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2018年6月30日 (土)

職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか

最高裁H29.9.15      
 
<事案>
大分県教育委員会の教員採用試験において不正に関与した者に対する求償権をY(知事)が行使しないことが違法に財産の管理を怠るもの
⇒大分県の住民であるXが、Yを相手に、
①本件不正に関与したとXらが主張する者に対する求償権行使を怠る事実の違法確認を求めるとともに、
②本件不正に関与した者らに対する求償権に基づく金員の支払を請求することを求める
住民訴訟。
 
<判断> 
①本件不正の態様が悪質であり、その結果も極めて重大
Aに対する本件返納命令や本件不正に関与したその他の職員に対する退職手当の不支給は正当であり、県が本件不正に関与した者に対して求償すべき金額から本件返納額を当然には控除することができない
原審が指摘する事実は抽象的なものであり、それらが直ちに、過失相殺又は信義則により、県に夜求償権の行使が制限されるということはできない

県知事が前記求償権のうち本件返納額に相当する部分を行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断には違法がある

原判決のうちXらのA~Dに関する4号請求並びにX2及びX4のE及びFに関する3号請求及び4号請求に関する部分は破棄を免れない。 

県の教員採用試験において不正が行われるに至った経緯や、本件不正に対する県教委の責任の有無及び程度、本件不正に関わった職員の職責、関与の態様、本件不正発覚後の状況等に照らし、
県による求償権行使が制限されるべきであるといえるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、前記部分につき本件を原審に差し戻すこととした。
 
<解説> 
●地方公共団体が有する債権の管理については、地自法240条、同法施行令171条ないし171条の7の適用がある。
 
判例(最高裁H16.4.23)は、
前記各規定によれば、地方公共団体が客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない
債権の不行使が財産の管理を違法に怠る事実に当たるか否かが住民訴訟で争われた場合には、その不行使を適法とする十分に合理的な理由があるといえる場合には、債権行使を怠る事実が違法であるとはいえないと判断される場合もあり得る
but
前記最高裁判決の趣旨
債権の不行使が怠る事実に当たらないといえるのは例外的な場合であると解される⇒その不行使を違法と判断するためには、その合理性について、十分に具体的な理由が必要となる。
 
●非違行為等を行った職員らに対する求償権ないし損害賠償請求権の行使に当たって、信義則上の制限の可否等が問題となった下級審の裁判例

①市が違法な給水拒否により損害を与えた事案
市長等の給与に関する条例の特例を定める条例により市長等の給料について減額措置が講じられた
but
同措置は懲戒処分としての性格を有するものにすぎない⇒市長への求償権の範囲に影響を与えるものではない

②町の税務課長が不実の宅地課税証明書を発行⇒宅地と信じて土地を購入した買主に損害を生ぜしめた事案:
職員に対する指導、教育が足りず、対応方針が徹底していなかったことも一因⇒過失相殺の法理を類推して、損害賠償額の8割の限度で求償を認めた。

③市立小学校の教員が生徒に体罰を加えて示談金340万円を支払った事案:
求償の相手方が負担すべき額を算出した上、相手方は前記示談金とは別に被害者に直接102万円を支払ったため、求償すべき額は23万円にとどまる。
このような少額の金額の求償権を行使せずに訴訟を控えることは、求償権行使について怠る事実があるとはいえない。

④佐賀県商工共済組合を監督している商工課長が破たん状態にある同組合の粉飾を放置し、県知事が業務改善命令を出さずに、債務超過に陥り、組合員らに合計4億9148万円を支払ったため県知事に求償を求めた事案:
裁判所の求釈明にかかわらず求償権の範囲を制限すべき理由の主張がされなかった⇒請求額全額の求償を認めた。

⑤④の控訴審:
①県が国に対して求償権を行使していない、②監督は基本的に課長の専決であった、③佐賀県の職員が全体として問題の解決に積極的であったとはいえない、④県知事に不当な目的や動機があったとは見られない、⑤県知事が関与しない点で損害の拡大があったこと等
⇒求償権の範囲ないし額につき、信義則上、賠償額の10分の1に相当する額に制限すべき。

⑥国立市長が、建築基準法に違反しない適法建築物の建築・販売の阻止を目的として、少なくとも重大な過失により、自ら主体的かつ積極的に一連の違法行為をした事案:
当該違法行為における市長の立場、目的、行動内容及びこれによる市の経済的不利益等を踏まえ、市が市長に対して求償権の全額を行使しても、信義則に反するとはいえない。

⑦刑務官が消火用ホースによる放水で受刑者を死亡させた⇒全額の求償が命じられた。

⑧受刑者3名に対して違法な皮手錠の施用、保護房収容等で当該受刑者らのうち1名死亡、その余の者に腸間膜損傷の負傷又は外傷後ストレス障害等の後遺障害⇒全額の求償

⑨納税職員が市民税の徴収を懈怠して時効消滅させた
⇒納税職員の指揮監督権者である市長に対し、指揮監督上の重大な過失あり⇒請求認容。

判例時報2366

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