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2018年8月 3日 (金)

被告人に訴訟能力欠如で回復の見込み無し⇒公訴棄却の可否(肯定)

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
統合失調症に罹患していた被告人が、平成7年5月3日、愛知県内の神社の境内で、面識のない2名を文化包丁で刺殺⇒殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反により起訴。 
 
<規定>
刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
 
<判断>
被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて、判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。 
 
<規定>
刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。

刑訴法 第257条〔公訴の取消し〕
公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。

刑訴法 第339条〔公訴棄却の決定〕
左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴が取り消されたとき。
 
<解説>
●刑訴法314条1項は、被告人が「心神喪失の状態」すなわち訴訟能力を欠くh状態にあるときは、原則として「その状態の続いている間公判手続を停止」しなければならない。
被告人に訴訟能力の回復の見込みがない⇒検察官が同法257条により公訴を取り消せば、裁判所は、同法339条1項3号により、公訴棄却の決定をもって手続を打切り。 
but
公判手続が停止された後、その回復の見込みがない場合で、検察官が公訴を取り消さないとき、裁判所がいかなる措置をとることができるかについて、明文規定なし。
 
●本判決:
訴訟手続の主催者である裁判所において、被告人が心神喪失の状態にあると認めて公判手続を停止する旨決定した後、被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断
事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし、形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく、裁判所は、検察官が控訴を取り消すかどうかに関わりなく、訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。

刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが、
訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合⇒判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に、口頭弁論を経た判決によるのが相当

刑事訴訟の趣旨等に照らし訴訟係属状態を維持すべきではないという観点から形式裁判である公訴棄却により訴訟手続を打切り判断の内容等に照らし判決でこれを行うことを導き、刑訴法338条4号に準じて処理するというアプローチ。

判例時報2369

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