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2018年8月14日 (火)

認知症で公正証書遺言の遺言能力が否定された事案

東京地裁H29.6.6      
 
<争点>
本件遺言(平成23年6月の公正証書遺言)の有効性であり、遺言能力の有無が争われた。 
 
<主張>
原告:
遺言者は、本件遺言当時、アルツハイマー型認知症を発症しており、
長谷川式簡易知能評価スケールの検査結果や介護認定記録などから窺えるように、短期的記憶力や認識障害がみられ、記憶力を前提とした判断能力が著しく低下
⇒遺言者の遺言能力が欠如していた旨を主張。 

被告:
アルツハイマー型認知症を発症していたものの、その程度は重要なものではない⇒遺言者は遺言能力を欠如していなかった。
 
<判断>
①遺言者は、平成18年ころから物忘れが目立つようになり、同年11月以降は長谷川式簡易知能評価スケールにおいて16点ないし18点で推移
②遺言者は、遅くとも平成19年5月までにアルツハイマー型認知症であると診断された
③遺言者は、平成20年10月、妻が脳梗塞を発症して入院し、その後は有料老人ホームに入所することになり、独居生活となったため、被告は、遺言者のために要介護認定・要支援認定を申請し、同年11月、被告が同席して同認定のための調査が行われたが、
その際、遺言者は服薬をしているがその認識がなく、
電話の内容等もすぐに忘れてしまうこと、
1日の予定をホワイトボードに記載してもこれを理解及び記憶することができずに被告に何度も電話してくることが説明されたほか、
遺言者は、当時の季節と月を答えることができず、
調査中、7回も妻がどこにいくかを尋ね、妻がいないのに自分はどのように生活しているかを確認
していた
平成20年11月に作成された主治医意見書では、日常生活自立度は「J2」及び「IIb」の各欄にチェックが付され、認知症の中核症状として短期記憶に問題があることや自分の居場所が分からなくなることが見られる旨が指摘されている
⑤平成21年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は季節に適した服装を選択することができないこと、
服薬について、薬を飲む時間や量を理解できないため、家族が食事と一緒に準備しているが飲み忘れがあること、
金銭管理について、計算能力及び管理能力はないこと、
電話をかけ又はこれを受けることはできるが、電話をかけたことや話の内容等をまったく覚えていないこと、
ホワイトボードに1日の予定が書いていあるが理解しておらず、自分では何をすべきか分からずに1日に何度も家族に電話をかけて聞くこと、
同調査日に家族と病院に行ったことを覚えていないこと、
季節の理解ができず、寒い日に暖房をつけず薄着で震えていたことがあったこと、
妻が入院していることがわからず不安になっていること、
習慣的なことを除き、直前の会話の内容や出来事を記憶していないこと
などが説明され、また、
調査中にジュースを飲みながらビールを飲んでいると何度も繰り返し話していた
⑥平成21年3月の主治医意見書にも前記平成20年11月の主治医意見書ど同内容の記載があること、
⑦平成23年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は配膳された通常食を自力で食べるが、食べたすぐあとに「ご飯は?」と被告に聞くこと、
1人だとヘルパーが来る日に散歩に出かけてしまい不在となることが月2回ほどあること、
品物を見せて3分後に聞いても忘れて答えられないこと、
散歩も決まった場所でないと外出しないが、時々帰らず被告が探しに出ること、
同じ質問ばかり何度も被告にしており、1分おきに聞くために被告がこれを非難すると感情が混乱して泣くことがあること、
介護関係者の顔を忘れているほか、
東北大地震のニュースを見るたびに新鮮に驚き、被告との伝言や約束事もできないこと、
薬の飲み忘れが多いこと、
被告が金銭管理しているが、行きつけのパン屋で同じパンを繰り返し買って食べてしまうほか、会計も定員に任せており、被告からは何度も注意を受けて体重も増えていること、
会員の協力もありテニスクラブに通っているが、それ以外の場所に行けず、動作上はスポーツができるが、テニスクラブは休業であることを被告が伝えたにもかかわらず、直後に出向いてしまったこと
などが説明されるなどした
平成23年3月の主治医意見書には、前記平成21年3月の主治医意見書と同様の記載があるほか、認知症の周辺症状として、「徘徊」の欄にチェックが付されていること
など

遺言者が本件遺言を行った当時、アルツハイマー型認知症により、短期記憶障害が相当程度進んでおり、その他の症状等や遺言内容が複雑であることなどことなども併せて考慮すると、
遺言内容を理解及び記憶することができる状態ではなかった蓋然性が高い

遺言能力は欠いており、本件遺言は無効

判例時報2370

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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