその弁識制御能力への影響を明らかにする必要があった

訴訟手続の法令違反により原判決を破棄
 
<差戻審>
(②) B医師による精神鑑定(B鑑定):
①前頭側頭型認知症を否定し、
被告人は平成23年頃からアルツハイマー型認知症にり患しており、鑑定時は軽度で、本件当時は軽度ないしごく軽度
②被告人は、窃盗が悪いことであると答える能力はあるが、記憶障害や判断力の障害などから行動を制御する能力は著しく落ちており、そのことが本件犯行に大きく影響
B鑑定のうち
①被告人がアルツハイマー型認知症にり患し、鑑定時において軽度であるとする点
②同認知症により、自分の身を守り、捕まらないようにするという判断応力や、このような行動をしたら、自分の身にどのような影響を与えるかという社会的動物としての予見性、判断力が低下していたとする部分
を採用。

同認知症の犯行に対する影響は大きいとする部分については、
重症度の判定につき具体的な根拠が乏しいこと
影響が大きいとした根拠である記憶障害や、当日、自分がどこに行って、どこで盗んだかも分かっていなかったという点は、取調べDVDにおける被告人の供述状況(当日の4回の万引きにつき客観的事実と概ね一致)と整合しない

採用できない。

①犯行態様から被告人の違法性の意識は明らかで、その行動は万引きの目的に照らし合理的であること、
②夫等といるときは万引きをしていないこと
などを総合
完全責任能力を肯定

量刑判断:
①被告人の判断能力はアルツハイマー型認知症によって大きく低下していた疑いがあり、これが犯行に相当程度影響を与えたことは責任を相当程度減じるもの
②保釈後の治療の継続や再犯防止の措置
罰金刑を選択
 
<解説> 
●常習的な万引き事案において、窃盗症(クレプトマニア)又は摂食障害を伴う窃盗症を理由とする心神喪失又は耗弱が主張され、あるいは、これらを理由とする責任の減少や治療の必要性・有効性が減刑事由として主張されることが少なくない。 

大阪高裁昭和59.3.27は、摂食障害を理由に心神喪失を認めた。
その後は、大阪地裁岸和田支部H28.4.25のみ:
広汎性発達障害の影響下で摂食障害、盗癖にり患し、食料品の溜め込みと万引きへの欲求は制御し得ない程度であったという精神鑑定
⇒制御能力の著しい減退による心神耗弱をみとめたもの(罰金)。

量刑判断において、
責任能力(多くの事例が制御脳能力)の減少による責任の減少や、
窃盗症等の治療の開始による再犯防止の見込み

(再度の)執行猶予付き懲役刑や罰金刑に処した事例も相当数存在
 
●65歳以上の高齢者の窃盗による起訴人員の増大。 
認知症による責任能力の減退や責任減少が問題となる事例。
精神鑑定に基づき、認知症のために行動制御能力が著しく減退⇒心神耗弱を認めた例。
被告人を診察した医師の証言・意見書により、前頭側頭型認知症のために衝動制御が困難⇒再度の執行猶予。
but
前頭側頭型認知症にり患しているとの医師の見解を排斥して責任の減免を否定した例も。

認知症による心神耗弱又は責任の減少が認められた事例では、弁識能力はあるが、認知症のために衝動制御が困難だ得るとして、制御能力の低下をいう鑑定意見等が出されている。
 
証拠の採否は、それが裁判所の合理的裁量の範囲内にある限り違法とされることはない
精神鑑定請求についても、裁判所が、既出の証拠から被告人の精神状態に異常がないとの心証を形成し、鑑定を命じても心証が覆らないと判断⇒却下しても差し支えない。

本件差戻し前第一審:
①心理学的要素に関する諸事実と
②前頭側頭型認知症のエピソードの出現前に被告人が万引きを始めていたこと
⇒完全責任能力を肯定。
but
控訴審は、精神医学の専門家であるA医師から相応の資料と根拠に基づく問題提起⇒原判決が指摘する事情では、精神鑑定を不必要とする判断に合理性がないとしたもの。

判例時報2372

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2018年9月15日 (土)

