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2018年8月

2018年8月31日 (金)

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律⇒子の返還を命じた終局決定が117条1項の規定により変更された事案

最高裁H29.12.21      
 
<事案>
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく父Xの申立てについて、母Yが、その確定後の事情の変更によりこれを維持することが不当となったと主張⇒実施法117条1項に基づき、これを変更してXの申立てを却下するよう求めた。 
 
<経緯>
X、Y及び両名の子4名(「本件子ら」)は、米国において同居。
Yは、平成26年7月、同年8月中に米国へ戻るとXに約束して、本件子らを連れて日本に入国し、Yの両親宅に居住。

入国当時、子らのうち
年長の双子であるA及びBは11歳7か月
年少の双子であるC及びDは6歳5か月。 

Yは、Xから平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われ、Xの了承を得て本件子らをインターナショナルスクールに入学させた。

その後、本件子らの米国への帰国についてXとYの意見が対立し、Xは、本件子らについて実施法に基づくこの返還の申立て。

家裁調査官の調査:
A及びBは米国への返還を強く拒絶
C及びDも米国への返還に拒否的な意見
本件子らはいずれも他の兄弟姉妹と離れたくないと述べた。
Xはこの頃には、本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず、その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況。
 
<高裁>
平成28年1月、
A及びBについては、実施法28条1項5号の返還拒否事由があるとしながら、
米国に返還することが子の利益に資する
⇒同項ただし書を適用すべきものとして、
本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる旨の決定(「変更前決定」)をし、同月確定。
 
<経緯>
Xは、平成28年2月、Y及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売⇒同月8月頃、自宅を明け渡し、知人宅の一室を借りて住むようになった。 
Xが代替執行を申立て

執行官は、平成28年9月、本件子らをXと面会させようとしたが、本件子らは、米国への返還を拒絶し、Xと面会しようとしなかった。

執行官は日を改めて、A及びBとXとの間で会話をさせたが、両名の意向に変化はなく、執行を続けると両名の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある⇒前記代替執行を執行不能により終了させた。

Yが実施法117条1項に基づいて変更前決定の変更を求める申立て
 
<規定>
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。
 
実施法 第一一七条(終局決定の変更)
子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
 
<原審>
変更前決定の確定後に生じた事情の変更により、本件子らが米国に返還された場合に、Xが本件子らを監護することが困難な事情に陥った
実施法28条1項4号の返還拒否事由(「4号拒否事由」)に該当
実施法117条1項に基づき、変更前決定を変更し、本件申立を却下
   
Xから許可抗告の申立て⇒原審が許可 
 
<判断>
変更前決定の確定後の事情の変更により、A及びBについては実施法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず
C及びDについては同項4号の返還拒否事由が認められる

変更前決定を維持することが不当となるに至ったと認め、本件申立てを却下するのが相当
⇒本件申立てを却下。
 
 
<解説> 
●本件では、変更前決定確定後の「事情の変更によりその決定を維持することがを不当と認めるに至ったとき」に当たるかが争われ、

原審:
変更前決定確定後の事情の変更により、本件子らについて
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」という4号拒否事由が認められる。

本決定:
A及びBについて、Xにより監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したことから、5号拒否事由が認められるにもかかわらず米国に返還することが子の利益に資するとはいえない⇒実施法28条1項ただし書により返還を命ずることはできない。 
 
●5号拒否事由:
「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「条約」)13条2項の規定に対応したもの。

立法担当者:概ね10歳程度に達していれば5号拒否事由の要件を満たす場合が多い。
 
●条約13条2項:
子の異議が認められる場合には子の返還を命ずることを拒むことができる。

実施法28条:
1項本文において、返還拒否事由があると認めるときは子の返還を命じてはならないと定めた上、
同項ただし書において、5号拒否事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる旨を定めた

実質において違いはない(立案担当者)。 
 
●条約13条2項により子の返還を命ずることを拒むことができる場合に、子の返還を命ずるか否かの裁量権の行使:
①子の迅速な返還という条約の政策目的と
②子の自律的意思の尊重
とのバランスを図る必要。 

本決定:
変更前決定後にXの監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化⇒このバランスに変化を生じたと判断したもの。
 
●A及びBについて米国への返還を命ずることができない
⇒C及びDのみを米国に返還すると、両名を兄弟であるA及びBから引き離す結果を生ずる。

本決定:
C及びDについて、両名の米国への返還により兄弟分離を生ずることなど本件に現れた一切の事情を考慮し、4号拒否事由が認められるとした。

判例時報2372

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2018年8月29日 (水)

競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得、外れ馬券の購入代金が必要経費とされた事例

最高裁H29.12.15       
 
<事案>
長期間にわたり馬券を購入し、当たり馬券の払戻金を得ていた被上告人が、
平成17年分から同22年分までの所得税の確定申告。
その際、前記払戻金に係る所得は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たるとして、総所得金額及び納付すべき税額を計算

所轄税務署長から、
前記所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、
前記各年分の所得税に係る各更正並びに同17年分から同21年分までの所得税に係る無申告加算税及び同22年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定

前記各更正のうち確定申告額を超える部分及び前記各賦課決定の取消しを求める事案。
 
<争点>
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するか否か、
外れ馬券の購入代金がその必要経費に当たるか否か 
 
<解説>
最高裁H27.3.10:
払戻金に係る所得が雑所得に当たるとされ、外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるとされた。
but
その事案は、馬券の購入態様が「馬券を自働的に購入するソフト」を使用して、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をすることにより多額の利益を恒常的に上げるもので、そのような一連の馬券の購入が「一体の経済活動の実態を有する」と評価されるもの。 
but
本件:自動購入ソフトを使用せず、個々のレースに着目して馬券購入

<一審>
①具体的な馬券の購入を裏付ける資料が保存されていない⇒被上告人が機械的、網羅的に馬券を購入していたのか不明
②被上告人がレースの結果を予想し、どのように馬券を購入するかを個別に判断していたというのであれば、その購入態様は一般的な競馬愛好家と質的に大きな差があるとはいえず、自動的、機械的に馬券を購入していたともいえない

被上告人による一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するとはいえない

被上告人が得た競馬所得は一時所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその算定上、差し引かれるものではない。
 
<原審>
①被上告人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に挙げていた
②このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するといえる

被上告人が得た競馬所得は雑所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその必要経費に当たる。 
 
<判断>
国側の上告受理申立てに基づき、上告棄却。 
 
<解説> 
●平成27年最判:
飽くまで、当該事案における馬券の購入態様によって得られた払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」
に該当するか否かという観点から雑所得か一時所得かの判断をしたものであるが、
それが雑所得に当たるとする判断部分においては
「馬券を自働的に購入するソフトを使用して」、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をしたこと等の事情が認められる⇒「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる」旨が指摘。

当該事案における払戻金が雑所得に当たることを、当該事案の特徴を踏まえて説示(=事例判断)。

本判決:
①平成27年最判の事案に及ぶほどの馬券購入額や利益発生の規模、
被上告人が6年間継続して年間を通じての収支で相当額の利益を得ており、回収率が100%を超えるような馬券の選別方法を用いていたと推認できること等の事情を総合考慮して、
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たり、雑所得に区分される旨を判断。

平成27年最判:
当たり馬券の払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かにについては、
「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情」を考慮すべきである旨説示。
 
●本判決:
被上告人の馬券購入態様を前提とした場合における外れ馬券の購入代金は、所得税法37条1項前段の必要経費に当たるとも判断。 

所得税法37条1項が規定する必要経費:
①同項前段にいう、いわゆる個別対応費用(当該総収入額を得るために直接に要した費用)
⇒それが生み出した収入の帰属する年度の必要経費。
②同項後段にいう、いわゆる期間対応費用(その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた必要)
⇒それが生じた年度の必要経費。

競馬ににおいては、外れ馬券の購入代金は払戻金の発生とほぼ同時に確定
⇒外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるといえる限りは、それが同項前段の必要経費であろうが、同項後段の必要経費であろうが、必要経費に算入すべき年分に違いが生ずることはない。

本判決:
被上告人による馬券購入態様と払戻金の発生の関係に照らせば、外れ馬券の購入代金は同項前段にいう必要経費に当たると判断。

被上告人は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって頻繁に馬券を購入しており、そのような購入によって年間を通じての収支で利益が得られるようにしていた。
外れ馬券の購入を含めた被上告人の馬券購入を一連の行為と捉えて全体的にみた場合には、外れ馬券の購入代金を含む馬券の購入代金が総体として払戻金の発生と対応していると考えられる
所得税法37条1項前段の必要経費に該当

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2018年8月28日 (火)

パワーハラスメント⇒うつ病で不法行為責任と会社の使用者責任(肯定)

名古屋地裁H29.12.5      
 
<事案>
建築事業等を営む株式会社であるY1の従業員であったXが、Y1らにおけるXの上司であったY2からいわゆるパワーハラスメント行為を受けてうつ病となり、退職を余儀なくされたなどと主張

不法行為等に基づく損害賠償として慰謝料等合計750万円余の支払を求めた事案。 

Xは、平成24年10月にY1に入社し、支店の営業職として勤務。
平成25年2月以降、上司となったY2から指導、教育を受けるようになった。
Xは、平成26年6月、うつ病のため就労が困難、2か月間の仕事の休養及び自宅での療養加療が必要であると診断され出社しなくなり、同年10月末をもってY1を退職
 
<労基署>
Xが平成26年4月頃に「F32うつ病エピソード」を発症していたと推測される
⇒その発症前おおむね6カ月の間に、
「ひどい嫌がらせやいじめ、又は暴行を受けた」
「達成困難なノルマが課せられた」
全体評価として心理的強度の負荷は「強」であったと判断し、業務起因性を肯定。 
 
<判断>
Y2のパワハラとされる言動について、Xの主張とおおむね同旨の事実を認定。
これらは、Xに対するいやがらせ、いじめ、あるいは過大な要求と捉えざるを得ないものであって、強度の心理的負担をXに与えたものであり、これによりXはうつ病を発症
⇒Y2の前記言動は不法行為を構成。

Y1:
パワハラの予防、パワハラの発生後の対応について、一定の措置を講じていたとはいえる
but
①本件以前からY2には他の従業員に対する威圧的言動が時にみられたのに指導をした形跡がない
②本件におけるY2の言動が継続している期間中に、X以外の従業員が相談窓口に連絡した形跡もなく、支店への抜き打ち調査等でも前記言動は把握されないまま数か月にわたってY2の言動が継続していた

Y1は使用者としてY2の選任監督につき相当の注意をしたとはいえない
⇒使用者責任を肯定

判例時報2371

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2018年8月27日 (月)

