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2018年4月

2018年4月28日 (土)

大阪母子殺人放火事件の差戻控訴審判決

大阪高裁H29.3.2   大阪母子殺人放火事件の差戻控訴審判決 
 
<事案>
被告人が、B(被告人の妻Aと前夫との間の子で被告人と養子縁組)の妻C及びその夫婦の長男Dを、息子B宅であるマンションで殺害した後放火したという殺人・現状建造物等放火の事案。

差戻前の一審、二審でいずれも有罪。
最高裁で破棄。
大阪地裁に差し戻し⇒無罪判決⇒検察官控訴。
 
<最高裁>
最高裁 H22.4.27

間接事実を総合して被告人の犯人性を肯定した第一審、第二審の判決が、認定された間接事実に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められない
⇒間接事実に関する審理不尽、事実誤認の疑いがあるとして破棄。 
 
差戻前の各判決:
本件事件の翌日に被告人のDNA型と一致する型を持つ細胞が付着したたばこの吸い殻1本(本件吸い殻)が現場マンション階段にある灰皿(本件灰皿)無いから発見⇒本件事件当日に被告人が同マンションに赴いた事実を推認させる。
vs.
①本件吸い殻は被告人がCに渡した携帯灰皿の中にあったものがCによって本件灰皿に捨てられた可能性がある。
②仮に被告人が本件犯行当日に本件マンションに赴いた事実が認められるとしても、他の間接事実を加えることによってマンション室内(306号室)で被告人が本件犯行に及んだことまで推認できるか疑問がある。

特に①について、証拠品として押収されていた本件灰皿内の吸い殻の中にCが吸っていた銘柄と同じ吸い殻があったから、そこに付着する唾液等からCの型と同一のDNA型が検出されれば①の疑いが極めて高くなるのにその鑑定をしていない⇒審理不尽。


残された吸い殻に付着する唾液等からCのDNA型と一致するものが検出されるか否かが争点。
 
<差戻審>    
検察官控訴を棄却。
 
●差戻審の一審において、Cが吸っていた銘柄と同じ銘柄の吸い殻を含む押収された吸い殻全部が、差戻前の一審段階で既に紛失。

情況証拠について、再度検察官から全般的な主張・立証。

●(検察官主張の)間接事実
◎被告人が本件事件当日に306号室に立ち入った点
①被告人は本件事件当日の306号室の様子を詳細に知っていた。
②被告人は本件事件当日にCと会って会話をしたのでなければ知り得ないことを知っていた。
③被告人は本件事件現場であるB方の住所を知っていた。
④被告人の靴内から本件事件現場で飼われていた犬の毛が発見された。

◎被告人が本件事件当日に本件マンションに赴いた点 
①被告人は本件吸い殻を本件灰皿に投棄した。
②本件事件当日被告人使用車と同種・同色の自動車が本件マンション近くに駐車されていた(被告人自身が捜査段階でそれを認めていた)。
③本件事件当日本件マンション近くで被告人によく似た人物が目撃された。
④本件事件当日Bを探すために自動車で本件マンションが所在する区ないしその周辺に赴いたことを被告人自身が認めており、かつその点についての公判供述に虚偽がある。

◎本件に密接に関連する不審な言動等について 
①被告人が犯行時刻と重なる時間帯にAを迎えに行く約束を断り、携帯電話の電源を切っていた。
②被告人に、犯人ならではの心理の現れと見られる不自然な言動がある。
③被告人に犯行の痕跡が認められる。
④Aが被告人を犯人と確信して家出した。

◎被告人は本件犯人像と合致し、かつ他に犯行機会のある者はいない。 
◎ ポリグラフ検査結果が被告人が犯人であることを示している。 
 
●検察官は、
①Cの首に巻かれていた犬のリード付き胴輪(本件の凶器)
②C及びDの着衣
③306号室内のソファー及びバスマット
などから149点の微物を採取してその鑑定を請求し、
控訴審裁判所はこれを採用。
but
被告人のDNA型と一致するDNA型は検出されなかった 
 
