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2018年5月

2018年5月29日 (火)

弁護人が拘留中の被告人に母親から預かった手紙を差し入れることを拒否される⇒国賠請求(肯定)

広島高裁H29.11.28      
 
<事案>
広島拘置所に勾留されていた被告人Aの弁護人であったXが、Aに対して、Aの母親から預かったA宛ての手紙を差し入れ⇒拘置所職員が差入れ拒否⇒国賠請求 
 
<原審>
刑事収容法130条1項に基づく同規則80条2項1号
⇒被収容者が新書を受け取る方法は、郵便又は一般・特定信書便事業者による信書便による方法等により行うものと定められている。
⇒本件書類の差入れ拒否は違法ではない。
 
<判断>
弁護人が取調請求予定の書類を勾留中の被告人に差し入れる場合は、それが郵便法上の信書であっても、刑事収容法上の物品に該当
②拘置所の職員が、Xが窓口で本件書類を取調請求予定証拠として差し入れようとしたのを拒否したと認められる。
③前記職員の行為は、裁判資料に該当する書類は物品として窓口差入れを認めるという拘置所の法解釈及び運用に反して、本件書類を本件被告事件の上場証拠として請求する予定である旨のXの説明に疑うべき事情はないにもかかわらず、本件書類の窓口差入れを拒否

国賠法上の違法性を有し、少なくとも過失があった。
慰謝料10万円、弁護士費用1万円の支払を求める限度で、Xの請求を認容。 
 
<解説>
●未決勾留により収容されている者について、施設内の規律及び秩序維持のため種々の制限を受けているが、
その制限が前記の目的のために必要かつ合理的な範囲である限り、憲法13条に違反しない(最高裁)。 

●裁量処分に対する司法統制に関しては、行訴法30条の規定が存在。
これは、裁量権の逸脱・濫用があった場合にのみ司法統制が及ぶとする制定時の通説の考え方を行政処分の取消訴訟に適用することを確認的に明文化したもの⇒この考え方は国賠訴訟にも妥当

行訴法 第30条(裁量処分の取消し)
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

判例時報2364

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2018年5月28日 (月)

養育費の事情変更について

東京高裁H29.11.9      
 
<事案>
XとYは、平成20年に確定した判決により、 子A及び子Bの親権者をXとし、YがXに対して支払うべき養育費につき成人に達する日の属する月まで1人当たり月額5万円とする等と定められて離婚。

平成22年9月に、養育費を各4万円とする減額調停を、
平成24年に強制執行において養育費以外の取立てが終了次第再度協議するとの調停を
各成立。

Xは、平成26年9月、養育費の各増額及び子AにつきC大学の系列の高校に通い、C大学に進学することが確定
⇒養育費の支払終期を22歳に達した後の最初の3月まで延長することを求めて調停申立て⇒平成27年10月に月額5万5000円と増額するものの、支払終期の延長は認めないとの審判。

前記審判の半年後に子AがC大学に進学⇒Yに対し、収入に応じた学納金の分担と養育費の支払終期の延長を求めた。

 
<原審>
Yは子Aが大学に進学することを承諾していたとは認められない
⇒いずれも却下。 
 
<判断>
子Aにつき成年に達した後も学納金及び生活費等を必要とする状態にあるという事情の変更が生じた

Yが子Aの私立大学進学を了解していなかった等として学納金の分担は認めなかった
but
養育費の支払終期を成年に達する日の属する月までから22歳に達した後の最初の3月まで延長。
 
<規定>
民法 第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
 
<解説>
●事情変更の有無 
養育費支払期間の終期は、法的安定性の見地から、これを定めた協議又は審判を尊重すべき。
but
身分関係に基づく継続的な給付についての定め
時の経過により、その内容が具体的妥当性を欠くに至る場合があり、協議又は審判後に事情の変更を生じたときは、家庭裁判所は、その変更等をすることができる。(民法880条)

事情変更の有無:
従前の審判等の際に考慮され、あるいは基礎とされていた事情が、その後変更となった結果、審判等の内容が実情に適さなくなったこと。

予見し得た事情がその後現実化したにすぎない場合は、原則として事情の変更があったとみることはできない。
but
単なる予測では足りず、義務者の妻の出産予定等は、具体的な事情が確定してから対処すべきであるという事例もある。

本件の前件審判が、子Aが通学する孝行の系列の大学に進学する見込みであるというだけでは、養育費支払期間の終期を成年に達する日の属する月から22歳に達した後の最初の3月まで延長することはできないとしたのも、具体的な事実が確定してから対処すべき趣旨と解される。
(前件審判において、Xが子Aの大学進学が確定していると主張したのは、主観的なものと解される。)

審判時に予想はされるが、未だ発生していないため、審判の前提にしない事情の例
ex.大学進学、定年退職等による失職、扶養家族の増減等

 
●審判等の変更について 
本決定:
子Aが、成年に達した後も、学納金及び生活費等を要する状態にあるという事情の変更があったとしても、Yが当然に学納金等を負担しなければならないわけではない。

考慮要素:
①大学進学了解の有無
②支払義務者の地位
③学歴、収入等

①Yが私立大学進学を了解していなかった
②前件審判では、通常の養育費として、公立高校の学校教育費を考慮した標準算定方式による試算結果を1か月当たり5000円超えた額の支払を命じている

Yに対し、通常の養育費に加えて、子Aが通学する私立大学への学納金の支払義務を負わせるのは相当でない

支払期間の終期の延長は、別異に考慮すべき。
①Yが、未成熟子に対して自己と同一水準を確保する義務を負い、
②子Aが成年後も大学生であって、現に大学卒業まで自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、未成年者と同視できる未成熟子
③Yがおよそ大学進学に反対していたとは認められない
④大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収900万円以上である
⑤Yには他に養育すべき子が3人いるがそのうち2人は今だ14歳未満である

子Aが大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務がある。

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2018年5月27日 (日)

行政庁が管理する文書の所持者

最高裁H29.10.4      
 
<事案>
香川県の住民である相手方は、県議会の議員らが平成25年度に受領した政務活動費の中に使途基準に違反して支出されたものがある
⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、香川県知事に対し、前記の支出に相当する金額について、当該支出をした議員らに不当利得の返還請求をすることを求める本案事件の訴えを提起。

相手方は、議員らが県議会の議長に提出した平成25年度分の政務活動費の支出に係る領収書及び添付資料の写しについて、議長の属する地方公共団体である抗告人(香川県)を文書の所持人として、文書提出命令を申し立てた。

抗告人:本件各領収書に係る文書の所持者は議長であり、抗告人に本件各領収書の提出義務はない旨主張。
 
<規定>
神奈川県議会政務活動費交付条例:
議長は、議員から提出された報告書及び領収書等の写しをその提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない(11条1項) 

民訴法 第219条(書証の申出) 
書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。
 
<判断>
地方公共団体の機関が文書を保持する場合において、当該地方公共団体は、文書提出命令の名宛人とされることにより、当該文書を裁判所に提出すべき義務を負い、同義務に従ってこれを提出することのできる法的地位にある。 
 
<解説>
行政主体(国又は公共団体)に属する行政庁が管理する文書を対象として文書提出命令の申立てがされる場合、当該文書に係る「文書の所持者」(民訴法219条等)について

A:行政庁が文書の所持者であるとする見解(行政庁所持者説)
〇B:行政庁の属する行政主体(国又は公共団体)が文書の所持者であるとする見解(法主体所持者説)
 
本案事件が民事訴訟である場合について、裁判実務の多数は、法主体所持者説に基づき運用
ex.
労働喜寿監督署長に提出された災害調査復命書を対象として文書提出命令が申立てられた事案において、前記災害調査復命書に係る文書の所持者は国(最高裁H17.10.14)
 
①本案事件が民事訴訟である場合にはおいては、法主体所持者説に基づく運用
平成16年改正により抗告訴訟の被告適格が原則として行政主体に付与⇒本案事件が行政訴訟であるからといって、「文書の所持者」の取扱いを区別することに合理性があるとは言い難い
③行政主体は、行政活動における権利義務の帰属主体⇒文書提出命令の名宛人とされることによって、当該行政主体に属する行政庁が保管する文書を提出すべき義務を負い、同義務によってこれを提出することのできる法的地位にある。

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2018年5月26日 (土)

砂川事件再審請求即時抗告審決定

東京高裁H29.11.15    

<事案>
●いわゆる砂川事件の差戻後確定判決につき提起された再審請求事件の再審棄却決定に対する即時抗告審決定
 
●砂川事件:
昭和32年7月8日、元被告人らが、正当な理由なくアメリカ軍使用区域である立川飛行場内に立ち入った
⇒日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法違反に問われた。

第1審:
アメリカ軍の駐留が憲法9条2項前段に違反⇒刑事特別法が憲法31条に違反して無効⇒無罪
検察官からの跳躍上告(刑訴規則254条)

最高裁:
第1審は「裁判所の司法審査権の範囲を逸脱」
⇒無罪判決を破棄し、東京地裁に事件を差し戻した。

差し戻し後の第1審は本被告人らに罰金2000円の有罪判決を宣告し、控訴審および上告審の裁判を経て確定。

平成20年以降、
米国立公文書館に保管されていた資料から、当時、最高裁長官である砂川事件を審理していた田中耕太郎裁判官が、アメリカ合衆国駐日大使らと数次にわたって接触し、砂川事件に関する裁判情報を伝えてたことが明らかになった

本被告人およびその遺族は、開示された外交電報および航空書簡等を新証拠として、田中裁判官を裁判長とする最高裁大法廷は憲法37条1項の「公平な裁判所」ではなかったので、大法廷破棄判決に拘束される立場にあった確定審裁判所としては、実体審理を行うことができず免訴判決をすべきであった。
⇒刑訴法435条6号に基づき再審免訴を求めた。