花火大会での歩道橋での事故で業務上過失致死傷罪の共同正犯の成否が問われた事例

最高裁H28.7.12      
 
<事案>
平成13年7月、兵庫県明石市の公園において花火大会等が行われた際、公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋上で発生した雑踏事故に関して、当時の明石警察署副署長であった被告人が、検察審査会の強制起訴制度により業務上過失致死傷罪で起訴された事案。
被告人は、自己による最終の死傷結果の時点から計算すれば既に公訴時効期間が経過していた平成22年4月20日に起訴。
but
明石警察署のB地域官がこれ以前の平成14年に業務上過失致死傷罪で起訴され、平成22年に有罪判決が確定。

B地域官に対する起訴により、共犯の1人に対する起訴が他の共犯についても時効を停止させる旨規定した刑訴法254条2項に基づいて被告人に対しても公訴時効停止の効果が生じるかが問題。

被告人とB地域官に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するか否かが争点。
 
<規定>
刑訴法 第254条〔時効の停止〕
時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める
 
<解説>
過失犯の共同正犯:

最高裁昭和28.1.23:
共同して飲食店を経営していた2名の被告人が、過失によりメタノール含有飲食物を販売したという事案において、被告人両名について共同正犯の成立を認め、過失犯の共同正犯が成立し得ることを示した。
but
事例判例。

東京地裁H4.1.23(世田谷ケーブル火災事件):
共同の注意義務を負う共同作業者間において、その注意義務を行った共同の行為があると認められる場合には、その共同作業員全員に対し過失犯の共同正犯が成立する。
 
<判断>
業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要。 

B地域官、被告人等の職制や、準備段階及び事故当日における職務執行状況等に関する詳細な事実認定を前提に、
B地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた
本件事故発生の防止のために要求され得る行為についても、
B地域官にについては、
事故当日において、配下警察官を指揮するとともに、
C署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して、本件歩道橋内への流入規制等を実施すること、
準備段階において、自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し、
被告人については、
各時点を通じて、
基本的にはC署長に進言することなどにより、B地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであった

本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない

被告人とB地域官の間に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないとして、上告を棄却。
 
<解説>
本決定は、本件のように組織的な過失が問題となる事案においても、問われているのは各行為者個人の刑事責任であることを踏まえ、各行為者の役割及び各行為者に事故発生防止のために要求され得る行為を特定し、
これらの同質性の程度や相互の関連性を総合的に考慮し、
各行為者が負う注意義務を具体的に想定して、
これらが共同の注意義務と言い得るものなのかを事案に即してきめ細かく判断
するべきであるという考えを前提にし、
本件の結論を導き出すに当たっても、
前記のようなB地域官及び被告人の役割の違い(それぞれの活動場面が異なることが指摘できる。)や、それぞれが要求され得る行為の内容(B地域間及び被告人それぞれに対して要求され得る行為の中で、互いに相手方は直接の働きかけの対象とはなっていないなど、協働する場面が想定し難い内容になっているという点等が指摘できる。)等を総合的に考慮したものと推定される。 

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2018年9月14日 (金)

労働者の自殺の業務起因性(肯定)

大阪高裁H29.9.29      
 
<事案>
A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。 
 
<争点>
労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか 
 
<解説>
厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。 
認定基準は、
対象疾病を発病していること
対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
 
<一審>
出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない

当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
 
<判断>
労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。

本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討
すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
 
<解説> 
本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断
を行った。 

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2018年9月13日 (木)

証券会社の説明義務違反が認められた事例

岡山地裁H29.6.1      
 
<事案>
Yに証券取引口座を開設して取引を行うXが、Yに対し、
平成22年10月22日から平成23年10月27日までの間に行った外国株式(米国株式、中国株式)の売買取引(「本件取引」)について、
取引を担当したY従業員P2及びP3の行為には、過当取引又は違法な一任売買又は適合性原則違反説明義務違反があると主張

不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として、本件取引による損害3862万円余、弁護士費用386万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>   
Xの主張する過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反はないが、
説明義務違反が存在。

●説明義務違反:
顧客を証券取引に勧誘するに当たり自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務がある。
Xの従前の取引は、株式、投資信託、外国債券等について、いずれも中長期的に保有し、株式優待を受けたり、預金利息よりも高い利率で分配金や配当金を受領できるものとして運用していたところ、
本件取引は、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換するもの。

