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2018年4月21日 (土)

厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

最高裁H29.10.17      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく障害年金の受給要件を充足するに至ったにもかかわらず、受給権者がこれに係る裁定の請求をせず裁定を受けていなかった場合に、障害年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効がいつから進行するか? 
 
<事実関係>
X(昭和25年生まれ)は厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月、交通事故により左下腿を切断する傷害。
but
これに係る障害年金について、裁定の請求をしていなかった。

Xは、平成23年6月30日に至って、厚生労働大臣に対し、生涯年金の裁定の請求をするとともに、年金請求書を提出。

厚生労働大臣は、同年8月、原告に対し、
受給権を取得した年月を昭和45年6月、障害等級を2級とする障害年金の裁定をしたが、
同年7月分から平成18年3月分までの障害年金は時効により消滅しているとして支給せず、同年4月分(その支給期は同年6月)以降の障害年金のみ支給。
←障害年金の支分権の消滅時効(5年)は、裁定を受ける前であっても、その本来の支払期(厚年法36条)から進行するとの見解(支払期説)。

Xは、障害年金の支分権の消滅時効はその裁定を受けた時から進行する(裁定時説)と主張して、支給されなかった障害年金の支払を求める本件訴えを提起。
 
<判断>
支払期説によるべきことを判示。 
 
<解説>
●根拠となる法令
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効特例法)による改正前の
厚年法92条1項:
「保険給付を受ける権利」について5年の消滅時効を規定。

基本権(年金の支給の根拠となる権利)についての規定であるとされ、支分権(基本権から派生する、各月分の年金の支給を受ける権利)については同項の規定はなく、国に対する金銭的債権についての一般法である会計法30条により5年で時効消滅。

年金時効特例法による改正
⇒厚年法92条1項に括弧書が加えられ、支分権についての消滅時効も同項を根拠とすることが明らかに。
but
この規定は、施行日(平成19年7月6日)後に年金を受ける権利を取得したものについて適用⇒Xの障害年金の支分権の消滅時効については従前どおり会計法に従う。
その起算点は、同法31条2項、民法166条1項により「権利を行使することができる時」となり、本件ではこの解釈が問題
 
●消滅時効の起算点に関する一般論 
民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、
権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味(最高裁昭和49.12.20)。
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げるものではない
 
●支分権の消滅時効の起算点 
基本権は、厚年法所定の支給要件に該当したときに、支分権は各月の到来によりそれぞれ発生。
年金は、厚年法36条3項により、毎年偶数月にそれぞれ前月までの分を支払うこととされている⇒支分権については、原則として各支払期の翌日が消滅時効の起算点となる。

×A:裁定時説(裁定を受けるまで時効は進行しない。)

①支分権たる受給権を行使するためには裁定を受けることが必要
②受給権者が裁定請求をしても、裁定という行政庁の判定が介在して初めて年金の支給が受けられる⇒この法律上の障害は、受給権者の意思により除去可能なものであるとはいえない。

〇B:支払時説

裁定について定めた厚年法33条は、保険給付を受ける権利はその権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて裁定するとしており、これは、基本権たる受給権が裁定によって初めて発生するのではなく、法定の要件(同法47条など)を満たすことによって、裁定がされる以前から法律上当然に発生していることを前提としているものと考えられ、裁定は、受給権の発生の有無やその内容を公的に確認する行為にすぎない

障害年金の受給要件や給付金額については厚年法により明確に定められており、これらの判断について行政庁に裁量はないと解される⇒受給権者は、裁定の請求をしさえすれば、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができる裁定を受けていないことは、受給権者の意思によって除去することができる障害又はこれと同視し得るものであると評価できる。

判例時報2360

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