 
<主張> 
最大判昭和47.12.20(高田事件)が、
憲法37条1項の「迅速な裁判を受ける権利」が侵害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、非常救済手段として、憲法37条1項により審理を打ち切ることができ、その方法は免訴は免訴判決によるとした先例に依拠し、
砂川事件における憲法37条1項の「公平な裁判所による裁判を受ける権利」の侵害も、刑訴法337条各号に定める免訴事由以外の非類型的免訴事由にあたると主張。
 
<規定>
刑訴法 第337条〔免訴の判決〕
左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
一 確定判決を経たとき。
二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
三 大赦があつたとき。
四 時効が完成したとき。

憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<原決定>
「免訴判決の理論的な可否」について問題となりうることを認識しながら、
証拠の新規性を認めたが、
①田中裁判官の駐日大使等との接触は司法行政事務を総括する立場の最高裁長官としての固有の権限内の行為であった
②発言内容は一般論や抽象的な説明であり一方当事者に有利に偏重するようなないようでない

田中裁判官が不公平な裁判を行う虞があったと合理的に推測することはできない。
⇒再審請求を棄却。
 
<判断> 
刑訴法435条6号の再審免訴事由は同法337条各号に定められた免訴事由に限定されるものであり、非類型的免訴事由は認められない。 
 
高田事件最高裁判決について、本判決は、
A:憲法的免訴説:
極めて例外的な特殊事件の救済のため憲法37条1項を直接の根拠とした超法規的免訴であって、刑訴法337条に非類型的免訴事由を認めたものではない
に立つことを明言。

憲法37条1項の「公平な裁判所による裁判を受ける権利」の侵害を理由とする再審免訴の請求は、そもそも刑訴法337条各号の再審事由に該当しない

砂川事件を審理した最高裁大法廷が「公平な裁判所」を構成していなかった事実を証明するために提出した証拠の新規性および明白性を判断するまでもなく、再審請求は認められないと結論づけた。
 
<解説>
本決定は、 非類型的免訴事由による再審請求は認められない
⇒原決定が法律問題を「留保」して、先に、最高裁大法廷が「公平な裁判所」を構成していなかったといえるかという前提事実につき判断を加えた手法を「不適切」とする。
but
学説が分岐している法律問題を一旦棚上げにしたうえで、通常の6号再審請求の場合と同様に、立証命題に関する提出証拠の新規性と明白性の判断から始めるという手法が必ずしも「不適切」であったとはいえない

高田事件最高裁は寝k津の位置づけを憲法的免訴と理解したとしても、
刑訴法435条6号の再審免訴事由を同法337条各号の免訴事由とは別位に理解し、同条各号の免訴事由に加えて憲法的免訴を読み込むことも可能
論理必然的に前記法律判断を先行させるべきであったとは断定できない。

判例時報2364

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2018年5月22日 (火)

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」

知財高裁H29.3.7      
 
<事案>
控訴人(一審原告)は、平成23年9月15日、発明の名称を「フラッシュ様式での光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」とする発明につき、優先日を平成22年9月15日とし、フランス国特許庁を受理官庁として、国際特許出願(本件出願)。
国内書面提出期間の経過後である平成25年5月21日に明細書等翻訳文などを提出することにより、国内書面に係る手続
but
特許長官より、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなく、指定国である我が国における本件出願は取り下げられたものとみなされるとして、本件手続を却下する旨の本件処分。

控訴人には国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなくなったことについて、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるとして、本件処分の取消しを求める事案。
 
<規定>
特許法 第184条の4(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)
4 前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなつた日から二月以内で国内書面提出期間の経過後一年以内に限り、明細書等翻訳文並びに第一項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
 
<判断> 
控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、「正当な理由」があるということはできない⇒控訴棄却。 
 
特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当たっては、
①特許協力条約に基づく国際出願の制度は、国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって、我が国において、当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというもの
同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自己責任の下で、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められる
②国内書面提出期間経過後も、当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて、第三者に関し負担を負わせることを考慮すること
を考慮する必要。

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは、
「特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき」をいうものと判断。

本件出願に係る手続の委任を受けた特許事務所が、本件出願の処理に当たり、移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない
⇒同項所定の「正当な理由」があるということはできない
 
<解説>
特許法条約(PLT)において手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を惹起した場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として「Due Care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意でない) のいずれかを選択することを認めており(PLT12条)、
同規定に沿った諸外国の立法例として、例えば、欧州においては「Due Care」基準を選択。
日本は当時PLTに未加盟であったが、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人について、期限の徒過があった場合でも、柔軟な救済を図ることにしたもの。

判例時報2363

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2018年5月21日 (月)

容易想到性についての判断が問題となった事例

知財高裁H29.3.21      
 
<事案>
X1は、発明の名称を「摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット」とする特許出願をし、設定登録を受けた(本件特許)。
X2は、本件特許権の一部を譲り受け、特定承継を原因とする一部移転登録をした。
Yの特許無効審判請求について、特許庁は、特許請求の範囲請求項1、5ないし7及び9に係る発明についての特許を無効とする審決。
(本件発明一は、引用発明一及び引用発明二等に基づいて当業者が容易に発明をすることができた)

Xらは、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、取消事由として、容易想到性の判断の誤りを主張。
 
<判断>
相違点五(本件発明一が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が、筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し、引用発明一は特定していない点)
に係る容易想到性の判断の誤りを指摘し、本件審決を取り消した。

両発明(引用発明一と引用発明二)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる。
⇒当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを想到するとはおよそ考え難い。

仮に、当業者が引用発明一に引用発明二を汲ん見合わせたとしても・・・引用発明二の摩擦具九は、筆記具とは別体のもの。

当業者において両者を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具九(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点五に係る本件発明一の構成に至らない。

仮に、当業者において、摩擦具九を筆記具の後部ないしキャップに装着することを想到し得たとしても、
引用発明一に引用発明二を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれた、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、
これを基準に摩擦体(摩擦具九)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、
相違点五に至る本件発明一の構成に至る。

このように引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点五に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない
 
<説明>   
特許庁の審決と判断を分けた点: 

引用発明一(主引用発明)と引用発明二(副引用発明)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる
当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難いとした点。

主引用例と副引用例を組み合わせて本件発明に至るためには、これを組み合わせる動機付けが必要

動機付け有無の判断
~両発明の技術分野の関連性、課題の共通性・作用や機能の共通性、引用例に適用の示唆があるか否か等の点から、構成の組合せを阻害する要因があるか否かも含めて、、総合的に検討するのが現在の実務。
 
●当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、摩擦部を備えた摩擦体を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点に係る本件発明の構成には至らない、とした点。 

主引用発明に副引用発明を組み合わせた場合に、相違点に係る本件発明の構成に至らなければ、容易に想到できたものとはいえないが、これは、副引用発明をどのように認定するか、という点にもかかわる問題。

引用発明を上位概念化・一般化して認定することは、常に誤りとはいえないが、これが許されるのは、本件発明との対比における特徴的部分に相違がないような場合に限られよう。
そうでなければ、本来、正しく認定した当該副引用発明だけでは本件発明に想到できない場合にも、容易に想到できるという判断になりかねない。

 
●さらに、引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点5に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない、とした点。 

主引用発明と副引用発明を組み合わせることを想到し得たとしても、両発明を組み合わせた上で、さらに本件発明に至るためにさらにもう一段の周知技術等を組み合わせるといった判断手法は許されない。
 
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2018年5月20日 (日)

特殊詐欺の事案で「だまされたふり作戦」の場合の「受け子」の詐欺罪の成否

名古屋高裁H28.9.21(①事件)
福岡高裁H29.5.31(②事件)      

<事案>
特殊詐欺の事案で、犯人と思しき者からの電話を受けて不審に思い、警察に相談した被害者が、警察の依頼を受け、だまされたふりをして、模擬現金ないし空の荷物を準備し、受け取りに来た現金受取役に交付しあるいは指定された送付先に送付て、これを受け取った直後の受取役を警察官が検挙(「だまされたふり作戦」)。 

◆①事件
<事案>
被告人が、氏名不詳者らと共謀の上、氏名不詳者が複数回にわたり当時81歳の男性被害者方に電話をかけ、電話の相手が被害者の息子であり現金300万円を至急必要としているので、被告人方に宛て現金を送付してもらいたい⇒同人が警察に相談し、模擬現金を発送。 
 
<一審>
被告人が共犯者から現金受取の依頼を受けた時点で、被害者は詐欺に気付いて模擬現金入りの荷物の配達依頼をしていた
⇒詐欺の結果発生の現実的危険は既に消滅しており、その段階で詐欺未遂の共謀が成立する余地はない
⇒無罪 
 
<判断>
不能犯と同様の判断方法により、被害者が既に警察に相談して模擬現金入りの荷物を発送したという事実は、被告人及び共犯者らが認識していなかったし、一般人が認識し得たともいえない
この事実は詐欺未遂の結果発生の現実的危険の有無の判断に当たっての基礎事情とすることはできない。

被告人について共謀が認められるのであれば詐欺未遂罪が成立する余地がある
(本件では共謀を否定して控訴棄却) 
 
◆②事件
<事案>
被告人は、氏名不詳者らと共謀の上、当時84歳の女性被害者がロト6に必ず当選する「特別抽選」に選ばれたことによって当選金を受け取ることができると誤信しているのに常時、同人から現金をだまし取ろうと考え、氏名不詳者が電話で被害者に対し、150万円を支払えば「特別抽選」に参加できる旨のうそを言ってその旨誤信させ、同人から現金の交付を受けようとしたが、同人が警察に相談し、現金が入っていない箱(本件荷物)を発送したためその目的を遂げなかった。
⇒現金受取役として起訴。 
 
