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2018年8月 8日 (水)

第三債務者が差押債務者に対する弁済後に差押債権者に更に弁済をした場合と債務者破産に係る否認権行使

最高裁H29.12.19   

Aに対して貸金債権を有していたYは、AのB社に対する給料債権を差し押さえ、平成22年4月、その債権差押命令がB社に送達。
butB社は、その後も給料の全額をAに支払った。

Yは、平成25年10月頃、B社に対し、Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(「本件差押部分」)の支払を求める支払督促を申立て、B社は、督促異議の申立てをする一方、
平成26年1月までに、
Aに支払うべき給料から合計26万円を控除し、これを本件差押部分の弁済としてYに支払った。(「本件支払1」)

督促異議により移行した訴訟⇒平成26年2月、B社が本件差押部分の弁済として141万905円をYに支払うなどを内容とする和解が成立し、B社はこれを支払った。(「本件支払2」)
 
破産者Aの破産管財人Xが、
破産手続開始前の決定前にAのB社に対する給料債権を差し押さえて取り立てたYに対し、
破産法162条1項1号イの規定により、
その取立による弁済を否認し、
これによりYがB社から受領した金銭に相当する金額等の支払を求める事案。
 
<規定>
破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

民執法 第155条(差押債権者の金銭債権の取立て)
金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。

民執法 第145条(差押命令)
執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない

民法 第481条(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
 
<原審>
本件支払は、いずれもAの財産である給料債権からの支払であり、これによりAのYに対する貸金債権が消滅する⇒破産法162条1項の規定による否認の対象となる。 
 
<判断>
債権差押命令の送達を受けた第三債務者が、差押債権につき差押債務者に対して更に弁済した後、差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、
後者の弁済は、破産法162条1項の規定による否認権の対象とならない。

Xの請求のうち本件支払2に係る部分を棄却。
 
<解説> 
●破産法162条1項1号は、
破産者が支払不能になった後にした既存の債務の消滅に関する行為等について、破産財団のために否認することができると規定。 
本件支払2については、これをYに対してしたのが破産者A自身ではなく第三債務者B社破産者に代わって第三者が弁済をする場合に破産法162条1項による否認が認められるか否かが問題。
 
●旧法下の判例:
破産者が破産債権者を害することを知ってしたことを要件とする故意否認(旧破産法72条1号)については、
破産者による害悪ある加功の事実を要する。
(最高裁昭和37.12.6)

これを要件としない危機否認(旧破産法72条2号)については、
破産者の意思に基づく行為のみならず、破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめる場合も否認対象行為に含む。
(最高裁昭和39.7.29)

学説:
破産者の詐害意思が要求される詐害行為類型(破産法160条1項)については、破産者自身の行為又はこれと同視される第三者の行為であることが必要。
災害医師の不要な偏頗行為類型(破産法162条1項)については、効果においては三者の行為と同視される第三者の行為であれば否認の対象となる。
 
差押債権者が民執法155条1項の規定により第三債務者から差押えに係る金銭債権を取り立ててその弁済を受けた場合、通常は、 差押債務者の財産である債権が差押債権者に対して弁済されることにより、その限度で差押債務者の差押債権者に対する債務が弁済されたものとみなされる(同条2項)。

差押債務者が破産者であれば、破産者の財産をもってその債務を消滅させる効果を生ぜしめたものとして偏頗行為類型の否認の対象となる。
but
本件において否認の対象となるか否かが問題となるのは、B社が、Aに給料債権の弁済(第一弁済)をした後に、Yの取立てに応じてした更なる弁済(第2弁済)

債権差押命令が第三債務者に差押債務者への弁済を禁止(民執法145条1項)⇒第1弁済は無効⇒Aの給料債権は第1弁済によって消滅せず、AはB社に対し弁済受領額相当の不当利得返還義務を負う
⇒第2弁済によりAの財産であるAの給料債権をもってAのYに対する債務を消滅させることになり、第2弁済は否認権の対象となる。
but
民法481条1項は、支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済したときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者請求することができると規定しており、

判例:
第三債務者が差押債務者にした給付は、差押債務者に対する関係では弁済として有効であるが、差押債権者には対抗できず、その限りで無効(相対的無効)。

第1弁済は、Aに対する関係では有効であり、これによってAの給料債権者消滅するのであって、
B社がYの取立に応じて更に第2弁済をしなければならないのは、民法481条1項により、Aへの弁済による本件差押部分の消滅をYに対抗できないことによるものにすぎず、第2弁済によって本件差押部分が消滅するものではない。

第2弁済によるAのYに対する債務の消滅は、破産者であるAの財産(給料債権)によるものとはいえない

本件支払2は、Aの財産を減少させるものではなく、破産財団を損なうものとはいえない。
本件支払2により、B社はAへの求償権(民法481条2項参照)が発生して破産債権となっているが、破産債権となるべきYのAに対する債権が消滅している(本件支払2の否認が認められれば、破産法169条によりこの債権が復活し、破産債権となる)
本件支払2は、破産債権者を害するとはいえず、有害性を欠く。

判例時報2370

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