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2018年7月

2018年7月31日 (火)

朝鮮人労働者の強制連行に係る記事が虚偽⇒不法行為に基づく損害賠償請求(否定)

甲府地裁H29.11.7      
 
<事案>
Xら150名が、Yが発行する日韓新聞紙「A新聞」に掲載した、・・・・Xらの知る権利を侵害したと主張⇒Yに対し、不法行為に基づき、慰謝料各1万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>
憲法21条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は地方公共団体の統治行動に対して基本的な個人の自由と平等を保障することを目的としたものであって、私人相互の関係については、たとえ相互の力関係の相違から一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ないようなときであっても、適用ないし類推適用されるものではない。
憲法21条1項の規定が私人であるYに対する関係で適用ないし類推適用されることを否定。 

不法行為の要件の1つである違法性について
違法性を検討するに当たって、憲法の人権規定を1つの要素として考慮に入れるのが適切な場合には、これを考慮に入れて判断すべき
but
マス・メディアの報道と国民の知る権利との関係についてみると、知る権利は、国民が様々な情報に接することを可能にするという意義を有するものであるところ、
現代社会においては、国民は、新聞、雑誌、放送等、様々な報道機関による多様な報道に触れることができる
あるマス・メディアが真実に反する報道をしたとしても、それによって直ちに国民の知る権利がおびやかされるとはいえない。

多様な情報が飛び交っている中で何を信頼するかは、情報の受け手の判断に委ねられている⇒国民が特定の報道機関の報道によって真実を知る権利を有するとはいえない

新聞社側の表現の自由という観点:
新聞社には表現の自由が保障されており、新聞社が行う報道の内容は、新聞社の自律的判断に委ねられている
⇒過去の報道内容について事後的に疑義が生じた場合や報道を予定していた内容に疑義が生じた場合の対応についても、新聞社の自律的判断に委ねられている


A新聞の読者や一般国民の法律上保護される利益が侵害されていたということはできないとして、Xの請求をいずれも棄却
 
<解説>
国民が憲法21条1項の表現の自由の派生原理として「知る権利」を有している。
but
私人相互の関係では、保障されていない。
(最高裁) 

判例時報2369

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2018年7月30日 (月)

契約書に訴訟についてにみ管轄合意がある場合の調停についての管轄合意

大阪地裁H29.9.29      
 
<事案>
レンタル基本契約の契約書に管轄条項
「この契約について訴訟の必要が生じたときは、C地方裁判所又はA簡易裁判所を管轄裁判所とすることに合意します。」
申立人はA管轄裁判所に調停申立て。 
相手方は、この管轄条項は、、訴訟に関する合意であって、調停に関する合意ではない⇒基本事件をB簡裁へ移送する申立て。
 
<規定>
民事調停法 第3条(管轄)
調停事件は、特別の定めがある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。
 
<原決定>
移送申立てを却下。 
 
<判断>
民調法3条1項は、特別の定め又は当事者間の合意がない限り、相手方の住所等を管轄する簡易裁判所に調停の申立てをすると定めているが、
これは合意による紛争解決を目的とする調停事件について、
相手方の出頭の便宜に配慮し、調停の円滑な進行に資する
ところにある。

レンタル基本契約の管轄条項は、文言上、訴訟についての管轄を定めるものであり、調停についても管轄の合意があったと解釈することはできない
⇒原決定を取り消して、相手方の移送申立てを認容。
 
<解説>
民調法3条1項
~主として、相手方の出頭の便宜を考慮したものであり、調停を起こされる側の出頭の利便を考慮することが衡平にかない、調停の円滑な進行に資する

申立人が自己の住所等を管轄する裁判所に調停の申立てをすることができるとすると、遠隔地に居住する相手方に対してみだりに調停の申立てをして、過料の制裁によって相手方の出頭を強制する結果となり、相手方にとって甚だ過酷なことになる。 

契約書の管轄合意条項に訴訟にのみで調停についての合意がない場合、大阪地裁は、調停についての管轄合意書の提出がない調停申立てを管轄する簡裁へ移送する運用

非訟法(平成23年法律第51号)が施行され、民調法22条が、特別の定めのある場合を除いて、調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟法第2編の規定を準用
⇒同法施行(平成25年1月1日)以降は、委任事項として「訴訟行為」に加えて「手続行為」が記載された委任状が一般的に使用されている。

「手続行為」の記載がない委任状
民調法17条に基づく調停に代わる決定(17条決定)に対する異議申立て等の種々の手続行為について、適切に委任されているかの問題が生じる可能性がある。

判例時報2369

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2018年7月29日 (日)

川崎市過労交通事故死訴訟和解勧告決定

横浜地裁川崎支部H30.2.8       
 
<事案>
亡Aの両親のXらが、本件事故は、Yが亡Aに不規則で過重な労働をさせた上、21時間以上の徹夜の労働に従事させたために極度の疲労と睡眠不足の状態となり居眠り等が原因となって生じたと主張

Yは亡Aに対して過重な業務に従事させ、業務が深夜早朝に及ぶ場合は原付バイクで通勤せざるを得ないことを認識し、徹夜の業務を終え原付バイクで帰宅中に本件事故が生じることを予想することができた
⇒亡Aの業務の軽減を図る措置を講ずるなどして本件事故を回避すべき安全配慮義務に違反⇒債務不履行又は不法行為に基づき亡Aの死亡による損害金合計約9910万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断>
亡Aの労働の状況と本件事故当時の心身の状況 
①従事していた仕事内容
②過労による労働者の心身の健康に対する影響に関し、厚生労働省労働基準局長通達に係る「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」を参照し、
亡Aが従事していた業務と本件事故発生との時間的関連性を見ると、
(i)本件事故の日(前日の出勤時から当日の退勤時まで、21時間42分間の拘束時間)
(ii)本件事故以前10日間の短期間(拘束時間1日平均13時間51分、最大23時間)
(iii)本件事故以前1か月間(時間外労働時間91時間49分)、2か月間(時間外労働時間平均約78時間38分)及び6か月間(同約63時間20分)
の各期間のいずれにおいても、心身に対する負荷が顕著に高く、
深夜及び早朝の勤務を含む不規則で、過重な業務に従事し、
本件事故の日の前月である平成26年3月の1か月間で見ると、
労使協定(36協定)に違反する1か月30時間を超え1か月約67時間35分となる労働に従事

亡Aは、
入社以来、継続して、心身に対する負荷が顕著に高く、深夜及び早朝の勤務を含む、不規則で長時間にわたる過重な業務に従事していたのに加え、
本件事故の日の前日の4月23日午前11時06分から21時間42分にわたり、夜通しで、かつ、心身に対する負荷が顕著に高い特に過重な業務に従事
していたため、
疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていた
 
本件事故と過重な労働との間の因果関係(業務起因性)
①事故態様
②実況見分により原付バイクのハンドル、ブレーキの故障は何ら認められていない
③過労運転の危険に係る公知の事実(道交法65条、75条参照)

本件事故は、亡Aが、疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態にあり、原付バイクの運転中にこの心身の状態に起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない


前記の過重な労働と本件事故との間の因果関係(業務起因性)が認められる
 
●被告の安全配慮義務違反 
①使用者の指揮命令により労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があること
②労働者がこのようにして、心労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥ると、自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがあること
③この自動車等の場合と同様に、安全な運転を要する機械等の正常な運転ができないおそれがあるから、労働者がこの心身の状態に起因して、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所において、社用車や機械等の運転操作を誤ったり、深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自社の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に隣接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険のあること
は周知。

使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、
あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないように注意する義務(安全配慮義務)を負う

①亡Aの業務を指揮命令していた被告又は亡Aの上司は、亡Aの前記の深夜及び早朝における作業を含む不規則で過重な業務内容、長時間にわたる労働時間及びこれらの継続の状況を具体的に把握
②亡Aに対して深夜及び早朝の就労により公共交通機関の利用ができない場合の交通手段として原付バイクによる通勤を明示して指示しており、原付バイクによる通勤の方法を禁止せずこれを利用し、これを容認⇒深夜及び早朝の業務終了後という被告の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において亡Aが原付バイクに乗って帰宅することがあることを認識

被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた
but
・・・・前記の回避義務に違反した。

・・・・
 
<規定> 
労契法 第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
 
<解説>
●問題の所在と本決定の位置づけ
使用者の安全配慮義務:
業務の遂行によって労働者の心身の健康や生命・身体の安全が損なわれる危険(労働災害)から保護するよう配慮すべき義務。(労契法5条)

過重労働と通勤中の事故死との間の因果関係(業務起因性)の認定の仕方 
◎ 業務災害における保険給付に係る業務起因性の認定に関しては、
過労死(脳・心臓疾患)について「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」
過労自殺(精神障害)について「心理的負荷による精神障害の認定基準」
が厚生労働省労働基準局長通達として発せられており、
業務外認定の取消訴訟においては、
この基準を参考とし、あるいはこれを踏まえつつ、
労働の量のほかに労働の質も考慮して過重性(身体的負荷、心理的負荷)の大小、程度及び当該疾患の発症との時間的関連性の程度等を考慮して、
業務起因性(相当因果関係)の有無が判断。

「過労自殺」訴訟における安全配慮義務違反の評価の対象となる過重労働の程度の認定評価及びこれと発症・死亡との間の(相当)因果関係(業務起因性)の認定判断も同様。

菅野:
「過労死」訴訟の近年の裁判例の傾向について、
『脳・心臓疾患の業務上認定の基準』において定立されている労働時間基準をこえる長時間労働などの過重な業務への従事が認定使用者において脳・心臓疾患の発症が基礎疾病などの業務外の事由によるものであることを首肯させる特段の事情を証明できないかぎり、業務への従事と発症との相当因果関係が認められ、かつ業務を軽減したりする措置を怠ったものとして健康配慮(注意)義務の違反も肯定される傾向。

脳・心臓疾患については、使用者の損害賠償義務の成否は、業務上認定に近い手法で判定される傾向にある。

◎ 本決定:
亡Aが従事していた業務の質として身体的負荷の高い業務に従事していたことを認定し、これと業務の量(労働時間)を考慮した業務の過重性の程度の評価について、
前記の「過労死(脳・心臓疾患)」の認定基準を参酌して、
本件事故発生との間の時間的関連を考慮した期間における労働状態について認定評価

本件事故当時、不規則かつ過重な業務と夜通しの長時間の業務の遂行によって疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていたと認定

本決定が同認定の基準を参酌

「過労死事故」の類型では「過労死」の場合と同様に、事故の発生(脳・心臓疾患の発症)に近いほど、過重労働が労働者の心身の健康や睡眠の状態に与える影響が強いことを考慮。

①通常の通勤経路の直線道路を走行していたブレーキ及びハンドル機能ば正常な原付バイクが、制動措置や左右への回避措置などの正常な運転がされないまま、平坦な車道上から斜走を続けて電柱に激突したという本件事故の態様及び本件事故発生の状況
②過労運転の危険の公知ないし周知の事実(道交法65条、75条)

本件事故は、前記の亡Aの心身の状態に起因して居眠り状態となったために原付バイクの正常な運転ができず、運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない。