<判断>
欺罔行為の終了後に財物交付の部分のみに関与した者についても、本質的法益(個人の財産)の侵害について因果性を有する⇒詐欺罪の共犯と認めていい。
その役割の重要度⇒正犯性も肯定できる。
承継的共同正犯を肯定。 

被告人が加担した段階で法益侵害に至る現実的危険性があったかを判断するに当たっては、一般人が、その認識し得た事情に基づけば結果発生の不安を抱くであろう場合には、法益侵害の危険性があるとして未遂犯の当罰性を肯定してよく
敢て被害者固有の事情まで観察し得るとの条件を付加する必要性は認められない。

本件でだまされたふり作戦が行われていることは一般人において認識し得ず、被告人ないし共犯者も認識していなかった
⇒これを法益侵害の危険性の判断に際しての基礎とすることは許されない。

被告人が本件荷物を受領した行為を外形的に観察すれば詐欺の既遂に至る現実的危険性があった

被告人に詐欺未遂の共同正犯が成立。
 
<解説>
●特殊詐欺に後発的に参加した場合と承継的共同正犯 
被害者に対する欺罔行為が行われた後、はじめて犯行に加担し、被害金の受取行為のみに関与した者を詐欺罪の共同正犯として処罰できるか?
=承継的共同正犯の成否

最高裁H24.11.6:
他者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後、被告人が共謀に加わり、更に被疑者に暴行を加えて傷害を相当程度重篤化させた
被告人は、被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については傷害罪の共同正犯としての責任を負わず、共謀に加わった後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてのみ傷害罪の共同正犯としての責任を負う

千葉補足意見:
承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては、強盗、恐喝、詐欺等の罪責を負わせる場合には、共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち、犯罪が成立する場合があり得る⇒承継的共同正犯の成立を認め得る。
 
●いわゆる「だまされたふり作戦」が行われ詐欺が未遂に終わった事案において、財物交付の部分のみに関与した共犯の罪責 
 
◎不能犯と同様の判断手法を用いるべきか
承継的共同正犯の成立を認める場合、だまされたふり作戦が行われた事案で財物交付の部分のみに関与した者について詐欺未遂罪の成立を認めることができるか否かは、受け子の受領行為によって詐欺未遂罪の結果(=詐欺の結果発生の危険性)が生じたといえるかによって定まる。

だまされたふり作戦が実行された段階においては、被害者は錯誤に陥っておらず、警察に協力して模擬現金等を発送しているにすぎない⇒詐欺罪が実現する可能性は客観的には全く存在しない。
=不能犯の成否が問題となる場合と類似。
 
◎未遂犯と不能犯の区別
具体的危険説:
行為当時に行為者が実際に認識していた事情及び一般人が認識し得たであろう事情を基礎とし、一般人の立場から事後的かつ客観的に犯罪実現の危険性の有無を判断
 
●②事件につき、最高裁H29.12.11で詐欺未遂罪の成立を肯定。 

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2018年5月19日 (土)

児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材としたCGについての児童ポルノ等処罰法の事案

東京高裁H29.1.24      
 
<事案>
被告人が、不特定又は多数の者に提供する目的で、児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材としてコンピュータグラフィックス(CG)を作成し、そのCG集をインターネットを通じて不特定又は多数の者に販売したという、児童ポルノの製造及び提供の事案。 
 
<規定> 
児童ポルノ等処罰法 第2条(定義)
この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。

3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
 
<判断>
●本件CGが「児童の姿態」(2条3項)を描写したものといえるか
児童の権利侵害を防ぐという児童ポルノ等処罰法の趣旨
実在する特定の児童を描写したといえる程度に製造されたものとその被写体が同一である場合には、その児童の権利侵害が生じ得る

必ずしも、被写体となった児童と全くの同一の姿態、ポーズでなくても、「児童の容姿」に該当する。

通常の判断能力をもつ一般人が、社会通念に照らして、実在する児童と同一であると認識できる場合には、当該描写行為等が処罰の対象となることを認識できる
⇒刑罰法規の明確性を害しない。

表現の自由との調整の必要性を認めた上で、
その判断基準としては、
当該画像等の具体的な内容に加え、それが作成された経緯の作成の意図等のほか、その画像等の学術性、芸術性、思想性等も総合して検討し、
性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には、
「性欲を興奮させ又は刺激するもの」には当たらない。
本件CGはそのような観点から児童ポルノ該当性が否定されるとはいえない。
 
●児童ポルノを製造した時点、及び法施行の時点において、18歳未満であることを要するか? (本件は、昭和50年代に出版された少女の写真集等を基に作成)
①児童ポルノ等処罰法が、児童ポルノの製造行為を児童に対する一種の性的搾取ないし性的虐待とみなし、児童の承諾があるときも含めて一律に児童ポルノとして規制を及ぼしている

同法の保護法益は、
個別の児童の具体的な権利にとどまらず、
児童一般の保護にも及んでおり、
さらには、
未熟で判断能力が十分でない児童を保護するという後見的見地から、
現に児童の権利を侵害する行為のみならず、
児童の性欲の対象として捉える社会的風潮が広がるのを防ぐことにより、
将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防ぐという意味での社会的法益
の保護も含まれる。
②製造等の時点で被写体が既に18歳未満でなくなっていたとしても、児童ポルノとしていったん成立した画像等は、児童の権利侵害が行われた記録として、児童ポルノの性質が喪われることはなく、法施行の時点で既に児童でなかったとしても、法が規制しようとした前記のような危険性は同様

いずれの場合も処罰の対象となり得る

●タナ―法という性発達の評価方法について、
基本的な理論の合理性自体は是認した上で、限界もあることを前提に、
身体全体の発達の程度も加味して検討するという原判決の判断手法を概ね是認。 

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2018年5月18日 (金)

学校法人が設置・運営する大学における勤務延長教員の年俸額を減額する給与支給内規の変更が無効とされた事例

札幌地裁H29.3.30      
 
<事案>
本訴:
学校法人Yとの間でそれぞれ雇用契約を締結し、Yが私立学校法に基づき設置・運営するA大学において教員として勤務し、あるいは勤務していたXらが、
①Yが行った本件大学における勤務延長教員の年棒額を最大で4割減額する給与支給内規の変更は、合理性なく就業規則を不利益に変更するものとして無効⇒
Yに対し、旧内規又は労働協約に基づき、本件内規変更により減k額された差額部分の未払給与及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、
Xらの一部の者らが、将来分の賃金の支払も請求
②Yの違法な内規変更により精神的苦痛を被った⇒民法709条に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

反訴:
仮本件内規変更全体の合理性が認められないとしても、本件内規変更が段階的に年俸制を減額する限度で合理性が認められることによりその一部が有効
⇒本件内規が一部有効であることの確認を求めた
 
<争点>
①本件反訴の確認の利益の有無
②本件内規変更の合理性の有無
③本件内規変更を一部無効とする判断の可否 
 
<規定>
労働契約違法 第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第一〇条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本件内規変更は無効⇒
本件内規変更により減額された差額部分の未払給与及びこれに対する各月の給与支給日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づく遅延損害金の支払を求める請求は棄却。
Xらの一部の者らの将来賃金の支払を求める訴えは却下。
 
●慰謝料請求について:
本件内規変更が社会通念上著しく相当性を欠くものとしてXらに対する不法行為を構成するとはいえない⇒棄却。 
 
●Yの反訴請求: 
Xらの口頭弁論終結時において既に本件大学をを退職している者らに対する訴え:
同人らが本件大学を退職したことにより、Yが同人らに対して負う未払賃金請求権の内容は既に確定⇒確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして却下。

その余の請求:
本件内規経脳が部分的に合理性を承認し得るものであったとしても、一部有効とする部分を労使間の法律関係を規律するのに相当なものとして特定するための客観的基準は存在しない

裁判所が本件内規変更の一部につき効力を認めることは相当でなく、結局、本件内規変更は全体として無効。
 
<解説>
●本件内規変更が就業規則の不利益変更に当たると認定し、
本件内規変更の合理性(労契法9条、10条参照)の有無に関し、
賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更につき、
当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。(最高裁H9.2.28)

上記最高裁も総合考慮するとした
使用者側の変更の必要性の内容・程度
就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、代償措置の有無
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
労働組合等との交渉の経緯等

高度の必要性に基づく合理的なものであったとすることはできず、本件内規変更は無効。

●千葉地裁H20.5.21は、不法行為の成立についても肯定し、
精神的苦痛に対する慰謝料の支払請求も認容。 

●国立大学法人の就業規則の変更による退職手当の減額措置の合理性が問題となった裁判例
~国家公務員退職手当法の改正等に準じて支給水準が引き下げられたものであり、本件とは事案を異にする。

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2018年5月17日 (木)

司法修習生の給費制の廃止が争われた事案

大分地裁H29.9.29      
 
<事案> 
67期司法修習生であった原告らが、
平成16年改正法による裁判所法の改正によって、いわゆる給費制を廃止したことは、憲法に違反し無効であると主張⇒被告に対し、同改正前の裁判所法67条2項に基づき、未払給与の内金の支払を求め
内閣総理大臣が、平成16年改正法案を国会に提出する等した行為及び国会議員が平成16年改正法を立法した行為は、いずれも国賠法違反であると主張⇒同法1条1項に基づく損害賠償金の内金の支払を求めた。
 
<争点>
①平成16年改正法は、憲法上の要請である給費制を廃止した点で、違憲無効であるか
②平成16年改正法は、憲法27条1項及び2項に違反し、違憲無効か
③被告の国賠法上の責任の存否
④原告らの損害
 
<判断>
●争点①について: 
憲法は法曹養成制度の在り方について明文の規定を欠いている上に、法曹養成制度の在り方について具体的に示唆する規定も有しない
具体的な法曹養成の在り方については、立法に委ねられている

