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2018年5月26日 (土)

砂川事件再審請求即時抗告審決定

東京高裁H29.11.15    

<事案>
●いわゆる砂川事件の差戻後確定判決につき提起された再審請求事件の再審棄却決定に対する即時抗告審決定
 
●砂川事件:
昭和32年7月8日、元被告人らが、正当な理由なくアメリカ軍使用区域である立川飛行場内に立ち入った
⇒日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反に問われた。

第1審:
アメリカ軍の駐留が憲法9条2項前段に違反⇒刑事特別法が憲法31条に違反して無効⇒無罪
検察官からの跳躍上告(刑訴規則254条)

最高裁:
第1審は「裁判所の司法審査権の範囲を逸脱」
⇒無罪判決を破棄し、東京地裁に事件を差し戻した。

差し戻し後の第1審は本被告人らに罰金2000円の有罪判決を宣告し、控訴審および上告審の裁判を経て確定。

平成20年以降、
米国立公文書館に保管されていた資料から、当時、最高裁長官である砂川事件を審理していた田中耕太郎裁判官が、アメリカ合衆国駐日大使らと数次にわたって接触し、砂川事件に関する裁判情報を伝えてたことが明らかになった

本被告人およびその遺族は、開示された外交電報および航空書簡等を新証拠として、田中裁判官を裁判長とする最高裁大法廷は憲法37条1項の「公平な裁判所」ではなかったので、大法廷破棄判決に拘束される立場にあった確定審裁判所としては、実体審理を行うことができず免訴判決をすべきであった。
⇒刑訴法435条6号に基づき再審免訴を求めた。

 
<主張> 
最大判昭和47.12.20(高田事件)が、
憲法37条1項の「迅速な裁判を受ける権利」が侵害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、非常救済手段として、憲法37条1項により審理を打ち切ることができ、その方法は免訴は免訴判決によるとした先例に依拠し、
砂川事件における憲法37条1項の「公平な裁判所による裁判を受ける権利」の侵害も、刑訴法337条各号に定める免訴事由以外の非類型的免訴事由にあたると主張。
 
<規定>
刑訴法 第337条〔免訴の判決〕
左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
一 確定判決を経たとき。
二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
三 大赦があつたとき。
四 時効が完成したとき。

憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<原決定>
「免訴判決の理論的な可否」について問題となりうることを認識しながら、
証拠の新規性を認めたが、
①田中裁判官の駐日大使等との接触は司法行政事務を総括する立場の最高裁長官としての固有の権限内の行為であった
②発言内容は一般論や抽象的な説明であり一方当事者に有利に偏重するようなないようでない

田中裁判官が不公平な裁判を行う虞があったと合理的に推測することはできない。
⇒再審請求を棄却。
 
<判断> 
刑訴法435条6号の再審免訴事由は同法337条各号に定められた免訴事由に限定されるものであり、非類型的免訴事由は認められない。 
 
高田事件最高裁判決について、本判決は、
A:憲法的免訴説:
極めて例外的な特殊事件の救済のため憲法37条1項を直接の根拠とした超法規的免訴であって、刑訴法337条に非類型的免訴事由を認めたものではない
に立つことを明言。

憲法37条1項の「公平な裁判所による裁判を受ける権利」の侵害を理由とする再審免訴の請求は、そもそも刑訴法337条各号の再審事由に該当しない

砂川事件を審理した最高裁大法廷が「公平な裁判所」を構成していなかった事実を証明するために提出した証拠の新規性および明白性を判断するまでもなく、再審請求は認められないと結論づけた。
 
<解説>
本決定は、 非類型的免訴事由による再審請求は認められない
⇒原決定が法律問題を「留保」して、先に、最高裁大法廷が「公平な裁判所」を構成していなかったといえるかという前提事実につき判断を加えた手法を「不適切」とする。
but
学説が分岐している法律問題を一旦棚上げにしたうえで、通常の6号再審請求の場合と同様に、立証命題に関する提出証拠の新規性と明白性の判断から始めるという手法が必ずしも「不適切」であったとはいえない

高田事件最高裁は寝k津の位置づけを憲法的免訴と理解したとしても、
刑訴法435条6号の再審免訴事由を同法337条各号の免訴事由とは別位に理解し、同条各号の免訴事由に加えて憲法的免訴を読み込むことも可能
論理必然的に前記法律判断を先行させるべきであったとは断定できない。

判例時報2364

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