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2018年5月 6日 (日)

咽喉部に装着された人工呼吸器のため発話が聞き取れない⇒聞き慣れた者を通訳人として作成された公正証書遺言の効力が争われた事例

東京地裁H27.12.25      
 
<事案>
①平成24年8月10日付け遺言公正証書による遺言(「前遺言」)
遺言者亡Aの一部の株式以外の全財産遺言者の長男、長女及び二女であるX、Y2及びY3に各3分の1の割合で相続させる。
②同年12月11日付け遺言公正証書による遺言(「本件遺言」)
前遺言の前記条項を撤回し、
遺言者亡Aのの一部の株式以外の全財産を、Y2及びY3に各2分の1の割合で相続させるものとされた。

Xが、
①前遺言及び本件遺言において遺言執行者として指定されたY1並びにY2及びY3に対し、通訳人の通訳により遺言内容の申述のされた本件遺言が遺言能力の欠如及び方式違反により無効であることの確認を求めるとともに、
②Y2およびY3に対し、
本件遺言に基づいてY2及びY3がそれぞれ払い戻した亡Aの預貯金につき、不当利得返還請求として、前遺言によるXの指定相続分3分の1に相当する金員及びこれに対する相続開始の日の翌日から支払済みまで民法所定の法定利率により遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
本件遺言(公正証書遺言)の無効事由の有無であり、
①遺言者の遺言能力(亡Aの意思能力)の欠如の有無
②通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無
③通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか)
 
<規定>
民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

民法 第974条(証人及び立会人の欠格事由)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
 
<判断>
●争点①(遺言者の遺言能力の欠如の有無) 
・・・・
本件遺言はは、亡Aの心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時それを示し得る事柄について行われたものと認めるのが相当。
⇒本件遺言は遺言者の遺言能力を欠くものとはいえない

本判決の判断:
公正証書遺言の当時における遺言者の遺言能力(意思能力)の欠如の有無が争われた事案において、
遺言者が代表者を務める会社の経営の承継等をめぐる親族間の紛争の経緯を詳細に認定した上で、
当該紛争の推移と遺言者の病状の推移を時系列的に対比させながら
遺言者の意向や状態を子細に検討
 
●争点②(通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無)
公正証書遺言の方式の特則として新設された民法969条の2の立法趣旨
遺言者の口述(口授)を公証人が聴取して筆記するという同法969条所定の手続が遺言者の言語機能障害や聴覚障害等のために困難である場合でも、
遺言内容の正確性の確認が担保される方法である通訳人の通訳による申述又は自署をもって口述(口授)に代えることにより、様々な利点のある公証人の関与の下での公正証書遺言の利用を可能にすること

同法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合には、言語機能障害のために発話不能である場合のみならず、聴覚障害や老齢等のために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれると解するのが相当。

本件のように、老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も、これに含まれる。

①上記のような民法969条の2の立法趣旨及び②同条1項にいう「口がきけない」場合の意義等
同項にいう「通訳人の通訳」は、遺言内容の正確性の確認が担保される方法である限り、手話通訳のほか、読話(口話)、蝕読、指点字等の多様な意思伝達方法が含まれるものと解され、同項の法文上も通訳の方法や通訳人の資格に何ら限定は付されていない。

本件のように、発話者が老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難であり、自ら聞きとったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期する必要がある場合に、
頻繁に発話者を見舞って会話をしていた経験から、聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより発話の内容を理解することができる者が、その判別により理解した内容を公証人に伝え、公証人が自ら聞き取ったと思う内容と符合するかを確認するという方法も、同項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれる。

同法969条の2第1項の通訳人について証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないのは、通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等(証人や立会人との差異)を考慮したことによるものと解され、
「口がきけない」場合の範囲を殊更に狭義に限定して解釈しないからといって、証人や立会人に係る欠格事由の規定の趣旨に抵触するものとはいえない
 
●争点③(通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか))
同法969条の2第1項の通訳人について、証人及び立会人に関する同法974条各号の規定が類推適用されるものではなく、通訳人の通訳による公正証書遺言が無効であるか否かは、公証人による当該通訳を介しての遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあるため公証人の筆記の内容が遺言者の真意に基づかないものといえるか否かという個別の判断によるべきである。
①P5は、推定相続人であるY2の交際相手であり、本件遺言の当時にY2との間で婚姻関係と同視し得るような関係(Xの主張に係る婚約関係ないし事実婚状態)にあったことを認めるに足りる的確な証拠はない⇒推定相続人の配偶者と同視し得る地位にあるとはいえない⇒推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえない⇒同法974条2号の類推適用をいう原告の主張は前提を欠く。
②P5は、本件遺言の当時、推定相続人であるY2ら以外に亡Aの通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた唯一の者であったものと認められ、本件遺言の公正証書の作成の際、その能力に適した意思伝達方法でその通訳を行い、公証人も、その通訳内容につき自ら聞き取ったと思う内容との符号を検証して適切に確認を行ったものといえる⇒本件遺言において公証人がP5に通訳人として通訳させたことにつき、遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあったとは認められない。

通訳人の資格に係る方式につき、同法974条2号及び969条の2第1項に違反するものとはいえない。

判例時報2361

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