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2018年6月 8日 (金)

商標権侵害について過失の推定が覆され、不法行為が否定された事例

大阪地裁H29.4.10      
 
<事案>
登録商標「観光甲子園」の商標権者であるXが、その名称を使用して、
高校生が参加する「観光プランコンテスト」を共催校として第6回まで開催。

Yが共催校を承継したとして、Xに無断で、ホームページにおいて同登録商標を使用して同商標権を侵害するとともに、後継の大会として第7回を宣伝、開催することにより、本件商標権を価値を毀損
⇒不法行為を構成するとして損害賠償請求。
 
<争点>
不法行為の成否について
① 本件商標を使用して後継の大会として同コンテストを宣伝、開催することの許諾の有無
②Yの行為の違法性又は過失の有無
③権利の濫用等
④所有権に基づく優勝旗等の返還請求について、優勝旗等の譲渡の有無
 
<判断>
●争点① 
①本件事業は実質的にはXが主体となって行ってきたものであるといえる⇒共催校の変更を含む本件事業の承継は、Yの主張するところの大会組織委員会ではなく、Xの理事会の決議事項であると解すべき。
②X・Y間の本件事業の承継に関する具体的な協議は、X大学教授P1、Y大学教授P2及び双方の事務職員の間で行われたにとどまり、YがX代表者やXの理事に対して、本件事業を承継するとの意向を伝えたとは認められない
⇒Xの許諾は存在しない。

①Yは本件商標を無断でホームページ上において使用した⇒Yの行為者商標権侵害を構成
②後継の大会として第7回を宣伝、開催したことについても、少なくとも原告の許諾があったとは認められない。 
 
●争点② 
商標権侵害について過失が推定されることとされた趣旨は、商標権の内容については、商標公報、商標登録原簿等によって公示されており、何人もその存在及び内容について調査を行うことが可能であること等の事情を考慮したもの

侵害行為をした者において、商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合には、過失がないと認めるのが相当。

①本件事業の中心人物であるP1がX側担当者であるとYが信じて然るべき状況であった
②Xの理事や事務局担当者が出席する場でYが共催校であることが承認されていることなどの「種々の行動の積み重ね」
⇒Yにおいて、Xが組織としてYを共催校とすrことを了解していると考え、Yが第7回大会を行うために必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じることは極めて自然なこと。
③第7回大会の引き継ぎ準備の中で、本件商標のロゴのデータが事務職員P1を通じてYに引き渡されたことについて、登録商標の使用を許諾しない相手方に対して当該商標のロゴにデータを送付するとは考え難い


本件商標権の移転に関するXの理事会決議に先行して本件商標を使用することをXからあらかじめ許諾されており、必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じ、また、そう信実につき正当な理由があった。
Yによる本件商標の使用には過失がなかったものと認めるのが相当。
 
●後継の大会として第7回大会を宣伝、開催した行為:
XがYに本件商標権の買取りを求めた時点で、それまで過失なく第7回大会の準備を進めていたYにとって、従前の大会との連続性を否定する行動をとることは極めて困難

違法性又は過失を欠くとして、不法行為の成立を否定

Yが保管している優勝旗等のX所有権に基づく返還請求に限り認容。 
 
<規定> 
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する
 
<解説>
過失の推定により立証責任の転換が図られた趣旨:
①公報等による公示がなされている
②業としての実施のみが権利侵害とされるため事業者に対して調査義務を課しても酷ではない 
公報未発行の期間の実施・使用については①の根拠を欠く⇒過失は推定されないという裁判例が展開

過失の推定は、理論上は、
権利の存在を知らなかったことにつき相当の理由があること
権利範囲に属することを知らなかったことにつき相当の理由があること
③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつきそうとの理由があったこと
につき立証すれば覆る。
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実務上は推定が覆った例はほとんどなく、「事実上みなし規定に近い運用がなされている」(中山)

学説:
推定が覆るべき例として、
タクシー会社による特許権を侵害する自動車の運行や
小売業者が侵害品を販売する場合、
無数の特許権の存する機器類のユーザーによる使用
のように権利調査を履行することが事実上不可能な場合にまで推定規定を働かせることには問題。
⇒具体的事例に応じ、過失推定の覆滅を認めるべき。(中山)

最高裁H15.2.27:
輸入業者が使用許諾契約の存在、契約条項の内容、契約条項違反の事実の不存在等、公報に開示のないすべての事項についても調査を尽くさなければ本条の過失の推定は覆ることはない

本件:
前記①~③の3つの類型のうち、「③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつき相当の理由があったこと」についての立証に成功した事例。

裁判所が一般論として、
商標法39条(同条が準用する特許法103条)の根拠として「商標公報等による公示」を挙げた上で、
商標公報に開示されていない商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合に推定が覆るとの判示

同条の過失には商標権者による使用許諾の存在についての調査義務が含まれると解しつつも、これを商標公報及び商標原簿に開示された事実を区別し、異なる程度の調査義務を要求したもの。

判例時報2364

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