退職強要ハラスメント等の事案

東京高裁H29.10.18      
 
<事案>
Y1(会社)の従業員であったX1ないしX4が、Y1とその代表者Y2に対し、次の請求を行なった。
① Xらは在職中にY2から退職を強要するハラスメントを受けたと主張し、Y2に対し不法行為に基づき、Y1に対し会社法350条に基づきそれぞれ慰謝料等330万円等
②X1及びX2は、退職直前の夏季賞与の減額分が無効であると主張し、Y1に対し減額分等
③Xらは、いずれも退職願を提出し、会社都合退職に基づく係数によって算定された退職金との差額分が支給されていないと主張し、Y1に対し差額分等
④X2は、同人が受けた降格の懲戒処分が無効であると主張し、Y1に対し同処分により減額された賃金相当額等
の支払を求めた。
 
<争点>
①Y2がXらに対し退職を強要するハラスメントをしたかどうか
②Y1による夏季賞与の減額が無効か
③Xらの退職は自己都合退職か会社都合退職か
④X2に対する降格の懲戒処分が無効か
 
<規定>
労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
 
<原審>
一部認容 
 
<判断>
●原審の認容部分に加え、
①のX1・X3・X4の慰謝料を増額し
③のX1・X3・X4の退職金支払請求を認容
 
●④について:
降格の懲戒処分は、
実体面において処分の前提事実を欠き、就業規則の懲戒事由該当性の判断を誤るものであるとともに、
手続面においても、就業規則及びこれに基づく賞罰規定に違反するもので著しく不公正。 

降格処分は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない
無効
 
●②について:
Y1は賃金規定において賞与の支給方法は別に定めると規定し、年度当初に賞与支払基準を決めていたが、
その支払基準は従業員の評点を含む
⇒その部分は会社の裁量に委ねられている。
but
評定について裁量権の逸脱濫用があれば査定は無効。

減額の理由とされた責任があるとは認められず、減額の査定部分は裁量権の逸脱濫用があって無効
 
●①について:
X2に対し賞与を正当な理由なしに減額し、無効な降格処分を行うなどしており、退職を強要するものであって、違法な行為。 

X1について:
X2が正当な理由がない懲戒処分を受けることを認識し、自身も正当な理由なく賞与を減額されている
一連の行為が退職を強要するもの

X3・X4について:
降格の懲戒処分、賞与の減額査定を受けていない
but
Xら女性4名のみの職場において、X1・X2に対しハラスメントの違法行為があり、その内容が同年代の女性に対する退職勧奨行為
X3・X4にも退職勧奨行為がされているものと当然に理解される
同人らに対する違法行為でもある。
 
●③について:
退職強要行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合退職と同視でき、退職金規程の会社都合退職に当たる。 
 
<解説>
●争点④(降格の懲戒処分の有効性) 
降格は懲戒処分の1つ。
懲戒処分(労契法15条)の有効要件
懲戒処分の根拠規定の存在
懲戒事由への該当性
相当性
 
●争点②(賞与減額の有効性) 
賞与の請求権:
就業規則によって保障されているわけではなく、
各時期の賞与につき労使の交渉又は使用者の決定により算定基準・方法が定まり、算定に必要な成績査定もなされて初めて発生。
but
算定基準・方法が規定ないし決定
⇒それらに従って成績査定を実施するように請求できるし、
査定を行わない場合には当該労働者にとって確実に得られるはずの査定点による請求もすることができる。

 
●争点①(退職勧奨による不法行為の成否) 
職場のパワーハラスメントの行為類型:
①暴行・傷害(身体的な攻撃
②脅迫、名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し
④職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求
⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過小な要求
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害
が挙げられる。

社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し、当該労働者に対する損害賠償責任が生じる
懲戒権の濫用と評価される場合も、処分の無効に加えて、使用者(および責任者)の不法行為(民法709条)を成立させることがある
 
●争点③(会社都合退職の成否) 
退職金請求事件において、退職金規程が退職事由において異なる支給率を定めている場合の退職事由の主張の要否:
自己に有利な加減額事由は、この適用を主張する側が主張立証。
当該退職が退職金支給規程の自己都合か会社都合かの判断:
就業規則に規定があればこれによる。

特段の定めがない場合:
退職に至る主たる原因が労働者側の事情やその主観的意思によるのか、
会社側の経営上の必要や会社側の違法行為が大きいのか
により、

会社の違法な行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合と同視

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2018年8月26日 (日)

真正商品の並行輸入で、商標が広告に付され、外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合

知財高裁H30.2.7      
 
<事案>
我が国において「NEONERO」等の商標(本件商標)について商標権(本件商標権)を有するXが、Yの、本件商標と同一ないし類似の標章を商品に関する広告に付した行為(本件被疑侵害行為)が本件商標権侵害に該当
⇒Yに対し、Yの商品の販売等の差止め等を求めた。 
 
<判断>   
並行輸入品が、フレッドペリー事件最高裁判決(最高裁H15.2.27)の示す三要素を満たす場合には商標権侵害として実質的違法性を欠く、 

● 商標を広告に付する行為については、同最高裁判所の
当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」という要件を、
当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること」とすべき。
本件被疑侵害行為は、前記要件を充足する。

● 前掲最高裁判決の
「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される」という要件(第3要件)につき、
外国の商標権者と我が国の商標権者とが異なる場合において、
外国の商標権者と我が国の荷商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には、原則として、外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に期すべきものであるといえる。

ただし、外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても、我が国の商標権の独占権能を活用して、自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には、
この利益は保護に値するということができる


Xが、PVZ社とは独自に、Xの商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず、
Yの商品の輸入や本件被疑侵害行為によって、Xの商品の品質又は信用を害する結果が生じたとはいえず、Xに保護に値する利益があるということはできない
⇒本件被疑行為は前記要件を充足する。

⇒本件被侵害行為は商標権侵害の実質的違法性を欠く。
 
<解説>
●商標を広告に付する場合 
フレッドペリー事件最高裁判決が示した、
いわゆる真正商品の並行輸入が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合の要件のうち、
「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者らから使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」との要件は、
商標が商品に付されている場合の要件

本件における身飾品のように、商品自体に商標が付されておらず、商品を輸入してから、我が国において商品に関する広告に商標を付した場合
A:
商品に商標が付されていると仮定して当該商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討した上で、商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合には、当該商品の宣伝広告に商標を使用する行為も商標権侵害の実質的違法性を欠くというアプローチ。
B:
広告に商標を使用するという行為について、商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討するというアプローチ。

本判決は、Bの立場を採用。
 
外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合の品質管理可能性 

商標法で保護されるべき商標の機能は、
第一次的に出所表示機能であり、
商標の品質保証機能とは、商標の付された商品等が、商標の表示する出所に由来することによって、商品等の出所の管理する品質を備えていることを保証する機能

フレッドペリー事件最高裁判決の出所表示機能に関する「当該外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するもの」である場合には、商標の示す出所は1つであり、その出所の管理する品質にも違いがない。

本判決:
例外的に、我が国の商標権者が自己の出所に係る商品独自の品質又は信用があり、そのような信用等が外国商標権者の出所に係る商品の輸入によって害される結果が生じた場合には、我が国の商標権者の商品独自の品質を、品質管理可能性の要件において管理される「品質」であるとすべき。

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2018年8月25日 (土)

船舶油濁損害賠償保険法と国土交通大臣等の要件適合確認義務(否定)

東京地裁H28.3.3      
 
<事案>
宮崎市に所在する漁業協同組合である原告が、
香港に本拠地のあるA社が所有するベリーズ船籍の船舶(本件船舶)が山口県から中国に向かう途中で漂流し宮崎市の海岸沖に座礁し、撤去されないまま放置

被告国に対し、
A社の所有する本件船舶が出港するに当たっては、船舶油濁損害賠償保障法(「油賠法」)上、保障契約の有効性を審査すべきであるところ、
A社から保険会社Bに対する保険料が未だ着金せず、保険契約の効果が生じていないにもかかわらず、一般船舶保障契約証明書を交付し、当該審査義務を怠り、公務員の職務上の注意義務に違反
国賠法に基づき、損害賠償として撤去費用相当額の支払を求めた

原告は、本件に先立ち、
A社及び保険会社Bに対して、
本件船舶の撤去費用の支払を求めて、宮崎地方裁判所に訴えを提起し、
A社については、
A社が公示送達による呼び出しを受けたにもかかわらず、出頭しなかった⇒認容判決
保険会社Bについては、
保険会社Bの仲裁合意の抗弁を認め、訴えを却下。
 
<主張>
被告国に対し、
保険契約の有効性を判断すべき油賠法上の義務がある
②油倍法上の義務がないとしても、運輸局の運用によれば、保障契約の有効性を確認すべき義務がある
 
<判断>
①油賠法上、国土交通大臣等には保障契約の有効性を審査すべき権限がない
保障契約の有効性を基礎づける入金確認のような書面を求めることは油賠法及び同法施行規則上の根拠を欠く事実上の行為であり、政治的・技術的裁量に属し、本件では任意の提出を促しても実効性を有するとはいえない

いずれの義務も否定し、請求を棄却。
 
<解説>
●油賠法は、
船舶に積載されていた油によって船舶油濁損害が生じた場合における船舶所有者等の責任を明確にし、及び船舶油濁損害の賠償等を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて海上輸送の安全な発達に資することを目的とし(油賠法1条)、
油濁損害が生じた場合におけるタンカー及び一般船舶の所有者が、その損害の賠償責任を負う旨を定める(同法3条、39条の2)

油濁損害額は、莫大になり得る可能性がある

油賠法において、タンカー及び一般船舶の所有者の責任を制限する(同法5条、6条、8条、39条の3等)などの考慮がされているほか、
日本国籍を有するタンカーを2000トン超えるばら積みの油の輸送の用に供するため、日本国籍を有する一般船舶が国際航海をするため、日本国籍を有する一般船舶以外の一般船舶などが本邦内の港から出港などするためには、
それぞれこの法律で定める油濁損害賠償保障契約を締結しなければならない。

タンカー等の航行に当たって保障契約の締結を強制。

本件では、このような保障契約が有効に成立しないままに、一般船舶が出航し、海難事故に遭遇⇒保障契約による保障が得られなかった⇒保障契約締結に関する国の審査手続が問題。
 
●国土交通大臣:
一般船舶について保障契約を保険者等とする締結している者の申請があったときは、当該一般船舶について保障契約が締結されていることを証する書面を交付しなければならない(同法39条の6、17条1項)。 

