贈収賄事件(1審無罪、控訴審有罪)
名古屋高裁H28.11.28
<弁護側>
検察官と贈賄したと自認するP1の間に取引(刑訴法改正により導入された合意(刑訴法350条の2以下)、特に不起訴合意や求刑合意にちかいもの)があったとして、P1には、虚偽供述の動機があることを強く主張。
<原審>
現金供与を認めたP1の公判証言の信用性を否定⇒現金授受の事実を認めるには合理的な疑いが残る⇒被告人は無罪。
<検察主張>
事実誤認の主張
㋐P1証言を離れ、現金授受に関連する状況証拠(関節証拠)のみによっても現金授受の存在が認められる。
㋑P1証言は、それらの情況証拠に整合し、かつ合理的に説明する内容であり、供述過程からも虚偽であるとは考えられず、信用性に疑いを容れる余地はない。
<判断>
●㋐について:
実績のないP1の事業が被告人の働きかけによって、短期間で市の受け入れるところとなったように見えるが、それのみでは、現金の授受を推認することはできない。
●㋑について
P1の平成25年4月2日に10万円(第1授受)、同月25日に20万円(第2授受)を被告人に供与したとの証言の信用性を肯定。
←
①供述が具体的、詳細で、弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず、
②供述内容に不合理な点がない。
③以下の事由
◎情況証拠との整合性
情況証拠だけでは現金授受の存在を認めるに足りないとしても、その情況証拠によって直接証拠であるP1証言が支えられ、これにより現金授受の存在が認定できるかどうかは、別途検討する必要がある。
①授受の資金の流れがP1証言と合致
②各現金供与の動機、経緯に関するP1証言が、美濃加茂市における浄水プラント設置の動きや被告人の市長選立候補をめぐる事実経過と整合的
③被告人の市長選挙に協力する(裏選対活動)ために美濃加茂市内に宿泊したP3の宿泊代金を、事前の合意に基づきP1が負担しており、被告人のための費用をP1が負担するという関係が形成されていたといえる、
④P1が、第二授受があったとされる前日、知人のP4に対し、市長選当選が確実な被告人に恩を売っておきたいから50万円貸してくれと頼み、また、別の知人P12に対しても、P1が逮捕される5か月以上前に、被告人に30万くらい渡したと述べていた
⇒
これらの事情がP1証言の信用性を高める。
◎供述経過
P1証言の信用性は、その内容からすれば、P1が記憶通り真実を述べているのか、それとも意図的に虚偽を述べている疑いがあるのかという問題。
①原審で取調べ済みのP1の捜査段階の供述調書
②控訴審で取り調べたP1の取調べを担当した警察官の証言
③同警察官作成の取調べメモ等
に基づきP1の供述経過を詳細に検討
⇒P1の供述は、その時々における自己の記憶に従ってなされたものであり、供述経過を理由にP1証言の信用性が否定されることはない。
◎原判決の証拠評価について
原判決:
P1は捜査当時既に融資詐欺で起訴され、さらに別の融資詐欺での追起訴も予想される状況にあり、なるべく軽い処分を受けるために捜査機関の関心を他の重大事件に向けて融資詐欺の捜査の進展を止めたいなどという、虚偽供述の動機があったと指摘。
vs.
①P1が原判決指摘のような考えを持っていた可能性は否定できないと指摘しつつも、仮にP1が虚偽供述をしていたとすると、P1は実際に犯していない贈賄罪も併せて処罰を受けるおそれがある一方、融資詐欺の捜査等が止められる保証はなく、これは極めて危険な賭け
②捜査機関の関心を他の重大事件に向けるためには第二授受だけ話しておけば十分であるのに、わざわざ第一授受の件を付け足した理由の説明が付かない
⇒
P1証言の信用性を否定する理由にならない(本判決)。
<解説>
●控訴審判決が第一審判決を事実誤認で破棄するには、論理則、経験則に照らして、不合理であることを具体的に示す必要がある。
●本判決:
P1証言は、自分の記憶通りの供述なのか、後から全くの虚偽の事実を作り上げた疑いがあるのかという視点から検討。
原判決:
そのような明確な視点は読み取れず、
供述内容については、一般的な信用性判断の枠組みで評価し、それ以外の事情として、虚偽供述の動機を検討。
本判決:
取調官とのやりとりの中で分かっていたと思われる事項については、仮に客観的事実と整合していても、虚偽性を排除できないことを認める一方で、
後から作り上げることができない事実については、虚偽性を排除しうるものと位置付け。
⇒
P1が被告人に渡す金と明示して、借金した相手のP4や、
被告人が逮捕されるよりも前に、被告人に金を渡したことを話した相手のP12の供述を重視。
P1が本件について供述を始めるよりも前に、P4はその点を既に捜査機関に話していた
⇒P1証言は、秘密の暴露ではない。
but
P4の供述は、そのことを最初に話したものとして、信用性が高まる。
P1自身が本件について供述を始めるよりも前に、P1が収賄罪となる可能性もあることを友人であるP4が供述するについては、虚偽である可能性は格段に低い。
本判決は、原判決が、そのようなP1証言の虚偽性を排除する可能性の高い証拠を取調べながら、そのような観点からの検討を怠った結果、P1証言の信用性判断を誤ったものと評価(=原判決が、論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示した)
判例時報2366
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
- 土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)(2023.06.01)
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
「刑事」カテゴリの記事
- 詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案(2023.05.07)
- 不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味(2023.05.01)
- 保釈保証金の全額没収の事案(2023.04.02)
- 管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)(2023.04.02)
- いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例(2023.03.23)
コメント