Y従業員らは、Xに対し、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性がることについて、Xに具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明すべきであるのに、これをしていない。
⇒説明義務違反を認定。
 
XにもYの違法行為を助長させ、損害を拡大した過失
過失相殺5割を認め、約1300万円の損害賠償を肯定
 
<解説> 
Xは説明義務違反について、外国株取引の投資勧誘について、外国株取引の投資勧誘においては、「外国証券情報」を投資家に提供、交付して、対象証券の内容とリスクを説明すべきところ、これを行っていないと主張。(投資商品についての説明義務違反)

本判決は、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて説明していない義務違反があると判示。(投資方針の変更に際しての説明義務違反) 

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2018年9月12日 (水)

配偶者暴力法8条の2の援助申出の相当性の判断が国賠法上違法とされる場合

名古屋地裁H29.11.9      
 
<事案>
Xの元妻Aが、配偶者暴力法8条の2の援助の申出として、Xからの暴力を理由に行方不明者届の不受理の申出を行ったことに対し、警察官がAの申出を相当と判断した行為によって、Aとの間の子Bの安否を知ることができず、また、配偶者に暴力を振るった加害者として扱われたことで精神的苦痛を被った

Xが、当該警察署の設置主体であるYに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<規定>
配偶者暴力法 第八条の二(警察本部長等の援助)
 
警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長。第十五条第三項において同じ。)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うものとする。
 
<Yの主張>
①法の規定は被害者に対する関係での関係機関の努力義務等を定めたものであり加害者とされる他方配偶者に対し関係機関は職務上の法的義務を負っていない。
②仮に職務上の法的義務を負っていると想定したものであったとしても、Dに職務上の注意義務違反はない。 
 
<判断>
国賠法1条1項が、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するもの。(最高裁昭和60.11.21)

Aの援助申出の相当性を判断した際におけるDの対応がXに対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となる。 

法8条の2は、被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であり、援助申出の相当性の判断は警察署長等の合理的な裁量にゆだねられている
but
援助申出を受理した場合、その反面、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなる
その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係で違法と評価される場合もあり得る

①本件では、DがFの担当者からAをBとともにシェルターへ避難させる予定であり、Aが行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていた
②AがXからの暴力被害につき具体的に供述するとともに、その日のうちにシェルターに避難することになっている旨を述べた
③DがAの供述等を踏まえて上司らとともに前記通達に照らしてAからの援助申出の相当性を検討した
等の事情

C警察署長によるAからの援助申出受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない

国賠法1条1項の適用上の違法を否定。
 
<解説>
法8条の2の援助申出の受理件数は年々増加し、平成29年の受理件数は9000件を超えた。 

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2018年9月11日 (火)

刑事弁護の報酬請求にあたり、説明義務違反⇒弁護士の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.9.20      
 
<事案>
被告:弁護士
原告:被告に刑事弁護を依頼した者 

原告は、被告に対し、原告が実質的に経営する複数の会社及び原告自身についての法事税法違反等の刑事事件の弁護を委任し、
本件委任契約に基づき、
着手金として432万円、
「軍資金」の名目で120万円を支払った。
その後、原告は、被告を解任。

原告:
被告に対し、
①本件着手金につき、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任た⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求として、
本件着手金のうち、被告が解任されるまでになした弁護活動の報酬相当額等を除いた金銭の返還を請求し、
②本件軍資金につき、
(i)被告は、弁護士としての職務に反し、
刑事手続を恐れる原告の心理状態に乗じて、
「軍資金」なる名目で使途を説明せず、
用途不明瞭な120万円を請求
した上、
その後も再三にわたり追加の報酬及び費用の支払を求めた
不法行為に基づく損害賠償請求として、本件軍資金相当額及び慰謝料の支払を求め
(ii)予備的に、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任した
本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求(さらに予備的に本件委任契約の終了に基づく前払費用返還請求)として、本件軍資金の返還を請求
 
<判断>
着手金について
本件委任契約の主たる目的及びその履行の有無を検討し、
本件委任契約で主たる目的とされた事務について、被告は解任されるまでの間にこれを履行していた
⇒請求を認めず。
 
