児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材としたCGについての児童ポルノ等処罰法の事案
東京高裁H29.1.24
<事案>
被告人が、不特定又は多数の者に提供する目的で、児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材としてコンピュータグラフィックス(CG)を作成し、そのCG集をインターネットを通じて不特定又は多数の者に販売したという、児童ポルノの製造及び提供の事案。
<規定>
児童ポルノ等処罰法 第2条(定義)
この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
<判断>
●本件CGが「児童の姿態」(2条3項)を描写したものといえるか
①児童の権利侵害を防ぐという児童ポルノ等処罰法の趣旨
②実在する特定の児童を描写したといえる程度に製造されたものとその被写体が同一である場合には、その児童の権利侵害が生じ得る
⇒
必ずしも、被写体となった児童と全くの同一の姿態、ポーズでなくても、「児童の容姿」に該当する。
通常の判断能力をもつ一般人が、社会通念に照らして、実在する児童と同一であると認識できる場合には、当該描写行為等が処罰の対象となることを認識できる
⇒刑罰法規の明確性を害しない。
表現の自由との調整の必要性を認めた上で、
その判断基準としては、
当該画像等の具体的な内容に加え、それが作成された経緯の作成の意図等のほか、その画像等の学術性、芸術性、思想性等も総合して検討し、
性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には、
「性欲を興奮させ又は刺激するもの」には当たらない。
本件CGはそのような観点から児童ポルノ該当性が否定されるとはいえない。
●児童ポルノを製造した時点、及び法施行の時点において、18歳未満であることを要するか? (本件は、昭和50年代に出版された少女の写真集等を基に作成)
①児童ポルノ等処罰法が、児童ポルノの製造行為を児童に対する一種の性的搾取ないし性的虐待とみなし、児童の承諾があるときも含めて一律に児童ポルノとして規制を及ぼしている
⇒
同法の保護法益は、
個別の児童の具体的な権利にとどまらず、
児童一般の保護にも及んでおり、
さらには、
未熟で判断能力が十分でない児童を保護するという後見的見地から、
現に児童の権利を侵害する行為のみならず、
児童の性欲の対象として捉える社会的風潮が広がるのを防ぐことにより、
将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防ぐという意味での社会的法益の保護も含まれる。
②製造等の時点で被写体が既に18歳未満でなくなっていたとしても、児童ポルノとしていったん成立した画像等は、児童の権利侵害が行われた記録として、児童ポルノの性質が喪われることはなく、法施行の時点で既に児童でなかったとしても、法が規制しようとした前記のような危険性は同様。
⇒
いずれの場合も処罰の対象となり得る。
●タナ―法という性発達の評価方法について、
基本的な理論の合理性自体は是認した上で、限界もあることを前提に、
身体全体の発達の程度も加味して検討するという原判決の判断手法を概ね是認。
判例時報2363
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