« 職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか | トップページ | 損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極) »

2018年7月 1日 (日)

集団懲戒事案での損害評価についての裁判例

橋下弁護士のテレビでの発言で、600件以上の懲戒請求を受けた弁護士が、橋下弁護士に損害賠償請求を行った事案。

◆広島高裁(平成21年7月2日)

不法行為を認めた上で、懲戒請求を受けた弁護士が被った損害について

「(1) 本件各発言が被控訴人らに対する名誉毀損にあたるとはいえないこと,発言ウからオを持ってした懲戒請求の呼びかけが不法行為を構成することは上記のとおりである。
(2) 上記呼びかけにより,被控訴人らは多数の懲戒請求を受け,そのため,これに対応せざるを得なかったことは容易に推認できるから,その対応にかかる時間的,肉体的,精神的負担をもって損害とすべきことになる。
 そこで検討すると,被控訴人らはそれぞれ約600件の懲戒請求を受けたが,その相当部分は,インターネットで流布された懲戒事由まで記載された書式に懲戒請求人の住所氏名を記入したものであり,数種類の書式の内容も大同小異である上,被控訴人らの属する広島弁護士会においては,綱紀委員会において同種の案件としてまとめて審理をし,懲戒委員会への付議にまでは至らなかったことが認められ(甲2,20の1ないし13,弁論の全趣旨),これらによれば,被控訴人らが,上記懲戒請求に対する調査や反論等に相応の心身両面の負担を要したであろうことは想定できるが,それが本来の弁護士業務に多大な影響を及ぼすほどのものであったとは認めるに足りない。一方,弁護士として,懲戒請求を受けること自体基本的には不名誉なことである上,本件刑事事件の弁護に精力的に取り組んでいた被控訴人らにとって,理由のない一斉懲戒請求が相当な精神的負担をもたらしたであろうことは容易に推認されるところである(甲13,弁論の全趣旨)。
 以上のほか,本件に顕れた一切の事情を総合すると,被控訴人らの受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては一人あたり80万円と認めるのが相当である。」

◆上記事案の最高裁の判断(平成23年7月15日)

橋下弁護士のテレビでの発言の不法行為を否定。

「(3) しかしながら,本件呼び掛け行為は,懲戒請求そのものではなく,視聴者による懲戒請求を勧奨するものであって,前記認定事実によれば娯楽性の高いテレビのトーク番組における出演者同士のやり取りの中でされた表現行為の一環といえる。その趣旨とするところも,報道されている本件弁護活動の内容は問題であるという自己の考えや懲戒請求は広く何人にも認められるとされていること(弁護士法58条1項)を踏まえて,本件番組の視聴者においても同様に本件弁護活動が許せないと思うのであれば,懲戒請求をしてもらいたいとして,視聴者自身の判断に基づく行動を促すものである。その態様も,視聴者の主体的な判断を妨げて懲戒請求をさせ,強引に懲戒処分を勝ち取るという運動を唱導するようなものとはいえない。他方,第1審原告らは,社会の耳目を集める本件刑事事件の弁護人であって,その弁護活動が,重要性を有することからすると,社会的な注目を浴び,その当否につき国民による様々な批判を受けることはやむを得ないものといえる。そして,第1審原告らについてそれぞれ600件を超える多数の懲戒請求がされたについては,多くの視聴者等が第1審被告の発言に共感したことや,第1審被告の関与なくしてインターネット上のウェブサイトに掲載された本件書式を使用して容易に懲戒請求をすることができたことが大きく寄与しているとみることができる。のみならず,本件懲戒請求は,本件書式にあらかじめ記載されたほぼ同一の事実を懲戒事由とするもので,広島弁護士会綱紀委員会による事案の調査も一括して行われたというのであって,第1審原告らも,これに一括して反論をすることが可能であったことや,本件懲戒請求については,同弁護士会懲戒委員会における事案の審査は行われなかったことからすると,本件懲戒請求がされたことにより,第1審原告らに反論準備等のために一定の負担が生じたことは否定することができないとしても,その弁護士業務に多大な支障が生じたとまでいうことはできない。
(4)これまで説示したところによれば,第1審被告の本件呼び掛け行為は,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとして,弁護士会における自律的処理の対象として検討されるのは格別,その態様,発言の趣旨,第1審原告らの弁護人としての社会的立場,本件呼び掛け行為により負うこととなった第1審原告らの負担の程度等を総合考慮すると,本件呼び掛け行為により第1審原告らの被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいい難く,これを不法行為法上違法なものであるということはできない。

|

« 職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか | トップページ | 損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極) »

判例」カテゴリの記事

民事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/132655/66888583

この記事へのトラックバック一覧です: 集団懲戒事案での損害評価についての裁判例:

« 職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか | トップページ | 損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極) »