●本件軍資金について 
①弁護士はその職務上、依頼者に対し、受任事務の内容を明らかにするとともに、弁護士報酬等について、十分説明すべき義務を負っている
②被告としては、本件軍資金について、弁護士費用であることを説明すべきであり、ましてや、「軍資金」などという誤解を招く表現で、使途は説明できないかのような態度で金銭を要求することは、原告の誤解を招くもの
弁護士の職務上の義務に反する

不法行為に基づく損害賠償責任を肯認し、本件軍資金相当額の支払を求める限度で原告の請求を認容
 
<解説> 
弁護士の説明義務違反を認めた判例:
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、消滅時効の完成を待つ方針を採るのであれば、当該方針に伴う不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもって債権者に対する債務を弁済することにより最終的な解決を図るという選択肢があることも説明すべき義務を負っていた
(最高裁H25.4.16)

事件を受任した弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、委任者に対し、一定の場合に説明義務を負う

弁護士職務規定29条1項
弁護士の報酬に関する規定5条1項

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2018年9月10日 (月)

インターネットでの投稿まとめによる名誉毀損・侮辱の不法行為(肯定)

大阪地裁H29.11.16      
 
<事案>
在日朝鮮人のフリーライターであるXが、Yが平成25年7月1日から平成26年7月3日までの間、インターネット上にXに関する投稿の内容をまとめた45本のブログ記事を掲載⇒名誉毀損、侮辱、人種差別等に当たる⇒不法行為に基づき、慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円の合計2200万円の支払を求めた。
 
<争点>
①本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
②本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
 
<判断>
●争点①:本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
本件ブログ記事のうち
①一部は、Xの行動が在日朝鮮人の特権を守るための言論の弾圧や恫喝に当たるという意見ないし論評を表明するなどし、Xの社会的評価を低下させる表現を含む
②ほぼ全ては「キチガイ」「朝鮮の工作員」等の侮辱的又は不穏当な表現を多数用いてXの精神状態、知的能力、人種、性別、年齢、容姿等を揶揄するなどし、その名誉感情を著しく害する内容である上、これらが約1年間にわたって同一のブログに順次掲載される形で積み重ねられていった⇒社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たる内容を含む
③多くは、在日朝鮮人であることを理由にXを著しく侮辱し、日本の地域社会から排除することを扇動するもの⇒人種差別に当たる内容を含む

本件各ブログ記事のうち44本のブログ記事について、名誉毀損、侮辱、人種差別などに当たる内容が含まれている。
 
●争点②:本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
①Yによる表題の作成、情報量の圧縮、引用元の投稿の並べ替え、表記文字の強調といった行為により、本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになった
②本件各ブログ記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又は原告のツイッターの読者以外にも広く知られたものになった

本件各ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至った

Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為は、2しゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たにXの人格権を侵害
 
●Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為という不法行為により、Xの人格権が侵害された
⇒Yに対し、慰謝料180万円及び弁護士費用20万円の合計200万円の支払を命じた。 
 
<解説>
新聞記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかについて、
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものとされている(最高裁昭和31.7.20)。
インターネット上の記事についても同様。(最高裁H24.3.23) 

侮辱的表現について、社会通念上許される限度を超える侮辱であると認められる場合に人格権を侵害するものと解されており、
インターネット上の侮辱的な表現についても同様。(最高裁H22.4.13)

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2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

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2018年9月 5日 (水)

ハーグ条約実施法に基づき子の返還を命じた原審を維持

大阪高裁H29.9.15      
 
<事案>
X(夫・Z国籍)とY(妻・日本国籍)は平成26年婚姻し、長女(現2歳)をもうけた。
長女は出生以来、X・Y夫婦と一緒にZ国で生活。 
Yは、平成28年、長女を連れて日本に帰国し、以降、わが国で生活。
現在、長女のZ国への渡航は妨げられている。(本件留置)

Xは、Yに対し、平成29年、
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、長女を常居所地国であるZ国に返還するよう求めた。
 
<規定>
実施法 第二七条(子の返還事由)
裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
 
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

2裁判所は、前項第四号に掲げる事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮するものとする。
一 常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次号において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無
二 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
三 申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無

