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2018年5月14日 (月)

刑法19条2項(没収)の「犯人以外の者に属しない物」の該当性判断における心証の程度(=確信まで必要)

大阪高裁H29.6.8    
 
<事案>
被告人2名が、氏名が特定された共犯者7名及び氏名不詳者らと共謀の上、
金地金130キロ(130枚)及び腕時計589個(課税価格合計約10億7040万円(「本件物件」))を不正に輸入しようとするとともに、消費税等を免れようとしたが未遂に終わった、関税法違反等被告事件の控訴審。 

原審の第1回公判期日後に、参加人が、自らが本件物件の所有者であるとして刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法に基づく参加の申立て。
 
<規定>
刑法 第19条(没収)
次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物
2 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
 
<原判決>
本件物件は、密輸の犯罪行為の組成物件であり、その実質的な所有者は密輸入についての香港側業者あるいはこれに密輸入を依頼した荷主とみるのが相当であって、これらの者は共犯者に当たる
⇒本件物件は、「犯人以外の者に属しない物」に当たるとして没収。 
   
参加人のみが控訴
 
<判断> 
本件密輸の背景事情に関して、
被告人を含む密輸の上位者グループは、香港側業者とは若干の若干の接触がある程度で、もっぱら香港側の元締め的立場にあるD7(共犯者の1人として挙示されている。)を介してコミッション料の決定や提供等を受けており、
密輸を依頼した香港側業者とD7の関係、あるいは荷主の人物像や物件の調達元等の事情は証拠上明らかでない。 
本件物件につき、「犯人以外の者に属しない物」と認定するには合理的疑いがある⇒原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある
⇒原判決中、前記没収に係る部分を破棄。
 
<解説> 
●没収の要件に関する事実:
A:厳格な証明を要する(多数説)
←刑罰権の存否あるいはその範囲を定める事実 
没収要件に関する事実は、
それが罪となるべき事実に含まれるか、あるいは犯罪事実と不可分の事実であれば厳格な証明を要し、加えて当該事実の認定については、特段の理由がない限り、確信(合理的な疑いを容れない程度の証明)を要すると考えるのが、一般的な理解。
 
●本件没収の要件に関わる事実は、
本件物件が密輸の組成物件であり、かつその物の所有関係は犯罪事実の共犯関係と密接不可分のもの
罪となるべき事実に属する
厳格な証明と、確信(合理的な疑いを容れない程度の証明)が必要

所有者が、正規業者を装った密輸業者に騙されて輸出手続を依頼したり、輸出を依頼した業者から更に密輸業者に委託される場合等もあり得る
⇒こうした可能性があることも十分に踏まえた上で、香港における物件の調達状態等の点につき、より詳細な事実解明がされるべき。

その場合、検察側は、没収求刑の前提として、密輸品の送付元(外国)側の取引・交渉事情等について捜査及び立証の負担を負う事案が増加する可能性があり、捜査・立証に諸々の困難が伴う。

原審検察官:
①参加人が主張する内容の契約につき、密輸を前提としなければ相手方に経済的合理性がない、とか、契約書等が作成されていないのが不自然である等、主に経験則の観点から主張し、あるいは、
②参加人が提出したインヴォイス(仕送状)の作成の真正にも疑問を提示
but
本件判決は、検察官によるこれらの主張をいずれも排斥。

経験則等による主張を超えた、より具体的な立証のあり方を模索する必要に迫られる

判例時報2362

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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