そのあり方については、その制度設計によって、国民の多くが法曹三者を志すことを断念せざるを得ず、司法制度が、憲法から要請される機能を維持できなくなる場合など、司法制度が実効的に機能するための人材を育成し、法曹三者の相互理解を深めるという法曹養成の目的に照らし、著しく不合理な制度であるといった特段の事情がない限り、立法の裁量に委ねられていると解するのが相当。

給費制の廃止は、給費制の廃止に至る議論の内容や経緯等に照らし、著しく不合理とはいえない⇒違憲であるとはいえない。
 
●争点②について 
憲法27条1項にいう「勤労」に該当するためには、使用者の指揮監督下において労務の提供をすることが必要であり、
労務の提供に当たる行為は、他者のための労務の遂行という性質を有するものをいい、
専ら教育的な性質のみを有し、教育を受ける者の研さんのみを目的とする行為は含まれないと解するのが相当。

司法修習生については、司法修習生の権限、司法修習の具体的内容及び司法修習生の身分等に鑑み、
専ら教育的な性質を有し、司法修習生の研さんのみを目的とするものというべきであり、
他者のための労務の遂行という性質を持つとは考え難く、
国に対する労務の提供には当たらない
判例時報2363
 

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2018年5月16日 (水)

市の設置管理する公園に関する使用許可申請に対する不許可決定が違法とされた事案

大阪高裁H29.7.14       
 
<事案>
中小業者の営業と生活の繁栄を図ることを目的とする団体であるXが、
Y(松原市)の設置管理する本件公園につき使用許可申請
⇒Yの市長がこれを不許可

本件不許可決定は集会の自由を定める憲法21条1項に違反し、かつ、市長の裁量権を逸脱濫用したものであり、違法であると主張し、Yに対し、国賠法1条1項に基づき、231万円余の損害賠償金の支払を求めた。 
 
<一審>
本件不許可決定は違法⇒Yに対して、90万6200円の支払を求める限度で、請求を認容。
 
<判断>
都市公園という本来独占的利用のみを前提とした施設でない公の施設であっても、集会等の催しのための独占的利用が元々の都市公園の設置目的から外れるとは解されない
Yの審査基準に定めた市の後援・協賛の許可という要件は、公園の占有利用の許可を決定する要件としては不要であり、有害にもなりかねない。
③その他の原判決の判断の通り。

Yの控訴を棄却。 
 
<規定>
地方自治法 第244条(公の施設) 
普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。

2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない

3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。
 
<解説>
地自法244条2項⇒本件公園についての利用申請は正当な理由が無い限り拒否できない。
Yにおいては、公園の使用許可について審査基準を設けているところ、「市の協賛・後援の許可」を要件。
but
一般に、施設の利用を拒む「正当の理由」とは、
使用料を支払わない場合、利用者が施設の定員を超える場合、その者に施設を利用させると他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険が明白な場合等がこれに当たるとされる。

最高裁H8.3.15:
「管理上支障があると認められるとき」も「正当の理由」に当たるものとした。
but
市の協賛・後援の許可がないことは、「正当の理由」に当たらない。

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2018年5月14日 (月)

刑法19条2項(没収)の「犯人以外の者に属しない物」の該当性判断における心証の程度(=確信まで必要)

大阪高裁H29.6.8    
 
<事案>
被告人2名が、氏名が特定された共犯者7名及び氏名不詳者らと共謀の上、
金地金130キロ(130枚)及び腕時計589個(課税価格合計約10億7040万円(「本件物件」))を不正に輸入しようとするとともに、消費税等を免れようとしたが未遂に終わった、関税法違反等被告事件の控訴審。 

原審の第1回公判期日後に、参加人が、自らが本件物件の所有者であるとして刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法に基づく参加の申立て。
 
<規定>
刑法 第19条(没収)
次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物
2 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
 
<原判決>
本件物件は、密輸の犯罪行為の組成物件であり、その実質的な所有者は密輸入についての香港側業者あるいはこれに密輸入を依頼した荷主とみるのが相当であって、これらの者は共犯者に当たる
⇒本件物件は、「犯人以外の者に属しない物」に当たるとして没収。 
   
参加人のみが控訴
 
<判断> 
本件密輸の背景事情に関して、
被告人を含む密輸の上位者グループは、香港側業者とは若干の若干の接触がある程度で、もっぱら香港側の元締め的立場にあるD7(共犯者の1人として挙示されている。)を介してコミッション料の決定や提供等を受けており、
密輸を依頼した香港側業者とD7の関係、あるいは荷主の人物像や物件の調達元等の事情は証拠上明らかでない。 
本件物件につき、「犯人以外の者に属しない物」と認定するには合理的疑いがある⇒原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある
⇒原判決中、前記没収に係る部分を破棄。
 
<解説> 
●没収の要件に関する事実:
A:厳格な証明を要する(多数説)
←刑罰権の存否あるいはその範囲を定める事実 
没収要件に関する事実は、
それが罪となるべき事実に含まれるか、あるいは犯罪事実と不可分の事実であれば厳格な証明を要し、加えて当該事実の認定については、特段の理由がない限り、確信(合理的な疑いを容れない程度の証明)を要すると考えるのが、一般的な理解。
 
●本件没収の要件に関わる事実は、
本件物件が密輸の組成物件であり、かつその物の所有関係は犯罪事実の共犯関係と密接不可分のもの
罪となるべき事実に属する
厳格な証明と、確信(合理的な疑いを容れない程度の証明)が必要

所有者が、正規業者を装った密輸業者に騙されて輸出手続を依頼したり、輸出を依頼した業者から更に密輸業者に委託される場合等もあり得る
⇒こうした可能性があることも十分に踏まえた上で、香港における物件の調達状態等の点につき、より詳細な事実解明がされるべき。

その場合、検察側は、没収求刑の前提として、密輸品の送付元(外国)側の取引・交渉事情等について捜査及び立証の負担を負う事案が増加する可能性があり、捜査・立証に諸々の困難が伴う。

原審検察官:
①参加人が主張する内容の契約につき、密輸を前提としなければ相手方に経済的合理性がない、とか、契約書等が作成されていないのが不自然である等、主に経験則の観点から主張し、あるいは、
②参加人が提出したインヴォイス(仕送状)の作成の真正にも疑問を提示
but
本件判決は、検察官によるこれらの主張をいずれも排斥。

経験則等による主張を超えた、より具体的な立証のあり方を模索する必要に迫られる

判例時報2362

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2018年5月13日 (日)

窃盗保護事件で少年を第一種少年院に送致する決定が不当であるとされた事案

東京高裁H29.2.9      
 
<事案>
少年が大型ショッピングモール内の雑貨店で万引きした事案。
被害額がさほど高額でなく、被害品が全て還付された比較的軽微なもの。 
 
<原審>
①万引きの手慣れた態様と、2回の万引きによる保護歴の存在
⇒この種の非行に対する抵抗感の薄さがうかがえ、現時点で非行性が大きく進んでいるとは言えないが、資質上の問題が顕在化すれば、再非行のおそれが高い。
②少年にはその資質上の問題性があるほか、母及び養父は少年に拒否的な対応を続け、仮定での引き取りを拒否しており保護環境は悪い。

付添人が主張する施設の受入れによっても、現時点では、少年が社会内で自律的な生活を送りながら更生していくことは困難。

第一種少年院送致を相当。

短期間の処遇勧告。
←少年が明確な枠組みの中では従順であり、一定の理解力を有することから、短期集中的な処遇により相当の効果が期待できる。
 
<判断>
原決定は、少年の要保護性及び社会内処遇の可能性に関する評価を誤っており、第一種少年院送致とすることは、短期間の処遇勧告を伴っていたとしても、処分の相当性を欠いており、著しく不当
⇒原決定を取り消して、本件を原審支部に差し戻した。
 
<解説>
少年の非行性は必ずしも深化しているとまではいえないが、看過できない問題性が認められる一方、
適切な保護環境や社会資源が見出せない事案は、
実務上珍しくない。
更生の手がかりとなる保護環境や社会資源がうかがえるのであれば、その利用の余地がないかは十分検討されるべき。 

判例時報2362

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2018年5月12日 (土)

病院情報管理システムを構築する業務委託契約について、ベンダとユーザーの各義務違反が問題となった事案

札幌高裁H29.8.31      
 
<事案>
一審原告、一審被告及び訴外会社は、平成20年12月9日、一審被告が一審原告のために病院情報管理システム(本件システム)を構築し、訴外会社をその所有者として一審原告に本件システムをリースすることを目的とする契約(本件契約) を締結。
but
引渡日(平成22年1月3日)を過ぎて本件システムの引渡しがなされなかったとして、一審原告は、同年4月26日、本件契約を解除する旨の意思表示

第一事件:
一審原告が、一審被告に対し、約定の引渡日までに本件システムを完成して引き渡す債務を履行しなかったと主張⇒債務不履行に基づく損害賠償金19億3567万円余及び遅延損害金の支払を求めた。

第二事件:
一審被告が、一審原告に対して、一審原告の効力義務違反などにより本件システムが完成できなくなった等と主張⇒債務不履行に基づく損害賠償金22億7976万円余及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<原審>
●本件第一事件に係る一審原告の請求のうち、3億6508万円余及び遅延損害金
本件第二事件に係る一審被告の請求のうち、3億8386万円余及び遅延損害金
の支払を求める限度でそれぞれ認容
 
●本契約上、
分類一及び分類二とされた機能は、既存のパッケージソフトの標準機能等をカスタマイズせずにそのまま導入することとされており、
分類三とされた機能に限って、一審原告の要望に従ったカスタマイズが予定されていた。(争点③)

