大学院生に対する退学処分の事例
名古屋高裁H29.9.29
<事案>
Xは、Y大学が設置する大学院医学研究科修士課程に在籍していた学生。
同大学学長は、Yの本件大学院に勤務していた派遣職員について同和差別を内容とする発言をするなどしてその名誉を毀損した行為や、派遣職員の派遣元会社に電話をしてその業務を妨害した行為等が、懲戒処分を定めた学則所定の事由に当たる⇒退学処分。
⇒
Xが、
本件退学処分が根拠のない事由に基づいてされたなどの点において違法かつ無効なものである旨主張し、
Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認と、
違法な本件退学処分により精神的苦痛を受けたなどとし主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。
<原審>
本件退学処分は違法
⇒
Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認及び
Y大学に対して慰謝料等として55万円の支払を命じた。
<判断>
最高裁昭和29.7.30、最高裁H8.3.8を引用し、
①退学処分を行うかどうかの判断は、学長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、学長と同一の立場に立って当該処分をすべきものではなく、
学長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべき。
②退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則26条3項も4個の退学事由を限定的に定めており、本件大学院の学則の趣旨も同様であると解される
⇒
当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、
その要件の認定については他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要する。
原審:
Xが、派遣職員が部落出身者などと発言し、指導教授に対して派遣契約の解除をすることを求め、結果的に派遣職員を自宅待機にした行為は社会通念上許される限度を超えたもの
but
①当該派遣職員が本件同和差別発言があったことを認識していなかったこと
②派遣会社はXの「処分を求めておらず、指導教授は、派遣社員が自宅待機となったことで、Xに対する指導方針の変更は余儀なくされたが、研究室の運営が困難になったとまでは認められない
⇒
Xの行為により生じた結果が重大なものとはいえない。
控訴審:
①本件同和差別発言が社会通念上許される限度を超えたものであり、派遣社員の名誉を毀損するものと認定。
②Xが指導教授らの指導に対して、人格攻撃を含めた反発をし、他の教員から懲戒の対象になるなどとの警告を受けたにもかかわらず、指導に従わない態度を継続。
③Xのこれらの一連の言動は、社会的に許容された限度を超えるものであり、その結果、研究室の運営に重大な影響を及ぼすに至った等と認められる。
判例時報2365
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