弁護人が証拠に同意but被告人の言い分は供述調書の内容と対立⇒被告人本人に証拠意見を確認すべきであったとされた事例。
大阪高裁H29.3.14
<事案>
罪状認否で、被告人は、公訴事実は間違いない旨述べ、弁護人も同意権である旨述べた。
検察官の被害者の供述調書等の証拠調請求⇒弁護人「同意、ただし信用性を争う」⇒裁判所はこれらを採用して取調べ。
第2回公判期日で被告人質問⇒被告人の言い分は、被告人が暴行に至った経緯や暴行の態様等について、それらの供述調書の内容と対立するものであることが判明。
but
裁判所は、被告人本人に証拠意見を確認することなく、それらの供述調書を排除せず、被害者らの証人尋問をすることもなく証拠調べを終了。
<判断>
弁護人は、被害者らの供述証拠を証拠とすることに同意することなく、証人尋問において反対尋問によりその信用性を争うべきであり、それが被告人の真意に沿う弁護活動であったとに、「同意、ただし信用性を争う」との証拠意見を述べたのみで、裁判所がそれらの供述調書を採用するに任せ、これらに対する積極的な弾劾活動をしなかった⇒被告人の重要な主張を無にするもので、被告人の真意に沿わない。
裁判所としても、被告人の言い分がそれらの供述調書と対立することが明らかになった段階で、弁護人の証拠意見が被告人の真意に沿うものかどうかを確認し、真意に沿うものであることが確認できない限り被告人の同意としての効力がないものとして証拠排除しなければならなかったのに、排除せずに有罪認定の資料としたのは違法。
⇒原判決を破棄して差し戻し。
<解説>
最高裁昭和27.12.19:
被告人において全面的に公訴事実を否認し、弁護人のみがこれを認め、その主張を完全に異にしている場合においては、
弁護人の答弁(証拠調請求に異議がない)のみをもって、被告人が書証を証拠とすることに同意したものといえない
⇒
裁判所は弁護人とは別に被告人に対し、証拠調請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなければならない。
判例時報2361
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