●本判決は、油賠法の文言、一般船舶保障契約証明書の交付に必要な申請書の様式の内容

国土交通大臣等には、保障契約の有効性など実体的な要件判断をする権限や義務はなく、単に油賠法の要件に適合する保障契約であるかどうかという形式的な権限しか与えられていないと判断。

判例時報2371

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2018年8月23日 (木)

福島第一原発の事故で自主避難⇒損害賠償請求

大阪高裁H29.10.27      
 
<事案>
Xら(父X1、母X2、子X3~X5)が、福島第一原発を設置・運営するY(旧東京電力)に対し、同原発の事故のために家族で福島県内から自主避難せざるを得なくなり、X1が精神疾患に罹患したことで、Xらは精神的苦痛を被った。
X1及びX2は就労ができなくなった。

原発法3条1項本文に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<判断>   
自主避難を継続する合理性が認められる期間

原審:
Xら全員につき平成24年8月31日(中間指針等に基づき、18歳以下及び妊娠していた者につき、Yが精神的損害等を賠償する対象期間の終期)まで

本判決:
X2~X5については原審の判断を維持
X1について:
同人が自主避難の当初平成23年内には福島県に帰還する予定であったことや子らの監護の必要性など
⇒同年10月31日まで。 
 
●長期低線量被ばくの健康リスク:
原審と同様、年間20msvを下回る被ばくが健康に被害を与えるものと認めるにはたりない
年間20msvを下回るようになった後において自主避難の合理性を認めることは困難
 
●うつ病について
原審と同様、X1が避難開始後うつ病等に罹患したことと本件事故との間に相当因果関係を認めた。
but
保険事故と相当因果関係のある治療期間及び就労不能期間について:

原審:うつ病の症状が残存する現在においても就労不能状態が続いている。

本判決:
自主避難によってX1の受けたストレスの強度等の事情に加えて、うつ病の回復や復職期間に関する報告等を考慮

治療開始時から約2年間経過した平成25年11月30日までを本件事故と相当因果関係のある治療期間と認め、
本件事故と相当因果関係のある就労不能期間も同日までと認めるのが相当。
 

X1が避難開始後うつ病等にり患したことにつき、本件事故以外の要因が精神疾患の悪化に相当程度寄与
⇒民法722条2項を類推適用してX1及びX2の休業損害等について減額
その割合を、
X1につき60%から40%に
X2につき30%から20%に
それぞれ変更。

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2018年8月22日 (水)

ガスレンジによって一酸化炭素中毒にり患⇒業者に損害賠償請求

<事案> 
ガスレンジによって一酸化炭素中毒にり患⇒業者に損害賠償請求 
 
<争点>
本件レンジの不完全燃焼が本件作業(Yの従業員P4により、本件レンジの奥側コンロのノズルを大径ノズルに交換)を原因とするものか否か
 
<原審>
Xの請求を一部認容 
 
<判断>
①本件レンジの火力を強める本件作業によって、不完全燃焼が必然的に生ずるものではない、
②本件作業の行われた時期は、Xがドイツから帰国した直後であって、Xの体調の悪い時期と重なっており、Xの頭痛等の症状は、一酸化炭素中毒でなければ説明し得ない症状ではない
③Xの頭痛はストレスが原因の可能性もあるとの医師の指摘
④本件レンジは、Y以外の第三者に調整されていることが窺われる
⑤基準値を超える一酸化炭素濃度が測定されたのは本件作業から約3年が経過してから

不具合の発生が本件作業に起因するものとは断定し難い。

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2018年8月21日 (火)

成年後見人による横領⇒家庭裁判所の後見監督等を理由に国賠請求

東京高裁H29.4.27      
 
<事案>
原告の母の成年後見人として選任された司法書士が、成年後見人として預かり保管中の預金等から約6750万円を横領
家庭裁判所の裁判官は成年後見人の適格性を十分に調査せずに成年後見人を選任し、また、選任後も、裁判官は適切な監督を怠ったとして、国賠法1条1項に基づき、国に対して損害賠償請求。 
 
<解説>
●後見関係事件における裁判官の判断に関する国賠法上の違法性の判断の枠組み 
裁判官がした争訟の裁判に関する国賠法上の違法性に関する判断枠組について

当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与されて権限の趣旨を明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある」場合にのみ国賠法上の損害賠償責任が肯定される(最高裁昭和57.3.12)。

裁判官の争訟の裁判に対する判断が違法と判断される場合は、行政主体の公権力の行使を比べて限定されるとの見解が採用されている(「違法限定説」)。
but
前記判示は、「争訟の裁判」について判示⇒その射程は「争訟の裁判」以外には及ばない。

「争訟の裁判」とは、「権利又は法律関係の存否について、関係当事者間に争いがある場合に、当事者の一方の申立てに基づいて、裁判所又は裁判官が双方当事者を手続に関与させたうえで、公権力をもってその争いを裁断する作用ないし手続をいうもの」

家庭裁判所の裁判官が行う成年後見人の選任や後見監督といった当事者間に紛争があることを予定していない事件類型がこの「争訟の裁判」に当たらないことは明らか。

「争訟の裁判」に当たらない裁判官の判断に関する国賠法上の違法性の判断枠組みについては、「当該手続に当事者がどのような形で参画できるか、不当な裁判の是正のための不服申立制度としてどのような手続が整備されているかなどの要素も右の判断に影響せざるをえない」と考えられており、
当該裁判官の判断の法的性質等に応じて、個別に検討していく必要がある。

◎後見監督と類似した手続である不在者財産管理事件における財産管理人の監督に関し、長期間監督を怠ったために財産管理人による横領を看過したと主張された事案:
・・・独立した判断権を有し、かつ、独立した判断を行う職責のある裁判官たる家事審判官の職務行為として行われる

家事審判官による不在者財産管理人の監督につき職務上の義務違反があるとして国賠法上の損害賠償責任が肯定されるためには、
争訟の裁判を行う場合と同様に、家事審判官が違法又は不当な目的をもって権限を行使し、又は家事審判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、家事審判官がその付与された趣旨に背いて権限を行使し、又は行使しなかったと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
(東京高裁H22.10.7) 

◎後見監督事件について、 家事審判官が長期にわたって成年後見人から報告等を求めなかったために成年後見人の横領を阻止できなかったと主張した事案:
・・上記権限の行使等の具体的なあり方は、個々の事件について独立した判断権を有し、かつ、その職務を負う家事審判官の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
このような後見監督に関する家事審判官の職務行為の内容、特質⇒争訟の裁判を行う場合と同様の基準。(大阪地裁堺支部H25.3.14)
 
◎他方で、後見監督に関して、「争訟の裁判」と同様の判断枠組みを採用しなかった裁判例:
家事審判官が職権で行う成年後見人の選任やその後見監督は、審判の形式をもって行われるものの、その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するものであって、争訟の裁判とは性質を異にする

争訟の裁判に関する判断枠組みは採用できず、
家事審判官の成年後見人の選任や後見監督が被害を受けた被後見人との関係で国賠証1条1項の適用上違法となるのは、
具体的事情の下において、家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られる。
(広島高裁H24.2.20)
 
<判断> 
成年後見人の選任に関する判断について:
「同審判に対する不服申立てが許されない点を考慮しても」争訟の裁判に対する違法性の判断枠組みを採用するのが相当。

後見監督についても、
家庭裁判所による後見監督が「独立した判断権を有し、かつ、独立した判断を行う職責を有する裁判官の職務行為として行われるものであることに鑑みれば」、争訟の裁判に対する違法性の判断枠組みを採用することが相当。
 
<解説>
後見監督は、民事訴訟等とは異なり、当事者間の紛争に対して公権力をもって裁断するものではなく、家庭裁判所が成年後見人に選任することによって成年後見人に付与した法的権限が逸脱・濫用されていないかどうかについて、当該成年後見人から後見事務についての報告を求めたり、あるいは、成年被後見人の財産を調査したりするものであって、その報告徴収権や調査権といった点に着目すれば、各種業法に基づく行政庁の規制・監督権限に類するものとも見える。
but

行政庁による規制・監督:
例えば、各行政府省の大臣等に一元的にその規制・監督権限が付与されるどして、統一的な権限の行使が予定。

後見監督:
独立した判断権を有する裁判官が、個別の成年後見人に対して、その事案において必要な範囲において監督権限を行使した上で、必要に応じて、一定の処分を命じたり(民法863条2項)、更には成年後見人を解任したり(民法846条)するといった判断を行うことが予定。

その判断は、飽くまでも個別具体的な事案における担当裁判官の独立した判断に委ねられている

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2018年8月20日 (月)

マンション管理組合の理事長の(理事の過半数の一致による)解任

最高裁H29.12.18      
 
<事案>
マンションYの区分所有者であるXが、本件マンションの管理組合であるY管理組合にに対し、理事長であるXの役職を理事長から理事に変更する旨の理事会決議の無効確認等を求める事案。 
 
<争点>
本件理事会決議の無効事由の存否に関し、
Y管理組合が定めた本件マンションの管理規約の下で、理事の互選による理事長に選任された者(理事)の役職を理事長から理事に変更することを総会の決議ではなく理事の過半数の一致により行うことができるか? 
 
