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2018年4月 4日 (水)

伊方原発3号炉運転差止仮処分命令申立訴訟広島高裁決定

広島高裁H29.12.13    
 
<事案>
広島市及び松山市に居住するXらが、四国電力(Y)が設置した発電用原子炉施設である伊方発電所3号炉(「本件原子炉」)及びその附属施設は、地震、火山の噴火、津波等に対する安全性が十分でない⇒これらに起因する過酷事故が生じる可能性が高く、そのような事故が起これば、外部に大量の放射性物質が放出されてXらの生命、身体、精神及び生活の平穏等に重大・深刻な被害が発生するおそれがある。
⇒Yに対して、人格権の妨害予防請求権に基づいて、本件原子炉の運転j差止めの仮処分を求めた事案。 
 
<原審>
Xらの仮処分命令申立てをいずれも却下。 
 
<判断>
①火山事象の影響による原子炉施設の危険性の評価について、本件原子炉施設が改正原子炉等規正法に基づく新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理
相手方電力会社において本件原子炉施設の運転等により申立人らがその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないとの主張、疎明を尽くしたとは認められない

仮処分申立てを却下した原決定を取り消し本件原子炉の運転停止を命じた。 

保全の必要性の判断において、係属中の本案訴訟において証拠調べの結果異なる判断がなされる可能性もある等⇒相手方に原子炉の運転停止を命じる期間に限定を付した。
 
<判断・検討>   
●本件についての司法審査のあり方に関する判断 
◎ 人格権に基づく妨害予防請求権として発電用原子炉の差止めを求める仮処分を申し立てた場合、
申立人は、被保全権利として、
「当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあり、その運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝によりその生命、身体に直接的かた重大な被害を受ける具体的危険が存在すること」(「具体的危険の存在」)について主張疎明責任を負う。

①改正原子炉等規制法は4号要件の存否につき原子力規制委員会の審査を経ることとしている⇒発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する同審査を経ることを義務付けられた者としてその安全性について十分な知見を有しているはず。
②原発事故の特性。

申立人が当該発電用原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故によってその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する者である場合には、
設置運転の主体である相手方事業者の側において、まず
「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(「具体的危険の不存在①」)について相当の根拠資料に基づき主張疎明をする必要があり、
相手方事業者がこの主張疎明を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定される。

原子力規制委員会の審査は、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされている

相手方事業者は、その設置運転する発電用原子炉施設が原子炉等規正法に基づく設置(変更)許可を通じて原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合する旨の判断が同委員会により示されている場合には、
具体的危険の不存在①の主張疎明に代え
「当該具体的審査基準に不合理な点のないこと及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準委適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がないこと」(「規準の合理性及び基準適合判断の合理性」)を相当の根拠資料に基づき主張疎明すれば足りる。

相手方事業者が規準の合理性及び基準適合判断の合理性について自ら必要な主張疎明を尽くさず、又は申立人による相手方事業者の前記主張疎明を妨げる主張疎明(反証)の結果として基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明が尽くされない
「基準の不合理性又は基準適合判断の不合理性」が事実上推定される。
そして、この場合、相手方事業者は、それにもかかわらず、当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該申立人の生命、身体に直接かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと(「具体的危険の不存在②」)を主張疎明しなければならない。
 
◎Xらは、本件原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故(放射性物質の放出)によって、その生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住。
Yは、原子炉規制委員会から本件原子炉施設につき平成27年7月15日に設置(変更)許可を受けている⇒具体的危険の不存在①の主張疎明に代え、基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明をすることができ、実際にも同主張疎明を行っている。

Xらの反証を考慮に入れた上で、Yが規準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明に奏功したといえるか否か、
Yがこの点の主張疎明に失敗した場合に具体的危険の不存在の主張疎明に奏功しているか否かについて判断。

本件の争点は本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険があるかどうか。
その危険あり⇒Yが本件j原子炉の運転を継続することは違法であって、原子力発電の必要性や公共性が高いことを理由として、本件原子炉の運転を継続することは許されない。
 
●本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険の存否についての判断 

◎本件原子炉施設の設置(変更)許可に際しての具体的審査基準である新規規制基準については、手続上も実体上も、その合理性を失わせる瑕疵は見当たらない。
  本件原子炉施設が新規性基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がなかった否か、並びにその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がなかったか否かの点につき・・・については、新規制基準の定め(これを具体化した地震ガイド、津波ガイドを含む。)は合理的であり、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的。

◎but
以下の通り判断し、Xらの主張のうち火山事象の影響による危険性に関する新規制基準及びそれに基づく原子力規制委員会の判断は不合理であり、Yにおいて具体的危険の不存在の主張、疎明を尽くしたとは認められない。 

火山ガイドは、安全施設は、想定される自然現象(火山の影響を含む。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(設置許可基準6条1項)等の新規制基準を受け、
「火山の影響」について、原子力発電所への火山影響を適切に評価するため、
完新世(約1万年前まで)に活動した火山を将来の活動可能性を否定できない火山とし、
これを前提として、「立地評価」と「影響評価」の二段階で評価することとしている。