平成21年7月7日に締結された合意(本件仕様凍結合意)により、
一審原告は、同日以降、分類三とされた機能についても、一切の追加変更要望をしないことに合意(争点④)。
ところが、一審原告は、本件使用凍結合意後も、追加変更要望を繰り返した(争点⑤)。
また、一審原告は、本件契約上、既存システムからマスタ・データを抽出して一審被告に提供する義務を負っていたのに、これを怠った(争点⑥)。

本件システム開発が頓挫したのは、一審原告の協力義務違反が1つの原因となっている(争点⑦)。

一審原告による契約解除時点において、本件システムは、8割程度しか完成していなかった(争点②⑧)。

本件プログラム開発が頓挫したのは、一審被告が、一審原告の追加開発要望に翻弄され、本件プログラム開発の進捗を適切に管理することができなかったことが最大の原因(争点⑦)。

本件プログラム開発が頓挫したことについては、一審原告に2割、一審被告に8割の責任があると認めるのが相当(争点⑦)。
 
<判断>
一審被告の責任に関して、原判決と異なり、契約解除時において本件システムはほぼ完成しており(争点②)、本件プログラム開発が頓挫したのは、一審被告のプロジェクト・マネジメント義務違反によるものではなく、一審原告の協力義務違反が原因(争点⑦)。

本件第一事件に係る一審原告の請求を全部棄却する(争点⑧)とともに、
本件第ニ事件に係る一審被告の請求については、債務不履行に基づく損害賠償金14億1501万円余及び遅延損害金の支払を求める限度で、請求を認容(争点⑨)。 
 
<解説>
●契約内容の確定について
契約上開発すべきシステムの内容を明示した技術仕様書等がある⇒当事者間の契約内容も、特段の事情のない限りは、これらの技術仕様書等の記載に従って解釈。

東京地裁H26.10.30:
本件と同じくパッケージソフトをカスタマイズする方法によるシステム開発に関して、「これら(本件仕様書等)に特に記載がない点については、被告が明確に要望として述べていたにもかかわらず原告が本件仕様書等に記載しなかった、又は、本件仕様書等の内容を確認した際に異議を述べたなどの特段の事情がない限り、本件パッケージソフトの仕様を採用するという合意ができていたというべきである」と説示。
本判決も、分類一及びニとされた機能に関する一審被告のカスタマイズ義務を否定。
 
●プロジェクト・マネジメント義務と協力義務について 
ユーザとベンダが互いに協力しながら、システムの内容を確定し、開発を進めていくという特質を有するシステム開発契約について、

東京地裁H16.3.10:
ベンダ(被告)は、自らのシステム開発業務を適切に遂行することはもちろん、「注文者である原告国保のシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しない原告国保によって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告国保に働きかける義務」(「プロジェクトマネジメント義務」)を負っていたとする一方、
ユーザ(原告国保)についても、「本件電算システムの開発過程において、資料等の提供その他本件電算システム開発のために必要な協力を被告から求められた場合、これに応じて必要な協力をおこなうべき契約上の義務」(「協力義務」)を負っていたと判示。

ベンダとユーザが、それぞれプロジェクト・マネジメント義務と協力義務を負っており、その義務違反が債務不履行又は不法行為を構成したり、過失相殺を基礎付けたりし得ることは、そのような語を用いるか否かを問わず、以後の裁判例において一般的に承認されている。

◎ユーザ(一審原告)の協力義務に関して、
本判決は、
本件契約上一審原告の責任とされていたもの(マスタの抽出作業など)を円滑に行うというような作業義務はもちろん、
本件契約及び本件仕様凍結合意に反して大量の追加開発要望を出し、一審被告にその対応を強いることによって本件システム開発を妨害しないというような不作為義務も含まれているものというべき。
一審原告の協力義務違反を肯定

◎ベンダ(一審被告)のプロジェクト・マネジメント義務に関して、
原判決:
システム開発の専門業者である被告としては、納期までに本件システムが完成するよう、原告からの開発要望に対しても、自らの処理能力や予定された開発期間を勘案して、これを受け入れて開発するのか、代替案を示したり運用の変更を提案するなどして原告に開発要望を取り下げさせるなどの適切な対応を採って、開発の遅滞を招かないようにすべき義務があったのに、これを怠った過失がある。

本判決:
一審被告は、プロジェクトマネジメント義務の履行として、追加開発要望に応じた場合は納期を守ることができないことを明らかにした上で、
追加開発要望の拒否(本件仕様凍結合意)を含めた然るべき対応をした
ものと認められる。
これを超えて、一審被告において、納期を守るためには更なる追加開発要望をしないよう注文者(一審原告)を説得したり、一審原告による不当な追加開発要望を毅然と拒否したりする義務があったということはできず
一審被告にプロジェクトマネジメント義務の違反があったとは認められない。 
 
●システム開発の完成度 
原審:契約解除時の本件システムの完成度は8割程度にすぎなかったという事実を認定。

協議の席などにおいて、一審被告の担当者が、システム開発の遅れを謝罪するなどの発言
vs.
一般に、立場の弱いベンダ側が、その後のシステム開発を円滑に進めるために、非を認めるような発言をしたり、そのような記載のある文書を差し入れた利することは珍しいことではなく(大阪地裁H26.1.23)、このような言動を過度に重視することは相当とはいえない

本判決:少なくとも契約解除時には本件システムはほぼ完成しており、一審被告が本来行うべきシステム開発業務自体の遅れは大きなものではなかったとの事実を認定。

総合テストの結果や、完成証明資料などの客観的証拠

判例時報2362

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2018年5月11日 (金)

仮執行宣言に基づく給付と任意弁済

大阪高裁H29.7.25      
 
<事案>
X(NHK)は、Yとの間の放送受信契約に基づき、Yに対し、平成24年12月1日から平成27年9月30日までの放送受信料4万980円と約定遅延損害金の支払を求めた。 
一審は、仮執行宣言を付して、Xの請求を全て認容。
Yは、平成28年10月7日、原判決を不服として控訴。
but
それに先立つ同月4日、Xに対し、受信料と遅延損害金の合計4万8378円の本件支払を行った。
 
<争点>
本件支払が有効な弁済と認められるか。 
 
<判断>
最高裁昭和47.6.15:仮執行宣言付き判決に対して上訴を提起したのちにされた弁済は、それが全くの任意弁済であると認められる特別な事情のない限り、仮執行宣言に基づき給付したものと解すべき。 

Yは、本件において、本件請求権が本件支払前に存在したことを、もはや争っていないものと認めることができる⇒前掲最判にいう「全くの任意弁済であると認めうる特別の事情」があると言える。
⇒本件弁済は、本件請求権に対する弁済の効力を認めるのが相当

原判決を取り消した上、Xの請求を棄却。
 
<解説>
仮執行宣言に基づく給付というためには、必ずしも仮執行によって強制的に取り上げることは必要ではなく、仮執行宣言が原因となって給付がなされていればいいとされている。

本判決は、YがXの本件請求債権の存在を争っていないことなどから、前記の特段の事情があることを認め、全くの任意弁済に当たると判断したもの。

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2018年5月10日 (木)

「渾」の文字と、戸籍法50条所定の「常用平易な文字」

東京高裁H29.5.16      
 
<事案>
Xは、その長男の出生届を戸籍管掌者であるY(東京都目黒区長)に提出したが、同出生届に記載された長男の名は「渾」であった。
⇒Yは、 「渾」の文字は、戸籍法50条及び戸籍法施行規則60条に基づく文字でないとして同出生届を不受理⇒Xは、原審裁判所に対し、同出生届を受理することを命ずる申立て。
 
<規定>
戸籍法 第50条〔子の名の文字〕
子の名には、常用平易な文字を用いなければならない
②常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。
 
<原審>
「渾」は社会通念上明らかに常用平易な文字⇒Yに対して、出生届の受理を命じた。
   
Yが即時抗告
 
<判断>
①「渾身」の文字はインターネット上のニュースサイトでも使用されている
②「渾」の出現頻度は・・・・「卯」等の既に人名用漢字となっている漢字の出現順位を上回った
③「渾」は文字の構造・字形が複雑でなく平易な文字であり、その字義も推測できるものである
④「渾」はJIS第2水準の監事
「渾」は社会通念上明らかに常用平易な文字であると認められるとして、Yの抗告を棄却。

判例時報2362

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2018年5月 9日 (水)

弁護人が証拠に同意but被告人の言い分は供述調書の内容と対立⇒被告人本人に証拠意見を確認すべきであったとされた事例。

大阪高裁H29.3.14      
 
<事案>
罪状認否で、被告人は、公訴事実は間違いない旨述べ、弁護人も同意権である旨述べた。
検察官の被害者の供述調書等の証拠調請求⇒弁護人「同意、ただし信用性を争う」⇒裁判所はこれらを採用して取調べ。
第2回公判期日で被告人質問⇒被告人の言い分は、被告人が暴行に至った経緯や暴行の態様等について、それらの供述調書の内容と対立するものであることが判明。
but
裁判所は、被告人本人に証拠意見を確認することなく、それらの供述調書を排除せず、被害者らの証人尋問をすることもなく証拠調べを終了
 
<判断>
弁護人は、被害者らの供述証拠を証拠とすることに同意することなく、証人尋問において反対尋問によりその信用性を争うべきであり、それが被告人の真意に沿う弁護活動であったとに、「同意、ただし信用性を争う」との証拠意見を述べたのみで、裁判所がそれらの供述調書を採用するに任せ、これらに対する積極的な弾劾活動をしなかった⇒被告人の重要な主張を無にするもので、被告人の真意に沿わない。 

裁判所としても、被告人の言い分がそれらの供述調書と対立することが明らかになった段階で、弁護人の証拠意見が被告人の真意に沿うものかどうかを確認し、真意に沿うものであることが確認できない限り被告人の同意としての効力がないものとして証拠排除しなければならなかったのに、排除せずに有罪認定の資料としたのは違法。
⇒原判決を破棄して差し戻し。
 
