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2018年7月24日 (火)

東京都庁郵便小包爆発事件(一審有罪⇒控訴審無罪⇒最高裁無罪)

最高裁H29.12.25      
 
<事案>
オウム真理教の信者らによるいわゆる東京都庁郵便小包爆発事件に使われた爆薬原料となる薬品を運搬した被告人に対する爆発物取締罰則違反幇助、殺人未遂幇助被告事件に関し、
裁判員が参加した第一審判決:殺人未遂幇助罪につき有罪
控訴審判決:刑訴法382条に定める事実誤認を理由に破棄、無罪の自判
上告審:控訴審判決は結論において是認できる⇒上告棄却
 
<解説>
最高裁H24.2.13:
覚せい剤密輸入事件に関し、故意の有無が問題となった事案において、
刑訴法382条にいう「事実誤認」の意義について、
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう」
「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」 
 
<公訴事実>
オウム真理教の信者であった被告人が、平成7年5月のオウム真理教の信者らによる治安妨害と東京都知事ら殺害の目的をもってされた爆発物の製造・使用、殺人未遂事件に関して、
爆薬原料となる薬品等を山梨県内の教団施設から東京都内のアジトに運ぶなどして、正犯者らの犯行を容易にさせたこれを幇助したという、
爆発物取締罰則違反(爆発物の製造・使用)幇助、殺人未遂幇助の事案。) 
 
<一審>
被告人が、爆発物の製造使用があり得ると認識していたとは認められないが、他人の殺傷を伴うことがあり得ると認識していたと認められる
殺人未遂幇助罪のみを認定し、懲役5年。
   
被告人が控訴
 
<原審>
第一審判決による被告人の認識の推認過程には、論理則、経験則に照らし不合理な点があるため、被告人が殺人未遂幇助の意思を有していたと認めることはできない。⇒無罪。
   
検察官が上告
 
<判断>   
●上告を棄却。 

●控訴審における第一審判決の事実誤認の審査に当たっては、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるかどうかを検討しなければならない。

第一審判決においては、間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定した判断構造の枠組みが示されているが、その合理性には看過できない問題がある。

第一審判決に事実誤認があるとした原判決は、第一審判決による判断構造を十分に捉え直さないまま、その判断過程に沿って個別の事実認定を検討した上、その不合理性を具体的に示していない説示部分を含んでおり、これをそのまま是認することはできない。
but
間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして、第一審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとした原判決は、結論において是認することができる。
 
●第一審判決の判断構造を整理したうえで、
殺人未遂幇助の意思を認定する前提としている「人の殺傷結果の想起可能性」を推認するための間接事実において、
被告人の認識対象が広範、曖昧な内容にとどまっており、その推認が困難であること、

「人の殺傷結果の想起可能性」自体も抽象的な結果発生の認識可能性をいうにすぎず、これに付加する間接事実も、いずれも被告人の漠然とした疑念ないし抽象的な認識可能性の契機を指摘するもので、殺人未遂幇助の認定にまで高めるには飛躍がある
⇒第一審がその判断構造を採用したこと自体不合理である。

第一審判決の判断構造に関する不合理性の現れとして、
①間接事実となる各個別事実の検討における問題点や、
②一方で殺人未遂幇助の意思を認定し、他方で爆発物取締罰則違反ほう助の意思を認定できないとしたこととの関係についても指摘、
⇒結局、第一審判決は、殺人未遂幇助の意思を認定した点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、控訴審において破棄を免れない。

原判決が、第一審判決の判断構造についての評価が不十分なまま証拠の信用性等の検討を行った⇒
原審段階では必ずしも重要とはいえなくなったと解される証拠関係について詳細に判示し、しかも、
第一審判決の事実認定の不合理性を必ずしも具体的に指摘しないまま証拠の信用性について第一審判決と異なる判断をするなど、
控訴審における事実認定の審査のあり方という観点から問題がないわけではない。
but
結論において是認できる。

判例時報2368

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