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2018年7月 9日 (月)

少年の成人後起訴の場合と検察官送致決定

名古屋地裁H29.3.24    
 
<事案>
被告人は、少年であるうちに家庭裁判所で20条の検察官送致決定を受け、成人に達した後に起訴され被告人に。 
 
<弁護人>
本件の検察官送致決定には保護処分を選択しなかった点で同条の解釈適用を誤った重大な違法がある⇒無効。
その決定を受けてなされた本件控訴の提起も違法で無効。
⇒公訴棄却されるべき。 
 
<判断・解説>
●本判決:検察官送致決定後起訴前に対象者が成人に達した場合においても有効な検察官送致決定の存在が刑事事件の訴訟条件となる

◎ 少年法:
少年の処遇については専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねる
⇒司法警察員及び検察官に対して、犯罪の嫌疑がある少年の被疑事件を前件家庭裁判所に送致することを義務づけ(家裁先議主義)。

家庭裁判所に、相当と認めるときに事件を検察官に送致する権限を与え(20条)、検察官送致決定による事件の送致を受けた検察官に一定の例外を残しつつ公訴提起を強制(45条5号)。

適法な検察官送致決定の存在が起訴後の刑事事件の訴訟条件

本件のように、検察官送致決定後控訴提起前に対象者が成人した場合も、起訴強制の効力は続く。

①事務処理繁忙等により起訴が遅れて対象者が成人に達した場合に起訴強制が働くなくなるのでは少年の処遇を専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねた少年法の趣旨が損なわれる
②45条柱書及び同条5号は、起訴強制の要件として検察官送致決定の存在のみを掲げ、対象者が起訴時に少年であるかどうかを問わない書き方

対象者の成人後も起訴強制の効力が存続⇒対象者が少年のままである場合と同様、起訴は検察官送致と一体と捉えらえるべきであり、検察官送致決定の違法性を引き継ぐ。

●どのような瑕疵がある場合に検察官送致決定が無効あるいは不存在とされるか? 
◎ 最高裁H9.9.18:
家庭裁判所のした保護処分決定に対する少年側からの抗告に基づきその決定が取り消された場合に、差戻を受けた家庭裁判所は検察官送致決定をすることは許されず、検察官送致決定後の公訴提起は違法、無効。 

最高裁H26.1.20:
家庭裁判所が禁錮以上の刑に当たる罪の事件として検察官送致決定した事件について、検察官が、それと同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪の事件として公訴を提起することは許されず、同起訴を受けた刑事の裁判所は公訴棄却の判決をするべき。

公訴を提起した事件については検察官送致決定が不存在であると解したもの

仙台高裁昭和24.11.25:
非行時に13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法。

検察官送致決定は存在する場合についてその実体的要件の欠缺を問題としたもの。

尚、判決時もなお少年の被告人については、55条移送が可能
⇒公訴棄却となるような検察官送致決定の違法性は違法性の程度が重大なものに限られるとの解釈。

◎ 本判決:
①検察官送致決定に対する不服申立ての規定はなく、刑事手続の中で55条による家庭裁判所移送の職権発動を促すことで検察官送致決定に対する事実上の不服申し立てを行うことができる
②家庭裁判所の判断は、同様の一件記録を使用する保護処分の抗告審との関係でも十分に尊重すべきものと位置づけられている
③刑事裁判所では判断資料も限られる

刑事裁判所は、訴訟条件としての検察官送致決定の適法性を審査するとしても、実質的判断内容の当否に踏み込むことは躊躇すべきであり(不服申立審でもない刑事事件を取り扱う裁判所が家庭裁判所の検察官送致決定の判断内容の当否について踏み込んだ審査をすることに適さない面もある。)

検察官送致決定が違法・無効であるとされ、送致を受けた検察官による公訴の提起もまた違法であるとして無効となる場合(刑訴法338条4号)とは、例えば検察官送致決定を行うこと自体が職務犯罪を構成する場合や、家庭裁判所が故意に事件を長期間にわたり放置していたにもかかわらず検察官送致決定を行なった場合など、極限的な場合に限られる

◎保護教育主義を採る少年法においては、検察官送致は例外的な存在。
検察官送致が許されるのは、原則として、
保護不能か保護不適の場合のみ。

(通説)

判例時報2366

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