松橋事件再審即時抗告審決定
福岡高裁H29.11.29
<事案>
松橋事件につき、再審開始を認めた地裁決定に対する即時抗告審決定。
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
<解説>
白鳥・財田川決定以後、新旧全証拠を総合評価すること自体に異論はない。
but
その手法、特に、「新証拠と直接関連する以外の部分を、どの程度再評価してよいのか」という点で見解が対立。
×確定審の心証形成へのみだりな介入
〇新証拠の存在を根拠としての確定審の心証形成への介入
<原決定>
平成24年にXの成年後見人が、平成27年にXの長男が再審請求し、原審は、再審開始の決定。
①Xの犯人性に関する直接証拠は捜査段階の自白のみであり、確定判決の判断の分岐点は自白の任意性及び信用性。
②巻き付けた布切れに関する新証拠によれば、凶器である小刀に血が付かないように布切れを巻き付けた旨の供述が体験供述でない合理的疑いが生じる。
③使用された凶器に関する新証拠によれば、被害者の創傷と小刀の形状は矛盾し、小刀が本件凶器でない疑いが一層強まる。
④このように、凶器の特定及びその使い方という自白の核心部分の信用性がかなり動揺すると、確定判決が自白の信用性を担保するとした確補助事実の証明力・証拠価値に疑問が生じ、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じる。
検察官が即時抗告
<判断>
●巻き付けた布切れに関する新証拠、使用された凶器に関する新証拠は、Xに無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠であり、原決定の刑訴法435条6号の要件充足の判断に誤ったところはない。
●検察官:新証拠も提出されていないのに、Xの自白や公判供述の信用性を改めて判断して確定判決と異なる判断を示しており、このような判断手法は確定判決の心証形成に介入したもので、再審制度の構造に反している。
vs.
①確定判決は、「特に犯行の手段、方法等の点につき客観的証拠に照らし格別不自然、不合理な点を見出し得ないこと等に鑑みると、Xは取調べに対し、自己の体験したところを素直に供述したものと推定される」と判断。
②新証拠によって、犯行の手段、方法につき客観的証拠に照らして不自然、不合理な点が現れた。
③そして、小刀に布切れを巻き付けた旨の供述をするに至った経緯から、捜査官に迎合する姿勢が看取できる。
④そのことは、Xが取調べにより精神的に混乱して皮底靴を焼却した事実につながる。
⑤そのことが、自白の直接の契機となったポリグラフ検査で、犯人でないのに特異な反応をしめした合理的な疑いに結びつく。
⑥このような連鎖により、新証拠による犯行の手段、方法が自白と整合しないことは、自白全体の信用性を否定し、公判供述の信用性を肯定することに行き着く。
⑦以上のとおり、原決定は、新証拠の存在を根拠にして、確定判決の心証形成に介入しているのであり、その判断手法は違法、不適切ではない。
判例時報2368
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