<本件規約>
管理組合にその役員として理事長等を含む理事及び監事を置く(40条1項)
理事は、組合員のうちから総会で選任する(同条2項)
理事長は、理事の互選により選任し(同条3項)
区分所有法に定める管理者とする(43条2項)
役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない(53条13号)。
 
<原審>
①本件規約40条3項は解任についての定めではない
②本件規約は理事長を管理組合の役員とし、役員の解任は総会の議決事項とする旨を定めている

本件規約40条3項を根拠として、理事長の地位を喪失させることは許されず、本件理事会決議は本件規約に違反して無効である
⇒本件理事会決議等の無効確認請求を認容。
 
<判断>
理事長を区分所有法に定める管理者とし、
役員である理事に理事長を含むものとした上、
役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとする一方で、
理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合においては、
理事の互選により選任された理事長につき、当該規約中の理事の互選理事長を選任する旨の定めに基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解任することができる
 
<解説>
●本件規約の定めは、管理組合が各マンションの実態に応じて規約を制定・変更する際の参考(ひな型)として公表されている国土交通省住宅局長通知「マンション標準管理規約(単棟型)」に準拠⇒標準管理規約に準拠して定められた他のマンション管理組合の規約でも問題。 
 
●区分所有法は、
区分所有者が法律上当然に建物等の管理を行うため団体(「区分所有者の団体」)を構成するものとし(3条前段)、
集会を意思決定機関、
規約を自治的規範
管理者を実質的な事務執行者・代表者
と位置付け、
区分所有者の団体を構成してする管理は、同法に規定する集会・規約・管理者の制度を利用してすべきことを定める。 

規約が自治的規範

建物の使用や共用部分等の管理について相互に協力すべき緊密な共同関係にある区分所有者は、区分所有関係を維持・管理するために必要な定めを、区分所有者の合理的な総意に基づいて適宜に定めることができ、その定めがその後その関係に加入した者に対しても当然にその効力を生ずるものとする必要

区分所有法は、管理者の選任及び解任は、規約に別段の定めがない限り、集会の決議によってすることができる旨を規定(25条1項)。
 
●本件のように規約の定めの解釈が問題となる場合は、
どのような解釈が区分所有者の合理的意思に合致するかという観点から検討するのが相当。 

本件規約:
監事以外の役員(理事及び理事長等)については
理事の地位と理事長等の地位を一応分化し、
理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、
原則として、総会で選任された理事に対し、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ね
その限度では改めて総会の決議を経ることを要しないとしたものと解される。

理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致

本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていること(53条13号)は、理事の過半数の一致による理事長の解職を認めることの妨げにはならない

判例時報2371

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2018年8月19日 (日)

労働保険料認定処分の取消訴訟において、業務災害支給処分の違法を取消事由として主張できるか(否定)

東京地裁H29.1.31      
 
<事案>
総合病院を開設し、労災保険率の算定に当たり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(「徴収法」)12条3項に基づく、いわゆる「メリット制」の適用を受ける事業主(「特定事業主」)である医療法人社団Xが、前記総合病院に勤務する医師Aが脳出血を発症し、労働者災害補償保険法(「労災法」)に基づく休業補償給付等の支給処分(「本件支給処分」)を受けたことに伴い、処分行政庁から、本件支給処分がされたことにり労働保険の保険料が増額されるとして、徴収法19条4項に基づく平成22年度の労働保険の保険料の認定処分(「本件認定処分」)を受けた
本件認定処分は違法であり、これを前提とする本件認定処分も違法であるとして、本件認定処分のうち増額された保険料額の認定に係る部分の取消しを求めて訴えを提起。
 
<解説>
労働保険料の額の算定に用いられる保険料の構成要素のひとつである労災保険率(徴収法10条、11条1項、12条1項参照)は、事業の種類ごとに、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行令(「徴収令」)、同施行規則(「徴収規則」)に基づいて定められている「基準労災保険率」を基準として(徴収法12条2項、徴収令2条、徴収規則16条1項)、
・・・当該連続する3保険年度の間における業務債が保険給付等の額等に応じて、法令に定める範囲内の一定率(「メリット増減率」)を引き上げ又は引き下げる処理等を行った後の率をもって基準日の属する保険年度の次々年度の労災保険率とすることができることとされている(メリット制)。 
 
<争点>
労働保険料認定処分(本件認定処分)の取消訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分(本件支給処分(労災法7条1項1号、12条の8等))の違法を主張することができるか?
これが肯定された場合、本件支給処分の違法性の有無について判断されることになる。 
 
<判断>
●①特定事業主の事業に係る業務災害支給処分(処分の名宛人は労災申請をした者であり特定事業主ではない)の取消訴訟において特定事業主が原告定格を有するか(=特定事業主に手続的保障の前提があるか)? 

特定事業主は、業務災害支給処分の名宛人以外の者ではあるものの、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有する

業務災害支給処分の取消し訴訟の原告適格(行訴法9条1項)を有する。

仮に、業務災害保険給付等の額が極めて僅少である等の事情により、当該業務災害支給処分によってメリット増減率が上昇するおそれがなくなったと認めるべき特段の事情が認められる場合には、当該特定事業主が当該支給処分の取消しを求める訴えの利益を欠くことになるものと解されるが、
本件において前記特段の事情があるとは認められない。

●②労働保険料認定処分の取消し訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分の違法を主張することができるか? 

法令上先行処分の存在を前提として後行処分がされる関係にある場合、原則として、先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されない。

本件について、
(ア)業務災害支給処分と労働保険料認定処分の実体的な関係
(イ)特定事業主の手続的保障
(ウ)業務災害支給処分の法律効果の早期安定の要請
の各観点からの検討を行い、

例外的に、
公定力ないし不可争力により担保されている先行処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお後行処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張する者の手続的保障を図るべき特段の事情
が認められ、先行処分の違法を主張すること許されるかどうかについて判断。
 
◎(ア)について、
業務災害支給処分と労働保険料認定処分は、同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成しているとみる余地もあり得るといえるものの、
相結合してはじめてその効果を発揮するものということはできない

前記各処分が実態的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行処分である労働保険料認定処分に留保されているということはできない
 
◎(イ)について、
業務災害支給処分については、
保険給付手続に事業主が一定の関与を義務付けられ、また、保険給付の請求について所轄労働署長に書面で意見を申し出ることができるなど、
その適否を争うための手続的保障が特定事業主にも相応に与えられている一方で、
特定事業主が、労働保険料認定処分がされる段階までは争訟の提起という手続を執らないという対応を合理的なものとして容認するのは相当ではない。 
 
◎(ウ)について
業務災害支給処分については、その法律効果の早期安定が特に強く要請されるにもかかわらず、仮にその違法を理由に労働保険料認定処分を取り消す判決が確定すると、所轄労基署長により職権で取り消される得ることになり、早期安定の要請ひいては労働者の保護の要請を著しく害する結果となる。 
   
本件支給処分は取消判決等により取り消されたものではなく、また、別件判決を踏まえても(業務起因性があるとして行われた)本件支給処分が無効であるとみる余地はない

本件認定処分の取消し粗放である本件訴訟において、Xが本件支給処分の違法を本件認定処分の取消事由として主張することは許されない。
 
<解説>
本判決は、
原則として先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されないとしつつ、
違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判決(H21.12.17)がその判断過程において考慮した観点をほぼ踏襲。
(but同最判は、違法性の承継に関する一般的判断基準を示したものではない。) 

控訴審(東京高裁H29.9.21):
本判決の結論を維持し、Xの控訴を棄却。
but
控訴審判決は、違法性の承継が例外的に認められる場合の根拠及び基準について、本判決の判示部分を一部改め、
個別の処分について定める事実行政法規の解釈として先行の処分と後行の処分とが同一の目的を達成するための一連の手続を構成し、相結合して1つの効果を実現しているといえるか否か、
先行の処分と後行の処分とが実体的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行の処分に留保されているといえるか否か、
先行の処分の処分の段階においてその適否を争うための手続的保障が後行の処分により不利益を受ける者に与えられているといえるか否か
等の事情を総合的に考慮し、
公定力ないし不可争力により担保されている先行の処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお、先行の処分の違法を主張することにより後行の処分の効力を争おうとする者の手続的保障を図るべき特段の事情があるといえる場合には、
違法性の承継が肯定される

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2018年8月17日 (金)

犯人性が争われ、強盗殺人の訴因に対して1審有罪(殺人・窃盗)2審無罪

広島高裁松江支部H29.3.27    
 
第1審
●強盗殺人の訴因に対して、
被告人を、
①平成21年9月29日午後9時34分頃に米子市内のいわゆるラブホテルにおいて同ホテル支配人を殺害した殺人罪と
②その際に現金約26万8000円を窃取した窃盗罪
で有罪を認定。
 
●証拠構造 
◎第1次的間接事実 
被告人の自白はなく、状況証拠のみによって有罪と認定

①本件はホテルの内部構造と施錠状況を知った者の犯行であるところ被告人は本店長としてそれを知っていた
②被告人は盗まれた千円札とほぼ同枚数の千円札230枚を犯行の翌日所持していた
③被告人に動機がある
④被告人は事後の逃走等犯行を疑わせる行動がある
⑤被告人以外に犯人性のある人物がいない
 
◎第2次的間接事実 
前記の第1次間接事実を推認させる第2次間接事実

①(内部犯行=被告人)については、
(a)犯行場所であるホテルの事務室の場所は外部の者にはわからないこと、
(b)ホテル事務室への侵入経路は被告人しか辿れないこと

②(「盗品」の近接所持)については、
(a)窃盗の被害額は26万円であり、そのすべてが千円札
(b)犯行日の翌日に被告人は230枚の千円札を自分の口座に入金
(c)230枚の千円札の入手経路に関する被告人の弁解が信用できない

  ◎ ◎第3次的間接事実 
①(内部犯人性)の侵入経路を推認させる第3次間接事実として、
(a)犯人は午後9時30分に106号室の客室ドア2回開閉した(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(b)犯人は午後9時34分に310号室の2階客室の扉を開けた(この事実はホテルの電磁記録から疑いない)
(c)前記(a)と(b)の時間関係からみて、
310号室の2階客室ドアは逃走時ではなく侵入時に開けられたものであり、
侵入経路は310号室1階駐車場⇒310号室(2階)⇒2階従業員用通路⇒ホテル事務室以外に考えられない
(d)前記の3つの事実から、外部の者が侵入可能な他の経路はすべて否定される。
 
<判断>
●内部犯人性に関する間接事実1について
原判決:犯行場所である事務室の所在は外部からは判別できない
vs.
事務室のある部屋の窓(ガラス戸)は他の客室の窓(板状の戸)とは明らかに異なっている⇒外部の者でも事務室の所在を推認できる。
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
 
●内部犯人性に関する間接事実2について
原判決:106号室の客室ドアを2階開閉したのは偏見の犯人であると認定しそれを根拠に侵入経路を特定
vs.
犯人以外の者がその開閉をする可能性があり、かつ犯人が内部事情に詳しい者であれば106号室の客室ドアを開閉するというような迂遠な行動はとならない
⇒この点に関する原判決の認定は論理則、経験則に照らして不合理
⇒原判決認定以外の侵入・逃走経路も否定できない。

被告人が230枚の千円札を所持する必要性と可能性及び事件後にこれを手放す(口座に入金する)理由の存在を根拠に、原判決の認定を不合理であると判断。 
 
<解説>
●判断準則
情況証拠のみによって有罪認定する場合の立証程度について、最高裁H19.10.16が、
さらにその場合情況証拠によって認められる間接事実中に一定の事実関係が含まれていることを要するとした最高裁H22.4.27.
刑訴法382条によって控訴審が第1審判決に事実誤認があるとする場合の判断方法について、最高裁H24.2.13
 
●盗品近接所持の法理:
盗品の被害発生の時点と近接した時点において盗品を所持していた者については、右物品の入手状況につき合理的な弁明をなし得ない限り、右物品を窃取したと認定してよいとする理論
but
本件では、被告人が所持していた230枚の千円札が盗品の千円札であるという証拠は存在しない