3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
 
<争点>
(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
 
<原審> 
●子の返還事由(法27条各号)について、
長女が16歳に達しておらず(1号)
日本国内に所在し(2号)
常居所地国と認められるZ国の法令によれば、Xは長女について監護の権利を有し、本件留置がその権利を侵害すること(3号)
本件留置の開始時にZ国がハーグ条約の締結国であったこと(4号)
を認定。
⇒本件では、子の返還事由がある。
 
●返還拒否事由について
◎(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
①Z国において、Xによる長女自身に対する虐待は認められず、そのおそれもあに
Xから長女に心理的外傷を与えるような暴力を受けるとのYの主張を裏付けるのに十分な資料も具体的な事情も認められない
③子の返還決定は、X・Yの同居を命ずるものではなく、YがZ国で個人保護命令を得ている⇒X・YがZ国で別居した場合にXがYに対し再度の暴行を加えるおそれがあるとは認められない。
④XがZ国で長女を監護することが困難な事情は認められない。
⑤YはXの暴力に起因するPTSDや住宅事情を主張するが、Yが罹患したとするPTSDの程度は判然としないし、Z国の住宅事情も、Xが実家に転居しYが自宅に戻るという選択肢もある⇒いずれも監護困難事情とは認められない。

本件では、長女を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえない
 
◎(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
Yは、平成28年に長女を連れて自宅を出てシェルターに入所したが、これをもってXが長女に対する監護の権利を行使していないとはいえない。
 
◎(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
それを認めるに足りる的確な資料はない。
⇒Xの申立てを認容。
 
<判断> 
原審と同様、返還拒否事由はいずれも認められない
⇒Yの抗告を棄却。
(1)について、
Yは日本に帰国後も保護命令の審理や長女とXとの面会交流のためにZ国に複数回入国しているが、Xはその間保護命令に反する行動をとっておらず、そこに一定の抑止効果を認めることができる。
Yの、PTSD悪化する等の、意見書、診断書も採用せず。
(2)について
Xが監護の権利を行使しなかったのは、Yがシェルターに入所してYに居所を秘匿していたから。
(3)について
Xは、Yが長女を連れて日本に入国したことを知ると、
Z国の中央当局を通じて援助決定通知を受け、
わが国の外務省の面会交流支援事業を通じて長女と面会交流を実施するなどしている

これらの一連の経緯をみると、Xの本件申立てがYの日本入国から約1年経過しているとしても、これを留置の承諾とみることはできない。
 
<解説>
●子の返還の申立てを受けた家庭裁判所:
法27条所定の返還事由があると認めたときは、法28条所定のいずれかの返還拒否事由があると認めた場合を除き、子の返還を命じなければならない。
(ただし、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、その場合でも子の返還を命じることができる。(法28条1項柱書ただし書、裁量返還))

●子の監護権の不行使(法28条1項1号):
子の返還を求める親が、監護権を有するのに現実にこれを行使しなかったという事態はあまり想定されない。

●留置の承諾(同項3号):
一般的に、
紛争の経緯の中で表明された意見自体の意味内容が多義的であったり、変遷したり、双方の認識に隔たりがあることも少なくない
⇒その認定には慎重さが求められる。

裁判例:
子のわが国における滞在に対する同意・承諾といっても、一時的なものでは足りず、相当長期間にわたり居住し続けることを認めて、もはや子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度まで要するとするものが多い

●法28条1項4号
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」:
この返還拒否事由は、子の返還を拒む親の気持ちを直截的に表明⇒その有無が争点となる事例は極めて多い。 

法は、裁判規範を明確にし、当事者予測可能性を確保する観点
⇒該当性判断に当たり考慮すべき事情を法28条2号各号に列挙。
本件でも、
Z国において長女がXから暴力等を受けるおそれ(同項1号)
長女がZ国に入国した場合、YがXから長女に心理的外傷を与えるような暴力その他有害な言動等を受けるおそれ(同項2号)
XとYとがZ国において長女を監護することが困難な事情(同項3号)
が検討された。