<解説>
最高裁昭和27.12.19:
被告人において全面的に公訴事実を否認し、弁護人のみがこれを認め、その主張を完全に異にしている場合においては、
弁護人の答弁(証拠調請求に異議がない)のみをもって、被告人が書証を証拠とすることに同意したものといえない

裁判所は弁護人とは別に被告人に対し、証拠調請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなければならない

判例時報2361

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2018年5月 8日 (火)

社会保険庁廃止に伴う同庁職員らに対する分限免職処分が争われた事案

東京地裁H29.6.29      
 
<事案>
法律の改正により社会保険庁が廃止。
社保庁朝刊又は東京社会保険事務局長が、国公法78条4号に基づいて、平成21年12月25日付けで同月31日限り社保庁の職員であったXらを分限免職する旨の各処分⇒
Xらが、Y(国)に対し、
本件各処分は、同号の要件に該当せず、仮に同号の要件に該当するとしても、裁量権の範囲逸脱し又はこれを濫用した違法なもの⇒本件各処分の取消しを求める。
②本件各処分が不法行為又は債務不履行に当たる⇒国賠証1条1項又は民法415条に基づく損害賠償として、それぞれ330万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
国家公務員法 第78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
 
<判断>   
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法。
X3に対する本件処分は違法。
損害賠償請求については、いずれも理由がない。 
 
●本件各処分の適法性 
国公法78条の文言⇒同条に基づく分限処分は裁量処分であると解される。

国公法78条4号に基づく分限免職処分は、被処分者に何ら責められるべき事由がないにもかかわらず、その意思に反して免職という重大な不利益を課す処分

①同号の解釈上、本件の処分権者である社保庁朝刊等は、最終的な分限処分の段階に至るまでに、可能な範囲で、廃職の対象となる官職に就いている職員について、機構への採用、他省庁その他の組織への転任又は就職の機会の提供等の措置を通じて、分限免職処分を回避するための努力を行うことが求められる
このような努力の内容や程度については、法令上、明文の規定はなく、基本的に社保庁長官等の裁量に委ねられているというべきであるが、
例えば、社保庁長官等において分限免職処分を回避するための容易かつ現実的な努力をすることが可能であり、当該努力をしておれば、特定の職員について分限免職処分を回避することができた相応の蓋然性があったにもかかわらず、社保庁長官等において当該努力を怠った結果、分限免職処分に至ったものと認められるような事情があるときは、
当該職員に係る分限免職処分については、裁量権の逸脱又は濫用があった違法なものとして、その効力は否定されるべきである。

X1及びX2に対する本件処分:
両名はいずれも懲戒処分歴があり、機構等への採用資格がなかった⇒社保庁長官等は、その権限の及ぶ範囲内で分限免職回避のための努力を尽くしたといえ、裁量権の免脱又は濫用があったとはいえない。

X3に対する本件処分:
(1)
①X3には懲戒処分歴がなく機構の正規職員としての採用を第一希望としていた
②平成21年2月時点におけるX3の健康状態につき、医師が機構採用基準に適合すると判断しており、別の医師もリハビリ勤務が可能としており、いずれも職務復帰を前提とした評価をしている
同時点の健康状態を前提にすれば、X3は、機構採用基準に照らせば、正規職員としても採用され得たというべき。
(2)現にX3は、准職員としては採用の内定を受けていた。
(3)X3が正規職員として採用されなかった理由は、機構採用基準を満たしていても面接時において病気休職中の者は正規職員としては採用しないとうい本件内部基準以外に見当たらない。

社保庁長官は、機構設立委員会に対し、少なくとも、その時点で生じている欠員分程度の人数について正規職員として追加採用するよう検討を依頼する程度のことは考慮すべきであったといえ、仮に、正規職員の追加募集がされていたならば、X3が正規職員として採用された相応の蓋然性もなお十分に存した

分限免職回避努力義務を尽くさなかったことにより、裁量権の逸脱又は濫用があったとして違法
 
●国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について、
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法
X3の動向に基づく損害賠償請求権は消滅時効の援用により消滅

いずれも理由がない。 

判例時報2361

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2018年5月 7日 (月)

存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力が及ぶ範囲

知財高裁H29.1.20      
 
<事案>
本件特許を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人の製造販売に係る各製剤は、本件特許の願書に添付した明細書(「本件明細書」)の特許請求の範囲の請求項一に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、一審被告による一審被告各製品の生産、譲渡及び譲渡の申出(生産等)に及ぶ旨主張⇒一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<判断>
存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた前記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。

医薬品の成分を対象とする物の特許発明について、
政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか1つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、
僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、
特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、
政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の常識を踏まえて判断すべき
前記限定の場合において、

①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明にに関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合
②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容の照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき
③政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合、
④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合は、

対象製品と政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」の間の差異はわずかな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。
 
<規定>
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<解説>
存続期間が延長された場合の特許権の効力は、特許法68条の2において、その特許発明の全範囲に及ぶのではなく、その延長登録 の理由となった政令で定める処分の対象となった物についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばないと定められている。

特許法68の2の
「物」は有効成分を
「用途」は効能・効果を
意味するものと解されてきた。

医薬品の品目の特定のために要求されている各要素のうち新薬を特徴づけるものは「有効成分」と「効能・効果」であると考えられていた。
but
知財高裁H21.5.29:
「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合、「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味し(この「成分」は、薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されない。)、かかる「物」についての当該特許発明の実施、及び当該薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ、延長特許権の効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

従来よりも延長特許権の効力の及ぶ範囲を狭く解したもの。

知財高裁H26.5.30:
特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨

延長特許権は「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

同判決は、「分量」については、医薬品の構成を客観的に特定する要素となり得るものの、競業他社が、本来の特許期間経過後に、特許権者が臨床試験等を経て承認を得た医薬品と実質的に同一の用法・用量となるようにし、分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは、延長登録制度を設けた趣旨に反することになる⇒延長特許権の効力を制限する要素となると解することはできないとして、特定要素に含めなかった。

判例時報2361

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2018年5月 6日 (日)

咽喉部に装着された人工呼吸器のため発話が聞き取れない⇒聞き慣れた者を通訳人として作成された公正証書遺言の効力が争われた事例

東京地裁H27.12.25      
 
<事案>
①平成24年8月10日付け遺言公正証書による遺言(「前遺言」)
遺言者亡Aの一部の株式以外の全財産遺言者の長男、長女及び二女であるX、Y2及びY3に各3分の1の割合で相続させる。
②同年12月11日付け遺言公正証書による遺言(「本件遺言」)
前遺言の前記条項を撤回し、
遺言者亡Aのの一部の株式以外の全財産を、Y2及びY3に各2分の1の割合で相続させるものとされた。

Xが、
①前遺言及び本件遺言において遺言執行者として指定されたY1並びにY2及びY3に対し、通訳人の通訳により遺言内容の申述のされた本件遺言が遺言能力の欠如及び方式違反により無効であることの確認を求めるとともに、
②Y2およびY3に対し、
本件遺言に基づいてY2及びY3がそれぞれ払い戻した亡Aの預貯金につき、不当利得返還請求として、前遺言によるXの指定相続分3分の1に相当する金員及びこれに対する相続開始の日の翌日から支払済みまで民法所定の法定利率により遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
本件遺言(公正証書遺言)の無効事由の有無であり、
①遺言者の遺言能力(亡Aの意思能力)の欠如の有無
②通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無
③通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか)
 
<規定>
民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

民法 第974条(証人及び立会人の欠格事由)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
 
<判断>
●争点①(遺言者の遺言能力の欠如の有無) 
・・・・
本件遺言はは、亡Aの心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時それを示し得る事柄について行われたものと認めるのが相当。
⇒本件遺言は遺言者の遺言能力を欠くものとはいえない

本判決の判断:
公正証書遺言の当時における遺言者の遺言能力(意思能力)の欠如の有無が争われた事案において、
遺言者が代表者を務める会社の経営の承継等をめぐる親族間の紛争の経緯を詳細に認定した上で、
当該紛争の推移と遺言者の病状の推移を時系列的に対比させながら
遺言者の意向や状態を子細に検討
 
●争点②(通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無)
公正証書遺言の方式の特則として新設された民法969条の2の立法趣旨
遺言者の口述(口授)を公証人が聴取して筆記するという同法969条所定の手続が遺言者の言語機能障害や聴覚障害等のために困難である場合でも、
遺言内容の正確性の確認が担保される方法である通訳人の通訳による申述又は自署をもって口述(口授)に代えることにより、様々な利点のある公証人の関与の下での公正証書遺言の利用を可能にすること

同法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合には、言語機能障害のために発話不能である場合のみならず、聴覚障害や老齢等のために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれると解するのが相当。

本件のように、老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も、これに含まれる。

①上記のような民法969条の2の立法趣旨及び②同条1項にいう「口がきけない」場合の意義等
同項にいう「通訳人の通訳」は、遺言内容の正確性の確認が担保される方法である限り、手話通訳のほか、読話(口話)、蝕読、指点字等の多様な意思伝達方法が含まれるものと解され、同項の法文上も通訳の方法や通訳人の資格に何ら限定は付されていない。

本件のように、発話者が老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難であり、自ら聞きとったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期する必要がある場合に、
頻繁に発話者を見舞って会話をしていた経験から、聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより発話の内容を理解することができる者が、その判別により理解した内容を公証人に伝え、公証人が自ら聞き取ったと思う内容と符合するかを確認するという方法も、同項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれる。

同法969条の2第1項の通訳人について証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないのは、通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等(証人や立会人との差異)を考慮したことによるものと解され、
「口がきけない」場合の範囲を殊更に狭義に限定して解釈しないからといって、証人や立会人に係る欠格事由の規定の趣旨に抵触するものとはいえない
 
