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2018年7月29日 (日)

川崎市過労交通事故死訴訟和解勧告決定

横浜地裁川崎支部H30.2.8       
 
<事案>
亡Aの両親のXらが、本件事故は、Yが亡Aに不規則で過重な労働をさせた上、21時間以上の徹夜の労働に従事させたために極度の疲労と睡眠不足の状態となり居眠り等が原因となって生じたと主張

Yは亡Aに対して過重な業務に従事させ、業務が深夜早朝に及ぶ場合は原付バイクで通勤せざるを得ないことを認識し、徹夜の業務を終え原付バイクで帰宅中に本件事故が生じることを予想することができた
⇒亡Aの業務の軽減を図る措置を講ずるなどして本件事故を回避すべき安全配慮義務に違反⇒債務不履行又は不法行為に基づき亡Aの死亡による損害金合計約9910万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断>
亡Aの労働の状況と本件事故当時の心身の状況 
①従事していた仕事内容
②過労による労働者の心身の健康に対する影響に関し、厚生労働省労働基準局長通達に係る「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」を参照し、
亡Aが従事していた業務と本件事故発生との時間的関連性を見ると、
(i)本件事故の日(前日の出勤時から当日の退勤時まで、21時間42分間の拘束時間)
(ii)本件事故以前10日間の短期間(拘束時間1日平均13時間51分、最大23時間)
(iii)本件事故以前1か月間(時間外労働時間91時間49分)、2か月間(時間外労働時間平均約78時間38分)及び6か月間(同約63時間20分)
の各期間のいずれにおいても、心身に対する負荷が顕著に高く、
深夜及び早朝の勤務を含む不規則で、過重な業務に従事し、
本件事故の日の前月である平成26年3月の1か月間で見ると、
労使協定(36協定)に違反する1か月30時間を超え1か月約67時間35分となる労働に従事

亡Aは、
入社以来、継続して、心身に対する負荷が顕著に高く、深夜及び早朝の勤務を含む、不規則で長時間にわたる過重な業務に従事していたのに加え、
本件事故の日の前日の4月23日午前11時06分から21時間42分にわたり、夜通しで、かつ、心身に対する負荷が顕著に高い特に過重な業務に従事
していたため、
疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていた
 
本件事故と過重な労働との間の因果関係(業務起因性)
①事故態様
②実況見分により原付バイクのハンドル、ブレーキの故障は何ら認められていない
③過労運転の危険に係る公知の事実(道交法65条、75条参照)

本件事故は、亡Aが、疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態にあり、原付バイクの運転中にこの心身の状態に起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない


前記の過重な労働と本件事故との間の因果関係(業務起因性)が認められる
 
●被告の安全配慮義務違反 
①使用者の指揮命令により労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があること
②労働者がこのようにして、心労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥ると、自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがあること
③この自動車等の場合と同様に、安全な運転を要する機械等の正常な運転ができないおそれがあるから、労働者がこの心身の状態に起因して、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所において、社用車や機械等の運転操作を誤ったり、深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自社の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に隣接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険のあること
は周知。

使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、
あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないように注意する義務(安全配慮義務)を負う

①亡Aの業務を指揮命令していた被告又は亡Aの上司は、亡Aの前記の深夜及び早朝における作業を含む不規則で過重な業務内容、長時間にわたる労働時間及びこれらの継続の状況を具体的に把握
②亡Aに対して深夜及び早朝の就労により公共交通機関の利用ができない場合の交通手段として原付バイクによる通勤を明示して指示しており、原付バイクによる通勤の方法を禁止せずこれを利用し、これを容認⇒深夜及び早朝の業務終了後という被告の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において亡Aが原付バイクに乗って帰宅することがあることを認識

被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた
but
・・・・前記の回避義務に違反した。

・・・・
 
<規定> 
労契法 第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
 
<解説>
●問題の所在と本決定の位置づけ
使用者の安全配慮義務:
業務の遂行によって労働者の心身の健康や生命・身体の安全が損なわれる危険(労働災害)から保護するよう配慮すべき義務。(労契法5条)