前記の過重業務と本件事故との間の因果関係(業務起因性)を認定。

過労事故死に関する裁判例は、いずれも、
過労運転の危険に係る経験則(公知ないし周知の事実)を前提として、
①被害者の過重業務による事故当時の心身の状態
②事故の態様及び事故発生の状況
③他の原因の存在の可能性に係る事情
を総合して判断。
 
◎最高裁昭和50.10.24:ルンバール事件
ルンバール施術前後の患者の状態の推移等⇒「他に特段の事情が認められない限り」、施術と発作等との間の因果関係を否定するのは経験則に反するとして、
患者の基礎疾患が影響した可能性もあり発作等の原因を判定し難いとして請求を棄却。 

橋本:
「他の原因の不存在との関係における推認」として論じており、
原告主張の原因と相反する(被告主張の)他の原因については、その存在を示す具体的な証拠や特段の事情が存在せず一般的な可能性にとどまるのに対し、
原告主張の原因については、診療経過や患者の症状等に基づいて検討した結果、患者の死傷の原因である具体的な可能性が肯定されれば、
通常人にもっぱら他の原因によるのではないかという合理的な疑いを抱かせない
原告主張の原因を推認すべき
 
◎事故原因として被告が主張する「他の原因」が、別途、過労死の責任原因となる(本件事故時における)「脳・心臓疾患の発症」である場合で、いずれが原因か心証が50%対50%に分かれるような特殊な事例

過重労働と事故の発生の間の因果関係の認定判断として、いわゆる「択一的」認定判断がされ、いずれの原因の場合であっても被告の安全配慮義務違反が認められると判断されることによって、その責任を肯定し得る余地がある。 
 
●「過労死事故死」における使用者の安全配慮義務について 
◎ 「過労自殺」の事例で最高裁H12.3.24(電通事件)は、
民法715条1項所定の使用者責任を肯定するに当たり、
労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところ
⇒使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
 
◎ 本件:
「通勤中の事故死」に焦点を合わせた例示

「深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自車の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険」から保護すべき義務

その具体的内容として、
被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、
亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた。 
 
●過失相殺の規定の適用及び類推適用の当否及び割合の判断の在り方 
◎ 裁判例:
労働者側の過失と使用者側の過失を対比検討して過失相殺の可否及びその割合を決してきている。 

斎藤論文:
労災事故におけるの規定の適用ないし類推適用の当否及びその割合の判断については、損害の公平な負担という観点から考慮する必要がある。

労働者が所与の労働環境の下で業務を遂行するには、労働契約、就業規則、その他使用者の定めた各種業務規定、作業準則等を遵守し、かつ、使用者ないし上司の具体的・個別的な職務命令に従うことを要する。
その過程で事故の自由な判断にまかせられている場面は限られているばかりでなく、基本的に職場環境の維持は使用者の責務であり、これを果たすためには労働者に通常みられる程度の身体的及び精神的能力並びに性格等の個人差を考慮し、当該職場あるいは作業に通常随伴する危険性にあらかじめ対処しておくことが要求される。

これらの諸点を前提とした上で、なお損害の実質的な公平な負担を図るという観点から労働者側に存する個別的要因を考慮すべきか否かを慎重に判断することを要する。

職場環境の維持は使用者側の責務であり、これを怠ったために発生した損害については基本的に使用者がその責めを負うべきものであるから、当該作業ないし職場に通常随伴する危険性の発現として発生した結果についての責任を労働者に転嫁することや、通常みられる程度の能力及び性格等の個人差から生じる結果を殊更に重視することは許されない。
 
◎本決定:
労使の指揮命令関係を考慮した一般的な説示を詳細にし、過労死事故死の場合についても説示⇒公共交通機関を利用せず原付バイクを運転した亡Aの過失を1割に限定する判断を詳しい理由を付して説示。 
 
◎ルンバール事件最判は、
国に公務員に対する安全配慮義務を認める根拠として、
公務員が職務専念義務(国公法101条1項前段)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(同法98条1項)を負い、
国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(同法62条)を負うことを定めていることを挙げている。

労働契約関係における前記の指揮命令関係と基本的に異なることがない。 
 
◎電通事件最判:
原判決が肯定した過失相殺の規定の適用ないし類推適用の当否に関し、
①企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもない⇒ある業務に従事する特定の労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる者でない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの。
②使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配属先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができる。

労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない。

過重な業務による鬱病は発症し増悪した場合で、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺することができないと判示した最高裁H26.3.24.
 
◎Yが過失相殺の事由として亡Aがオンラインゲームをしていたことを主張
vs.
その回数と時間の程度とこれが休日等にされていた
⇒むしろ過重な労働による心理的負荷を軽減する効果があったと推測し得ると説示して排除。 

東京高裁H24.3.22:
過労による精神障害に起因する過度のアルコール摂取により死亡した事例:
労働者が自らの不調を使用者に申し出なかった事情に加え、
就寝前にブログやゲームに時間を費やして自らの精神障害の要因となる睡眠不足を増長させた
⇒3割の過失相殺。
 
●裁判所の判決の見通しの開示により和解勧告と社会的影響や波及効果のある事件の解決の方法としての和解勧試と本決定の意義 
 
◎民訴法 第89条(和解の試み)
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる

和解は、これを試みる旨の裁判所の決定に基づいている。
この決定は、口頭弁論においても、弁論外でもすることができる、当事者に告知すべき。
この決定は、訴訟指揮に関する決定(120条)であり、これに対しては不服申し立てを許さず、裁判所はいつでもこれを取り消すことができる。
 
◎条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする(民調法1条)調停と異なり、
民事訴訟の審理及び判決を担当する受訴裁判所が主催する訴訟上の和解においては、
それまでの審理の段階に応じた裁判所の法解釈上及び事実認定上の心証(判決の見通し)に基づき、これを前提として、その判決による解決よりも当事者のそれぞれにとって利点があり、必ずしも訴訟物に限定されない、当該事案に応じて的確な内容の和解勧告がされるべきと考えられている。 
裁判所がこの心証を適宜の方法で当事者に示して裁判所が策定する和解案による和解を勧告することが多くされている。

和解勧告の段階:
争点等の整理が終了して人証予定の当事者本人及び証人の陳述書を含む書証の取調べをすべて終えた争点等の整理の終局段階が比較的多い。
口頭弁論終結後に勧告される場合⇒判決の内容と同じ完全に形成された心証が開示。

口頭又は書面によってされ、口頭の場合は、当事者対席の場にされる場合のほか、交互にされることが多い。

書面による和解勧告がされる典型的な訴訟類型として交通事故訴訟。
~当事者双方の検討、特に被告の保険会社の決裁上の必要から書面で。
裁判所の具体的な心証の開示の内容に不服⇒裁判所の和解案を拒絶⇒証拠調べ等の審理を経て判決。

藤村:
裁判所がどのよな段階の和解手続であれ、裁判所の事件に対する見通しを法律上及び事実上の観点から当事者に述べるのは訴訟手続の主催者として義務
そのことによって、当事者は仮にそれが間違っていると思えばそれを指摘して意見を述べればよい。
 
◎本決定:
①過労死防止法1条所定の「過労死」の定義には該当しない「過労死事故」という「過労死」及び「過労自殺」に並ぶ労働災害の類型について使用者の安全配慮義務違反を認める裁判所の判断の先例(裁判規範及び社会的規範)としての意義は大きく、本件訴訟の帰趨は「過労死」対策の対象を前進させるなど、社会的影響がある⇒和解による解決をする場合には、裁判所の所見が具体的に示され、これが公表されて先例となることを希望する旨を被害者遺族であるXら及び訴訟代理人弁護士が裁判所に明確に伝えている。
②その先例としての意義(波及効果や社会的影響)

民訴法89条所定の「決定」の「理由」中の「当該裁判所の判断(所見)の概要」欄で、本件の争点に係る裁判所の判断(所見)が比較的詳しく説示されたものが、本決定の理由中に示されている。

◎本決定が勧告する和解の内容及びこれにより成立した和解の内容には、本和解の成立及びその内容並びに本決定の判例雑誌への掲載を含む公表の相互の同意条項がある。
実務上は、逆に、いわゆる秘密保持・口外禁止条項が定められる場合がある。

民訴法 第91条(訴訟記録の閲覧等)
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。

民訴法 第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。

2 前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。

3 秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第一項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。

4 第一項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

5 第一項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。

民訴法91条1項の訴訟記録の閲覧等の規定が、憲法82条の裁判の公開の趣旨をより徹底するために何人に対しても訴訟記録の閲覧請求権を認めたものであり、
民訴法92条所定の秘密保護のための閲覧等の制限がされ、あるいは権利濫用の事情がない限り、判決書や裁判書はもちろん和解調書も公開される対象となる。

当事者は、相手方当事者のプライバシーや名誉権の侵害に当たるなど、不法行為を構成しない限り、これらの文書を公表・公開することは妨げられない

秘密保持条項は、例外的に和解の内容を第三者に対して公表・口外されることを不利益と考える当事者がこれを相互に禁止する条項を入れることを相手方に希望し、相手方の同意を得て定められるもの
公表の相互同意条項は、公表が妨げられるものでないことを注意的に定めたもの。
 
◎本件のような和解勧試及び和解勧告の決定の法形式の採用は、今後、
社会的影響や波及効果のある事件類型で、
早期の全面解決の利益のほか、例えば、比較的高額の和解金の分割支払(定期金支払を含む)条項、謝罪条項、努力条項等の当事者のそれぞれにとって判決によるよりも和解による解決をする利益にがある事件において、
裁判所及び当事者が和解による解決を選択する途を広げる1つの方法。 

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自閉スペクトラム症の少年による殺害(裁判員裁判)の事案

名古屋地裁H29.3.17       
 
<事案>
未成年である被告人が、日頃から嫌悪していた祖父に雰囲気が似ていた面識のない被害者をたまたま認め、同人に祖父を重ね合わせて怒りを感じ、その頚部等を持っていたサバイバルナイフで複数回刺すなどして殺害。
送致を受けた家庭裁判所が少年法20条に基づいて検察官送致決定(逆送)⇒裁判員裁判で審理。
 
<争点>
①殺意の有無
②責任能力の程度
③少年法55条移送の相当性 
 
<判断>
●争点① 
凶器及び犯行態様の危険性、被害者が負った傷の深さ⇒被告人の行為は人が死ぬ危険性が高いものであった
②被告人は、自己の行為や被害者の動きなどを認識したうえで前記危険な行為に及んでいる

殺意を肯定。
 
●争点② 
弁護人:
弁護側証人の医師2名の証言に基づき、被告人は生まれつきの自閉スペクトラム症(「ASD」)であり、本件当時はASDを背景とした二次障害である解離症状、精神的混乱状態の影響により、行動制御能力が著しく低下⇒心神耗弱状態
検察側証人の医師1名及び前記弁護側証人を証拠採用し、証人尋問を実施。