●争点③(通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか))
同法969条の2第1項の通訳人について、証人及び立会人に関する同法974条各号の規定が類推適用されるものではなく、通訳人の通訳による公正証書遺言が無効であるか否かは、公証人による当該通訳を介しての遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあるため公証人の筆記の内容が遺言者の真意に基づかないものといえるか否かという個別の判断によるべきである。
①P5は、推定相続人であるY2の交際相手であり、本件遺言の当時にY2との間で婚姻関係と同視し得るような関係(Xの主張に係る婚約関係ないし事実婚状態)にあったことを認めるに足りる的確な証拠はない⇒推定相続人の配偶者と同視し得る地位にあるとはいえない⇒推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえない⇒同法974条2号の類推適用をいう原告の主張は前提を欠く。
②P5は、本件遺言の当時、推定相続人であるY2ら以外に亡Aの通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた唯一の者であったものと認められ、本件遺言の公正証書の作成の際、その能力に適した意思伝達方法でその通訳を行い、公証人も、その通訳内容につき自ら聞き取ったと思う内容との符号を検証して適切に確認を行ったものといえる⇒本件遺言において公証人がP5に通訳人として通訳させたことにつき、遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあったとは認められない。

通訳人の資格に係る方式につき、同法974条2号及び969条の2第1項に違反するものとはいえない。

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2018年5月 4日 (金)

占有回収の訴えが権利の濫用とされた事例

東京地裁H28.8.24      
 
<事案>
●経営をめぐる紛争が継続している自動車学校において使用されていた教習車に対する占有回収の訴えと権利の濫用等が問題になった事件。 
 
●A社は、自動車学校(本件教習所)を経営。
Y6は、発行済み株式全部を保有する1人株主であり、代表取締役であった。 
X社は、平成20年5月に設立された会社で、その取締役P3は、A社の臨時株主総会において取締役に選任され、代表取締役に選任された。
P4は、平成21年7月の臨時株主総会においてA社の取締役に選任され、代表取締役に選任された(後日、決議不存在が確定)。
問題の自動車4台(本件各自動車)は、A社が教習車として購入し、使用していた。

A社は、平成24年7月、X社、P3、P4らを相手方とする業務妨害等の仮処分を申し立て、裁判所は本件各自動車を含む16台の教習車の所有権がA社にあると認定し、教習車の使用・移動の禁止、A社の業務の妨害禁止、P4の本件教習所への立入禁止等を命じ、申立てを認容。

Y6は、同年10月、教習車を本件教習所からY4株式会社が所有しY5株式会社の占有する土地に移動させることを企図したが、本件各自動車のみ移動できた。

転々譲渡により本件各自動車の占有を承継取得したX社は、本件各自動車の占有を承継取得、原始取得したと主張し、Y6ないしY5社に対し、占有回収の訴えにより本件各自動車の返還、不法行為等に基づき損害賠償を請求。
 
<争点> 
①X社の占有の承継取得の成否
②原始取得の成否
③交互侵奪ないし権利の濫用の成否
④不法行為の成否等 
 
<判断>

争点①:
P3の地位が別件の判決により否定⇒承継取得を否定。

争点②:
X社、P3,P4らのA社に関する一連の行為を認定⇒本件教習所の自動車教習事業の運営主体が少なくとも平成24年3月まではA社であり、同年4月以降はX社とこれを通じた者らによる、X社をして運営主体たらしめようとする所為の積み重ねにより、遅くとも同年10月1日頃までには本件教習所の自動車教習事業に供される財産である本件各自動車の占有はX社に属するに至ったとして、原始取得を肯定。


争点③:
占有回収の訴えは、占有者の占有がかつて占有侵奪者の占有を侵奪することによって取得された場合には、先行の占有侵奪から後行の占有侵奪までの期間、占有者及び占有侵奪者の各占有に係る本件の存否ないし存在を信ずる相当の理由の有無、各占有侵奪の態様その他の諸般の事情を総合考慮し、権利の濫用として許されないことがある

本件では、
①前記の期間が5か月程度であること
X社がY6の別件の勝訴判決の直後から正当な理由なくA社の本件教習所の支配の既成事実化を推進し、X社の本件各自動車の占有には何らかの本権はなく、これを信ずる相当の理由もないこと
本件各自動車はA社が所有権を有し、Y6はA社の代表取締役であり、裁判所の判断によってもこれが認定されたと認識していること、
X社の本件自動車の占有侵奪の態様は、事実関係をほしいままに変更するものであったのに対し、Y6はA社の代表取締役の立場においてA社の従業員の立会いの下、物理的強制力を用いることなく運転して移動させたこと等

権利の濫用を肯定


争点4:
Y6らに占有侵奪の不法行為は認められない⇒請求棄却
 
<解説>
本件は、経営権を否定された者の経営に係る会社が原告となり、本来経営権を有する者、これに協力した者らに対し、教習車につき占有回収の訴えを提起。 
相互に自動車の占有を侵奪し、先行の侵奪者が後行の侵奪者に対し占有回収の訴えにより自動車の返還を請求することができるか。

本件では、権利の濫用による制限が取り上げられている。

本判決:
占有回収の訴えに対する権利の濫用の要件、考慮事情を示した上、本件では権利の濫用を認め、占有回収の訴えによる返還請求権を否定。

判例時報2361

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2018年5月 3日 (木)

弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について

最高裁H29.10.5      
 
<事案>
破産者竹松配送サービス㈱の破産管財人である抗告人X2、
破産者竹松エキスプレス㈱の破産管財人である抗告人X3
を原告とし、
相手方㈱洛友商事を被告とする訴訟において、
抗告人らが、前記各破産者との間で委任契約を締結していた弁護士である相手方Y2及び同Y3が相手方洛友商事の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士法25条1号に違反する主張して、
相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為の排除を求めるとともに、
相手方Y2から委任を受けるなどして相手方洛友商事の訴訟代理人等となった弁護士である相手方Y1の訴訟行為の排除を求める事案。 
 
<判断>
●本件訴訟における相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為は排除されるべきものであり、甲事件、乙事件及び丙事件について相手方Y2から委任を受けて訴訟復代理人となった相手方Y1の訴訟行為も排除されるべきものであるが、

丁事件における相手方Y1の訴訟行為が弁護士法25条1号に違反することを疑わせる事情はなく、その訴訟行為を排除することはできない。 
 
●弁護士法25条1号に違反する訴訟行為及び同号に違反して訴訟代理人となった弁護士から委任を受けた訴訟復代理人の訴訟行為について、相手方である当事者は、裁判所に対し、同号に違反することを理由として、前記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する。 

弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し、自らの訴訟代理人又は訴訟復代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者は、民訴法25条5項の類推適用により、即時抗告をすることができる。

弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し、当該決定において訴訟行為を排除するものとされた訴訟代理人又は訴訟復代理人は、自らを抗告人とする即時抗告をすることはできない。

●破産者Aの破産管財人Xを原告とする訴訟において、Aの依頼を承諾したことのある弁護士Bが被告Yの訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、次の(ア)及び(イ)の事実関係の下では、弁護士法25条1号に違反する。
(ア)Aは、破産手続開始の決定を受ける前に、Bとの間で、再生手続開始の申立て、再生計画案の作成提出等についての委任契約を締結していた。
(イ)前記訴訟におけるXの主たる請求の内容は、BがAから前記の委任を受けていた間に発生したとされるAのYに対する債権を行使して金員の支払を求めるもの及び前記の間に行われたAのYに対する送金等に関して否認権を行使して金員の支払を求めるものである。
 
<規定> 
弁護士法 第25条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

民訴法 第25条(除斥又は忌避の裁判)
5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
 
<解説>
●弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の効力 

最高裁昭和38.10.30:
弁護士法25条1号違反の訴訟行為について、「相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができる」とした。
 
●決定において訴訟行為を排除するものとされた弁護士が自らを抗告人とする即時抗告をすることの許否 

本決定は否定

訴訟代理人又は訴訟復代理人は、当事者を代理して訴訟行為をしているにすぎず、訴訟行為が排除されるか否かについて固有の利害関係を有するものではない

決定において訴訟行為を排除するものとされた弁護士が、当事者の代理人として即時抗告することは認められる

①抗告審で是正されるべき排除決定であっても、当事者は、一旦は別の弁護士に依頼するか、本人で対応せざるを得なくなってしまうところ、そのような負担を当事者に負わせることは酷
排除決定の趣旨からしても、最終的に本案の訴訟手続から排除されればよく、排除決定を争う抗告の手続から排除する必要はない
 
●弁護士法25条1号の「相手方」の要件について 
破産者=破産管財人か?