本件:
医師の意見書等について、
いずれも医師としての具体的な診断結果に基づくものではなく、害悪の発生を予想し、あるいはその可能性を指摘するにすぎない⇒不採用。

裁判例の中には、
医師による意見書等の信用性評価について、
診断書等が前提としている事実関係が専ら監護親の説明に基づいており、内容の正確性が担保されていないとか、
監護権を侵害された親と子の面会交流の状況と整合しない内容を含むとか、
③子はそれまで常居所地国では精神状態に係る診察等を受けたことがなかったのに、来日後、子の返還を請求されるや、これに呼応する形で精神科を受診させている
などの経緯が指摘されている。

判例時報2372

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2018年9月 3日 (月)

相殺の抗弁が時機に遅れた攻撃防御方法に当たるかどうかが争われた事案

東京高裁H29.4.27      
 
<経緯>
Xは、平成26年12月17日に、Yに対し、業務委託契約に基づき、未払委託料及び源泉所得税等の立替金の合計1045万6996円円の支払を求める本件訴訟を提起。
提訴から10か月近く経過した同年10月14日の第5回口頭弁論期日において、Yは、業務委託料に水増しなどがあるため合計885万5700円の不当利得返還請求権及びYの理事兼従業員の報酬名目で合計540万円を支払わせたことによる同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとして、これらを自働債権として相殺の意思表示をした。

Xは、相殺の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるとして却下を求めた。
 
<規定>
民訴法 第156条(攻撃防御方法の提出時期)
攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない

民訴法 第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
 
<原審>
相殺の抗弁を却下した上、弁論を終結し、Xの請求につき、1004万7036円の支払を求める限度で認容。 
 
<判断>
相殺の抗弁の主張が訴訟の完結を遅延させるものということはできない。 
 
<解説>
時機に遅れたかどうかについては、審理状況などを考慮して総合的に判断される。 

相殺の抗弁については、時機に遅れたものかどうかの判断において、その自働債権が本来的には訴訟の経過と関係なく権利行使が可能
相殺適状となった時期が重要。(大判昭和17.10.23)
第12回口頭弁論期日で初めて提出された相殺の抗弁の主張を時機に遅れたものとして却下。

本件:
Xの釈明事項や客観的な資料の提出をまって、Yにおいて、相殺の抗弁の基礎となる事実を形成させる途上にあり、
②請求に係る業務委託料と抗弁の水増し分の不当利得額がいわば表裏の関係にある⇒当事者の合意の内容を確定させることで、YのXに対する相殺の抗弁の内容も確定される
⇒訴訟の経過や審理の内容などからすれば、抗弁の機会を奪うべきではない。
原審の第5回口頭弁論期日以降も当事者の主張立証がなされることは明らかであった。

原審に審理不尽

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2018年9月 1日 (土)

元夫が元妻に財産分与を求めた事案での不動産の持分の分与

東京高裁H29.6.30      
 
<事案>
元夫である原審申立人が元妻である原審相手方に対し財産分与を求めた事案。 

不動産について、
元夫と元妻がそれぞれ2分の1の持分で共有し、その購入のための借入金の債務が残っていた。
元夫は、本件不動産の元妻共有持分の取得を希望。
 
<原審>
①本件不動産の借入金について、元妻が主債務者、元夫が保証人となっている
②元妻の借入金債務を被担保債権として本件不動産に抵当権が設定されている

元妻が返済を怠った場合、抵当権が実行される可能性があり、
元夫が同債務を返済すると求償関係の問題が生じる

本件不動産の元妻持分を元夫に分与することは相当でない。
 
 
<判断>
財産分与の対象財産のうち元妻名義の普通預金は、元夫と元妻が本件不動産購入のために連帯債務として借り入れた住宅ローン(前記借入金債務)の預金担保となっており、その預金額と住宅ローン債務額がほぼ同じ

財産分与の対象となる資産としては預金、債務とも0円として、
本件不動産には抵当権が付されているが、不動産評価額から被担保債務額を控除しない。
 

元夫と元妻が被担保債権について連帯債務を負い、元妻名義の預金が担保とされている⇒本件不動産に設定されている抵当権が実行される可能性は相当程度に低く、本件不動産の元妻共有持分を元夫に分与することが相当。

判例時報2372

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