被告人がASDと診断される状態であったと認定したが、その一方で、
同証言のうち、ASDの本件犯行への影響について述べた部分については信用性を否定。

犯行前後の行動、記憶の保持状況、犯行動機の理解可能性を考慮し、心神耗弱を否定。
 
●争点③ 
弁護人:
少年院での処遇が有効であるとして、少年法55条により家庭裁判所移送を求めた。

本件は原則として刑事処分が相当とされる事案。
本件犯行の危険性の高さ、犯行態様の残忍さ及び執拗さ、遺族の処罰感情の強さ、犯行後の情況の悪さなど
⇒被告人の責任は相当に重い。

本件犯行の責任にはASDの影響があったこと、被告人に自身の行為に向き合おうとする姿勢がうかがわれること、保護処分歴がないことを考慮しても、なお刑事処分を選択すべき。
 
<解説>
●争点① 
①客観的犯行態様と②犯行態様に対する被告人の認識の両面から殺意の有無を判断
~実務上スタンダードな判断枠組みに沿った判断。
 
●争点② 
刑法39条にいう心神喪失や心神耗弱の概念は、精神医学上の概念ではなく、純然たる法律上の概念⇒その判断は、もっぱら刑事裁判所の判断に委ねられる。(最高裁昭和58.9.13)
but
責任能力の判断の前提事実となる生物学的要素並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断は、臨床精神医学の本分⇒精神医学者の意見が証拠となっている場合には、その意見を十分に尊重して認定すべき。(最高裁H20.4.25)

ASDの本件犯行の影響に関する部分については、他の証拠から認定事実と整合しない部分があるとして信用性を否定。
ASDが本件非行に与えた影響の程度を独自に認定した上で、法的基準を当てはめて被告人が心神耗弱の状態にはなかたっと判断
 
●争点③ 
少年法55条移送の相当性(保護処分相当性)と少年法20条の逆相決定の相当性(刑事処分相当性)は、表裏の関係にあり、刑事処分相当性には、保護不能の場合と保護不適の場合が含まれる。

保護処分相当性が認められる場合とは、
刑事裁判所における証拠調べを経た段階で保護不適及び保護不能のいずれもが否定される場合。
少年法55条移送の判断は、刑事裁判所の自由裁量に委ねられているとするのが通説・判例であるが、運用上は、家庭裁判所の専門的な検討を経た上での判断を尊重し、社会記録等を慎重に検討して判断すべき

本件:
被告人にとって少年院での処遇が有効であることを認めた上で、
その責任に見合った刑罰を受けさせるべき事案としている
保護不能ではないものの保護不適であると判断

判例時報2368

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2018年7月25日 (水)

松橋事件再審即時抗告審決定

福岡高裁H29.11.29      
 
<事案>
松橋事件につき、再審開始を認めた地裁決定に対する即時抗告審決定。 
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説>
白鳥・財田川決定以後、新旧全証拠を総合評価すること自体に異論はない。
but
その手法、特に、「新証拠と直接関連する以外の部分を、どの程度再評価してよいのか」という点で見解が対立。
×確定審の心証形成へのみだりな介入
〇新証拠の存在を根拠としての確定審の心証形成への介入 
 
<原決定>
平成24年にXの成年後見人が、平成27年にXの長男が再審請求し、原審は、再審開始の決定。 
①Xの犯人性に関する直接証拠は捜査段階の自白のみであり、確定判決の判断の分岐点は自白の任意性及び信用性。
巻き付けた布切れに関する新証拠によれば、凶器である小刀に血が付かないように布切れを巻き付けた旨の供述が体験供述でない合理的疑いが生じる。
使用された凶器に関する新証拠によれば、被害者の創傷と小刀の形状は矛盾し、小刀が本件凶器でない疑いが一層強まる。
④このように、凶器の特定及びその使い方という自白の核心部分の信用性がかなり動揺すると、確定判決が自白の信用性を担保するとした確補助事実の証明力・証拠価値に疑問が生じ、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じる
   
検察官が即時抗告
 
<判断>
巻き付けた布切れに関する新証拠、使用された凶器に関する新証拠は、Xに無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠であり、原決定の刑訴法435条6号の要件充足の判断に誤ったところはない。 
 
●検察官:新証拠も提出されていないのに、Xの自白や公判供述の信用性を改めて判断して確定判決と異なる判断を示しており、このような判断手法は確定判決の心証形成に介入したもので、再審制度の構造に反している。
vs.
確定判決は、「特に犯行の手段、方法等の点につき客観的証拠に照らし格別不自然、不合理な点を見出し得ないこと等に鑑みると、Xは取調べに対し、自己の体験したところを素直に供述したものと推定される」と判断。
新証拠によって、犯行の手段、方法につき客観的証拠に照らして不自然、不合理な点が現れた
③そして、小刀に布切れを巻き付けた旨の供述をするに至った経緯から、捜査官に迎合する姿勢が看取できる。
④そのことは、Xが取調べにより精神的に混乱して皮底靴を焼却した事実につながる。
⑤そのことが、自白の直接の契機となったポリグラフ検査で、犯人でないのに特異な反応をしめした合理的な疑いに結びつく。
このような連鎖により、新証拠による犯行の手段、方法が自白と整合しないことは、自白全体の信用性を否定し、公判供述の信用性を肯定することに行き着く
⑦以上のとおり、原決定は、新証拠の存在を根拠にして、確定判決の心証形成に介入しているのであり、その判断手法は違法、不適切ではない

判例時報2368

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2018年7月24日 (火)

東京都庁郵便小包爆発事件(一審有罪⇒控訴審無罪⇒最高裁無罪)

最高裁H29.12.25      
 
<事案>
オウム真理教の信者らによるいわゆる東京都庁郵便小包爆発事件に使われた爆薬原料となる薬品を運搬した被告人に対する爆発物取締罰則違反幇助、殺人未遂幇助被告事件に関し、
裁判員が参加した第一審判決:殺人未遂幇助罪につき有罪
控訴審判決:刑訴法382条に定める事実誤認を理由に破棄、無罪の自判
上告審:控訴審判決は結論において是認できる⇒上告棄却
 
<解説>
最高裁H24.2.13:
覚せい剤密輸入事件に関し、故意の有無が問題となった事案において、
刑訴法382条にいう「事実誤認」の意義について、
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう」
「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」 
 
<公訴事実>
オウム真理教の信者であった被告人が、平成7年5月のオウム真理教の信者らによる治安妨害と東京都知事ら殺害の目的をもってされた爆発物の製造・使用、殺人未遂事件に関して、
爆薬原料となる薬品等を山梨県内の教団施設から東京都内のアジトに運ぶなどして、正犯者らの犯行を容易にさせたこれを幇助したという、
爆発物取締罰則違反(爆発物の製造・使用)幇助、殺人未遂幇助の事案。) 
 
<一審>
被告人が、爆発物の製造使用があり得ると認識していたとは認められないが、他人の殺傷を伴うことがあり得ると認識していたと認められる
殺人未遂幇助罪のみを認定し、懲役5年。
   
被告人が控訴
 
<原審>
第一審判決による被告人の認識の推認過程には、論理則、経験則に照らし不合理な点があるため、被告人が殺人未遂幇助の意思を有していたと認めることはできない。⇒無罪。
   
検察官が上告
 
<判断>   
●上告を棄却。 

●控訴審における第一審判決の事実誤認の審査に当たっては、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるかどうかを検討しなければならない。

第一審判決においては、間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定した判断構造の枠組みが示されているが、その合理性には看過できない問題がある。

第一審判決に事実誤認があるとした原判決は、第一審判決による判断構造を十分に捉え直さないまま、その判断過程に沿って個別の事実認定を検討した上、その不合理性を具体的に示していない説示部分を含んでおり、これをそのまま是認することはできない。
but
間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして、第一審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとした原判決は、結論において是認することができる。
 
●第一審判決の判断構造を整理したうえで、
殺人未遂幇助の意思を認定する前提としている「人の殺傷結果の想起可能性」を推認するための間接事実において、
被告人の認識対象が広範、曖昧な内容にとどまっており、その推認が困難であること、

「人の殺傷結果の想起可能性」自体も抽象的な結果発生の認識可能性をいうにすぎず、これに付加する間接事実も、いずれも被告人の漠然とした疑念ないし抽象的な認識可能性の契機を指摘するもので、殺人未遂幇助の認定にまで高めるには飛躍がある
⇒第一審がその判断構造を採用したこと自体不合理である。

第一審判決の判断構造に関する不合理性の現れとして、
①間接事実となる各個別事実の検討における問題点や、
②一方で殺人未遂幇助の意思を認定し、他方で爆発物取締罰則違反ほう助の意思を認定できないとしたこととの関係についても指摘、
⇒結局、第一審判決は、殺人未遂幇助の意思を認定した点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、控訴審において破棄を免れない。

原判決が、第一審判決の判断構造についての評価が不十分なまま証拠の信用性等の検討を行った⇒
原審段階では必ずしも重要とはいえなくなったと解される証拠関係について詳細に判示し、しかも、
第一審判決の事実認定の不合理性を必ずしも具体的に指摘しないまま証拠の信用性について第一審判決と異なる判断をするなど、
控訴審における事実認定の審査のあり方という観点から問題がないわけではない。
but
結論において是認できる。

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2018年7月23日 (月)

労働契約法20条の解釈とその違反が問題となった事案

東京地裁H29.9.14      
 
<事案>
被告である日本郵便株式会社(Y社)との間で有期労働契約を締結した原告X1からX3まで(「Xら」)が、
無期労働契約を締結しているY社の正社員と同一の業務に従事していながら、手当等の労働条件について正社員と差異があることが労契法20条に違反⇒
Y社社員給与規程及びY社社員就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
公序良俗に反すると主張し、同条施行前については不法行為による損害賠償請求権に基づき、
同条施行後については、主位的には同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき予備的には不法行為による損害賠償請求に基づき諸手当の正社員との差額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<争点>
①労契法20条の成否
②労契法20条の効力
③公序良俗違反の有無
④Xらの損害
 
<判断>
●争点①:労契法20条の成否 
本件において問題となる労働条件の相違は、いずれも正社員と契約社員とで適用される就業規則や給与規程が異なるために生じている
期間の定めの有無に関連して生じたもの

労契法20条の不合理性の判断について:
問題とされている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としている⇒合理的な理由があることまで要求する趣旨ではない。

不合理性について、
労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働契約が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、
使用者において、当該労働条件の相違が不合理であることの評価を妨げる事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負い、
主張立証にかかる労契法20条が掲げる諸要素を総合考慮した結果、当該労働条件の相違が不合理であると断定するに至らない場合には、当該相違は同条に違反するものではない。

労契法20条は、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について、
①職務の内容、
②当該職務の内容及び配置変更の範囲、
③その他の事情
を考慮要素としており、
同条は、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく、同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており、
有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることを許容するもの。

Xら契約社員と労働条件を比較すべき正社員は、担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職とするのが相当。

旧人事制度においては、Xら契約社員と比較すべき正社員は、旧一般職とするのが相当。

正社員と契約社員との労働条件の相違について、不合理性が認められたの
年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇、病欠休暇

不合理性が認められないとされたの
外務業務手当、早出金等手当、祝日給、夏季年末手当、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当
 
●争点②:労契法20条の効力 
労契法20条は、訓示規定ではなく、同条に違反する労働条件の定めは無効であり、その定めに反する取扱いには、民法709条の不法行為が成立し得る。
but
労契法20条の法的効果として補充的効力は認められない。 
 