立地評価:主として火山活動の将来の活動可能性を検討しながら、設計対応不可能な火山事象(火砕物密度流、溶岩流、岩屑なだれ、地滑り及び斜面崩壊、新しい火口の開口並びに地殻変動)が原子力発電所の運用期間中にその敷地に到達する可能性を評価することで、原子力発電所の立地として不適切なものを排除するもの。

影響評価:立地評価の結果、立地が不適とされない敷地について、設計対応可能な火山事象(降下火砕物、火山性土石流、火山泥流及び洪水、火山から発生する飛来物(噴石)、火山ガス、津波及び静振、大気現象、火山性地震とこれに関連する事象並びに熱水系及び地下水の異常)に対する施設や設備の安全機能の確保を評価するもの。

このような新規制基準の内容は国際基準とも合致しており、合理性を肯定することができる。
Yは、新規制基準に従い、本件発電所から半径160kmの範囲の領域(「地理的領域」)にあり、本件発電所に影響を及ぼし得る火山として、鶴見岳、由布岳、九重山、阿蘇(本件発電所の敷地殿距離130km)、阿武火山群、姫島、高平火山群を抽出しているが、その抽出の過程には格別不合理な点は見当たらない。

火山ガイドは、抽出された検討対象火山について、
①将来の活動可能性を評価する際に用いた調査結果と必要に応じて実施する②地球物理学的及び③地球化学的調査の結果を基に、原子力発電所の運用期間(原則として40年)中における検討対象火山の活動可能性を総合的に評価し、当該火山の活動の可能性が十分小さいかどうかを判断すべきものとしている。
but
現時点の火山学の知見を前提とした場合に、前記①ないし③の調査によりそのような判断ができると認めるに足りる証拠はない。
本件では、検討対象火山の活動の可能性が十分小さいと判断できない

火山ガイドに従い、次に、火山活動の規模と設計対応不可能な火山事象の本件発電所の敷地への到達可能性を評価

検討対象火山の調査結果からは原子力発電所運転期間中に発生する噴火規模もまた推定することはできない⇒検討対象火山の過去最大の噴火規模(本件では阿蘇4噴火)を想定し、これにより設定対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを検討する必要。
Yは、
①本件発電所敷地の位置する佐田岬半島において阿蘇4火砕流堆積物を確認したとの報告がない
②敷地周辺における地表調査、ボーリング調査等において阿蘇4火砕流大切物は確認されない
③解析ソフトによるシミュレーション結果等
⇒阿蘇4火砕流は敷地まで達していないと判断。
but
火山ガイドにおいて160kmの範囲が地理的領域とされるのは、国内最大規模の噴火である阿蘇4噴火において火砕物密度流が到達した距離が160kmであると考えられているため⇒阿蘇から130kmの距離にある本件敷地に火砕流が到達する可能性が十分小さいと評価するためには、相当程度に確かな疎明が必要
but
Y主張の根拠からは、本件敷地に火砕流が到達しないと判断することはできない。

「設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価されない火山がある場合」
に当たり
、原子力発電所の立地は不適⇒当該施設に原子力発電所を立地することは認められない(火山ガイド)。
 
原決定(及び原決定が引用する福岡高裁宮崎支部H28.4.6):
過去の最大規模の噴火がいわゆる破局噴火であってこれにより火砕物密度流等の設計対応不可能な火山事象が当該発電用原子炉施設に到達したと考えられる火山が当該原子炉施設の地理的領域に存在する場合であっても、当該原子炉施設の運用期間中にそのような噴火が発生する可能性が相応の根拠を持って示されない限り、立地不適としなくても、原子炉等規正法、設置認可基準規則6条1項の趣旨に反しないと判示
but
原子力規制委員会が行う安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査においては、原子力工学はもとより多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要4号要件が審査基準を原子力規制委員会規則で定めることとしているのは、同号の基準の作成について、原子力利用における安全の確保に関する科学的、専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨

当該裁判所の考える前記社会通念に関する評価と火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもって、火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは、原子炉等規制法及び設置許可基準規則6条1項の趣旨に反し許されない。
 
◎⇒
立地評価についてYによる基準適合判断の合理性の疎明がされたということはできない⇒原子力規制委員会の基準適合判断の不合理性が事実上推定
but
本件前疎明資料によっても、Yによる具体的危険の不存在②の主張疎明がなされたとは認め難い。

被保全権利の疎明がされた
 
●保全の必要性についての判断 
本件原子炉は稼働中⇒保全の必要性が認められる。
but
係属中の本案訴訟において、証拠調べの結果、本案裁判所が異なる判断をする可能性もある事等⇒Yに対し運転停止を命じる期間は、平成30年9月30日までと定めるのが相当。

判例時報2357・2358

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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