工業用水道の使用を廃止した者が納付しなければならないとされる負担金の地方自治法224条、228条1項にいう「分担金」該当性(否定)
最高裁H29.9.14
<事案>
大阪府が営む工業用水道事業に係る条例に基づき、府との間で給水契約を締結して工業用水道を使用していたYが、その使用を廃止⇒府から前記事業を承継した一部事務組合であるXが、前記給水契約に基づき、Yに対し、前記条例において工業用水道の使用を廃止した者が納付すべきこととされる負担金の支払を求める事案。
Yは、昭和53年、大阪府工業用水道事業供給条例に基づき、府との間で給水契約を締結し、以後、同契約に基づき工業用水道を使用してきた。
平成21年の本件条例の改正により、2部料金制が導入されるとともに、使用者の希望により契約水量を減ずること等が認められることとなる⇒使用者は、契約水量の減量や工業用水道の使用の廃止等に当たり、負担金を納付しなければならない旨の規定が設けられた。
Yは、平成23年1月、府に対し、工業用水道使用廃止届を提出⇒府は、Yに対し、本件廃止負担金の額を1308万2795円とすること等を通知。
<一審での争点>
①Yに本件規定が適用されるか
②本件規定が工業用水道事業法17条に違反するか
③本件規定の適用が信義則違反若しくは権利の濫用に当たるか
<一審>
争点①について、
府とYとの間には、給水契約締結の際、その後本件条例及び本件規程によって定められる供給規程が変更された場合には、当該変更が違法無効であるなどの事情のない限り、給水契約の内容も同様に変更される旨の黙示の合意があった。
その余の争点についてもYの主張を排斥
⇒Xの請求を遅延損害金の一部を除き認容。
<争点追加>
前記争点①②③に加え、
本件廃止負担金が地方自治法224条、228条1項の分担金に当たるか、また、分担金に当たる場合、本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているといえるかが新たに争点。
<原審>
①本件廃止負担金は分担金に当たる
②本件規定は、本件廃止負担金の額について、具体的な額はもとより基本的な算定方法さえも定めていない
⇒本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているとはいえない
⇒Xの請求を棄却
<判断>
本件廃止負担金の目的やその額の算定方法
⇒本件廃止負担金は分担金に当たらず、これに関する事項について条例で定めなければならないものではない。
⇒原判決を破棄して、原審に差し戻し。
<規定>
地方自治法 第224条(分担金)
普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる。
地方自治法 第228条(分担金等に関する規制及び罰則)
分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。
<解説>
●「分担金」の意義
普通地方公共団体の事業等は、通常はその全体に一般的な利益をもたらすもの⇒法224条は、これが一部の者又は地域に特別な利益をもたらす場合には、特に利益を受ける者から、その受益を理由として、当該受益の限度において、当該事業等の費用の一部に充てるために分担金を徴収することができることとし、受益しない者との関係で負担の公平や一般財源の持ち出しの抑制等を図ることとしたもの。
●分担金条例主義(法228条1項)
←
分担金を課するかどうか、課する場合にその範囲や徴収方法(金額等)をどのように定めるかについて民主的な統制を及ぼすことにより、分担金を課される者の利益を保護するとともに、
本来徴収してしかるべき分担金を徴収しないといった恣意的な運用により地方公共団体に不利益が生じることを防ぎ、
もって住民の平等な利益享受を実現。
●本件廃止負担金は、工業用水道の使用を廃止した者が、府の工業用水道事業やその設置する水道施設等からもたらされる利益を特に享受することを利用として、その受益の限度において徴収される性質のものだえるということは困難であり、住民の平等な利益享受の実現という分担金条例主義の趣旨が当てはまる場面であるとも言い難い。
判例時報2359
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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