Y社において、正社員と契約社員に適用される就業規則及び給与規定等が、別個独立に存在し、前者がY社の全従業員に適用されることを前提に、契約社員については後者がその特則として適用されるという形式とはなっていない

就業規則、給与規定等の合理的解釈として、正社員の労働条件が契約社員に適用されると解することはできない
 
正社員と契約社員の労働条件の相違について年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇及び病気休暇についての相違は、平成25年4月1日以降(住居手当は平成26年4月以降)労契法20条に違反し、Xらに対する不法行為を構成。
 
●争点③:公序良俗違反の有無 
労契法20条施行の前後を通じ、公序良俗に反するとはいえない。
 
●争点④:Xらの損害 
年末年始勤務手当の相違にかかる損害:旧一般職及び新一般職に対する支給額の8割相当額
住居手当の相違にかかる損害:正社員の支給要件を適用して認められるべき住居手当の6割相当額
 
<解説>
●争点③について 
労契法20条施行前の裁判例である丸子警報器事件(長野地裁上田支部)では、
非正規社員の賃金額が、同じ勤務年数の正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を越え、公序良俗違反となるとした。

本件:
労契法施行の前後において、労契法20条に違反する労働条件の相違を含め、正社員と契約社員の労働条件の相違が公序良俗違反となることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない
 
●争点④について 
本判決:
有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合(本判決の年末年始勤務手当及び住居手当)には、種々の要素(人事制度との整合性、昇任昇給の経路や配置転換等の範囲の違い等)を踏まえて決定される給付されるべき手当額を証拠に基づき具体的に認定し、それとの差額をもって損害と認定。
but
それは、その決定過程に照らして極めて困難。

民訴法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべき。

年末年始勤務手当については新旧一般職の支給額の8割相当額
住居手当は正社員の支給要件を適用して得られる額の6割相当額

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2018年7月22日 (日)

不動産は商事留置権の対象になるか(肯定)

最高裁H29.12.14      
 
<事案>
土地所有者である上告人Xが、土地を占有する被上告人Yに対し、所有権に基づき明け渡しを求める事案。 
Y:当該土地につきXに対する運送委託契約上の未払代金債権を被担保債権として商法521条の商人間の留置権を主張
 
<規定>
民法 第295条(留置権の内容) 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

民法 第85条(定義) 
この法律において「物」とは、有体物をいう。

民法 第86条(不動産及び動産)
土地及びその定着物は、不動産とする。

商法 第521条(商人間の留置権)
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。
 
<解説>
現行商法521条の文理解釈⇒包含説が素直⇒除外説の論拠が包含説のいう文理解釈を覆し得る程度に合理的なものかという点から検討すべき。

除外説の根拠:
①立法の経緯・沿革:
ドイツ商法典においても、商人間留置権の対象は動産と有価証券であり、不動産が除外。日本の商人間の留置権の定めは、ドイツ法の系譜。
②休競売法の規定:
民法及び商法の留置権の競売手続を定めた明治31年制定の競売法では、動産の競売手続を定めた3条において、競売申立人を「留置権者・・・その他民法の規定に依りて競売をなさんとする者」と定め、「商法の規定」による競売が挙げられていない。
③:当事者の合理的意思:
商人間の取引で一方当事者所有の不動産の占有が移されたという事実のみで当該不動産を取引の担保とする意思が当事者にあるとみるのは困難。
④法秩序全体との整合性:
登記の先後により優先順位が定まるのを原則とする不動産取引において、商人間の留置権のような強力な権利が登記とは無関係に抵当権に優先することを認めれば、不動産取引の安全を著しく害し、担保制度全体の整合性を損なう。
vs.
①現行商法521条は、明治32年制定の商法284条に由来しており、同商法の制定経緯や、明治44年の改正時の政府委員の説明をみると、少なくともこの段階では商法の「物」を民法85条、86条と同じ意味に解していたことがうかがわれること等⇒現行商法の解釈として、民法と異なり不動産を除外しているとは解されない。
②競売法は手続規定⇒その規定に定めがないからといって商法の解釈に当たっての決め手にはならない。
現行民執法59条4項や195条は留置権の契番を民法商法の区別なく規定。
③商取引の必要性は不動産にも存在⇒不動産を商人間留置権の対象に沿わないとはいえない。
④留置権能を有する担保物権である留置権が抵当権より事実上優先することは民事留置権においても同様であり、そのような自体が常に不当であるとも言い切れない。
 
<判断>
商法521条の「物」を民法85条の「物」と別異に解する理由はないとして、その文理解釈から包含説をとることを明らかにした。 

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2018年7月21日 (土)

資料請求における外国人差別で不法行為成立事案

大阪地裁H29.8.25    
 
<事案>
我が国の永住資格を有する外国人(トルコ国籍)であるXが、中古自動車販売の加盟店事業等を行う株式会社Yに対し、Yのウェブサイト上に設けられた無料の資料請求フォームを用いて、Yが運営する加盟店事業の内容及び加盟店契約に関する資料の請求を行なった。
 
Yの従業員Aによって、原告が外国籍を有することのみを理由に資料の送付を拒否された

不当な外国人差別(国籍差別)ないしは人種差別に当たり、人格権を侵害されたとして、不法行為(使用者責任715条1項)に基づき、慰謝料の損害賠償を求めた。 
 
<争点>
AがXに対して資料の送付を拒否した行為が、憲法14条1項に反する不当な外国人差別(国籍差別)に当たり、民法上も違法な行為として不法行為を構成するか否か。 
 
<判断>
憲法上の人権規定が私人間の法律関係に及ぼす影響:
憲法の人権規定は私人相互の関係を直接規律することを予定する者ではないj。
but
当該規定の趣旨は、私的自治の原則との調和を図りつつ、民法709条など個別の実体法規の解釈適用を通じて実現されるべきものである(最高裁昭和48.12.12)。

Yに契約締結の自由ないし営業の自由(憲法22条)が保障されることを考慮してもなお、YないしAにより資料送付許否行為が合理的理由を欠き、社会的に許容し得る範囲を超えて原告の法的利益を侵害すると認められる場合には、民法上も違法なものとして、不法行為を構成する。 

Yの提供する資料請求サービスは、Yの事業経営の一環として集客目的ないし顧客獲得のための情報提供を目的として設けられたものであり、Y自身が、広く一般公衆に資料請求サービスの利用を認め、また、一般公衆に対し当該サービスの提供を受けられるとの合理的期待を惹起している。
そのような場合においては、Yに契約の自由ないし営業の自由が認められるとしても、請求者の特定の属性のみを理由に何ら合理的な根拠に基づくことなく資料送付に応じないことは、憲法14条1項の趣旨に照らし、不合理な差別的取扱いに当たる
⇒不法行為の成立が認められる。
 
<解説>
私人間における外国人に対する差別的取扱いが不法行為を構成するかが争われた事例:

<責任肯定>
①店舗へ等への入店許否・利用許否が問題となった事例
②賃貸物件への入居許否が問題となった事例。

<責任否定>
③永住資格のない外国人の住宅ローン申込みに応じなかった銀行の行為
④ゴルフクラブへの入会許否

無料の資料請求サービスの拒絶という、直ちに請求者の具体的な利益が侵害されるとはいえない場面においても、場合によっては人格権を侵害する不当な差別的取扱いとして不法行為が成立し得ることを明らかにしたもの

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2018年7月19日 (木)

個人再生の再生計画案の可決が信義則に反する行為に当たるか否かの判断

最高裁H29.12.19      
 
<事案>
再生債務者である抗告人Yが申し立てた小規模個人再生において、民再法202条2項4号の「決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」 の不認可事由の存否の判断が問題となった事案。
 
<規定>
民事再生法 第202条(住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可又は不認可の決定等)
2 裁判所は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、再生計画不認可の決定をする。
四 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき

民事再生法 第230条(再生計画案の決議)
8 届出再生債権者は、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第二百二十六条第五項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて、第二百二十七条第七項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて、それぞれ議決権を行使することができる。
 
<原々審>
可決された再生計画案につき不認可事由は認められない
再生計画認可の決定
   
Yが即時抗告
 
<原審>
Xは実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により再生計画案を可決させた疑いが存在
本件貸付債権の存否を含め、信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要がある。 
   
Xが抗告許可の申立て
 
<判断>
小規模個人再生において、再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。)、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても、住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当。
 
<解説>
法202条2項4号の解釈:
通常の民事再生の場合の不認可事由である法174条2項3号についての最高裁H20.3.13と同様に、
「議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当」と判断。 

民事再生法 第38条(再生債務者の地位)
2 再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う。

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2018年7月17日 (火)

だまされたふり作戦での荷物の受取役⇒詐欺未遂罪の共同正犯(肯定)

最高裁H29.12.11       
 
<事案>
被告人は、氏名不詳者による被害者に対する欺罔行為の後、氏名不詳者により依頼され、被害者から発送された荷物の受取役として本件に共謀関与したものと認定。

共犯者による欺罔行為後、だまされたふり作戦の開始を認識せずに、共謀の上、被害者から発送された荷物の受領行為に関与した者が、詐欺未遂罪の共同正犯の責任を負うか? 
 
<一審>
①被告人の共謀加担前に共犯者が銀網行為によって詐欺の結果発生の危険性を生じさせたことについては、それを被告人に帰責することができず、かつ、
②被告人の共謀加担後は、だまされたふり作戦が開始⇒被告人と共犯者らにおいて詐欺の実行行為がされたとはいえない。
⇒無罪 
 
<原審>
①承継的共同正犯の成立を肯定
未遂罪として処罰すべき法益侵害の危険性の有無の判断に際しては、当該行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきであり、だまされたふり作戦の開始によっても受領行為に詐欺の既遂に至る現実的危険性があったといえる。

詐欺未遂罪の共同正犯の成立を肯定。
 
<判断>
だまされたふり作成の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当。
 
<解説>

詐欺罪の承継的共同正犯を肯定
だまされたふり作戦の開始は詐欺未遂罪の共同正犯の成立に影響を及ぼさない 
 
●詐欺未遂罪の承継的共同正犯の問題
承継的共同正犯の問題については、従来から、全ての犯罪類型に統一的な処理の指針を見出すのは困難⇒犯罪の種別ごとの個別的検討の重要性。

詐欺を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為への関与」という点を指摘。

原判決の指摘:
詐欺罪の保護法益は個人の財産であり、欺罔行為はこれを直接侵害するものではなく、欺罔行為を手段として錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に法益侵害性があるという詐欺罪の特質。

判例時報2368

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2018年7月16日 (月)

窃盗保護事件における第一種少年院送致決定が著しく不当ととされた事案

大阪高裁H29.7.19    
 
<事案>
当時、定時制高校に在籍(身柄拘束後に退学処分)していた少年が、約2週間のうちに、アルバイト先などにおいて、8回にわたって財布などを窃取したという窃盗の事案。 
 