本決定:
破産手続開始の決定により、破産者の財産に対する管理処分権が破産管財人に帰属することになる⇒本件において弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては、破産者である竹松三社とその各破産管財人とは同視されるべき。

相手方のいわば手の内を知っている事件の取り扱いを許せば、前に当該弁護士に対して秘密を含む内部事情を示して協議をしたり依頼をした相手方の信頼を裏切ることとなる⇒弁護士の品位を失墜させることを未然に防止しようとしたもの。

破産手続開始の決定前に破産者から依頼を受けた弁護士が、破産管財人の提起した訴訟の被告から依頼を受けることは、事件の同一性が認められるのであれば、弁護士法25条1号に違反するというべき。
 
●事件の同一性の要件について 
弁護士法25条1号が適用されるためには、当該弁護士の関与した事件が一方のと自社とその相手方との間において同一でなければならない。

事件の同一性は、相反する利益の範囲によってこれを判断すべきである。訴訟物が同一か否か、手続が同質か否かは問わない。

民事再生の申立代理人の広範な役割⇒申立代理人となった弁護士は、再生手続を主導し、依頼者を指導する過程で、必然的に、依頼者の経営や取引全般にわたる内部事情を知り得ることになる。
⇒利益相反を禁止して早希に依頼した者の利益を守るという弁護士法25条1号の趣旨からすると、民事再生の申立てを受任した場合には、広い範囲で事件の同一性が肯定されると考えられる。

本決定:
①Y2及びY3が竹松三社の依頼を承諾して、竹松三社の業務及び財産の状況を把握して事業の維持と再生に向けて手続を主導し、債権の管理や財産の不当な流出の防止等について竹松三社を指導すべき立場にあった
②本件訴訟が竹松三社の債権の管理や財産の不当な流出の防止等に関するものであることは明らかである
⇒弁護士法25条1号違反を肯定。
 
●再生債務者とスポンサーの間の利益相反 
民事再生手続において、スポンサーの選定や契約の交渉は、再生債権者の弁済額に関わるもの⇒債権者の利益代表機関としての再生債務者とスポンサー候補との利益相反性は重大
申立代理人が同時にそのスポンサー候補の代理人となることは重大な利益相反行為であり、弁護士職務基本規定28条3号に違反することになる。

判例時報2361

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2018年5月 2日 (水)

弁護士会が行う懲戒処分の差止請求は行政事件訴訟法が定める差止めの訴えによるべき⇒これによらずに民事上の差止請求である独禁法24条に基づく差止請求によることは不適法

東京高裁H28.10.27      
 
<事案>
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)24条に基づいて弁護士懲戒処分を行うことの差止請求がなされる等した事案。 
 
<請求> 
弁護士X1及びその依頼者のX2(学校法人Aの職員)は、AがY1弁護士会所属弁護士であるX1を対象弁護士として行った懲戒請求事件並びにX2がX1を代理人としてY2弁護士会に対して行った弁護士B及びCを対象弁護士とする懲戒請求事件等に関し、次の訴えを提起。

Y1に対する請求:
X1に対する懲戒請求事件について、Y1が綱紀委員会の議決を踏まえ懲戒委員会に事案の審査を求める旨の決定(「本件Y1決定」)をしたことに関し、X1に懲戒事由がないにもかかわらずされた同決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求。

(ア) (X1による)独禁法24条に基づく本件Y1決定に基づく懲戒処分を行うことの差止請求
(イ)
主位的に:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ180万円)
予備的に:本件Y1決定の違法確認請求

Y2に対する請求:
B及びCに対する各町会請求事件について、Y2が各綱紀委員会の議決を踏まえてしがBを懲戒しないとの決定(「本件Y2決定①」)及びCを懲戒しないとの決定(「本件Y2決定②」)に関し、
B及びCに懲戒事由があるにもかかわらずされたこれの決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求

主位的に:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ160万円)
予備的に:本件Y2決定①及び本件Y2決定②の違法確認請求

Y3(日弁連)に対する請求:
本件Y2決定①に対する異議について、Y3が綱紀委員会の議決を踏まえてすいた異議の申出を棄却する旨の決定(「本件Y3決定①」)に関し、
Bに懲戒事由があるにもかかわらずされた同決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求。

主位的:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ80万円)
予備的:本件Y3決定①の違法確認請求
 
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

独禁法 第24条〔差止請求〕 
第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
 
<判断>
X1のY1に対する懲戒処分差止請求について訴えを却下。

同請求に係る紛争が法律上の争訟に当たることは明らか
②同請求は独禁法24条に基づくものであり、その性質上民事の差止請求であるところ、差止の対象は弁護士会が行う懲戒処分という公権力行使であり、行訴法所定の抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
同法において抗告訴訟としての差止めの訴え(同法3条7項)が法定されている以上、これによらずに独禁法24条に基づく差止請求に係る訴えによることは不適法
 
<解説>
東京地裁H13.7.12は
非弁提携の非行事実が疑われる会員弁護士について弁護士会がその綱紀委員会に命じた調査命令に対して、対象弁護士より独禁法24条に基づく差止請求がなされた事案につき、
調査の対象とされることによって受ける不利益は同条にいう「著しい損害」であるとは評価できないなどとして請求を棄却。 

判例時報2361

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2018年5月 1日 (火)

タックスヘイブン対策税制の事案

最高裁H29.10.24      
 
<事案> 
●内国法人であるXが、
平成20年3月期及び平成21年3月期(「本件各事業年度」)の法人税の各確定申告⇒刈谷税務署長から、租税特別措置法(平成21年改正前のもの)66条の6第1項により、シンガポール共和国に所在するXの子会社(「DIAS」)の後記の課税対象留保金額に相当する金額がXの所得金額の計算上益金の額に算入される⇒平成20年3月期の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の再更正処分を受けた

Y(国)を相手に、これらの処分の取消しを求めた。 
 

Xは、平成10年、東南アジア諸国連合(「ASEAN」)域内のグループ会社に対する統率力を高めるため、同グループ会社の保有株式会社を現物出資してDIASを設立

DIASは、Xの100%子会社として、2007事業年度及び2008事業年度において、ASEAN諸国等に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有し、シンガポールにおける所得に対する租税の負担割合は、2007事業年度では22.89%、2008事業年度では12.78%。

DIASは、豪亜地区における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため、順次業務を拡大し、
DIAS各事業年度当時、同地域のグループ会社(「域内グループ会社」)に対し、個々の業務につき一定の対価を徴収しつつ、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務を行っていたほか、持株(株主総会、配当処理等)に関する業務、プログラム設計業務等を行っていた。

DIAS各事業年度において、DIASの収入金額は地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額を約85%を占め、その所得金額(税引前当期利益)は保有株式の受取配当の占める割合が8~9割と高かったが、地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築、発展等が図られた結果、域内グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ、その配当収入の中に相当程度反映されていた。
 
<法令等>
わが国のタックス・ヘイブン対策税制である措置法66条の6第1項:
内国法人等が100分の50を超える株式等を直接又は間接に保有する外国関係会社のうち、本店所在地国における所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社(平成21年政令・・による改正前の租税特別措置法施工令39条の14第1項により、各事業年度の所得に対して課される租税の額が所得金額の100分の25以下)に該当するもの(「特定外国子会社等」)が、
各事業年度においてその未処分所得の金額から留保したものとして所定の調整を加えた金額(「適用対象留保金額」)を有する場合には、
そのうち内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとして所定の方法により計算した金額(「課税対象留保金額」)に相当する金額を内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入する旨を規定。

措置法66条の6第4項:
同条1項の適用除外規定として、
①特定外国子会社等のうち、株式等又は債券の保有、工業所有権等の提供等を主たる事業とするものでないこと(事業規準)
②本店所在地国において、主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有すること(実体基準)
③その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)
④主たる事業が卸売業、銀行業、航空運送業等のいずれかに該当する場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準)、前記以外の事業に該当する場合には、その事業を主として本店所在地国で行っている場合に該当すること(所在地国基準)
の要件(「適用除外要件」)を全て満たす場合には、タックス・ヘイブン対策税制を適用しない旨を規定。
 
<第1審>
DIASの行う地域統括業務は株式の保有に関する事業に含まれず、その主たる事業は地域統括事業⇒本件各処分(確定申告を超える部分等)は違法であるとして、Xの請求をほぼ認容。 
 
<原審>
①事業としての株式の保有は、単に株式を保有し続けることに限られず、株式発行会社を支配管理するための業務もその一部を成し、被支配会社を統括するための諸業務も株式の保有に係る事業の一部を成す
⇒地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれる1つの業務にすぎず、別個独立の業務とはいえない。
②実質的にもDIASの主たる業務は株式の保有であると認められる

DIASは事業規準を満たさず、本件処分は適法。
 
<判断>
特定外国子会社等が株式を保有する他の会社を統括し管理するための活動として行う事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務は、通常、業務の合理化、効率化等を通じて収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括するもの
⇒当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものであって、株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。
DIASの行う地域統括業務は、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有する

株式の保有に係る事業には含まれない。 

①措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は、
その事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、
複数の事業を営んでいるときは、それぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判断するのが相当。
DIASの行う地域統括業務は、相当の規模と実体を有し、事業活動として大きな比重を占めている

これを主たる事業と認めるのが相当であり、
Xは適用除外要件を全て満たす。
 
<解説>   
●我が国のタックス・ヘイブン対策税制の概要 

我が国のタックス・ヘイブン対策税制:
軽課税国か否かに着目するいわゆるエンティティ・アプローチを採用しており、
措置法66条の6第1項は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該法人に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、
一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入(最高裁H19.9.28)。
but
特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで前記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがある。

同条4項は、
株式の保有等を主たる事業とするものでないこと(事業基準)のほか、
実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準という適用除外要件が全て満たされる場合には、同条1項の規定を適用しないとしている。
 
●地域統括業務と株式の保有に係る事業との関係 

DIASの行う地域統括業務が事業規準を満たさない株式の保有に係る事業に含まれるかが問題。
   
租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働く⇒その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない(最高裁)。
but
判例は、租税法律主義の趣旨に照らし、既定の文言や当該法令を含む関係法令の用語の意味内容を重視しつつ、事案に応じて、その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で、規定の趣旨目的を考慮することを許容しているように思われる。
   
原審:株式の保有に係る事業が独禁法9条3項(平成9年・・改正前のもの。)にいう持株会社(株式を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社)の行う事業を含むものと解した。
vs.
同持株会社は、他企業の支配が現実に行われるような形で株式を所有している場合であることが必要であり、単に財産保有を目的とする財産保全会社や株式投資会社など該当しないと解されるなど、株式の保有と事業活動の支配とは別の要件と捉えられる。⇒株式の保有に係る事業が純粋持株会社等一定の持株会社の行う事業を含むとしても、前記の独禁法上の持株会社の行う事業が株式の保有に係る事業に包含されると解することはできない。
   
措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業規準を満たさないとした趣旨
株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見出し難いことにある。
   
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