商標権者によって登録商標が付された真正商品であるスマートフォンのOSに改変⇒商標権侵害罪の成立。
千葉地裁H29.5.18
<事案>
米国アップルインコーポレーテッドが商標登録を受けているリンゴの図柄が付されたスマートフォン「iPhone」の内臓プログラムであるオペレーティングシステム(OS)に「脱獄」と呼ばれる改変を加えて販売販売した被告人の行為について、商標権侵害罪が認められるなどした事案
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
<解説>
●商標権は指定商品について登録商標を使用する権利を専有(商標法25条)
登録商標が付された指定商品を譲渡する行為は登録商標の使用に該当(同法2条3項2号)
⇒
いわゆる真正商品(商標権者が登録商標を付して販売した商品)を適法に入手した上で転売する行為であっても文理上は商標権侵害に該当。
vs.
商標権侵害の範囲が無制限に広がり、他者の営業活動を不当に制約。
⇒
文理上は登録商標の使用に該当する場合であっても、
商標の品質保証機能及び出所表示機能を害するとは認められないときには、
商標権侵害を否定する見解(商標機能論)
が学説上の支持
最高裁(最高裁H15.2.27)フレッドペリー事件:
我が国における登録商標と同一の商標が付された並行輸入品の輸入販売行為が商標権を侵害するかが争われた民事事件で、
当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保障する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、
商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、
商標権侵害としての実質的違法性が欠ける。
~
商標機能論を採用。
●刑事事件:
電機メーカーの商標が無断で付された電子部品をパチスロ機の製造業者が自社の製品に組み込んで販売する行為等が商標権侵害罪に問われ、
商標の付された電子部品が完成品の内部に組み込まれることにより、商標が保護に値しないもとなるかが争われた事案:
商標が付された電子部品が完成品に組み込まれた後であっても、当該商標は電子部品についての商品識別機能を保持していたものと認められる
⇒商標権侵害罪の成立を認めた原判決の判断を是認。
(最高裁H12.2.24)
~
商標の機能に着目して商標権侵害の成否を判断する判例の態度
本件は、真正商品に改変を加えた改造品を譲渡した事案。
商標権者によって登録商標が付された真正商品である家庭用ゲーム機の内臓プログラムに改変を加えて販売した行為について、
前掲フレッドペリー事件の考え方を援用しつつ、
内臓プログラムの改変の程度が商標の出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているか否かで商標権侵害の成否が決せられるとの判断
⇒商標権侵害罪の成立を肯定したもの(名古屋高裁H25.1.29)
<判断>
●商標権者によって登録商標が付された真正商品に改変を加えた改造品を販売する行為について、
①その品質が真正商品のそれと実質的に差異がなく、
②商標の出所表示を機能及び品質保証機能が害されない場合
には実質的違法性を欠き、商標権侵害罪は成立しない。
被告人が販売したiPhoneのハードウェアには一切改変は加えられておらず、真正商品との差異はソフトウェアであるiOSに本来であればインストールできないアプリケーションソフトをインストールして利用可能にする改変が加えられた点に尽きる。
but
iOSの改変はiPhoneの本質的部分の改変に当たり、商標権者が禁じているiOSの改変によってスマートフォンとしての機能やセキュリティレベルといった品質面に真正商品とは相当な差異が生じ、商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されている。
⇒
商標権侵害罪の成立を肯定。
iOSの改変によるセキュリティレベルの低下が原因となって不具合が生じたとしても商標権者の責任による不具合と誤認するおそれが否定できない
⇒
iPhoneを購入した者が改変を知っていたからといって商標の機能jが害されていないとはいえない。
●尚、本件では商標権侵害罪のほか、
被告人からiPhoneを購入した者がスマートフォン用のオンラインゲームを遊技する際にデータを不正に書き換えてクリアしたにもかかわらずデータを不正に書き換えることなく適正にクリアしたという内容虚偽のデータをサーバーコンピュータに送信・記録させた行為が私電磁的記録不正作出・同供用罪に当たり、データの不正書換えの方法を教示するなどのした被告人の行為がそのほう助罪に当たるとして起訴されているが、それについても有罪。
判例時報2365
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