<原決定>
①常習性のうかがえる非行の悪質性、
②窃盗に対する抵抗感の乏しさ
③広範性発達障害の疑いもある少年の資質上の問題及びそれと非行との結びつき

父母の注意では窃盗に対する抵抗感が涵養されておらず、資質上の問題に照らすと在宅での監護を継続して問題点を改善除去するのは困難。
⇒少年を第一種少年院に送致。
 
<判断>
原決定が重視した少年の資質上の問題等について理解を示しながら、
件数が多いとはいえ、非行の内容が重要ではなく
窃盗の常習性についても非行性が固着する段階に至っていない

軽微な前歴しかなく、保護者によって受け皿が準備されている少年に対して、原審が試験観察に付すなどして在宅処分との優劣を検討せず、直ちに施設内処遇を選択した点を挙げ、処分が著しく不当であるとした。
 
<解説>
試験観察:少年に対する終局決定を留保し、家庭裁判所調査官が少年の行動などの観察を行うための中間決定によってとられる措置(少年法25条)。
試験観察の不実施に言及した上で、処分不当を理由として少年院送致の処分を取り消した抗告審決定例は少なくない

判例時報2367

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2018年7月15日 (日)

検証許可状⇒パソコンからインターネットに接続し、メールサーバーにアクセスしメールの送受信歴及び内容を保存(違法)

東京高裁H28.12.7      
 
<事案>
被告人が、有印公文書である国立大学の学生証2通、危険物取扱者免状1通及び自動車運転免許証2通並びに有印私文書である私立大学の卒業証書2通をそれぞれ偽造し、さらに
共犯者らと共謀の上、建造物損壊3件及び非現住建造物等放火1件の各犯行に及んだ。
 
被告人 前記各事件への関与を否定。

弁護人は、捜査機関が行ったパーソナルコンピュータの検証には重大な違法⇒違法収集証拠排除の主張。 
 
<規定>
刑訴法 第二一八条[令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等]
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。

刑訴法 第二二二条[準用規定等]
第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

刑訴法 第一二九条[検証上必要な処分]
検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。
 
<本件検証>
神奈川県警の警察官は、刑訴法218条2項のいわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可された捜索差押許可状に基づく、当時の被告人方を捜索し、本件パソコンを差し押さえた。
but
本件パソコンにログインするパスワードが判明していなかった⇒リモートアクセスによる複写の処分をしなかった

本件パソコンを検証すべき物とする検証許可状の発付を受け、本件パソコンの内容を複製したパーソナルコンピュータからインターネットに接続し、本件パソコンからのアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバーにアクセスし、メールの送受信履歴及び内容をダウンロード保存
 
<原審>
本件検証は、「検証すべき物」として本件パソコンが記載されているにすぎない検証許可状に基づく検証における必要な処分としてリモートアクセスを行ったもので、メールサーバーの管理者等の第三者の権利・利益を侵害する強制処分に他ならない。

捜査機関が、このような強制処分を必要な司法審査を経ずに行ったということは、現行の刑訴法の基本的な枠組みに反する違法なもの。 

サーバコンピュータが外国に存在すると認められる場合には、基本的にリモートアクセスによる複写の処分を行うことは差し控え、国際捜査共助を要請する方法によることが望ましく、本件においても、サーバーコンピュータが外国にある可能性が高く、捜査機関もそのことを認識していた⇒この処分を行うことは基本的に避けるべき。
本件検証には、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある

本件検証の経過及び内容を記載した検証調書や、本件検証の結果をまとめた各捜査報告書は、本件検証の結果そのもの⇒証拠能力を排除。

弁護人が排除を求めるその余の証拠については、
個々に本件検証との関連性等を検討した結果、
いずれも本件検証と密接に関連するとまではいえない。

証拠排除を否定。
⇒被告人の犯人性を肯定し、有罪判決。
 
<判断>
公訴棄却 
 
<解説>
平成23年の刑訴法改正(「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」)によっていわゆるリモートアクセスによる複写の処分が導入
but
この複写の処分は、あくまで電子計算機の差押えを行う場合に付加的に認められた処分であり、差押え後に行うことは想定されていない

また、検証(刑訴法128条、218条1項)については、前記法改正によっても、リモートアクセスを許す規定は設けられなかった。 

本判決:
電子計算機を検証対象とした検証許可状に基づき、リモートアクセスに相当する処分を行うことは、現行法上、許容されない

判例時報2367

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2018年7月13日 (金)

業務内容・問題対応・上司との関係⇒強い精神的負荷⇒うつ病⇒自殺で、公務起因性を肯定

名古屋高裁H29.7.6      
 
<事案>
Aが平成29年11月26日に自殺したことについて、処分行政庁に対し、公務災害の認定請求⇒本件災害を公務外災害と認定する旨の処分⇒不服審査請求も棄却⇒前記処分の取消しを求めた。 
 
<原審>
●公務起因性の判断基準について:
最高裁昭和51.11.12を引用し、
地方公務員災害補償法31条の「職員が公務上死亡した」とは、
公務に基づく疾病に起因して死亡した場合をいい、
その疾病と公務との間に相当因果関係が必要であり、
最高裁H8.3.5等を引用し、
前記の相当因果関係があるといえるためには、
その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要

と判示。 

相当因果関係の判断に当たっては、
職場における地位や年齢、経験などが類似する者で、
通常の職務に就くことが期待されている平均的な職員を基準とすべきであり、
平均的な職員には、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の経験を要せず通常の公務に就き得る者を含む
 
●公園整備室は・・・もともと事務職の室長は、かなりの精神的負荷を受ける。
Aが執務に就任した当時の事情として






Aは、これらによって強い精神的負荷を受け、同年10月下旬から11月初めの時期に、周囲の者から見ても異常を感じさせる抑うつ状態

①Aがそのような抑うつ状態で、P1部長に対し、同年11月初めころ、降格覚悟で年度途中の異動を希望したが、年度途中の異動は難しいと言われ動揺し、
そのころ公園内で発生した事故の記者発表、市議会の対応に追われ、
同年11月26日に公園内で新たな人身事故が発生した旨の報告
業務の精神的負荷に耐えられなくなり本件災害に至った

②Aはうつ病に親和性の強い性格傾向であったが、勤務の軽減を要せず通常の公務についていた
本件災害について公務起因性を認め、Xの請求を認容。 
 
<本判決> 
原審判決を肯定。 
 
<解説>
疾病と公務の間に相当因果関係が必要であり、その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要。

その判断に際しては、
精神障害は環境由来の心理的負荷の程度固体側の脆弱性の双方により発症するとの理解(「ストレスー脆弱性」理論)を前提として
一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の公務に就き得る者を含む平均的な職員を基準とする。

Aの自殺の原因となった精神疾患について、
口頭弁論終結時における医学的知見に基づき、
本件災害後の新認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年地基補第61号)及びその運用指針(同第62号)に基づいて検討し、
Aが強度の精神的負荷を与える事象を伴う公務に従事していたと認め、
公務起因性を肯定


本件災害前のAの時間外労働時間は月50時間前後であって、それほど長時間であるとはいえない。

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2018年7月12日 (木)

歯科医師が歯科医師法違反の容疑で逮捕された旨の記事⇒検索事業者に対する検察結果削除請求(否定)

横浜地裁H29.9.1      
 
<事案>
Xは、自ら診療を行う診療所において、歯科医師資格を有しない者に問診やエックス線照射等の心療行為をさせた歯科医師法違反の被疑事実で逮捕され、新聞報道された(処分は罰金50万円の略式命令)。 

XがYに対し、
Yの提供する検索サービスを利用してXの氏名に「歯科」との語を加えた条件で検索すると前記逮捕事実が書き込まれたウェブサイトのURL,表題及び抜粋(URL等情報)が表示。
人格権に基づき検索結果の削除を求める
 
<判断>
プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報について検索結果からの削除を求めるための要件を示した最高裁H29.1.31の規範に基づいて検討。

①本件逮捕等の事実が歯科医師の資格に関わる重大な事柄であり、②Xが今もなお現役の歯科医師
Xの歯科医師としての資質に関する社会の正当な関心事であると評価できる。(●事実の性質及び内容)

前記検索条件との関係⇒事実が伝達される範囲がXの歯科医師たる資質に正当な関心を抱く者に限られる(●事実が伝達される範囲)

Xの主張する職業上、私生活上の被害は、仮に存在するとしても本件検索結果の表示との間に因果関係を認め難いものであるか、正当な関心事としてXにおいて甘受すべき性質のもの(●具体的被害の程度)

削除を求める記事等がXの逮捕等を客観的に報道する正当な目的に基づくもの(●記事等の目的や意識、記事等において当該事実を記載する必要性)


本件検索結果を表示する意義及び必要性がなお少なからず存在しており、
事実の公表されないXの法的利益の優越が明らかとはえいない

判例時報2367

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2018年7月11日 (水)

面会交流審判⇒禁止に変更。

名古屋高裁H29.3.17      
 
<事案>
調停離婚により未成年者の親権者と定められ、未成年者を監護するX(母)が相手方Y(父)に対し、面会交流審判事件に係る前審判で定める面会を、新たな協議が成立する等までの間、禁止することを求めたもの。 
 
<原審>
未成年者のYに対する面会を拒否する感情は強固
but
XもYとの面会に賛成していることなど、Yを未成年者の父親として尊重するなどの態度を示せば、未成年者のYに対する消極的感情を和らげることを期待できる。

前審判の定める面会を認めるのが相当であるととしたが、Xの立会いを認める期間については平成30年までと変更。 
 
<判断>
①未成年者が当初からYを頑なに拒否し続けていることは明らか
②現実の問題として、従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても、未成年者のYに対する拒否的態度は一層強固なものとなっており、
遅くとも平成28年12月に一部実施した面会交流において、未成年者とYとの面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になった

同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかになったということができる。

Yは、未成年者との面会交流につき、Xとの間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す審判が確定し又は調停が成立するまでの間、未成年者と面会交流してはならない。

判例時報2367

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2018年7月10日 (火)

政務調査費の支出の一部が違法とされた事例

仙台地裁H29.11.2      
 
<事案>
仙台市民オンブズマンである原告が、仙台市議会の会派である補助参加人らにおいて、仙台市から交付を受けた平成23年の政務調査費の一部を違法に支出し、これを不当に利得した⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、
仙台市長である被告に対し
補助参加人らに対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還及びこれに対する遅延損害金又は法定利息の支払を請求するよう求めた

 
<争点>
①政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み
②選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
 
<判断>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の判断基準 
法が政務調査費の制度を設けた趣旨を指摘した上で、
条例における使途に係る定めが法の趣旨に反しない限り、その定めに基づいて政務調査費の支出の違法性を判断するのが相当。
具体的な支出の違法性は、本件使途規準(本件条例の委任を受けて定められた本件規則において定められている使途基準)に合致するか否かを基準に判断

本件使途規準に合致しない場合:
当該支出の客観的な目的や性質に照らして、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がない場合をいう。

仙台市においては、政務調査費の対象外となる経費や支出手続等の本件条例の施行に関し必要な事項を定めた要綱(本件要綱)があり、法の趣旨に反しない限り、これを具体的支出の本件使途規準への適合性判断の指標とする。
 
