弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について
最高裁H29.10.5
<事案>
破産者竹松配送サービス㈱の破産管財人である抗告人X2、
破産者竹松エキスプレス㈱の破産管財人である抗告人X3
を原告とし、
相手方㈱洛友商事を被告とする訴訟において、
抗告人らが、前記各破産者との間で委任契約を締結していた弁護士である相手方Y2及び同Y3が相手方洛友商事の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士法25条1号に違反する主張して、
相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為の排除を求めるとともに、
相手方Y2から委任を受けるなどして相手方洛友商事の訴訟代理人等となった弁護士である相手方Y1の訴訟行為の排除を求める事案。
<判断>
●本件訴訟における相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為は排除されるべきものであり、甲事件、乙事件及び丙事件について相手方Y2から委任を受けて訴訟復代理人となった相手方Y1の訴訟行為も排除されるべきものであるが、
丁事件における相手方Y1の訴訟行為が弁護士法25条1号に違反することを疑わせる事情はなく、その訴訟行為を排除することはできない。
●弁護士法25条1号に違反する訴訟行為及び同号に違反して訴訟代理人となった弁護士から委任を受けた訴訟復代理人の訴訟行為について、相手方である当事者は、裁判所に対し、同号に違反することを理由として、前記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する。
弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し、自らの訴訟代理人又は訴訟復代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者は、民訴法25条5項の類推適用により、即時抗告をすることができる。
弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し、当該決定において訴訟行為を排除するものとされた訴訟代理人又は訴訟復代理人は、自らを抗告人とする即時抗告をすることはできない。
●破産者Aの破産管財人Xを原告とする訴訟において、Aの依頼を承諾したことのある弁護士Bが被告Yの訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、次の(ア)及び(イ)の事実関係の下では、弁護士法25条1号に違反する。
(ア)Aは、破産手続開始の決定を受ける前に、Bとの間で、再生手続開始の申立て、再生計画案の作成提出等についての委任契約を締結していた。
(イ)前記訴訟におけるXの主たる請求の内容は、BがAから前記の委任を受けていた間に発生したとされるAのYに対する債権を行使して金員の支払を求めるもの及び前記の間に行われたAのYに対する送金等に関して否認権を行使して金員の支払を求めるものである。
<規定>
弁護士法 第25条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
民訴法 第25条(除斥又は忌避の裁判)
5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
<解説>
●弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の効力
最高裁昭和38.10.30:
弁護士法25条1号違反の訴訟行為について、「相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができる」とした。
●決定において訴訟行為を排除するものとされた弁護士が自らを抗告人とする即時抗告をすることの許否
本決定は否定
←
訴訟代理人又は訴訟復代理人は、当事者を代理して訴訟行為をしているにすぎず、訴訟行為が排除されるか否かについて固有の利害関係を有するものではない。
決定において訴訟行為を排除するものとされた弁護士が、当事者の代理人として即時抗告することは認められる。
←
①抗告審で是正されるべき排除決定であっても、当事者は、一旦は別の弁護士に依頼するか、本人で対応せざるを得なくなってしまうところ、そのような負担を当事者に負わせることは酷
②排除決定の趣旨からしても、最終的に本案の訴訟手続から排除されればよく、排除決定を争う抗告の手続から排除する必要はない
●弁護士法25条1号の「相手方」の要件について
破産者=破産管財人か?
本決定:
破産手続開始の決定により、破産者の財産に対する管理処分権が破産管財人に帰属することになる⇒本件において弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては、破産者である竹松三社とその各破産管財人とは同視されるべき。
相手方のいわば手の内を知っている事件の取り扱いを許せば、前に当該弁護士に対して秘密を含む内部事情を示して協議をしたり依頼をした相手方の信頼を裏切ることとなる⇒弁護士の品位を失墜させることを未然に防止しようとしたもの。
⇒
破産手続開始の決定前に破産者から依頼を受けた弁護士が、破産管財人の提起した訴訟の被告から依頼を受けることは、事件の同一性が認められるのであれば、弁護士法25条1号に違反するというべき。
●事件の同一性の要件について
弁護士法25条1号が適用されるためには、当該弁護士の関与した事件が一方のと自社とその相手方との間において同一でなければならない。
事件の同一性は、相反する利益の範囲によってこれを判断すべきである。訴訟物が同一か否か、手続が同質か否かは問わない。
民事再生の申立代理人の広範な役割⇒申立代理人となった弁護士は、再生手続を主導し、依頼者を指導する過程で、必然的に、依頼者の経営や取引全般にわたる内部事情を知り得ることになる。
⇒利益相反を禁止して早希に依頼した者の利益を守るという弁護士法25条1号の趣旨からすると、民事再生の申立てを受任した場合には、広い範囲で事件の同一性が肯定されると考えられる。
本決定:
①Y2及びY3が竹松三社の依頼を承諾して、竹松三社の業務及び財産の状況を把握して事業の維持と再生に向けて手続を主導し、債権の管理や財産の不当な流出の防止等について竹松三社を指導すべき立場にあった
②本件訴訟が竹松三社の債権の管理や財産の不当な流出の防止等に関するものであることは明らかである
⇒弁護士法25条1号違反を肯定。
●再生債務者とスポンサーの間の利益相反
民事再生手続において、スポンサーの選定や契約の交渉は、再生債権者の弁済額に関わるもの⇒債権者の利益代表機関としての再生債務者とスポンサー候補との利益相反性は重大。
⇒申立代理人が同時にそのスポンサー候補の代理人となることは重大な利益相反行為であり、弁護士職務基本規定28条3号に違反することになる。
判例時報2361
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