過重労働と通勤中の事故死との間の因果関係(業務起因性)の認定の仕方 
◎ 業務災害における保険給付に係る業務起因性の認定に関しては、
過労死(脳・心臓疾患)について「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」
過労自殺(精神障害)について「心理的負荷による精神障害の認定基準」
が厚生労働省労働基準局長通達として発せられており、
業務外認定の取消訴訟においては、
この基準を参考とし、あるいはこれを踏まえつつ、
労働の量のほかに労働の質も考慮して過重性(身体的負荷、心理的負荷)の大小、程度及び当該疾患の発症との時間的関連性の程度等を考慮して、
業務起因性(相当因果関係)の有無が判断。

「過労自殺」訴訟における安全配慮義務違反の評価の対象となる過重労働の程度の認定評価及びこれと発症・死亡との間の(相当)因果関係(業務起因性)の認定判断も同様。

菅野:
「過労死」訴訟の近年の裁判例の傾向について、
『脳・心臓疾患の業務上認定の基準』において定立されている労働時間基準をこえる長時間労働などの過重な業務への従事が認定使用者において脳・心臓疾患の発症が基礎疾病などの業務外の事由によるものであることを首肯させる特段の事情を証明できないかぎり、業務への従事と発症との相当因果関係が認められ、かつ業務を軽減したりする措置を怠ったものとして健康配慮(注意)義務の違反も肯定される傾向。

脳・心臓疾患については、使用者の損害賠償義務の成否は、業務上認定に近い手法で判定される傾向にある。

◎ 本決定:
亡Aが従事していた業務の質として身体的負荷の高い業務に従事していたことを認定し、これと業務の量(労働時間)を考慮した業務の過重性の程度の評価について、
前記の「過労死(脳・心臓疾患)」の認定基準を参酌して、
本件事故発生との間の時間的関連を考慮した期間における労働状態について認定評価

本件事故当時、不規則かつ過重な業務と夜通しの長時間の業務の遂行によって疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていたと認定

本決定が同認定の基準を参酌

「過労死事故」の類型では「過労死」の場合と同様に、事故の発生(脳・心臓疾患の発症)に近いほど、過重労働が労働者の心身の健康や睡眠の状態に与える影響が強いことを考慮。

①通常の通勤経路の直線道路を走行していたブレーキ及びハンドル機能ば正常な原付バイクが、制動措置や左右への回避措置などの正常な運転がされないまま、平坦な車道上から斜走を続けて電柱に激突したという本件事故の態様及び本件事故発生の状況
②過労運転の危険の公知ないし周知の事実(道交法65条、75条)

本件事故は、前記の亡Aの心身の状態に起因して居眠り状態となったために原付バイクの正常な運転ができず、運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない。

前記の過重業務と本件事故との間の因果関係(業務起因性)を認定。

過労事故死に関する裁判例は、いずれも、
過労運転の危険に係る経験則(公知ないし周知の事実)を前提として、
①被害者の過重業務による事故当時の心身の状態
②事故の態様及び事故発生の状況
③他の原因の存在の可能性に係る事情
を総合して判断。
 
◎最高裁昭和50.10.24:ルンバール事件
ルンバール施術前後の患者の状態の推移等⇒「他に特段の事情が認められない限り」、施術と発作等との間の因果関係を否定するのは経験則に反するとして、
患者の基礎疾患が影響した可能性もあり発作等の原因を判定し難いとして請求を棄却。 

橋本:
「他の原因の不存在との関係における推認」として論じており、
原告主張の原因と相反する(被告主張の)他の原因については、その存在を示す具体的な証拠や特段の事情が存在せず一般的な可能性にとどまるのに対し、
原告主張の原因については、診療経過や患者の症状等に基づいて検討した結果、患者の死傷の原因である具体的な可能性が肯定されれば、
通常人にもっぱら他の原因によるのではないかという合理的な疑いを抱かせない
原告主張の原因を推認すべき
 
◎事故原因として被告が主張する「他の原因」が、別途、過労死の責任原因となる(本件事故時における)「脳・心臓疾患の発症」である場合で、いずれが原因か心証が50%対50%に分かれるような特殊な事例