◎主張立証責任 
原告において、支出が本件使途規準に合致せず違法であることを主張、立証することを要する
but
本件各支出が本件使途基準に合致せず違法であることを具体的に明らかにすることは困難である一方、被告らが本件使途基準に合致することについて説明することは比較的容易
法の趣旨には、政務調査費の使途の透明性の確保も含まれている

原告は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的な事実の存在を主張、立証すれば足り、前記の事実が認められた場合には、被告らにおいて、当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたなどの特段の事情を立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法である。
 
◎本件要綱に基づく経費の按分 
本件要綱は、政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難く、従事割合その他の合理的な方法により按分することが困難である場合には、按分割合について2分の1を上限として計算した額を政務調査費の支出額とすることができる旨規定
前記規定は、法の趣旨及び前記の会派の活動の性質に照らして合理的

原告が、調査研究費活動以外の活動にも利用されることが推認される経費であることを示す一般的、外形的な事実を立証した場合は、
被告らにおいて、当該経費が調査研究活動のみに利用されたこと、又は、当該経費に関し、調査研究活動に利用された割合とそれ以外の以外の活動に利用された割合について、客観的資料に基づき立証することを要する。
 
●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
①議員にとって、次回の選挙に当選するか否かは議員としての活動を続けようとする自らの立場を左右する重要な事項
②会派代表者の尋問結果に照らせば、会派及びその所属議員は選挙期間中には選挙活動に集中しており、調査研究活動はほとんど行われていないことが推認される

選挙期間中の活動に対し政務調査費が支出されたという事実は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的事実であることが認められ、
原告がその事実の存在を立証した場合には、被告らにおいて当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたことを客観的資料に基づいて立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法であると判断するのが相当。
 
<解説>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の実体要件
違法性の実体要件について、
A:裁量説:
議員側に市政との関連性や支出の必要性等について広範な裁量があることを前提に、裁量権の逸脱濫用があることを前提に、裁量権の逸脱濫用がある場合にのみ、違法となる。
B:合理的解釈説:
政務調査費の使途に応じて、比較的緩やかに必要性が認められるものと、それほど緩やかに解されないものがあるとして、個別の事案ごとに、条例等の使途規準に係る規定の合理的な解釈によって解決するとの見解。

◎主張立証責任 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論

判例時報2367

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2018年7月 9日 (月)

冤罪可能性と死刑の関係(H30.7.9のツイート)

①冤罪可能性を死刑廃止論の根拠にする人が結構いるけど、冤罪の問題は、刑事手続の問題で、刑罰論の問題ではない。刑罰論の問題でないもので、刑罰論を論じるべきじゃない。

②これは、包丁は殺人や傷害に使われるから、包丁を禁止すべきというのと同じ論理で、包丁規制に反対する人に「包丁で人が殺されていいのか」というのと同じなんだよね。禁止すべきは包丁ではなく、殺人や傷害であるのと同じく、禁止すべきは、冤罪であって、死刑ではない。

③冤罪を理由に死刑を廃止すべきという人は、冤罪で刑罰論を論じながら、懲役刑について何も言わない。それは、冤罪でも死刑でなく無期懲役なら許されると言っているのと同じなんだよね。

④しかし、(死刑相当の)複数殺人の冤罪では、報道され、本人はその一生を奪われるとともに、その家族や親族も地獄を見ることになるわけで、(死刑でなく)懲役刑だから冤罪も許されるという議論はあり得ない。

⑤冤罪による死刑は「冤罪」の問題であり「死刑」の問題ではありませんから。包丁を使った殺人が「殺人」の問題であり「包丁」の問題でないのと同じです。平野龍一先生は死刑を容認されていますが、冤罪もやむを得ないという立場でなかったはずです。

⑥死刑制度を維持しながら、冤罪による死刑を回避する方法はありますね。裁判所の判断および死刑執行の判断として、冤罪可能性のない事案に死刑を適用し、冤罪可能性のある事案は死刑を適用しない。検察側の立証責任が厳格に運用されれば、本来、後者は無罪であるべきですけど。

⑦私は、遺族は、理不尽に身内を殺される理由がないし、殺人犯は自分の命をもって責任を問われる合理性があると考えますので、遺族がそれを望むのであれば、死刑はあり得るべきと考えています。遺族にその理不尽を甘受させる理由はなく、出来る限りその回復が図られるべきという考えですね。

⑧私は、死刑執行は立派な職務だと考えていますけど、それを「殺人」だと、そのイメージ悪化に向けて活動されているのが、死刑廃止派の皆さんですね。「国による殺人」という議論も、欧米諸国は他国への空爆等により、裁判手続すら経ずに、それを行っているわけですし。

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少年の成人後起訴の場合と検察官送致決定

名古屋地裁H29.3.24    
 
<事案>
被告人は、少年であるうちに家庭裁判所で20条の検察官送致決定を受け、成人に達した後に起訴され被告人に。 
 
<弁護人>
本件の検察官送致決定には保護処分を選択しなかった点で同条の解釈適用を誤った重大な違法がある⇒無効。
その決定を受けてなされた本件控訴の提起も違法で無効。
⇒公訴棄却されるべき。 
 
<判断・解説>
●本判決:検察官送致決定後起訴前に対象者が成人に達した場合においても有効な検察官送致決定の存在が刑事事件の訴訟条件となる

◎ 少年法:
少年の処遇については専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねる
⇒司法警察員及び検察官に対して、犯罪の嫌疑がある少年の被疑事件を前件家庭裁判所に送致することを義務づけ(家裁先議主義)。

家庭裁判所に、相当と認めるときに事件を検察官に送致する権限を与え(20条)、検察官送致決定による事件の送致を受けた検察官に一定の例外を残しつつ公訴提起を強制(45条5号)。

適法な検察官送致決定の存在が起訴後の刑事事件の訴訟条件

本件のように、検察官送致決定後控訴提起前に対象者が成人した場合も、起訴強制の効力は続く。

①事務処理繁忙等により起訴が遅れて対象者が成人に達した場合に起訴強制が働くなくなるのでは少年の処遇を専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねた少年法の趣旨が損なわれる
②45条柱書及び同条5号は、起訴強制の要件として検察官送致決定の存在のみを掲げ、対象者が起訴時に少年であるかどうかを問わない書き方

対象者の成人後も起訴強制の効力が存続⇒対象者が少年のままである場合と同様、起訴は検察官送致と一体と捉えらえるべきであり、検察官送致決定の違法性を引き継ぐ。

●どのような瑕疵がある場合に検察官送致決定が無効あるいは不存在とされるか? 
◎ 最高裁H9.9.18:
家庭裁判所のした保護処分決定に対する少年側からの抗告に基づきその決定が取り消された場合に、差戻を受けた家庭裁判所は検察官送致決定をすることは許されず、検察官送致決定後の公訴提起は違法、無効。 

最高裁H26.1.20:
家庭裁判所が禁錮以上の刑に当たる罪の事件として検察官送致決定した事件について、検察官が、それと同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪の事件として公訴を提起することは許されず、同起訴を受けた刑事の裁判所は公訴棄却の判決をするべき。

公訴を提起した事件については検察官送致決定が不存在であると解したもの

仙台高裁昭和24.11.25:
非行時に13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法。

検察官送致決定は存在する場合についてその実体的要件の欠缺を問題としたもの。

尚、判決時もなお少年の被告人については、55条移送が可能
⇒公訴棄却となるような検察官送致決定の違法性は違法性の程度が重大なものに限られるとの解釈。

◎ 本判決:
①検察官送致決定に対する不服申立ての規定はなく、刑事手続の中で55条による家庭裁判所移送の職権発動を促すことで検察官送致決定に対する事実上の不服申し立てを行うことができる
②家庭裁判所の判断は、同様の一件記録を使用する保護処分の抗告審との関係でも十分に尊重すべきものと位置づけられている
③刑事裁判所では判断資料も限られる

刑事裁判所は、訴訟条件としての検察官送致決定の適法性を審査するとしても、実質的判断内容の当否に踏み込むことは躊躇すべきであり(不服申立審でもない刑事事件を取り扱う裁判所が家庭裁判所の検察官送致決定の判断内容の当否について踏み込んだ審査をすることに適さない面もある。)

検察官送致決定が違法・無効であるとされ、送致を受けた検察官による公訴の提起もまた違法であるとして無効となる場合(刑訴法338条4号)とは、例えば検察官送致決定を行うこと自体が職務犯罪を構成する場合や、家庭裁判所が故意に事件を長期間にわたり放置していたにもかかわらず検察官送致決定を行なった場合など、極限的な場合に限られる

◎保護教育主義を採る少年法においては、検察官送致は例外的な存在。
検察官送致が許されるのは、原則として、
保護不能か保護不適の場合のみ。

(通説)

判例時報2366

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2018年7月 8日 (日)

贈収賄事件(1審無罪、控訴審有罪)

名古屋高裁H28.11.28       
 
<弁護側>
検察官と贈賄したと自認するP1の間に取引(刑訴法改正により導入された合意(刑訴法350条の2以下)、特に不起訴合意や求刑合意にちかいもの)があったとして、P1には、虚偽供述の動機があることを強く主張。 
 
<原審>
現金供与を認めたP1の公判証言の信用性を否定⇒現金授受の事実を認めるには合理的な疑いが残る⇒被告人は無罪。
 
<検察主張>
事実誤認の主張
㋐P1証言を離れ、現金授受に関連する状況証拠(関節証拠)のみによっても現金授受の存在が認められる。
㋑P1証言は、それらの情況証拠に整合し、かつ合理的に説明する内容であり、供述過程からも虚偽であるとは考えられず、信用性に疑いを容れる余地はない。 
 
<判断>
●㋐について:
実績のないP1の事業が被告人の働きかけによって、短期間で市の受け入れるところとなったように見えるが、それのみでは、現金の授受を推認することはできない。

●㋑について 
P1の平成25年4月2日に10万円(第1授受)、同月25日に20万円(第2授受)を被告人に供与したとの証言の信用性を肯定。

①供述が具体的、詳細で、弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず、
②供述内容に不合理な点がない。
③以下の事由

◎情況証拠との整合性
情況証拠だけでは現金授受の存在を認めるに足りないとしても、その情況証拠によって直接証拠であるP1証言が支えられ、これにより現金授受の存在が認定できるかどうかは、別途検討する必要がある。

①授受の資金の流れがP1証言と合致
②各現金供与の動機、経緯に関するP1証言が、美濃加茂市における浄水プラント設置の動きや被告人の市長選立候補をめぐる事実経過と整合的
③被告人の市長選挙に協力する(裏選対活動)ために美濃加茂市内に宿泊したP3の宿泊代金を、事前の合意に基づきP1が負担しており、被告人のための費用をP1が負担するという関係が形成されていたといえる、
④P1が、第二授受があったとされる前日、知人のP4に対し、市長選当選が確実な被告人に恩を売っておきたいから50万円貸してくれと頼み、また、別の知人P12に対しても、P1が逮捕される5か月以上前に、被告人に30万くらい渡したと述べていた

