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2018年8月31日 (金)

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律⇒子の返還を命じた終局決定が117条1項の規定により変更された事案

最高裁H29.12.21      
 
<事案>
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく父Xの申立てについて、母Yが、その確定後の事情の変更によりこれを維持することが不当となったと主張⇒実施法117条1項に基づき、これを変更してXの申立てを却下するよう求めた。 
 
<経緯>
X、Y及び両名の子4名(「本件子ら」)は、米国において同居。
Yは、平成26年7月、同年8月中に米国へ戻るとXに約束して、本件子らを連れて日本に入国し、Yの両親宅に居住。

入国当時、子らのうち
年長の双子であるA及びBは11歳7か月
年少の双子であるC及びDは6歳5か月。 

Yは、Xから平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われ、Xの了承を得て本件子らをインターナショナルスクールに入学させた。

その後、本件子らの米国への帰国についてXとYの意見が対立し、Xは、本件子らについて実施法に基づくこの返還の申立て。

家裁調査官の調査:
A及びBは米国への返還を強く拒絶
C及びDも米国への返還に拒否的な意見
本件子らはいずれも他の兄弟姉妹と離れたくないと述べた。
Xはこの頃には、本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず、その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況。
 
<高裁>
平成28年1月、
A及びBについては、実施法28条1項5号の返還拒否事由があるとしながら、
米国に返還することが子の利益に資する
⇒同項ただし書を適用すべきものとして、
本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる旨の決定(「変更前決定」)をし、同月確定。
 
<経緯>
Xは、平成28年2月、Y及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売⇒同月8月頃、自宅を明け渡し、知人宅の一室を借りて住むようになった。 
Xが代替執行を申立て

執行官は、平成28年9月、本件子らをXと面会させようとしたが、本件子らは、米国への返還を拒絶し、Xと面会しようとしなかった。

執行官は日を改めて、A及びBとXとの間で会話をさせたが、両名の意向に変化はなく、執行を続けると両名の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある⇒前記代替執行を執行不能により終了させた。

Yが実施法117条1項に基づいて変更前決定の変更を求める申立て
 
<規定>
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。
 
実施法 第一一七条(終局決定の変更)
子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
 
<原審>
変更前決定の確定後に生じた事情の変更により、本件子らが米国に返還された場合に、Xが本件子らを監護することが困難な事情に陥った
実施法28条1項4号の返還拒否事由(「4号拒否事由」)に該当
実施法117条1項に基づき、変更前決定を変更し、本件申立を却下
   
Xから許可抗告の申立て⇒原審が許可 
 
<判断>
変更前決定の確定後の事情の変更により、A及びBについては実施法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず
C及びDについては同項4号の返還拒否事由が認められる

変更前決定を維持することが不当となるに至ったと認め、本件申立てを却下するのが相当
⇒本件申立てを却下。
 
 
<解説> 
●本件では、変更前決定確定後の「事情の変更によりその決定を維持することがを不当と認めるに至ったとき」に当たるかが争われ、

原審:
変更前決定確定後の事情の変更により、本件子らについて
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」という4号拒否事由が認められる。

本決定:
A及びBについて、Xにより監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したことから、5号拒否事由が認められるにもかかわらず米国に返還することが子の利益に資するとはいえない⇒実施法28条1項ただし書により返還を命ずることはできない。 
 
●5号拒否事由:
「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「条約」)13条2項の規定に対応したもの。

立法担当者:概ね10歳程度に達していれば5号拒否事由の要件を満たす場合が多い。
 
●条約13条2項:
子の異議が認められる場合には子の返還を命ずることを拒むことができる。

実施法28条:
1項本文において、返還拒否事由があると認めるときは子の返還を命じてはならないと定めた上、
同項ただし書において、5号拒否事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる旨を定めた

実質において違いはない(立案担当者)。 
 
●条約13条2項により子の返還を命ずることを拒むことができる場合に、子の返還を命ずるか否かの裁量権の行使:
①子の迅速な返還という条約の政策目的と
②子の自律的意思の尊重
とのバランスを図る必要。 

本決定:
変更前決定後にXの監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化⇒このバランスに変化を生じたと判断したもの。
 
●A及びBについて米国への返還を命ずることができない
⇒C及びDのみを米国に返還すると、両名を兄弟であるA及びBから引き離す結果を生ずる。

本決定:
C及びDについて、両名の米国への返還により兄弟分離を生ずることなど本件に現れた一切の事情を考慮し、4号拒否事由が認められるとした。

判例時報2372

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