この点に関する被告人の弁解の信用性判断は、盗品そのものの所持に関する弁解の信用性判断とは異なる。 
 
●弁護人の訴訟手続の法令違反の主張につき原審裁判所の訴訟指揮は不適切であったと判示。
公判前整理手続において争点とされたの:
「被告人が金品物色中に事務所に戻ってきた被害者に発見されて殺害行為に及んだ」(=訴因は強盗殺人)というものであったところ、

原判決:
「窃盗の目的で侵入した事務所に予期に反して被害者がいて一度は窃盗を諦めたが、何らかのやり取りの後のいさかいから殺害行為に及んだ」
と認定した際、これを争点として顕在化させる手続をとらなかった
原判決が、被害者の行動と犯行態様をずらしたのは、近接所持からくる被告人犯人説に合うように侵入経路と犯行時間をずらした結果であると推認される。

裁判員裁判という時間的制約のもとでの有罪の評議結果と認定事実の整合性について、難しい対応を迫られる一事例。

判例時報2370

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2018年8月16日 (木)

原判決での死刑を量刑不当で破棄し、無期懲役とした事例

大阪高裁H29.3.9      
 
<事案>
白昼の繁華街において、無差別に通行人男女2名を包丁で殺害した事案。
 
●責任能力について
検察官は、本件の起訴前にD1医師(公判前整理手続段階で死亡)によるD1鑑定を行ったが、
公判前整理手続において新たに裁判員法50条による鑑定を請求し、D2医師によるD3鑑定が行われた。
原審公判では、D3医師に対する鑑定人尋問と弁護人請求のD2医師(D1鑑定の鑑定補助者)の証人尋問が行われ、弁護人請求のD1医師作成の精神鑑定書も取り調べられた。

D1、D2鑑定及びD2証言:
被告人は、犯行時、覚せい剤中毒後遺症ないし覚せい剤精神病の遷延・持続型(「本件精神障害」)にり患しており、それによる「刺しちゃえ」等の幻聴が犯行に影響したことを認める。

D3鑑定:幻聴の影響被告人自身が決めた行為を後押しし又は強化する程度にすぎず、覚せい剤の長期使用による大きな人格変化もないとしたのに対し、

D1鑑定とD2証言:犯行は幻聴に強く影響されており、被告人は覚せい剤の長期使用によって攻撃性等が強まりやすくなっていて、犯行前にそれらが著しく強まっていたとした。
 
<原審>
D3鑑定には合理性を欠くところがないが、
D1鑑定・D2証言には、前提とした幻聴内容等の事実関係又は前提事実からの推論過程に問題がある⇒D3鑑定を尊重すべき。 

犯行前の生活状況に異常がない
②自暴自棄になって幻聴に従って刺すことしたという犯行動機は了解可能
犯行に向けて合目的的に行動している
犯行直後に反省の弁を述べている
人格との異質性がない
弁識制御能力が若干低下していた可能性はあるが、完全責任能力が認められる
 
<判断>
原判断は正当。 

①被告人が供述する幻聴の存在は否定できないが、
D3鑑定は、当時の被告人の状況や前後の言動等を踏まえて、変遷の著しい被告人供述を批判的に検討した上で、幻聴の影響を合理的に説明
D1鑑定のうち幻聴が犯行に強く影響したとする点は、被告人供述のとおりの事実を前提としていることから疑問
幻聴が人格全体を巻き込んで深く影響したとはいえないというD1鑑定の結論部分は、D3鑑定と大きな隔たりがない
②被告人には葛藤に対する耐性が低く、攻撃性の発散に対する閾値が低いという人格の偏りがあり(D1、D3両鑑定)、そのような被告人が、将来への不安・失望からくる死にたい気持ち、親族に対する憤りなどの複合的な葛藤状態に置かれ、自暴自棄となって本件犯行を決意したと認められる。
覚せい剤使用による人格変化については、もともと被告人には著しい人格の偏り(攻撃性等)があり、D1鑑定及びD2医師が検討していない覚せい剤使用前からの暴力的な傾向をみると、人格の具体的変化は認められず、反抗への影響も大きくはない
D1鑑定もこれと大きくは異ならず、人格変化を重視するD2証言は具体的根拠を欠く。

D3鑑定が合理的。

D3鑑定によれば、本件犯行は、前記人格の偏りのある被告人が葛藤状態の下、自らの意思で決めた行動であって、幻聴は被告人自身が決めた行為を後押しし又は強化する程度にとどまり、本件犯行が本件精神障害に支配され又は著しく影響を受けていたとは認められない

動機の了解可能性、反道徳性の意識、行動の合理性、人格異質性(消極)については、原判決説示のとおり。

完全責任能力を認めた原判決は正当。
 
<解説>
最高裁H20.4.25:
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、裁判所は、その意見を十分に尊重して認定すべき。 

最高裁H21.12.8:
控訴審判決が、本件は妄想性障害による病的体験に直接支配された犯行であり、被告人は弁識制御能力を喪失していたとする精神鑑定を、前提資料や結論を導く推論過程に疑問があるとして採用せず、病的体験と犯行との関連性等を検討して心神耗弱を認めたことについて、その判断手法に誤りはなく、結論も相当であるとした。

最高裁H27.5.25(加古川7人殺害事件):
控訴審判決が、精神鑑定に基づいて妄想性障害を認めながら、同鑑定のうち同障害によって判断能力に著しい障害を受けていたとする部分を採用せず、完全責任能力を認めたことにつき、同鑑定部うbンは妄想の影響の程度に関する前提を異にしているとして、これを是認。

本判決の責任能力の判定場面における説示は、
まず鑑定意見に基づいて、精神障害が犯行に与えた影響の機序及び程度と、健常な精神機能(人格の偏りを含む)が作用した部分をできる限り明らかにして、その上で、精神障害の影響が弁識制御能力の喪失ないし著しい低下をもたらしたかについて、動機の了解可能性等を検討して、これを否定したもの。

鑑定結果が重大事件の帰趨を決することもある⇒請求者が的確な疑問を提起しているのであれば、50条鑑定の採用を躊躇してはならない。
 
●量刑不当について 
判断 原判決の量刑理由のうち、
①罪質の悪質さ、②強固な殺意に基づく態様の残虐さ、③結果の重大性、④社会的影響の大きさは正当。
⇒無期懲役よりも軽い刑は相当ではない。
but
⑤計画性が低いことを特に重視すべきでないとする点は是認できない、
⑥動機原因につき、反抗の決意に影響した幻聴は、覚せい剤の長期使用によって自ら招いた本件精神障害によるものであるから、幻聴の影響は特に有利に考慮できないとする点も是認できない、
⑦動機が身勝手かつ自己中心的であるとする点は相当だが、動機原因に酌むべき点が全くないとは言い切れない。

原判決の量刑判断は重要な犯情事実に関する誤った評価を前提とするもの。
計画性が低い上に精神障害の影響が否定できない。
殺害された2名以外に人的被害がない。


究極の刑罰であって公平性の確保の観点も考慮して真にやむを得ない場合に適用されるべき死刑につき、その選択がやむを得ないものとはいえない

量刑不当により原判決を破棄し、無期懲役に
 
<解説> 
●殺害の計画性は永山基準が挙げる因子ではない。
but
最高裁H27.2.3:
早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し、これに沿って準備を整えて実行した場合には、生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく、行為に対する非難が高まる
かかる計画性があったといえなければ、これらの観点からの非難が一定程度弱まる

●従来の裁判例では、
覚せい剤の長期使用による精神障害の影響につき、犯行に影響した精神症状が、犯行に近接した摂取ではなく覚せい剤中毒後遺症による場合であっても、それは自己が招いた結果であるとして、量刑上被告人に有利に考慮しないことが多かった

本判決の判断:
幻聴の影響は、被告人が自己の意思で決めた本件犯行(の遂行)を後押し又は強化した程度ではあるが、
それは、残虐な無差別通り魔殺人における被告人の生命軽視の態度を減じる要素として、また、遂行過程を含む犯行に向けた被告人の意思決定を一定程度左右した要素として考慮され、責任非難の度合いが軽減される。

薬物依存を自己の意思のみで断ち切ることは困難であるし、
刑の一部執行猶予の導入にも触れて、違法薬物の長期使用がもたらした幻聴の影響を量刑上考慮すべきであるとした。

薬物等の摂取による一時的精神障害につき、コモン・ローは精神障害の免責抗弁を認めていないが、
薬物等の長期使用によって持続的な物質誘発性精神疾患のような不治の精神障害になった場合には、この免責の抗弁を主張できるのが、
アメリカにおける一般的ルール。
 
●量刑事実(量刑判断の対象となる事実)、特に行為責任の大きさに関わる重要な事実について原判決の認定・評価に誤りがあり、原判決の量刑がこれらを正しく認定・評価した場合の量刑の枠を逸脱している場合には、量刑不当と判断。
事後審である控訴審は、量刑判断の不合理性を具体的に示す必要。

H27.2.3最高裁:
死刑の科刑が是認されるためには、死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的、説得的な根拠が示される必要であり、
控訴審は、第一審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきであると判示。

死刑を言い渡す判決には、死刑の選択をやむを得ないと認めた具体的、説得的な根拠を示すべき重い説明責任が課されており(量刑傾向を大きく踏み出す懲役刑についても同じ問題がある。(最高裁H26.7.24))、

死刑選択を根拠として示された重要な量刑事実の認定・評価につき、控訴審が、その不合理性を具体的に指摘できるだけの理由をもって誤りと認めた場合には、死刑を選択した原判決が不合理であると判断され得る。

H27.2.3最高裁:
死刑は誠にやむを得ない場合に行われるべき究極の刑罰であって、その適用は慎重に行われなければならず、また、究極の刑罰であるがゆえに、その運用に当たっては、公平性の確保にも十分に注意を払わなければならない。

本判決:
死刑が究極の刑罰であることを踏まえて、
「死刑が相当かの判断は、無期懲役刑か死刑かどうかという連続性のない質的に異なる刑罰の選択であり、有期懲役刑における刑期のような、許容される幅といった考え方にはなじまないものである。」と説示。

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2018年8月15日 (水)

未公開株式ファンドの販売に際しての説明義務違反(肯定)

東京高裁H29.4.26      
 
<事案>
ファンドの販売に関して、同ファンドに出資した投資家が損害の賠償を求めた事案。 
Y1:信託業務等を営む会社
Y5:その会計監査人
Y2:投資顧問業等を営む会社
Y3:その代表取締役
Y4:投資を勧誘した訴外Aの取締役ないし代表取締役であった者
X1及びX2:Y1の販売した信託型ベトナム未公開株式ファンド第1号に出資した者