過重労働と事故の発生の間の因果関係の認定判断として、いわゆる「択一的」認定判断がされ、いずれの原因の場合であっても被告の安全配慮義務違反が認められると判断されることによって、その責任を肯定し得る余地がある。 
 
●「過労死事故死」における使用者の安全配慮義務について 
◎ 「過労自殺」の事例で最高裁H12.3.24(電通事件)は、
民法715条1項所定の使用者責任を肯定するに当たり、
労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところ
⇒使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
 
◎ 本件:
「通勤中の事故死」に焦点を合わせた例示

「深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自車の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険」から保護すべき義務

その具体的内容として、
被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、
亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた。 
 
●過失相殺の規定の適用及び類推適用の当否及び割合の判断の在り方 
◎ 裁判例:
労働者側の過失と使用者側の過失を対比検討して過失相殺の可否及びその割合を決してきている。 

斎藤論文:
労災事故におけるの規定の適用ないし類推適用の当否及びその割合の判断については、損害の公平な負担という観点から考慮する必要がある。

労働者が所与の労働環境の下で業務を遂行するには、労働契約、就業規則、その他使用者の定めた各種業務規定、作業準則等を遵守し、かつ、使用者ないし上司の具体的・個別的な職務命令に従うことを要する。
その過程で事故の自由な判断にまかせられている場面は限られているばかりでなく、基本的に職場環境の維持は使用者の責務であり、これを果たすためには労働者に通常みられる程度の身体的及び精神的能力並びに性格等の個人差を考慮し、当該職場あるいは作業に通常随伴する危険性にあらかじめ対処しておくことが要求される。

これらの諸点を前提とした上で、なお損害の実質的な公平な負担を図るという観点から労働者側に存する個別的要因を考慮すべきか否かを慎重に判断することを要する。

職場環境の維持は使用者側の責務であり、これを怠ったために発生した損害については基本的に使用者がその責めを負うべきものであるから、当該作業ないし職場に通常随伴する危険性の発現として発生した結果についての責任を労働者に転嫁することや、通常みられる程度の能力及び性格等の個人差から生じる結果を殊更に重視することは許されない。
 
◎本決定:
労使の指揮命令関係を考慮した一般的な説示を詳細にし、過労死事故死の場合についても説示⇒公共交通機関を利用せず原付バイクを運転した亡Aの過失を1割に限定する判断を詳しい理由を付して説示。 
 
◎ルンバール事件最判は、
国に公務員に対する安全配慮義務を認める根拠として、
公務員が職務専念義務(国公法101条1項前段)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(同法98条1項)を負い、
国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(同法62条)を負うことを定めていることを挙げている。

労働契約関係における前記の指揮命令関係と基本的に異なることがない。 
 
◎電通事件最判:
原判決が肯定した過失相殺の規定の適用ないし類推適用の当否に関し、
①企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもない⇒ある業務に従事する特定の労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる者でない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの。
②使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配属先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができる。

労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない。

過重な業務による鬱病は発症し増悪した場合で、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺することができないと判示した最高裁H26.3.24.
 
◎Yが過失相殺の事由として亡Aがオンラインゲームをしていたことを主張
vs.
その回数と時間の程度とこれが休日等にされていた
⇒むしろ過重な労働による心理的負荷を軽減する効果があったと推測し得ると説示して排除。 

東京高裁H24.3.22:
過労による精神障害に起因する過度のアルコール摂取により死亡した事例:
労働者が自らの不調を使用者に申し出なかった事情に加え、
就寝前にブログやゲームに時間を費やして自らの精神障害の要因となる睡眠不足を増長させた
⇒3割の過失相殺。
 
●裁判所の判決の見通しの開示により和解勧告と社会的影響や波及効果のある事件の解決の方法としての和解勧試と本決定の意義 
 
◎民訴法 第89条(和解の試み)
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる

和解は、これを試みる旨の裁判所の決定に基づいている。
この決定は、口頭弁論においても、弁論外でもすることができる、当事者に告知すべき。
この決定は、訴訟指揮に関する決定(120条)であり、これに対しては不服申し立てを許さず、裁判所はいつでもこれを取り消すことができる。
 