これらの事情がP1証言の信用性を高める。

◎供述経過 
P1証言の信用性は、その内容からすれば、P1が記憶通り真実を述べているのか、それとも意図的に虚偽を述べている疑いがあるのかという問題。
①原審で取調べ済みのP1の捜査段階の供述調書
②控訴審で取り調べたP1の取調べを担当した警察官の証言
③同警察官作成の取調べメモ等
に基づきP1の供述経過を詳細に検討
P1の供述は、その時々における自己の記憶に従ってなされたものであり、供述経過を理由にP1証言の信用性が否定されることはない。

◎原判決の証拠評価について 
原判決:
P1は捜査当時既に融資詐欺で起訴され、さらに別の融資詐欺での追起訴も予想される状況にあり、なるべく軽い処分を受けるために捜査機関の関心を他の重大事件に向けて融資詐欺の捜査の進展を止めたいなどという、虚偽供述の動機があったと指摘。
vs.
①P1が原判決指摘のような考えを持っていた可能性は否定できないと指摘しつつも、仮にP1が虚偽供述をしていたとすると、P1は実際に犯していない贈賄罪も併せて処罰を受けるおそれがある一方、融資詐欺の捜査等が止められる保証はなく、これは極めて危険な賭け
②捜査機関の関心を他の重大事件に向けるためには第二授受だけ話しておけば十分であるのに、わざわざ第一授受の件を付け足した理由の説明が付かない

P1証言の信用性を否定する理由にならない(本判決)。
 
<解説>
●控訴審判決が第一審判決を事実誤認で破棄するには、論理則、経験則に照らして、不合理であることを具体的に示す必要がある。 
 
●本判決:
P1証言は、自分の記憶通りの供述なのか、後から全くの虚偽の事実を作り上げた疑いがあるのかという視点から検討。

原判決:
そのような明確な視点は読み取れず、
供述内容については、一般的な信用性判断の枠組みで評価し、それ以外の事情として、虚偽供述の動機を検討。 

本判決:
取調官とのやりとりの中で分かっていたと思われる事項については、仮に客観的事実と整合していても、虚偽性を排除できないことを認める一方で、
後から作り上げることができない事実については、虚偽性を排除しうるものと位置付け。

P1が被告人に渡す金と明示して、借金した相手のP4や、
被告人が逮捕されるよりも前に、被告人に金を渡したことを話した相手のP12の供述を重視。


P1が本件について供述を始めるよりも前に、P4はその点を既に捜査機関に話していた
⇒P1証言は、秘密の暴露ではない。
but
P4の供述は、そのことを最初に話したものとして、信用性が高まる

P1自身が本件について供述を始めるよりも前に、P1が収賄罪となる可能性もあることを友人であるP4が供述するについては、虚偽である可能性は格段に低い。

本判決は、原判決が、そのようなP1証言の虚偽性を排除する可能性の高い証拠を取調べながら、そのような観点からの検討を怠った結果、P1証言の信用性判断を誤ったものと評価(=原判決が、論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示した)

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2018年7月 6日 (金)

大学教授に対する懲戒解雇が無効とされた事案

東京地裁H29.9.14      
 
<事案>
学校法人である被告に雇用された大学教授である原告が、被告から懲戒解雇
懲戒解雇が無効であるという仮処分確定後に予備的に普通解雇

これらの解雇が無効であると主張して、
被告に対し、地位確認、 未払賃金及び賞与の各支払を求めた。
懲戒解雇の対象となった行為:
①原告が被告から研究目的で貸与され、原告の研究室に置かれていたパソコンの中に、原告が配偶者以外の女生との性交の場面を自ら撮影した動画を保存。
②本件動画を入れた外付けハードディスクを学内外に持ち歩いて研究室に置かれていたパソコンにコピーしたことが、被告のコンピュータ利用規則及び就業規則に違反。

懲戒解雇を無効とする仮処分事件の確定後に被告が行った予備的な普通解雇の対象となった事由:
前記①②に加え、
③懲戒解雇の2年以上前に戒告処分を受けた上で学部長を解任され、商学部から講義を持たない教育研究推進機構に異動される原因となった同僚及び職員に対する恫喝的な言動
④原告が教育研究j推進機構への異動後、約2年半にわたり大学に出勤せず、その間の業績が低下している
⑤原告が被告に届出をせずに副業をしていた
 
<解説>
予備的解雇については、主位的解雇の意思表示が撤回され又は裁判によりその無効が確定されなくても許される(最高裁H8.9.26)。

使用者の設備の目的外使用については、
私立専門学校の教員が学校のパソコン及びメールアドレスからいわゆる出会い系サイトに登録し、大量のやりとりを行った事案について、
学校のメールアドレスであることを推知し得るメールアドレスを用いて露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し、同メールの内容を第三者が閲覧可能な状態においたことは学校の品位体面、名誉信用を傷付けるもの
私用メールの送信の労力を職務に宛てればより一層の効果が得られた
懲戒解雇が有効(福岡高裁)。

風紀紊乱について、
独身の女性事務員が配偶者のいる男性社員と恋愛関係になり、取引先を含めた噂となり男性社員の妻からも会社に苦情が寄せられるなどした事案:
懲戒事由には該当するものの会社の企業運営に具体的な影響を与えたものとはいえない懲戒解雇無効(旭川地裁)
 
<規定>
労働契約法 第一五条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法 第一六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
 
<判断>   
●懲戒解雇について 
本件動画を外付けハードディスクに入れて持ち歩き研究室内のパソコンにコピーをして保存した行為が懲戒事由に該当する。
but
研究室において本件動画を作成したものではなく、自宅で作成したデータを誤って研究室内のパソコンにコピーしてしまったという事実関係を前提に、
本件動画が外部に流出したことはなく実際に被告の社会的名誉及び信用が侵害されたものではない
②2度目の懲戒処分ではあるが以前の戒告処分の事由となった行為とは種類が異なる
本件動画のデータの削除は容易

懲戒解雇は重きに失するものとして相当性を欠く
懲戒権を濫用したものとして無効
 
●予備的は普通解雇 
①原告が過去に同僚教員等に不適切な言動を取ったことは認定しつつも、教育研究推進機構へ異動としなった後は同僚教員や教職員との接触がほとんどない
②研究室に出勤しなかったことについても被告がこれを認容している面があった
③研究業績の低下についても就業規則上の直近5年間に研究業績のない選任教員に対する指導がなされるほどではなかった
無届事業についても別個の懲戒処分の対象となるとはしながら、直ちに解雇事由には該当しない
無効(労契法16条)
 
●賞与 
就業規則にその支払に関する規定が置かれている場合であっても、通常は使用者が会社の業績等に基づき算定基準を決定し又は労使で金額を合意したときに初めて具体的な権利として発生
本件においては、賞与の算定基準について夏季と冬季で基本給に同一の支給係数を乗じて賞与を支給するという労使慣行
支給係数が明らかな限度で請求が認容

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2018年7月 5日 (木)

郵便局員の警察官への情報提供と通信の秘密等の侵害(肯定)

大阪地裁H29.11.29      
 
<事案>   
 
<判断>   
Y(A郵便局の局長)が、警察官の求めに応じて、
差押許可状の提示前に郵便局の保管状況や差出人、発信局等の情報を警察官に提供したこと、
差押許可状の対象外である郵便物を交付したこと
を認定。 
 
●郵便物の情報提供について 
通信の秘密及び信書の秘密の保護範囲が、通信の内容のみならず通信の存在自体にも及び、信書の差出人及び受取人の氏名や住所等も保障される

公権力がそれらの情報を取得するには強制捜査によらなければならず、警察官が強制捜査によらずにYに当該情報の提供を求めたことは国賠法上違法
郵便の業務に従事する者が、強制捜査によらない情報提供の求めに応じることも、守秘義務の存在に鑑みれば、不法行為に当たる

Yが、令状の呈示前に、警察官に対し、郵便物の存在、差出人及び発信局等の情報を提供したことは通信の秘密を侵害。

郵便法50条5項に基づく損害賠償責任の免責、同法56条に基づく除斥期間の経過等の主張:

①同法50条は郵便局の役務を安価であまねく公平に提供するという趣旨に基づく規定と解される
②捜査機関に郵便物の情報を提供することは郵便の役務を提供する過程に通常含まれるものではない
⇒本件のような場合まで同条で免責されるとは解されない。
同法56条の適用範囲も同様に限定される。
 
●郵便物の差押えについて 
郵便物の捜索は刑訴法上許容されていないと解される。
but
①捜査機関が捜索を行うことなく郵便物を差し押さえることは現実的でない
②郵便の業務に従事する者が守秘義務を負う

捜査機関は、郵便の業務に従事する者の協力を得て、郵便物を差し押さえることが予定されている。
郵便の業務に従事する者は、みだりに郵便物の通信の秘密等が侵害されることのないよう、令状の記載に照らして押収されるべき物を選別する義務を負う。

が、警察官に対し、令状に記載された郵便物と発信局が異なり、差押目的物に該当しない郵便物を提供し、差押えさせたことは違法

警察官については、令状記載の差押目的物と異なる郵便物を差し押さえたことが違法
 
<解説>
通信の秘密及び信書の秘密の保護範囲が、通信の内容のみならず通信の存在に関する事柄まで及ぶ。
(通説・裁判例) 

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2018年7月 3日 (火)

親権者の再婚と非親権者が負うべき生活保持義務の内容

福岡高裁H29.9.20      
 
<事案>
離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が子との間で養子縁組をした場合に、非親権者である実親が子に対して負うべき生活保持義務の具体的内容が問題となった事案。 

X(元夫・医師)とY(元妻)は、元夫婦であるが、両者間の子らの親権者をYと定めるとともに、XがYに養育費として子1人当たり月額10万円を支払うことなどを合意した訴訟上の和解合意に基づき協議離婚。
その後Yが再婚、その再婚相手と子らが養子縁組。
Xは、前記養子縁組の事実を知り、前記和解において合意された子らの養育費の免除ないし相当額の減額を求め、調停申立て⇒調停不成立。
 
<原審>
養親らの養子に対する扶養義務は、生活保持義務
親権者とならなかった実親の扶養義務は、養親らが負う生活保持義務に後れる特殊な生活保持義務に過ぎないのであり、その意味では生活扶助義務に近く、

養親らの資力が十分でなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときに、養子は親権者とならなかった実親に対して扶養請求することができる


子らの生活保護制度による最低生活費を算定し、養親らの基礎収入額と比較するなどして、Xの支払うべき養育費を、子らの生活費の不足分である1任当たり月額7734円に変更。
 
<判断>
親権者である実親が再婚し、再婚相手が子らと養子縁組したことは、養育費をみ直すべき事情に該当し、
養親らだけでは子らについて十分に扶養義務を履行することができないときは、非親権者である実親は、その不足分を補う養育費を支払う義務を負う。

その額は、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけではなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべき。

まずは、生活保護制度の保護の基準に照らし、養親らにおいて未成年者に対し十分に扶養の義務を履行することができないか検討。

養親の扶養義務の根拠の1つが養子縁組の当事者の意思にある

養親らだけでは十分に子らへの扶養の義務を履行することができないかを判断するにあたっては、非親権者である実親について合理的に推認される意思をも参酌すべき。

生活保護制度の保護の基準では、学校外活動費は教育扶助の対象となっていないが、相手方の学歴、、職業、収入等に照らし、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる。

その他、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、諸般の事情を考慮。

相手方の支払うべき養育費は、未成年者1人当たり月額3万円とするのが相当。
Yの育児休業期間中は子1人当たり4万円とするのが相当。
 
<解説> 
●離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が、子との間で養子縁組

養子は、
①養親の嫡出子としての身分を取得するとともに
②非親権者である実親と養子との法律関係(実親子関係)も存続。

親権者の再婚相手は子の養親としての扶養義務を負い、
非親権者は、実親としての扶養義務を負う。 

親権者である一方の実親が再婚し、その再婚相手と子が養子縁組をそたことは、扶養に関する協議又は審判の変更又は取消をする要件である「事情に変更を生じたとき」(民法880条)に該当。

養親と実親の扶養の程度は異なる。
養子縁組における合意ないし当事者の意思(子の養育についての扶養を含めて全面的に引き受けるという合意ないし意思)、又は、
未成年者養子制度の本質等


第一次的な扶養義務を負うのは養親であり、
養親らの資力の点から養親において十分に扶養の義務を履行できない場合に限って、実親が二次的な扶養義務を負う

 
●何をもって、養親らにおいて十分に扶養の義務を履行できないとするか? 

