大阪母子殺人放火事件の差戻控訴審判決
大阪高裁H29.3.2 大阪母子殺人放火事件の差戻控訴審判決
<事案>
被告人が、B(被告人の妻Aと前夫との間の子で被告人と養子縁組)の妻C及びその夫婦の長男Dを、息子B宅であるマンションで殺害した後放火したという殺人・現状建造物等放火の事案。
差戻前の一審、二審でいずれも有罪。
最高裁で破棄。
大阪地裁に差し戻し⇒無罪判決⇒検察官控訴。
<最高裁>
最高裁 H22.4.27
間接事実を総合して被告人の犯人性を肯定した第一審、第二審の判決が、認定された間接事実に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められない
⇒間接事実に関する審理不尽、事実誤認の疑いがあるとして破棄。
差戻前の各判決:
本件事件の翌日に被告人のDNA型と一致する型を持つ細胞が付着したたばこの吸い殻1本(本件吸い殻)が現場マンション階段にある灰皿(本件灰皿)無いから発見⇒本件事件当日に被告人が同マンションに赴いた事実を推認させる。
vs.
①本件吸い殻は被告人がCに渡した携帯灰皿の中にあったものがCによって本件灰皿に捨てられた可能性がある。
②仮に被告人が本件犯行当日に本件マンションに赴いた事実が認められるとしても、他の間接事実を加えることによってマンション室内(306号室)で被告人が本件犯行に及んだことまで推認できるか疑問がある。
特に①について、証拠品として押収されていた本件灰皿内の吸い殻の中にCが吸っていた銘柄と同じ吸い殻があったから、そこに付着する唾液等からCの型と同一のDNA型が検出されれば①の疑いが極めて高くなるのにその鑑定をしていない⇒審理不尽。
⇒
残された吸い殻に付着する唾液等からCのDNA型と一致するものが検出されるか否かが争点。
<差戻審>
検察官控訴を棄却。
●差戻審の一審において、Cが吸っていた銘柄と同じ銘柄の吸い殻を含む押収された吸い殻全部が、差戻前の一審段階で既に紛失。
⇒
情況証拠について、再度検察官から全般的な主張・立証。
●(検察官主張の)間接事実
◎被告人が本件事件当日に306号室に立ち入った点
①被告人は本件事件当日の306号室の様子を詳細に知っていた。
②被告人は本件事件当日にCと会って会話をしたのでなければ知り得ないことを知っていた。
③被告人は本件事件現場であるB方の住所を知っていた。
④被告人の靴内から本件事件現場で飼われていた犬の毛が発見された。
◎被告人が本件事件当日に本件マンションに赴いた点
①被告人は本件吸い殻を本件灰皿に投棄した。
②本件事件当日被告人使用車と同種・同色の自動車が本件マンション近くに駐車されていた(被告人自身が捜査段階でそれを認めていた)。
③本件事件当日本件マンション近くで被告人によく似た人物が目撃された。
④本件事件当日Bを探すために自動車で本件マンションが所在する区ないしその周辺に赴いたことを被告人自身が認めており、かつその点についての公判供述に虚偽がある。
◎本件に密接に関連する不審な言動等について
①被告人が犯行時刻と重なる時間帯にAを迎えに行く約束を断り、携帯電話の電源を切っていた。
②被告人に、犯人ならではの心理の現れと見られる不自然な言動がある。
③被告人に犯行の痕跡が認められる。
④Aが被告人を犯人と確信して家出した。
◎被告人は本件犯人像と合致し、かつ他に犯行機会のある者はいない。
◎ ポリグラフ検査結果が被告人が犯人であることを示している。
●検察官は、
①Cの首に巻かれていた犬のリード付き胴輪(本件の凶器)
②C及びDの着衣
③306号室内のソファー及びバスマット
などから149点の微物を採取してその鑑定を請求し、
控訴審裁判所はこれを採用。
but
被告人のDNA型と一致するDNA型は検出されなかった
<解説>
●間接事実の推認力
情況証拠による事実認定においては、立証対象である主要事実との関連で、各間接事実がどのような推認力を有するかの判断が重要。
●間接事実の証明度
◎最終的な立証対象である主要事実(犯罪事実)の認定に当たって、
合理的な疑いを差し挟む余地のない立証が必要なことは、
それが情況証拠によって事実認定をする場合でも直接証拠による場合でも同じ。
◎情況証拠による認定の際に主要事実認定に動員される各間接事実自体の証明度?
通説:
各間接事実自体についても合理的な疑いを差し挟む余地のない立証が必要
⇒間接事実ごとの認定作業において証明度に達していない間接事実はその時点で絶対的に排除されて、その後の総合認定にこれを用いることは許されない。
本判決:
「被告人が本件犯行当日に本件吸い殻を本件灰皿に捨てた」という点については、その立証がない⇒「それ自体単独ではもちろん、他の間接事実を総合するという形式をとる場合であっても、被告人が本件犯行を行ったことを推認するための間接事実として取り上げることができない。」
判例時報2360
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