X1及びX2は、本件ファンドの販売勧誘にあたり説明義務違反及び適合性原則違反があったとして、出資金相当額及び弁護士費用の損害の賠償をともめ、併せてY1の会計監査人Y5に対し、任務懈怠を理由として、損害の賠償を求めた。
 
<争点>
①説明義務違反
②適合性原則違反
の有無 
 
<原審>
請求棄却。

適合性原則違反:
X1:本件ファンドへの投資以前に1000万円程度の投資信託及び本件ファンドと同様に株価下落リスクがある現物株式の購入経験がある
X2:1100万円ないし1200万円程度の現物株式及び投資信託の購入経験等がある
⇒適合性原則違反は認められない。

説明義務違反:
①セミナー又は説明会で、Y3及びY4から、未公開株式の為替リスクや株価下落リスクなど想定される具体的リスクが説明された
②本件ファンドに元本補填や利益の補足がないことについて、複数のスライドを用いる方法での説明があった
③インターネットを通じての申込の際に確認することを求められる信託約款および申込説明書には具体的なリスクが記載。

Y1、Y3及びY4の説明に問題はないとして、説明義務違反を否定。
 
<判断>
説明義務違反を肯定し、一部認容。 
①信託約款や申込説明書による説明があったことは認められる
but
信託財産のうち総額5億5300万2791円を要して未公開株式が購入されたにもかかわらず、その実質の対価は出資金の約2割にあたる約1億9300万円にすぎず、約4割にあたる約3億6000万円は未公開株式を購入するに際しての仲介手数料に充てられていた
未公開株式購入額やこれに直接影響する高額の仲介手数料の存在及びその額等は、投資家にとって極めて関心の高い事項であるにもかかわらず、この点の説明は何らされていなかった
これについて何ら説明がなされなかったということは、本件ファンドの重要事項について説明が尽くされていたとはいえない

説明義務違反を肯定。
 
<解説>
契約締結に先だって、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき事情を提供しなかった場合には、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が生じる。(最高裁H23.4.22) 

説明義務の範囲や程度は、顧客の知識、取引経験等に応じて自己責任の下に合理的判断が可能かという点から決定される。(東京高裁H26.4.17)
具体的事情を詳細に検討する必要

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2018年8月14日 (火)

認知症で公正証書遺言の遺言能力が否定された事案

東京地裁H29.6.6      
 
<争点>
本件遺言(平成23年6月の公正証書遺言)の有効性であり、遺言能力の有無が争われた。 
 
<主張>
原告:
遺言者は、本件遺言当時、アルツハイマー型認知症を発症しており、
長谷川式簡易知能評価スケールの検査結果や介護認定記録などから窺えるように、短期的記憶力や認識障害がみられ、記憶力を前提とした判断能力が著しく低下
⇒遺言者の遺言能力が欠如していた旨を主張。 

被告:
アルツハイマー型認知症を発症していたものの、その程度は重要なものではない⇒遺言者は遺言能力を欠如していなかった。
 
<判断>
①遺言者は、平成18年ころから物忘れが目立つようになり、同年11月以降は長谷川式簡易知能評価スケールにおいて16点ないし18点で推移
②遺言者は、遅くとも平成19年5月までにアルツハイマー型認知症であると診断された
③遺言者は、平成20年10月、妻が脳梗塞を発症して入院し、その後は有料老人ホームに入所することになり、独居生活となったため、被告は、遺言者のために要介護認定・要支援認定を申請し、同年11月、被告が同席して同認定のための調査が行われたが、
その際、遺言者は服薬をしているがその認識がなく、
電話の内容等もすぐに忘れてしまうこと、
1日の予定をホワイトボードに記載してもこれを理解及び記憶することができずに被告に何度も電話してくることが説明されたほか、
遺言者は、当時の季節と月を答えることができず、
調査中、7回も妻がどこにいくかを尋ね、妻がいないのに自分はどのように生活しているかを確認
していた
平成20年11月に作成された主治医意見書では、日常生活自立度は「J2」及び「IIb」の各欄にチェックが付され、認知症の中核症状として短期記憶に問題があることや自分の居場所が分からなくなることが見られる旨が指摘されている
⑤平成21年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は季節に適した服装を選択することができないこと、
服薬について、薬を飲む時間や量を理解できないため、家族が食事と一緒に準備しているが飲み忘れがあること、
金銭管理について、計算能力及び管理能力はないこと、
電話をかけ又はこれを受けることはできるが、電話をかけたことや話の内容等をまったく覚えていないこと、
ホワイトボードに1日の予定が書いていあるが理解しておらず、自分では何をすべきか分からずに1日に何度も家族に電話をかけて聞くこと、
同調査日に家族と病院に行ったことを覚えていないこと、
季節の理解ができず、寒い日に暖房をつけず薄着で震えていたことがあったこと、
妻が入院していることがわからず不安になっていること、
習慣的なことを除き、直前の会話の内容や出来事を記憶していないこと
などが説明され、また、
調査中にジュースを飲みながらビールを飲んでいると何度も繰り返し話していた
⑥平成21年3月の主治医意見書にも前記平成20年11月の主治医意見書ど同内容の記載があること、
⑦平成23年3月、被告の同席の下、要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが、遺言者は配膳された通常食を自力で食べるが、食べたすぐあとに「ご飯は?」と被告に聞くこと、
1人だとヘルパーが来る日に散歩に出かけてしまい不在となることが月2回ほどあること、
品物を見せて3分後に聞いても忘れて答えられないこと、
散歩も決まった場所でないと外出しないが、時々帰らず被告が探しに出ること、
同じ質問ばかり何度も被告にしており、1分おきに聞くために被告がこれを非難すると感情が混乱して泣くことがあること、
介護関係者の顔を忘れているほか、
東北大地震のニュースを見るたびに新鮮に驚き、被告との伝言や約束事もできないこと、
薬の飲み忘れが多いこと、
被告が金銭管理しているが、行きつけのパン屋で同じパンを繰り返し買って食べてしまうほか、会計も定員に任せており、被告からは何度も注意を受けて体重も増えていること、
会員の協力もありテニスクラブに通っているが、それ以外の場所に行けず、動作上はスポーツができるが、テニスクラブは休業であることを被告が伝えたにもかかわらず、直後に出向いてしまったこと
などが説明されるなどした
平成23年3月の主治医意見書には、前記平成21年3月の主治医意見書と同様の記載があるほか、認知症の周辺症状として、「徘徊」の欄にチェックが付されていること
など

遺言者が本件遺言を行った当時、アルツハイマー型認知症により、短期記憶障害が相当程度進んでおり、その他の症状等や遺言内容が複雑であることなどことなども併せて考慮すると、
遺言内容を理解及び記憶することができる状態ではなかった蓋然性が高い

遺言能力は欠いており、本件遺言は無効

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器械体操部での事故と学校側の損害賠償責任(肯定)

大阪高裁H29.12.15      
 
<事案>
Y(大阪府)の設置する高等学校の器械体操部に所属していたX1が部活動の練習中に鉄棒から落下して負傷し、重大ない後遺障害が残った事故。
X1とX1の母であるX2や姉であるX3・X4が、当時同部の顧問であったP1教諭、外部指導者であったP2コーチには、注意義務違反があり、これによってXらが損害を被った
⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償金の支払を求めた。 
 
<原審>
請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
P2コーチがX1に対し通し練習に関する指導をするにあたっては、X1が前方車輪とは逆方向に回転を始める状態になった場合には、鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらずに他の不確実な危険回避方法をとろうとすることのないように、必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務があり、
P2コーチには、通し練習に関する指導につき、注意義務を怠た過失がある。

P2コーチには、X1が鉄棒を逆手握りで握りつづけたまま前振りになったときに、補助行為によってX1の回転を止めることができるよう、自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務があり、P2コーチには、自ら補助者として鉄棒下に立つことなく、鉄棒から約10メートル離れた位置に立ってX1の演技を見ていたことにつき、注意義務を怠った過失がある。
 
<解説>
クラブ活動中の生徒の事故について、学校側の責任を追及する方法としては、
債務不履行責任として構成する方法と、
不法行為責任として構成する方法
がある。

課外のクラブ活動であっても、それが学校の教育の一環として行われるものである以上、その実態について、学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務がある(最高裁)。
注意義務の具体的内容として、

事前注意義務
指導監督上の注意義務
事故対応義務
などが挙げられ、

注意義務違反の存否の判断にあたっては、
クラブ活動の内容、生徒の学年や年齢、競技等の経験、健康状態、生徒側の指導違反等、様々な要素が考慮される。

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2018年8月13日 (月)

再審請求弁護人の死刑確定者との秘密面会の制限と国賠請求(肯定)

大阪高裁H29.12.1      
 
<事案>
死刑確定者として大阪拘置所に収容されているX1並びにその再審請求のために選任された弁護人であるX2~X5が、
大阪拘置所長に対し、X1と面会する際に、
120分の面会を認めること、職員の立会いのない面会を認めること、パソコンの使用を認めることを要請したにもかかわらず、
同拘置所長が面会時間を60分に制限したこと、職員の立会いのない面会を許さなかったこと、パソコンの使用を認めなかったことが違法であると主張し、
Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、200万円の賠償金の支払を求める事案。
 
<判断>
秘密面会(拘置所職員の立会いのない面会)の利益は、死刑確定者だけでなく、再審請求弁護人にとっても重要なもの

刑事施設の長は、死刑確定者の面会に関する許否の権限を行使するにあたり、その規律及び秩序の維持等の観点からその権限を適切に行使するとともに、
死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益をも十分尊重しなければならない。

死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に関する打合せをするために秘密面会の申出をした場合に、これを許さない刑事施設の長の措置は、特段の事情のない限り違法となると解するのが相当。
but
本件においては、特段の事情があったものとは認められない。

違法

大阪拘置所長は、120分の秘密面会の申出につちえ、漫然と従前の例を踏襲して面会の時間を60分に制限

裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してXらの秘密面会をする利益を侵害したものとして違法

Xは、秘密面会の際、パソコンの使用の許可を求めたのに対し、大阪拘置所長は、その使用により拘置所の規律及び秩序を害する結果を生ずる具体的なおそれがあるかどうかについて考慮することなく、これを認めない措置をとった。

裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして、違法となる。

Y(国)に対して103万7540円及び遅延損害金の支払を求める限度で、Xらの請求を認容。
 
<解説>
秘密面会の申出の許否に関する判断基準:
これを許さない刑事施設の長の措置は、
秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要が高いと認められるなど特段の事情がない限り
裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をする権利を侵害するだけでなく、
再審請求弁護人の固有秘密面会をする利益をも侵害するとして、
国賠法1条1項の適用上違法となる。
(最高裁H25.12.10)

