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2018年6月15日 (金)

重婚的内縁配偶者と厚生年金保険法59条1項の「配偶者」

名古屋高裁H29.11.2      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく老齢年金の受給権者であった訴外Aが死亡⇒Aと内縁関係にあったXが処分行政庁に遺族厚生年金の支給を請求⇒遺族年金を支給しない決定⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
①Aと婚姻関係にあったB(補助参加人)との婚姻関係は実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない事実上の離婚状態にあったと認めるのが相当。
②AとXとの内縁関係は、Aの死亡当時、相当程度安定かつ固定化していた

厚年法59条1項所定の「配偶者」に当たると認めるのが相当。 
   
Bが控訴。
 
<判断>
原判決は正当。

B:長い間苦楽を共にしてきた夫婦であり、Aとの間に離婚話が出たことはない
vs.
AとBとは、平成12年以降完全に別居し、連絡も断絶状態
⇒その後の12年間は、苦楽を共にしてきた夫婦であるとはいえず、Aが死亡した時点では、事実上の離婚状態であった。

B:XがAの女道楽のうちの1人にすぎず、単に同棲関係が長時間続いただけであって、AとXとの間には婚姻の意思又は合意はない
vs.
AとXは、平成12年以降Xの自宅で同居し、
AとXの生活は、Aから支出された年金等で支えられており、
Aも第三者に被控訴人を内縁の妻と紹介


Xは、Aの女道楽の1人であり、Aとの同性関係が長期間続いただけであるとはいえない。

B:Bの生活がAの経済的援助によって維持されてきた
vs.
Bが受け取ったAの退職金は、AとBとの婚姻関係解消を目的とした清算金としての性質を有するものと見るのが相当であり、その後Aから定期的な金銭の交付があるわけではなかった
⇒Bの生活がAの経済的援助によって維持されていたとはいえない。

B:本件公正証書遺言によって、AがBの生活基盤を確保できるように配慮した
vs.
遺言において、不動産がXへの遺贈の対象から除外されたのは、XとBとの紛争を回避するのが目的であったと考えられる。

B:AがB方に電話を掛け、Bのことを常に心配していた
vs.
AがB方に電話を掛けたことをもって、AとBとが事実上の離婚状態にあったことを覆す事情とはいえない。

B:婚姻の意思すらない男女が同棲する場合に、容易に内縁関係を認めることは、法律婚制度に混乱を与えることになるし、Xに遺族厚生年金を支給することはXの年収が500万円を超えている以上、厚年法の制度目的に違背。
vs.
厚年法上、AとBの婚姻関係が事実上離婚状態にある以上、重婚的内縁関係にあるXを法的に保護しても、厚年法の制度目的に違背するものとはいえず、社会正義上許されないとは言えない。
 
<解説>
厚年法59条1項は、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者の「配偶者」と定めるが、
同法3条2項は、この法律において「配偶者」とは、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものと規定。 

法律上の配偶者と事実上婚姻関係と同様の事情にある者(いわゆる重婚的内縁関係にある者)とが競合する場合、いずれを遺族厚生年金の受給者と見るか?
「互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者」であるというべき(最高裁昭和58.4.14)であるが、
その場合、重婚的内縁関係にある者について生計維持の有無を判断するよりも、むしろ法律上の配偶者について「その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある」か否かを積極的に判断すべきものとされている。(最判解説)

判例時報2365

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