<解説>
●間接事実の推認力 
情況証拠による事実認定においては、立証対象である主要事実との関連で、各間接事実がどのような推認力を有するかの判断が重要。
 
●間接事実の証明度 
最終的な立証対象である主要事実(犯罪事実)の認定に当たって、
合理的な疑いを差し挟む余地のない立証が必要なことは、
それが情況証拠によって事実認定をする場合でも直接証拠による場合でも同じ。
 
◎情況証拠による認定の際に主要事実認定に動員される各間接事実自体の証明度? 
通説:
各間接事実自体についても合理的な疑いを差し挟む余地のない立証が必要
⇒間接事実ごとの認定作業において証明度に達していない間接事実はその時点で絶対的に排除されて、その後の総合認定にこれを用いることは許されない。

本判決:
「被告人が本件犯行当日に本件吸い殻を本件灰皿に捨てた」という点については、その立証がない「それ自体単独ではもちろん、他の間接事実を総合するという形式をとる場合であっても、被告人が本件犯行を行ったことを推認するための間接事実として取り上げることができない。」

判例時報2360

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2018年4月26日 (木)

審判が認定した上位概念化された周知技術を認定できず、容易想到性はないとされた事例

知財高裁H29.7.4      
 
<事案>
発明の名称を「給与計算方法及び給与計算プログラム」とする本願発明について特許出願⇒拒絶査定⇒不服審判請求不成立審決。

本件審決は、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当事者が容易に発明をすることができたから、特許を受けることができない、などというもの。 
本件は、前記審決に対する取消訴訟。

原告は、取消事由として、容易想到性の判断誤り(具体的には、引用発明の認定誤り、相違点五の容易相当性の判断誤り等)を主張

相違点五:
本願発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報を含んでいるのに対し、
引用発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力されたものを含んでいない点 
 
<判断>
相違点五の容易相当性について、審判の判断に誤りがあるとした。
 
周知例二等は、
従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバーを有するシステムにおいて、従業員の取引金融機関、従業員の勤怠情報等の入力及び変更が可能な従業員の携帯端末機を備えることが開示されていることは認められるが、
これらを上位概念化した、および従業員に関連する情報全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることや、従業員入力情報の入力および変更が可能な従業者の経緯対端末機を備えることが開示されているものではなく、それを示唆するものもない

従業員情報の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることが周知技術であったということはできず、かかる周知技術の存在を前提として、従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは当業者が適宜選択すべき設計的事項であるとも認められない

引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い
⇒本件審決を取り消した。
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<解説> 
●特許要件たる進歩性:
「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができ」ないとの要件(特許法29条2項)。

通常、
①本件発明の認定、
②主たる引用発明の認定、
③本件発明と主たる引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)
④相違点の判断
というプロセスで判断。

本件では、②と④について争われ、②は問題ないものの、④の判断に誤りがあるとされた。
 
●主たる引用発明との相違点に係る本願発明の構成が、別の引用例に記載されていること又は周知技術であることが証拠上認定
主たる引用発明との構成の組合せ等が容易か否かを判断
but
本件では、組み合わせるべき審決認定の周知技術が、上位概念化されたものであり、証拠上具体的な記載はなかったというもので、そのような判断手法によって容易に想到できるとした審決の判断が否定された。

①客観的な判断という観点からは、証拠に基づいた認定が不可欠。
②当該証拠から認定できる技術を主引用発明に組み合わせたとしても、本願発明の構成には至らない。
③証拠上認められる技術から上位概念化して周知技術を認定すると、後知恵に陥る危険がある。

このことは、引用発明や周知技術の認定のみならず、一地点の認定についても当てはまるもので、一致点を上位概念によって認定する場合は、相違点の認定をより具体的に正しく認定しなければ、容易相当性の判断を誤る可能性がある。