◎条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする(民調法1条)調停と異なり、
民事訴訟の審理及び判決を担当する受訴裁判所が主催する訴訟上の和解においては、
それまでの審理の段階に応じた裁判所の法解釈上及び事実認定上の心証(判決の見通し)に基づき、これを前提として、その判決による解決よりも当事者のそれぞれにとって利点があり、必ずしも訴訟物に限定されない、当該事案に応じて的確な内容の和解勧告がされるべきと考えられている。 
裁判所がこの心証を適宜の方法で当事者に示して裁判所が策定する和解案による和解を勧告することが多くされている。

和解勧告の段階:
争点等の整理が終了して人証予定の当事者本人及び証人の陳述書を含む書証の取調べをすべて終えた争点等の整理の終局段階が比較的多い。
口頭弁論終結後に勧告される場合⇒判決の内容と同じ完全に形成された心証が開示。

口頭又は書面によってされ、口頭の場合は、当事者対席の場にされる場合のほか、交互にされることが多い。

書面による和解勧告がされる典型的な訴訟類型として交通事故訴訟。
~当事者双方の検討、特に被告の保険会社の決裁上の必要から書面で。
裁判所の具体的な心証の開示の内容に不服⇒裁判所の和解案を拒絶⇒証拠調べ等の審理を経て判決。

藤村:
裁判所がどのよな段階の和解手続であれ、裁判所の事件に対する見通しを法律上及び事実上の観点から当事者に述べるのは訴訟手続の主催者として義務
そのことによって、当事者は仮にそれが間違っていると思えばそれを指摘して意見を述べればよい。
 
◎本決定:
①過労死防止法1条所定の「過労死」の定義には該当しない「過労死事故」という「過労死」及び「過労自殺」に並ぶ労働災害の類型について使用者の安全配慮義務違反を認める裁判所の判断の先例(裁判規範及び社会的規範)としての意義は大きく、本件訴訟の帰趨は「過労死」対策の対象を前進させるなど、社会的影響がある⇒和解による解決をする場合には、裁判所の所見が具体的に示され、これが公表されて先例となることを希望する旨を被害者遺族であるXら及び訴訟代理人弁護士が裁判所に明確に伝えている。
②その先例としての意義(波及効果や社会的影響)

民訴法89条所定の「決定」の「理由」中の「当該裁判所の判断(所見)の概要」欄で、本件の争点に係る裁判所の判断(所見)が比較的詳しく説示されたものが、本決定の理由中に示されている。

◎本決定が勧告する和解の内容及びこれにより成立した和解の内容には、本和解の成立及びその内容並びに本決定の判例雑誌への掲載を含む公表の相互の同意条項がある。
実務上は、逆に、いわゆる秘密保持・口外禁止条項が定められる場合がある。

民訴法 第91条(訴訟記録の閲覧等)
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。

民訴法 第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。

2 前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。

3 秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第一項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。

4 第一項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

5 第一項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。

民訴法91条1項の訴訟記録の閲覧等の規定が、憲法82条の裁判の公開の趣旨をより徹底するために何人に対しても訴訟記録の閲覧請求権を認めたものであり、
民訴法92条所定の秘密保護のための閲覧等の制限がされ、あるいは権利濫用の事情がない限り、判決書や裁判書はもちろん和解調書も公開される対象となる。

当事者は、相手方当事者のプライバシーや名誉権の侵害に当たるなど、不法行為を構成しない限り、これらの文書を公表・公開することは妨げられない

秘密保持条項は、例外的に和解の内容を第三者に対して公表・口外されることを不利益と考える当事者がこれを相互に禁止する条項を入れることを相手方に希望し、相手方の同意を得て定められるもの
公表の相互同意条項は、公表が妨げられるものでないことを注意的に定めたもの。
 
◎本件のような和解勧試及び和解勧告の決定の法形式の採用は、今後、
社会的影響や波及効果のある事件類型で、
早期の全面解決の利益のほか、例えば、比較的高額の和解金の分割支払(定期金支払を含む)条項、謝罪条項、努力条項等の当事者のそれぞれにとって判決によるよりも和解による解決をする利益にがある事件において、
裁判所及び当事者が和解による解決を選択する途を広げる1つの方法。 

判例時報2369

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