競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得、外れ馬券の購入代金が必要経費とされた事例
最高裁H29.12.15
<事案>
長期間にわたり馬券を購入し、当たり馬券の払戻金を得ていた被上告人が、
平成17年分から同22年分までの所得税の確定申告。
その際、前記払戻金に係る所得は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たるとして、総所得金額及び納付すべき税額を計算
⇒
所轄税務署長から、
前記所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、
前記各年分の所得税に係る各更正並びに同17年分から同21年分までの所得税に係る無申告加算税及び同22年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定
⇒
前記各更正のうち確定申告額を超える部分及び前記各賦課決定の取消しを求める事案。
<争点>
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するか否か、
外れ馬券の購入代金がその必要経費に当たるか否か
<解説>
最高裁H27.3.10:
払戻金に係る所得が雑所得に当たるとされ、外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるとされた。
but
その事案は、馬券の購入態様が「馬券を自働的に購入するソフト」を使用して、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をすることにより多額の利益を恒常的に上げるもので、そのような一連の馬券の購入が「一体の経済活動の実態を有する」と評価されるもの。
but
本件:自動購入ソフトを使用せず、個々のレースに着目して馬券購入
<一審>
①具体的な馬券の購入を裏付ける資料が保存されていない⇒被上告人が機械的、網羅的に馬券を購入していたのか不明
②被上告人がレースの結果を予想し、どのように馬券を購入するかを個別に判断していたというのであれば、その購入態様は一般的な競馬愛好家と質的に大きな差があるとはいえず、自動的、機械的に馬券を購入していたともいえない
⇒
被上告人による一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するとはいえない。
⇒
被上告人が得た競馬所得は一時所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその算定上、差し引かれるものではない。
<原審>
①被上告人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に挙げていた
②このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するといえる
⇒
被上告人が得た競馬所得は雑所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその必要経費に当たる。
<判断>
国側の上告受理申立てに基づき、上告棄却。
<解説>
●平成27年最判:
飽くまで、当該事案における馬券の購入態様によって得られた払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」
に該当するか否かという観点から雑所得か一時所得かの判断をしたものであるが、
それが雑所得に当たるとする判断部分においては
「馬券を自働的に購入するソフトを使用して」、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をしたこと等の事情が認められる⇒「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる」旨が指摘。
~
当該事案における払戻金が雑所得に当たることを、当該事案の特徴を踏まえて説示(=事例判断)。
本判決:
①平成27年最判の事案に及ぶほどの馬券購入額や利益発生の規模、
②被上告人が6年間継続して年間を通じての収支で相当額の利益を得ており、回収率が100%を超えるような馬券の選別方法を用いていたと推認できること等の事情を総合考慮して、
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たり、雑所得に区分される旨を判断。
平成27年最判:
当たり馬券の払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かにについては、
「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情」を考慮すべきである旨説示。
●本判決:
被上告人の馬券購入態様を前提とした場合における外れ馬券の購入代金は、所得税法37条1項前段の必要経費に当たるとも判断。
所得税法37条1項が規定する必要経費:
①同項前段にいう、いわゆる個別対応費用(当該総収入額を得るために直接に要した費用)
⇒それが生み出した収入の帰属する年度の必要経費。
②同項後段にいう、いわゆる期間対応費用(その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた必要)
⇒それが生じた年度の必要経費。
競馬ににおいては、外れ馬券の購入代金は払戻金の発生とほぼ同時に確定
⇒外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるといえる限りは、それが同項前段の必要経費であろうが、同項後段の必要経費であろうが、必要経費に算入すべき年分に違いが生ずることはない。
本判決:
被上告人による馬券購入態様と払戻金の発生の関係に照らせば、外れ馬券の購入代金は同項前段にいう必要経費に当たると判断。
被上告人は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって頻繁に馬券を購入しており、そのような購入によって年間を通じての収支で利益が得られるようにしていた。
⇒外れ馬券の購入を含めた被上告人の馬券購入を一連の行為と捉えて全体的にみた場合には、外れ馬券の購入代金を含む馬券の購入代金が総体として払戻金の発生と対応していると考えられる
⇒所得税法37条1項前段の必要経費に該当。
判例時報2372
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