行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立(否定)
大阪地裁H29.10.2
<事案>
近畿財務局長に対し、
学校法人Aによる国有地払下げ問題に関連する行政文書の開示請求(「本件開示請求」)をし、一部開示決定を受けたXが、
本件処分に基づき開示された行政文書(「本件開示文書」)の他にも開示請求をした行政文書が存在するはずであると主張し、当該未開示の行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利として、
本件仮処分対象文書の変更、改ざん等を禁ずる旨の仮処分を求めた保全事件の事案。
<判断>
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)の各規定を引用し、
同法の定める情報公開制度のの下において、同法3条の規定により行政文書の開示の請求をした者(開示請求者)は、
行政機関の長が同法9条1項の規定により行政文書の全部又は一部を開示する旨の決定(開示決定)をすることによって初めて、当該開示決定に係る行政文書の開示を受けることができる法的地位に立つ。
⇒
開示決定がされていない特定の行政文書について、国ないし行政機関の長等に対し、その開示を求める請求権を有する余地はない。
本件における事実関係の下において、本件処分が本件仮処分対象文書を開示する趣旨を含むものと解する余地はなく、
本件処分のほかに近畿財務局長により本件開示請求に対する応答として開示・不開示等の決定がされたこともない。
⇒
本件仮処分対象文書について開示決定がされたものと認めることはできない。
⇒
Xが国又は近畿財務局長に対して本件仮処分対象文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を有するものということはできない。
⇒
被保全権利は認められず、本件仮処分命令の申立てを却下。
<規定>
情報公開法 第3条(開示請求権)
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
・・・・・
<解説>
●本決定:
情報公開制度の仕組みに照らし、開示決定がされていない特定の行政文書について、その開示を求める具体的な請求権が生ずることはない旨を説示。
●仮に、特定の行政文書について開示決定がされたにもかかわらず開示の実施がされない場合に、開示決定を受けた者が訴訟において国等に対し当該行政文書の開示を請求することができるか?
同請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをすることができるのか?
●本決定:
仮に本件開示文書のほかにも本件開示請求に係る行政文書が存在するとすれば、本件開示請求に対する応答として本件開示文書についてのみ開示決定をするなどした近畿財務局長の対応に一定の瑕疵があったものと評価される可能性があることに言及。
⇒
行政機関の長が、開示請求がされた文書を殊更に狭く特定した上で開示決定をした場合に、開示対象文書の特定に不服がある開示請求者が、訴訟手続き上、どのように争えるか?
A:本件開示対象とされるべきであった行政文書については実質的に不開示決定がされたものと見てその取消訴訟を提起する方法
B:不作為の違憲確認訴訟(行訴訟3条5項)
いずれの方法によるにしても、仮の救済としては仮の義務付け(行訴法3条5項)が考えられ、これらを本案として仮処分命令を発令する余地はないように思われる。
判例時報2370
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