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2018年8月 9日 (木)

相続分の譲渡と特別受益(肯定)

東京高裁H29.7.6      
 
<事案>
遺留分減殺請求権の行使による不動産の移転登記手続等の請求。 
X1、X2及びYは、父Aと母Bの子。
父Aの相続に際しては、Bは、法定相続分2分の1をYに無償で譲渡し、X2も法定相続分6分の1をYに譲渡
⇒X1の相続分6分の1、Yの相続分6分の5として、遺産分割審判により、Aの遺産が分割された。
その後Bが死亡したが、B固有の遺産はなし。

Xらは、Bの遺留分算定の基礎となる財産がAの法定相続分として有していた相続分のみ⇒Yに対し、遺留分減殺請求権を行使。
 
<争点>
相続分の譲渡が特別受益の対象となる贈与に当たるか。 
 
<判断>
本件相続分の譲渡は、生計の資本としての贈与であり、特別受益に該当。
⇒Xの主張を肯定。

 
<規定>
民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
 
<解説>
相続分の譲渡が「贈与」(民法549条)に当たり、それが「生計の資本」(民法903条1項)としてされたのであれば、特別受益として、遺留分算定の基礎となる。
本件は、相続分の贈与が特別受益に当たり、遺留分算定の基礎となって減殺の対象となる贈与に該当することを明らかにしたもの。

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2018年8月 8日 (水)

第三債務者が差押債務者に対する弁済後に差押債権者に更に弁済をした場合と債務者破産に係る否認権行使

最高裁H29.12.19   

Aに対して貸金債権を有していたYは、AのB社に対する給料債権を差し押さえ、平成22年4月、その債権差押命令がB社に送達。
butB社は、その後も給料の全額をAに支払った。

Yは、平成25年10月頃、B社に対し、Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(「本件差押部分」)の支払を求める支払督促を申立て、B社は、督促異議の申立てをする一方、
平成26年1月までに、
Aに支払うべき給料から合計26万円を控除し、これを本件差押部分の弁済としてYに支払った。(「本件支払1」)

督促異議により移行した訴訟⇒平成26年2月、B社が本件差押部分の弁済として141万905円をYに支払うなどを内容とする和解が成立し、B社はこれを支払った。(「本件支払2」)
 
破産者Aの破産管財人Xが、
破産手続開始前の決定前にAのB社に対する給料債権を差し押さえて取り立てたYに対し、
破産法162条1項1号イの規定により、
その取立による弁済を否認し、
これによりYがB社から受領した金銭に相当する金額等の支払を求める事案。
 
<規定>
破産法 第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

民執法 第155条(差押債権者の金銭債権の取立て)
金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。

民執法 第145条(差押命令)
執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない

民法 第481条(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
 
<原審>
本件支払は、いずれもAの財産である給料債権からの支払であり、これによりAのYに対する貸金債権が消滅する⇒破産法162条1項の規定による否認の対象となる。 
 
<判断>
債権差押命令の送達を受けた第三債務者が、差押債権につき差押債務者に対して更に弁済した後、差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、
後者の弁済は、破産法162条1項の規定による否認権の対象とならない。

Xの請求のうち本件支払2に係る部分を棄却。
 
<解説> 
●破産法162条1項1号は、
破産者が支払不能になった後にした既存の債務の消滅に関する行為等について、破産財団のために否認することができると規定。 
本件支払2については、これをYに対してしたのが破産者A自身ではなく第三債務者B社破産者に代わって第三者が弁済をする場合に破産法162条1項による否認が認められるか否かが問題。
 
●旧法下の判例:
破産者が破産債権者を害することを知ってしたことを要件とする故意否認(旧破産法72条1号)については、
破産者による害悪ある加功の事実を要する。
(最高裁昭和37.12.6)

これを要件としない危機否認(旧破産法72条2号)については、
破産者の意思に基づく行為のみならず、破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめる場合も否認対象行為に含む。
(最高裁昭和39.7.29)

学説:
破産者の詐害意思が要求される詐害行為類型(破産法160条1項)については、破産者自身の行為又はこれと同視される第三者の行為であることが必要。
災害医師の不要な偏頗行為類型(破産法162条1項)については、効果においては三者の行為と同視される第三者の行為であれば否認の対象となる。
 
差押債権者が民執法155条1項の規定により第三債務者から差押えに係る金銭債権を取り立ててその弁済を受けた場合、通常は、 差押債務者の財産である債権が差押債権者に対して弁済されることにより、その限度で差押債務者の差押債権者に対する債務が弁済されたものとみなされる(同条2項)。

差押債務者が破産者であれば、破産者の財産をもってその債務を消滅させる効果を生ぜしめたものとして偏頗行為類型の否認の対象となる。
but
本件において否認の対象となるか否かが問題となるのは、B社が、Aに給料債権の弁済(第一弁済)をした後に、Yの取立てに応じてした更なる弁済(第2弁済)

債権差押命令が第三債務者に差押債務者への弁済を禁止(民執法145条1項)⇒第1弁済は無効⇒Aの給料債権は第1弁済によって消滅せず、AはB社に対し弁済受領額相当の不当利得返還義務を負う
⇒第2弁済によりAの財産であるAの給料債権をもってAのYに対する債務を消滅させることになり、第2弁済は否認権の対象となる。
but
民法481条1項は、支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済したときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者請求することができると規定しており、

判例:
第三債務者が差押債務者にした給付は、差押債務者に対する関係では弁済として有効であるが、差押債権者には対抗できず、その限りで無効(相対的無効)。

第1弁済は、Aに対する関係では有効であり、これによってAの給料債権者消滅するのであって、
B社がYの取立に応じて更に第2弁済をしなければならないのは、民法481条1項により、Aへの弁済による本件差押部分の消滅をYに対抗できないことによるものにすぎず、第2弁済によって本件差押部分が消滅するものではない。

第2弁済によるAのYに対する債務の消滅は、破産者であるAの財産(給料債権)によるものとはいえない

本件支払2は、Aの財産を減少させるものではなく、破産財団を損なうものとはいえない。
本件支払2により、B社はAへの求償権(民法481条2項参照)が発生して破産債権となっているが、破産債権となるべきYのAに対する債権が消滅している(本件支払2の否認が認められれば、破産法169条によりこの債権が復活し、破産債権となる)
本件支払2は、破産債権者を害するとはいえず、有害性を欠く。

判例時報2370

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2018年8月 7日 (火)

行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立(否定)

大阪地裁H29.10.2      
 
<事案>
近畿財務局長に対し、
学校法人Aによる国有地払下げ問題に関連する行政文書の開示請求(「本件開示請求」)をし、一部開示決定を受けたXが、
本件処分に基づき開示された行政文書(「本件開示文書」)の他にも開示請求をした行政文書が存在するはずであると主張し、当該未開示の行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利として、
本件仮処分対象文書の変更、改ざん等を禁ずる旨の仮処分を求めた保全事件
の事案。 
 
<判断>
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)の各規定を引用し、
同法の定める情報公開制度のの下において、同法3条の規定により行政文書の開示の請求をした者(開示請求者)は、
行政機関の長が同法9条1項の規定により行政文書の全部又は一部を開示する旨の決定(開示決定)をすることによって初めて、当該開示決定に係る行政文書の開示を受けることができる法的地位に立つ

開示決定がされていない特定の行政文書について、国ないし行政機関の長等に対し、その開示を求める請求権を有する余地はない。 

本件における事実関係の下において、本件処分が本件仮処分対象文書を開示する趣旨を含むものと解する余地はなく、
本件処分のほかに近畿財務局長により本件開示請求に対する応答として開示・不開示等の決定がされたこともない。

本件仮処分対象文書について開示決定がされたものと認めることはできない。

Xが国又は近畿財務局長に対して本件仮処分対象文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を有するものということはできない。

被保全権利は認められず、本件仮処分命令の申立てを却下。

 
<規定>
情報公開法 第3条(開示請求権)
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる

情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
・・・・・
 
<解説>
●本決定:
情報公開制度の仕組みに照らし、開示決定がされていない特定の行政文書について、その開示を求める具体的な請求権が生ずることはない旨を説示。
 
●仮に、特定の行政文書について開示決定がされたにもかかわらず開示の実施がされない場合に、開示決定を受けた者が訴訟において国等に対し当該行政文書の開示を請求することができるか?
同請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをすることができるのか? 
 
●本決定:
仮に本件開示文書のほかにも本件開示請求に係る行政文書が存在するとすれば、本件開示請求に対する応答として本件開示文書についてのみ開示決定をするなどした近畿財務局長の対応に一定の瑕疵があったものと評価される可能性があることに言及。

行政機関の長が、開示請求がされた文書を殊更に狭く特定した上で開示決定をした場合に、開示対象文書の特定に不服がある開示請求者が、訴訟手続き上、どのように争えるか?

A:本件開示対象とされるべきであった行政文書については実質的に不開示決定がされたものと見てその取消訴訟を提起する方法
B:不作為の違憲確認訴訟(行訴訟3条5項)
いずれの方法によるにしても、仮の救済としては仮の義務付け(行訴法3条5項)が考えられ、これらを本案として仮処分命令を発令する余地はないように思われる。

判例時報2370

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2018年8月 6日 (月)

自然環境保護団体等の原告適格が否定された事例

札幌高裁H30.1.17      
 
<事案>
リゾート事業を営む会社がスキー場建設計画に伴い、
東大雪支署長(国)から国有財産法18条6項の規定による国有林野の使用許可処分(「本件使用許可」)を、
北海道知事から北海道自然環境等保全条例30条1項の規定に依る開発行為の許可処分を
それぞれ受けた。

十勝地方の自然保護団体、エゾナキウサギの研究者及びエゾナキウサギの保護活動を目的とする組織の代表者(「原告ら」)が、国及び北海道に対し、
前記各処分は、生物の多様性に関する条約(「生物多様性条約」)に違反し無効であることの確認
を求めるとともに、
国及び北海道に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案。 
 
<争点>
本件各処分の名宛人でない原告らが、行訴法36条にいう本件各処分の無効確認を求める「法律上の利益を有する者」に当たるか? 
 
