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2018年4月 3日 (火)

公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が選挙無効の原因として被選挙権の年齢制限規定の意見を主張できるか?(否定)

最高裁H29.10.31      
 
<事案>
平成28年7月10日に施行された参議院議員通常選挙の選挙人であるXが、
①参議院議員の被選挙権を有する日本国民を年齢満30年以上のものとしている公選法10条1項2号の規定(「本件規定」)が憲法14条1項等に違反する、
②本件選挙当時の公選法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定が憲法14条1項等に違反する
⇒Y(東京都選挙管理委員会)を相手に、本件選挙における東京都選挙区選出議員選挙を無効とすることを求めて提起した選挙無効訴訟。
 
<争点>
①公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の意見を主張することの可否
②本件規定の憲法適合性
③本件定数配分規定の憲法適合性
 
<判断>
公選法204条の選挙無効訴訟において、選挙人は、同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の違憲を主張することはできない。 
最大判H29.9.27を引用し、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる著しい不平等状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
 
<規定>
行訴法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
 
行訴法 第42条(訴えの提起) 
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。

公選法 第204条(衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟)
衆議院議員又は参議院議員の選挙において、その選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては候補者又は候補者届出政党、衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては衆議院名簿届出政党等、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者)は、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙にあつては当該都道府県の選挙管理委員会を、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては中央選挙管理会を被告とし、当該選挙の日から三十日以内に、高等裁判所に訴訟を提起することができる。

公選法 第205条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
 
<解説> 
●公選法204条の選挙無効訴訟は、民衆訴訟(行訴法5条)であり、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく、同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」ものである(行訴法42条)。
このような民衆訴訟である選挙無効訴訟につき、公選法204条は、「選挙人又は公職の候補者」のみがこれを提起し得るものと定め、同法205条1項は、同訴訟において主張し得る選挙無効の原因を「選挙の規定に違反することがあるとき」と規定。
 
公選法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」の意義については、主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解されている(最高裁昭和27.12.4)。

最高裁H26.7.9:
公選法204条の選挙無効訴訟は、同法において選挙権を有するものとされている選挙人らによる候補者に対する投票の結果としての選挙の効力を選挙人又は候補者が上記のような無効原因の存在を主張して争う争訟方法であり、同法の規定において一定の者につき選挙権を制限していることの憲法適合性については、当該者が自己の選挙権の侵害を理由にその救済を求めて提起する訴訟においてこれを争うことの可否はおくとしても同条の選挙無効訴訟において選挙人らが他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されていない

選挙人が公選法204条の選挙無効訴訟において同法205条1項所定の選挙無効の原因として前記各規定の違憲を主張することはできない。

自己の選挙権の制限について主観訴訟で争い得る余地があることを示唆しているのは、最高裁が、公選法205条1項所定の選挙無効の原因に当たるか否かにつき、他に同法の規定の違憲を主張してその是正を求める手段があるか否かという観点をも考慮した上で判断していることを示すもの。
(最高裁昭和51.4.14も、他に是正を求める機会がないこと等を理由として公選法204条に基づくいわゆる定数訴訟の提起を認めている。)
 
●本件規定による被選挙権の制限については、これにより本件選挙に立候補することができなかった満30歳未満の国民が自ら主観訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え)を提起してこれを争う余地がある。 

判例時報2357・2358

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