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2018年5月12日 (土)

病院情報管理システムを構築する業務委託契約について、ベンダとユーザーの各義務違反が問題となった事案

札幌高裁H29.8.31      
 
<事案>
一審原告、一審被告及び訴外会社は、平成20年12月9日、一審被告が一審原告のために病院情報管理システム(本件システム)を構築し、訴外会社をその所有者として一審原告に本件システムをリースすることを目的とする契約(本件契約) を締結。
but
引渡日(平成22年1月3日)を過ぎて本件システムの引渡しがなされなかったとして、一審原告は、同年4月26日、本件契約を解除する旨の意思表示

第一事件:
一審原告が、一審被告に対し、約定の引渡日までに本件システムを完成して引き渡す債務を履行しなかったと主張⇒債務不履行に基づく損害賠償金19億3567万円余及び遅延損害金の支払を求めた。

第二事件:
一審被告が、一審原告に対して、一審原告の効力義務違反などにより本件システムが完成できなくなった等と主張⇒債務不履行に基づく損害賠償金22億7976万円余及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<原審>
●本件第一事件に係る一審原告の請求のうち、3億6508万円余及び遅延損害金
本件第二事件に係る一審被告の請求のうち、3億8386万円余及び遅延損害金
の支払を求める限度でそれぞれ認容
 
●本契約上、
分類一及び分類二とされた機能は、既存のパッケージソフトの標準機能等をカスタマイズせずにそのまま導入することとされており、
分類三とされた機能に限って、一審原告の要望に従ったカスタマイズが予定されていた。(争点③)

平成21年7月7日に締結された合意(本件仕様凍結合意)により、
一審原告は、同日以降、分類三とされた機能についても、一切の追加変更要望をしないことに合意(争点④)。
ところが、一審原告は、本件使用凍結合意後も、追加変更要望を繰り返した(争点⑤)。
また、一審原告は、本件契約上、既存システムからマスタ・データを抽出して一審被告に提供する義務を負っていたのに、これを怠った(争点⑥)。

本件システム開発が頓挫したのは、一審原告の協力義務違反が1つの原因となっている(争点⑦)。

一審原告による契約解除時点において、本件システムは、8割程度しか完成していなかった(争点②⑧)。

本件プログラム開発が頓挫したのは、一審被告が、一審原告の追加開発要望に翻弄され、本件プログラム開発の進捗を適切に管理することができなかったことが最大の原因(争点⑦)。

本件プログラム開発が頓挫したことについては、一審原告に2割、一審被告に8割の責任があると認めるのが相当(争点⑦)。
 
<判断>
一審被告の責任に関して、原判決と異なり、契約解除時において本件システムはほぼ完成しており(争点②)、本件プログラム開発が頓挫したのは、一審被告のプロジェクト・マネジメント義務違反によるものではなく、一審原告の協力義務違反が原因(争点⑦)。

本件第一事件に係る一審原告の請求を全部棄却する(争点⑧)とともに、
本件第ニ事件に係る一審被告の請求については、債務不履行に基づく損害賠償金14億1501万円余及び遅延損害金の支払を求める限度で、請求を認容(争点⑨)。 
 
<解説>
●契約内容の確定について
契約上開発すべきシステムの内容を明示した技術仕様書等がある⇒当事者間の契約内容も、特段の事情のない限りは、これらの技術仕様書等の記載に従って解釈。

東京地裁H26.10.30:
本件と同じくパッケージソフトをカスタマイズする方法によるシステム開発に関して、「これら(本件仕様書等)に特に記載がない点については、被告が明確に要望として述べていたにもかかわらず原告が本件仕様書等に記載しなかった、又は、本件仕様書等の内容を確認した際に異議を述べたなどの特段の事情がない限り、本件パッケージソフトの仕様を採用するという合意ができていたというべきである」と説示。
本判決も、分類一及びニとされた機能に関する一審被告のカスタマイズ義務を否定。
 
●プロジェクト・マネジメント義務と協力義務について 
ユーザとベンダが互いに協力しながら、システムの内容を確定し、開発を進めていくという特質を有するシステム開発契約について、

東京地裁H16.3.10:
ベンダ(被告)は、自らのシステム開発業務を適切に遂行することはもちろん、「注文者である原告国保のシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しない原告国保によって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告国保に働きかける義務」(「プロジェクトマネジメント義務」)を負っていたとする一方、
ユーザ(原告国保)についても、「本件電算システムの開発過程において、資料等の提供その他本件電算システム開発のために必要な協力を被告から求められた場合、これに応じて必要な協力をおこなうべき契約上の義務」(「協力義務」)を負っていたと判示。

ベンダとユーザが、それぞれプロジェクト・マネジメント義務と協力義務を負っており、その義務違反が債務不履行又は不法行為を構成したり、過失相殺を基礎付けたりし得ることは、そのような語を用いるか否かを問わず、以後の裁判例において一般的に承認されている。

◎ユーザ(一審原告)の協力義務に関して、
本判決は、
本件契約上一審原告の責任とされていたもの(マスタの抽出作業など)を円滑に行うというような作業義務はもちろん、
本件契約及び本件仕様凍結合意に反して大量の追加開発要望を出し、一審被告にその対応を強いることによって本件システム開発を妨害しないというような不作為義務も含まれているものというべき。
一審原告の協力義務違反を肯定

◎ベンダ(一審被告)のプロジェクト・マネジメント義務に関して、
原判決:
システム開発の専門業者である被告としては、納期までに本件システムが完成するよう、原告からの開発要望に対しても、自らの処理能力や予定された開発期間を勘案して、これを受け入れて開発するのか、代替案を示したり運用の変更を提案するなどして原告に開発要望を取り下げさせるなどの適切な対応を採って、開発の遅滞を招かないようにすべき義務があったのに、これを怠った過失がある。

本判決:
一審被告は、プロジェクトマネジメント義務の履行として、追加開発要望に応じた場合は納期を守ることができないことを明らかにした上で、
追加開発要望の拒否(本件仕様凍結合意)を含めた然るべき対応をした
ものと認められる。
これを超えて、一審被告において、納期を守るためには更なる追加開発要望をしないよう注文者(一審原告)を説得したり、一審原告による不当な追加開発要望を毅然と拒否したりする義務があったということはできず
一審被告にプロジェクトマネジメント義務の違反があったとは認められない。 
 
●システム開発の完成度 
原審:契約解除時の本件システムの完成度は8割程度にすぎなかったという事実を認定。

協議の席などにおいて、一審被告の担当者が、システム開発の遅れを謝罪するなどの発言
vs.
一般に、立場の弱いベンダ側が、その後のシステム開発を円滑に進めるために、非を認めるような発言をしたり、そのような記載のある文書を差し入れた利することは珍しいことではなく(大阪地裁H26.1.23)、このような言動を過度に重視することは相当とはいえない

本判決:少なくとも契約解除時には本件システムはほぼ完成しており、一審被告が本来行うべきシステム開発業務自体の遅れは大きなものではなかったとの事実を認定。

総合テストの結果や、完成証明資料などの客観的証拠

判例時報2362

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

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