<規定>
行訴訟 第36条(無効等確認の訴えの原告適格) 
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
 
<解説>
行訴法36条にいう「法律上の利益を有する者」の意義については、取消訴訟の原告適格についての同法9条1項の「法律上の利益を有する者」と同義であり、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれあるある者をいい、
当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する
(最高裁H4.9.22)

平成16年の行訴法改正により新設された同法9条2項は、行政処分の名宛人でない第三者について原告適格の有無を判断する際の解釈指針を規定しているところ、
最高裁判所(最高裁H17.12.7)は、いわゆる小田急高架事件において、
処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨および目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案すべきものである」
などとして、前記解釈指針に従って原告適格を判断すべきである旨を説示。
 
<原審>
①本件使用許可について、原告らの主張する生物多様性が保全された良好な自然環境を享受する利益は、不特定多数の者が等しく享受することができる内容及び性質を有するものであり、
その利益を享受する主体の外延に何らの限定も付すことができない

専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめるべき不特定多数の者の具体的利益ないし一般的公益そのもの

本件使用許可を定めた行政法規が、前記利益をそれが帰属する個々人の個別的利益を含めるものと解することはできず、また、原告らの主張する本件使用許可の手続きで意見を述べる権利についても、法令がこのような権利を地域の住民等に手続上の権利ないし個別的利益として付与し、法律上保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできず
原告らの主張する生物多様性条約及びそのガイドライン等を踏まえてもその結論は変わらない。

原告らの原告適格を否定。

②本件開発許可についても、同様の理由で、原告適格を否定。
 
<判断>
原審の判断を支持。 
生物多様性条約及びそのガイドラインの規定から、
公益とは全く別のナキウサギ研究集団(セクター)ないし地域の集団(セクター)の一員として個別的利益を侵害された旨の原告らの控訴理由について、
生物多様性条約が、地域の住民や生物多様性条約にいう知識を有する者等に対して、自国の国内法令によらず直接、手続上の権利なしい個別的利益を付与していると解することはできない

判例時報2370

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2018年8月 4日 (土)

心神喪失等の状態で重大な他害行為⇒医療及び観察等に関する法律と憲法違反(否定)

東京高裁H29.7.14    
 
<事案>
対象者が、神奈川県内の書店において、被害女性(当時52歳)に対し、突然体当たりしてその場に転倒させる暴行を加え、よって、同人に全治約2か月間を要する仙椎骨折の傷害を負わせた
検察官は、対象者を心神耗弱者と認め、本件対象行為について公訴を提起しない処分をするとともに、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律33条1項の申立て
 
<原審>
鑑定人作成の鑑定書及び横浜保護観察所長作成の生活環境調査報告書を含む1件記録に加え、審判期日の結果等

医療観察法42条1項1号により、対象者に対し、医療を受けさせるために入院させる旨決定。 
 
<抗告申立>
原審付添人は、
①医療観察法は、そもそも、憲法14条1項、22条1項及び31条に反するほか、
②原決定には、対象者について、医療観察法42条1項1号所定の入院をさせて同法による医療を受けさせる必要があると認めた点等において決定に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある。 
 
<判断>
①②を否定し、抗告棄却。 

判例時報2369

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2018年8月 3日 (金)

被告人に訴訟能力欠如で回復の見込み無し⇒公訴棄却の可否(肯定)

最高裁H28.12.19      
 
<事案>
統合失調症に罹患していた被告人が、平成7年5月3日、愛知県内の神社の境内で、面識のない2名を文化包丁で刺殺⇒殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反により起訴。 
 
<規定>
刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
 
<判断>
被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて、判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。 
 
<規定>
刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。

刑訴法 第257条〔公訴の取消し〕
公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。

刑訴法 第339条〔公訴棄却の決定〕
左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴が取り消されたとき。
 
<解説>
●刑訴法314条1項は、被告人が「心神喪失の状態」すなわち訴訟能力を欠くh状態にあるときは、原則として「その状態の続いている間公判手続を停止」しなければならない。
被告人に訴訟能力の回復の見込みがない⇒検察官が同法257条により公訴を取り消せば、裁判所は、同法339条1項3号により、公訴棄却の決定をもって手続を打切り。 
but
公判手続が停止された後、その回復の見込みがない場合で、検察官が公訴を取り消さないとき、裁判所がいかなる措置をとることができるかについて、明文規定なし。
 
●本判決:
訴訟手続の主催者である裁判所において、被告人が心神喪失の状態にあると認めて公判手続を停止する旨決定した後、被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断
事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし、形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく、裁判所は、検察官が控訴を取り消すかどうかに関わりなく、訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。

刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが、
訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合⇒判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に、口頭弁論を経た判決によるのが相当

刑事訴訟の趣旨等に照らし訴訟係属状態を維持すべきではないという観点から形式裁判である公訴棄却により訴訟手続を打切り判断の内容等に照らし判決でこれを行うことを導き、刑訴法338条4号に準じて処理するというアプローチ。

判例時報2369

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2018年8月 2日 (木)

告発等を行った私立小学校の教頭の普通解雇(肯定)

東京高裁H28.12.7      
 
<事案>
Y4は、X1には、
パワーハラスメントを受けたとの虚偽の事実を述べて慰謝料請求をしたこと(解雇事由1
不当な目的で本件告発を行い、Y4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由2
小中高一貫教育を掲げるY4の方針に公然と反対し、多数の教員に虚偽の事実を述べてY4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由3
等の解雇事由がある
⇒X1を主位的に懲戒解雇し、予備的に普通解雇した。

X1は、Y4に対し、本件解雇は無効であるとして、本件小学校の教頭としての地位の確認を求めるとともに、
Y1ないしY3に対し、本件告発等に対する報復行為として本家解雇その他嫌がらせを行った共同不法行為に基づく損害賠償を求めて本件訴訟を提起。
 
<原審>
本件解雇は解雇事由が存在しない又は解雇権を濫用するもので無効
⇒X1が雇用契約上の地位にあることを確認するとともい、未払賃金の支払を認めた。
but
X1の損害賠償請求は棄却。
   
Y4が控訴
X1も、原審敗訴部分の取消し及び賞与相当額の支払等を追加して控訴。
 
<判断> 
懲戒解雇としては無効であるが、普通解雇としては有効
⇒X1の地位確認請求及び未払賃金請求を棄却。
 
●解雇事由1:
面談に同席することは本件小学校の教頭としての職責に属する行為であり、
X1は、自らが希望する形での業務監査にY4が応じることを条件に面談に同席すると述べて同席を拒んだ上、最終的には自らの意思で面談に同席
客観的にパワーハラスメントにあたると評価しうる状況ではなかった

X1が謝罪及び慰謝料200万円を請求したことは、事実の評価を曲げて自らの主張を通そうとするものであって、普通解雇事由に該当

●解雇事由2:
本件告発は監督権限を有する県に対し(私立学校振興助成法を参照)、財務状況の調査に加え、横領・背任等の刑罰法令に違反する行為があるとして、Y1及びY2を理事から解職することを求めるもの
Y1及びY2の名誉を傷つけるのみならず、Y4の信用を害し、業務に支障を生じさせるおそれがある
根拠なく誤った告発を行うことは、Y4の定める普通解雇事由に該当

Y4において財務状況の悪化の懸念を裏付ける一応の状況があり、県によりサッカースクールとの業務委託契約の見直し等の指導
but
本件告発は、いずれも横領・背任等の刑事法令に違反するものとは認められず、根拠は薄弱で、容易に確認できる事項の確認もなされていない(ex.X1は、Y4から財務諸表の分析の機会を与えられながらこれを行っていない)
X1の本件告発は普通解雇事由に該当する。

●解雇事由3:
X1は十分な調査と裏付けのないまま、本件小学校の教員ほぼ全員を一同に集め、 Y1及びY2が刑罰法令に反する行為を行っており、本件小学校の財務状況が極めて悪化しているとの虚偽の事実を指摘して、本件小学校を独立採算制とするという、小中高一貫教育を行っているY4の経営方針の根幹に触れる持論を展開
普通解雇事由に該当
 
解雇事由1ないし3に基づく解雇が社会通念上相当性を欠くとはいえない
 
<解説> 
解雇の合理性及び相当性に加え、公益通報法3条によって解雇が無効となるかも争点とされた。
公益通報法3条は、通報が不正な目的でない限り、公益通報をしたことを理由として行った解雇を無効としている。
but
その要件は通報先によって異なっている。
労務提供先等に対する通報:通報対象事実が生じたと思料すれば足りる
権限を有する行政機関に対する通報:通報対象事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由を必要
その他の外部通報先への通報:さらに具体的な用件。

通報対象事実が生じたと「信ずるに足りる相当の理由」
単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合や関係者による供述がある場合をいい、
通報者は労働者として通常知りうる範囲内で、これらの要件を立証する責任を負う

本判決:
X1の本件告発は、薄弱な根拠に基づき、容易に可能な裏付け調査すら行わないまま行われたものであり、
通報対象事実である横領又は背任の事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由があったとは認められない

公益通報法3条2号の適用を否定

判例時報2369

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2018年8月 1日 (水)

インサイダー取引を理由とする課徴金納付命令が取り消された事例

東京高裁H29.6.29      
 
<事案>
処分行政庁は、平成25年6月27日、A証券会社の営業員P1がその職務に関し知った本件公募増資が決定された旨の事実について、Xがその伝達を受けながら、当該事実の公表前に売付を行った⇒Xに対し、課徴金6万円を納付することを命ずる旨の決定。 
 
<争点>
A証券会社の営業員P1が、公表前に、職務に関し本件公募増資に係る重要事項を知ったか否か。 
 
<判断>
P1が重要事実を知ったとは認められない⇒Xの請求を認容し、本件決定を取り消した。

金商法(平成23年改正前のもの)166条1項5号の規定により、上場会社等の契約締結の交渉中の法人等の他の役員等がその者の職務に関し重要事実を知ったといえるためには、
その者が職務に関し重要事実を構成する主要な事実を単に認識したというだけでは足りず
当該契約の締結もしくはその交渉をする役員等が知った重要事実が法人内部においてその者に伝播したものと評価することができる状況のもとで重要事実を構成する主要事実を認識した場合であることを要する。

Bが本件公募増資を行うことを決定したことは、法166条1項に規定する重要事実に該当する。
but
A証券会社内において、重要事実を伝達されたP2及びP3から、P1に対し、Bが本件公募増資を行うことを決定した可能性を積極的に示唆し、あるいは暗にその可能性を伝えることがあったとは認められない。
重要事実がP1に伝播したものとは認められず、P1が重要事実を職務に関し知ったということはできない。
 
<解説>
法166条1項又は3項の規定に違反した者には、課徴金の納付(法175条1項)が命じられ、さらには刑事罰(法197条の2第13号)が科される。
また、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者についても、その他の一般投資家との間に情報格差が生じて不公平となる
⇒そのような者の有価証券等の売買等も禁止される(法166条3項)。

判例時報2369

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