A(原審):養親らの資力が十分ではなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときであって、子の最低生活費にも不足する場合

B:特段の事情がない限り、養育費支払義務を免れる

C:個別具体的に判断

本決定は、Cの見解を採用し、
生活保護義務を基本としてながらも、相手方の学歴、職業、収入、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、
諸般の事情を考慮して、実親の負う養育費の支払額を定めたもの。

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2018年7月 2日 (月)

非開示決定は違法、損害賠償請求(国賠請求)認容

大阪高裁H29.9.1      
 
<事案>
Xが、大阪市情報公開条例に基づき、大阪市教育委員会に対し、ピースおおさか展示リニューアル監修委員会における配布資料等の公開請求⇒本件文書に記録されている情報が本件条例7条2号、4号、5号所定の非公開情報に該当することを理由とする非公開決定⇒Y(大阪市)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた。 
 
<判断>
①本件文書は、リニューアル後に予定された公開展示の内容であり、それまでに展示リニューアル基本設計、同実施設計が公表
それ自体秘密性を有するものとはいえないし、本件条例7条所定の非公開情報に該当しない
②本件文書を公開することにより、本件センター職員が、ピースおおさかのリニューアルオープンに向けて必要な準備を行うことにつきある程度の影響が出ることは否定できないとしても、リニューアルオープンが困難となるおそれがあったとは認めがたい
③本件決定が本件センターの裁量の範囲内であって正当であるとは認められない
④本件決定には合理的根拠があった旨のYの主張は採用できず、担当公務員に過失があったことも明らか

Yの国賠責任を肯定し、5万円の支払を求める限度で、Xの請求を認容。 
 
<解説>
本件条例7条では「公にすることにより、・・・正当な利益を害するおそれがあるもの」が非公開情報とされているところ、
「利益を害するおそれ」の有無の判断に当たっては、

文書を公開することによって生じる支障、弊害のみでなく、
文書を非公開とすることによって生ずるおそれのある弊害や、公開することによって当該事務の公正かつ適切な執行に資するときにはそのような有用性、公益性をも総合考慮して決せられるべきであるとされ(最判解説)

正当な利益を害するおそれの有無ないし程度については、
行政機関の保有する情報につき原則開示との立場を採る以上、
具体的かつ客観的な利益侵害発生の可能性が要求されることになるとされている。

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2018年7月 1日 (日)

損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極)

最高裁H29.9.8      
 
<事案>
公害健康被害の補償等に関する法律(「公健法」)4条2項により水俣病である旨の認定を受けたXが、同法25条1項により傷害補償費の支給を請求⇒処分行政庁である熊本県知事から、Xの健康被害に係る損害は、原告企業との間で行われた損害賠償請求訴訟の結果、原因企業によって全て填補されている⇒同法13条1項に基づき、障害補償費を支給しない旨の決定⇒熊本県を相手に、その取消しと支給決定の義務付けを求めた。 
 
<規定>
公健法 第一三条(補償給付の免責等)
補償給付を受けることができる者に対し、同一の事由について、損害のてん補がされた場合(次条第二項に規定する場合に該当する場合を除く。)においては、都道府県知事は、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れる。
 
<原審>
Xの損害は前訴確定判決に基づく義務の履行により全て填補されている。
but
①公健法13条1項は、損害が填補された場合、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れると規定するにとどまっている。
②同法に基づく補償給付の制度は、純粋な損害填補以外の社会保障的な要素を含むと解されること等
⇒前訴確定判決に基づく義務を原因企業が履行したとしても、熊本県知事が当然に当該補償給付の支給義務を全て免れると解することはできない。

第1審判決のうちXの取消請求を棄却した部分を取り消し、これを認容。
 
<解説>
①立法の経緯等⇒公健法が、損害の填補は民事上解決されるべき問題であることを前提としつつ、それでは訴訟が長期間に及んでしまうことなどの主にが被害者に生じていたことなどの当時の問題を社会的に解決し、早期の救済を図る制度として設けられた
②公健法は、その条文上も、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁の影響による健康被害に係る損害を填補するための補償等を行うことにより、健康被害に係る被害者等の迅速かつ公正な保護及び健康の被害の確保を図ることを目的とし(1条)、同法4条2項の認定に係る被認定者及び認定死亡者に関する補償給付の支給に要する費用に充てるためのものの全部については、特定施設等設置者が納付する特定賦課金を充て(49条2項、62条等)、当該被認定者等が損害の填補を受けた場合における補償給付の免責を認めている(13条)等

同法4条2項の認定を受けた者に対する補償給付が、民事上の損害のみを補償の対象としている。
 
<判断>
公健法4条2項の認定を受けた者に対する障害補償費は、
これらの者の健康被害に係る損害の迅速な填補という趣旨を実現するため、原因者が本来すべき損害賠償義務の履行に代わるものとして支給されるものであり、同法13条1項の規定もこのことを前提とするもの
。 
 
<解説>
X:前訴確定判決で認容された800万円はXの精神的損害に対する慰謝料のみであり、これには逸失利益等の経済的損害は含まれていないと主張。
vs.
前訴においてXらは、損害額は弁護士費用を除き生存者につき3000万円であると主張し、損害の内容として逸失利益、慰謝料及び介護費を挙げたが、各損害項目につき具体的な損害額の主張をしなかった

その請求は、被害者が受けた肉体的・経済的・生活的・家族的・社会的・環境的なものすべての損害を包括的に請求しようとする意図をもった損害賠償請求の方式である、いわゆる包括請求

前記確定判決は、Xの損害の全てについての賠償を原因企業に命じたもの

判例時報2366

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集団懲戒事案での損害評価についての裁判例

橋下弁護士のテレビでの発言で、600件以上の懲戒請求を受けた弁護士が、橋下弁護士に損害賠償請求を行った事案。

◆広島高裁(平成21年7月2日)

不法行為を認めた上で、懲戒請求を受けた弁護士が被った損害について

「(1) 本件各発言が被控訴人らに対する名誉毀損にあたるとはいえないこと,発言ウからオを持ってした懲戒請求の呼びかけが不法行為を構成することは上記のとおりである。
(2) 上記呼びかけにより,被控訴人らは多数の懲戒請求を受け,そのため,これに対応せざるを得なかったことは容易に推認できるから,その対応にかかる時間的,肉体的,精神的負担をもって損害とすべきことになる。
 そこで検討すると,被控訴人らはそれぞれ約600件の懲戒請求を受けたが,その相当部分は,インターネットで流布された懲戒事由まで記載された書式に懲戒請求人の住所氏名を記入したものであり,数種類の書式の内容も大同小異である上,被控訴人らの属する広島弁護士会においては,綱紀委員会において同種の案件としてまとめて審理をし,懲戒委員会への付議にまでは至らなかったことが認められ(甲2,20の1ないし13,弁論の全趣旨),これらによれば,被控訴人らが,上記懲戒請求に対する調査や反論等に相応の心身両面の負担を要したであろうことは想定できるが,それが本来の弁護士業務に多大な影響を及ぼすほどのものであったとは認めるに足りない。一方,弁護士として,懲戒請求を受けること自体基本的には不名誉なことである上,本件刑事事件の弁護に精力的に取り組んでいた被控訴人らにとって,理由のない一斉懲戒請求が相当な精神的負担をもたらしたであろうことは容易に推認されるところである(甲13,弁論の全趣旨)。
 以上のほか,本件に顕れた一切の事情を総合すると,被控訴人らの受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては一人あたり80万円と認めるのが相当である。」

◆上記事案の最高裁の判断(平成23年7月15日)

橋下弁護士のテレビでの発言の不法行為を否定。

「(3) しかしながら,本件呼び掛け行為は,懲戒請求そのものではなく,視聴者による懲戒請求を勧奨するものであって,前記認定事実によれば娯楽性の高いテレビのトーク番組における出演者同士のやり取りの中でされた表現行為の一環といえる。その趣旨とするところも,報道されている本件弁護活動の内容は問題であるという自己の考えや懲戒請求は広く何人にも認められるとされていること(弁護士法58条1項)を踏まえて,本件番組の視聴者においても同様に本件弁護活動が許せないと思うのであれば,懲戒請求をしてもらいたいとして,視聴者自身の判断に基づく行動を促すものである。その態様も,視聴者の主体的な判断を妨げて懲戒請求をさせ,強引に懲戒処分を勝ち取るという運動を唱導するようなものとはいえない。他方,第1審原告らは,社会の耳目を集める本件刑事事件の弁護人であって,その弁護活動が,重要性を有することからすると,社会的な注目を浴び,その当否につき国民による様々な批判を受けることはやむを得ないものといえる。そして,第1審原告らについてそれぞれ600件を超える多数の懲戒請求がされたについては,多くの視聴者等が第1審被告の発言に共感したことや,第1審被告の関与なくしてインターネット上のウェブサイトに掲載された本件書式を使用して容易に懲戒請求をすることができたことが大きく寄与しているとみることができる。のみならず,本件懲戒請求は,本件書式にあらかじめ記載されたほぼ同一の事実を懲戒事由とするもので,広島弁護士会綱紀委員会による事案の調査も一括して行われたというのであって,第1審原告らも,これに一括して反論をすることが可能であったことや,本件懲戒請求については,同弁護士会懲戒委員会における事案の審査は行われなかったことからすると,本件懲戒請求がされたことにより,第1審原告らに反論準備等のために一定の負担が生じたことは否定することができないとしても,その弁護士業務に多大な支障が生じたとまでいうことはできない。
(4)これまで説示したところによれば,第1審被告の本件呼び掛け行為は,弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとして,弁護士会における自律的処理の対象として検討されるのは格別,その態様,発言の趣旨,第1審原告らの弁護人としての社会的立場,本件呼び掛け行為により負うこととなった第1審原告らの負担の程度等を総合考慮すると,本件呼び掛け行為により第1審原告らの被った精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるとまではいい難く,これを不法行為法上違法なものであるということはできない。

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