強制採尿令状執行を確保するための留め置きが違法とされた事例
大阪地裁H29.3.24
<事案>
<判断・解説>
●職務質問開始から強制採尿令状請求準備着手までの留め置き:
その必要性と手段の相当性を肯定し、適法。
プライバシー侵害のおそれのある救急車への同乗と搬送後の病院内の動向監視:
①既に令状の請求段階に入っている⇒令状執行のために被告人の動向を監視しておく必要性が高かった
②被告人が弁護士と連絡を取るなどの行動の自由が確保されていた
⇒動向監視の手段の相当性を肯定して適法。
有形力を行使したK5警察官の乗車阻止の行為:
令状執行を確保するために留め置きの必要性がある場合に「一定程度の有形力を行使することも、強制手段にわたらない限り、許容される余地」があるとしつつも、K5警察官の行為は、任意捜査として許容される限度を超えた逮捕行為という他ない⇒違法
K5警察官が承諾なしに車両に乗り込んだ行為も違法。
◎
職務質問から発展した覚せい剤事犯の任意捜査のための留め置き:
東京高裁H21.7.1:
令状請求の準備着手の前後で「純粋に任意捜査の段階」と「強制捜査への移行段階」とに区分。
後者においては、嫌疑が濃厚であることから被疑者の所在確保の必要性が高い⇒前者に比して「相当程度強くその場に止まるよう被疑者に求めることも許される」
(二分論)
その後の高裁判例には、
二分論にしたがって、強制手続への移行後には、相当程度の有形力の行使があっても留め置きを適法とするものがある一方、
二分論に準拠せずに、留め置き全体につき諸般の事情を総合的に考慮して留め置きを違法とするもの
もある。
本判決は、
プライバシー侵害に当たりうる警察官の救急車への同乗と病室内に滞留しての動向監視につき、令状請求準備着手後であることを理由に令状執行に向けた被告人の留め置きを適法としている。
~二分論に準拠。
but
強制手続への移行後、とりわけ最終段階の令状発付後であったとしても、現実の令状呈示にいたるまでは任意捜査の段階⇒強制手段に至らない限度での有形力の行使が認められるのに止まり(最高裁昭和51.3.16)、二分論の下でも、強制手段である逮捕行為に至った場合には違法となる旨判示。
●K5警察官が「令状発付の有無という重要事項につき、未確認のままに確定的な回答をするという姿勢からは、同警察官において、令状主義の精神を軽視する姿勢が顕著であった」⇒前記違法行為と併せてK5警察官の留め置きには「令状主義の精神を没却するような重大な違法がある」と判断。
⇒尿鑑定書等の証拠能力を否定。
◎留め置きを違法と判断した後の尿鑑定書等の証拠能力の判断:
二分論以降の高裁判例には、違法の重大性を否定して証拠能力を肯定したものが多い。
but
違法の重大性を肯定して証拠能力を否定したものもある。
証拠能力を否定した下級審確定判例の多くは、令状請求の際の疎明資料に捜査官が意図的に虚偽記載をしたと認定し、裁判官を欺罔する捜査官の主観面を考慮に入れた結果、「令状主義の精神を没却する重大ない違法がある」と判断(最高裁H15.2.14)。
◎本判決は、裁判官に対する欺罔行為ではなく、弁護士からの問いに対しK5警察官が主観的には認識していない令状発付の事実を既成事実のように告知したことを重視。
裁判官の令状審査を歪めたという関係にはなく、客観的には令状が発付されていた⇒必ずしも虚偽とはいえない前記告知の事実から直ちに「令状主義の精神を軽視する姿勢」を帰結するには異論もあり得る。
むしろ、違法の重大性を基礎付けた根拠は、K5警察官が任意捜査の段階であるとの弁護士の指摘を無視して逮捕行為に及んだ点にある。
判例時報2364
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