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2018年8月17日 (金)

犯人性が争われ、強盗殺人の訴因に対して1審有罪(殺人・窃盗)2審無罪

広島高裁松江支部H29.3.27    
 
第1審
●強盗殺人の訴因に対して、
被告人を、
①平成21年9月29日午後9時34分頃に米子市内のいわゆるラブホテルにおいて同ホテル支配人を殺害した殺人罪と
②その際に現金約26万8000円を窃取した窃盗罪
で有罪を認定。
 
●証拠構造 
◎第1次的間接事実 
被告人の自白はなく、状況証拠のみによって有罪と認定

①本件はホテルの内部構造と施錠状況を知った者の犯行であるところ被告人は本店長としてそれを知っていた
②被告人は盗まれた千円札とほぼ同枚数の千円札230枚を犯行の翌日所持していた
③被告人に動機がある
④被告人は事後の逃走等犯行を疑わせる行動がある
⑤被告人以外に犯人性のある人物がいない
 
◎第2次的間接事実 
前記の第1次間接事実を推認させる第2次間接事実

①(内部犯行=被告人)については、
(a)犯行場所であるホテルの事務室の場所は外部の者にはわからないこと、
(b)ホテル事務室への侵入経路は被告人しか辿れないこと

②(「盗品」の近接所持)については、
(a)窃盗の被害額は26万円であり、そのすべてが千円札
(b)犯行日の翌日に被告人は230枚の千円札を自分の口座に入金
(c)230枚の千円札の入手経路に関する被告人の弁解が信用できない

  ◎ ◎第3次的間接事実 
①(内部犯人性)の侵入経路を推認させる第3次間接事実として、
(a)犯人は午後9時30分に106号室の客室ドア2回開閉した(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(b)犯人は午後9時34分に310号室の2階客室の扉を開けた(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(c)前記(a)と(b)の時間関係からみて、
310号室の2階客室ドアは逃走時ではなく侵入時に開けられたものであり、
侵入経路は310号室1階駐車場⇒310号室(2階)⇒2階従業員用通路⇒ホテル事務室以外に考えられない
(d)前記の3つの事実から、外部の者が侵入可能な他の経路はすべて否定される。
 
<判断>
●内部犯人性に関する間接事実1について
原判決:犯行場所である事務室の所在は外部からは判別できない
vs.
事務室のある部屋の窓(ガラス戸)は他の客室の窓(板状の戸)とは明らかに異なっている⇒外部の者でも事務室の所在を推認できる。
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
 
●内部犯人性に関する間接事実2について
原判決:106号室の客室ドアを2階開閉したのは偏見の犯人であると認定しそれを根拠に侵入経路を特定
vs.
犯人以外の者がその開閉をする可能性があり、かつ犯人が内部事情に詳しい者であれば106号室の客室ドアを開閉するというような迂遠な行動はとならない
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
⇒原判決認定以外の侵入・逃走経路も否定できない。

被告人が230枚の千円札を所持する必要性と可能性及び事件後にこれを手放す(口座に入金する)理由の存在を根拠に、原判決の認定を不合理であると判断。 
 
<解説>
●判断準則
情況証拠のみによって有罪認定する場合の立証程度について、最高裁H19.10.16が、
さらにその場合情況証拠によって認められる間接事実中に一定の事実関係が含まれていることを要するとした最高裁H22.4.27.
刑訴法382条によって控訴審が第1審判決に事実誤認があるとする場合の判断方法について、最高裁H24.2.13
 
●盗品近接所持の法理:
盗品の被害発生の時点と近接した時点において盗品を所持していた者については、右物品の入手状況につき合理的な弁明をなし得ない限り、右物品を窃取したと認定してよいとする理論
but
本件では、被告人が所持していた230枚の千円札が盗品の千円札であるという証拠は存在しない

この点に関する被告人の弁解の信用性判断は、盗品そのものの所持に関する弁解の信用性判断とは異なる。 
 
●弁護人の訴訟手続の法令違反の主張につき原審裁判所の訴訟指揮は不適切であったと判示。
公判前整理手続において争点とされたの:
「被告人が金品物色中に事務所に戻ってきた被害者に発見されて殺害行為に及んだ」(=訴因は強盗殺人)というものであったところ、

原判決:
「窃盗の目的で侵入した事務所に予期に反して被害者がいて一度は窃盗を諦めたが、何らかのやり取りの後のいさかいから殺害行為に及んだ」
と認定した際、これを争点として顕在化させる手続をとらなかった
原判決が、被害者の行動と犯行態様をずらしたのは、近接所持からくる被告人犯人説に合うように侵入経路と犯行時間をずらした結果であると推認される。

裁判員裁判という時間的制約のもとでの有罪の評議結果と認定事実の整合性について、難しい対応を迫られる一事例。

判例時報2370

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