知財高裁H29.6.15:
組合せ又は置換の際に上位概念化して認識することにより容易と判断することを否定した最近の裁判例。

引用発明二の主たる構成である「駐車ブレーキ」についての、引用文献二に開示される「駐車ブレーキが作動しない場合」という条件を、
「ブレーキ装置が作動しない場合」と上位概念化して認識し、その概念を周知技術二に当てはめて、「ブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件に置換し、引用発明二に周知技術二を採用して得た「ブレーキ液圧保持装置」にブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件を適用する動機付けはないものとした。
 
●引用例に接した当業者が、前記相違点に係る本願発明の構成に至ることが容易であるとするには、前記のような構成の組合せをする動機付けが必要

本判決は、「引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い」旨判示し、
課題の示唆という点を重視して容易相当性を否定。

本願発明と主たる引用例との相違点は、本件発明の構成上の特徴であり、
これは、従来技術では解決できなかった課題を解決するためのもの。

容易相当性の有無を判断するに当たっては、引用発明を出発点として、本件発明の特徴に到達するための課題が示唆されているか否かを検討する必要。

動機付けの有無に関し、
知財高裁H18.6.29は、
新規の技術事項を含む事案において、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とする

進歩性を否定するためには、この技術的思想の着想が容易であったことが論理付けられていなければならない⇒論理付けもなく、単なる設計変更であるとした審決の判断を誤りであると判断。

課題の示唆は、重要な要素の1つであるところ、
知財高裁H21.1.28は、
当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であり、
容易相当性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排斥されなければならない
そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となると判示。

判例時報2360

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2018年4月25日 (水)

特許法195条の4の「査定」の意味と行政不服審査法による不服申立・特許査定の無効等

知財高裁H27.6.10      
 
<事案>
共同で特許出願をしたXらは、誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官は、本件補正後の本願発明について特許査定。
Xらは、行政不服審査法に基づく、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求める異議申立て(本件異議申立て)⇒特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして却下。 
 
<請求>
本件特許査定には重大な瑕疵があると主張
Y(国)に対し、本件訴訟を提起し、
行政事件訴訟法に基づき

主位的に、
①本件特許査定の無効確認
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求め、

予備的に
①本件特許査定の取消し、
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対し本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求めた。 
 
<規定>
特許法 第195条の4(行政不服審査法による不服申立ての制限)
査定又は審決及び審判若しくは再審の請求書又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない

行訴法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 
<原審>
特許法195条の4の「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解される⇒本件異議申立ては適法であり、本件特許査定取消しの訴えは、行訴法14条3項により出訴期間を徒過していない。
担当審査官には、本件補正がxらの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、本件特許査定は無効ではないものの取消しを免れない。
⇒ ①本件特許査定の取消しと②これを前提とする本件却下決定の取消しを認容。
 
<判断>
●本件特許査定取消しの訴えの適法性
①特許法における「査定」の語の用法や同法195条の4の制定経過等
⇒「査定」の文言は文理に照らして解することが自然。
②このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途は閉ざされておらず、このほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられ、その判断も不合理とはいえない。

同法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由はない

本件特許査定に対する行審法による不服申立ては認められないから、本件異議申立ては不適法であり、本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項を適用することはできない。
本件特許査定の取消しの訴えは、出訴期間を徒過⇒却下。

●本件補正の錯誤無効について 
特許法は、書面主義の下、錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正について厳格な要件の下にのみこれを許容している。

仮に、真意と異なる記載について、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、そのような錯誤が認められる場合としては、
①その齟齬が重大なものであることに加えて、
②少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要。
but
①本件では、本件補正書の記載自体は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められず、その書面自体からXらに錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできない。
②その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。

Xらの錯誤を理由に本件補正が無効であるということはできない

●本件特許査定の違法性について 
審査官が、
特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、
これによる査定には、特許法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべき。

担当審査官は、本件補正が「特許・実用新案審査基準」に照らせば新規事項の追加に当たることを看過したといわざるをえないものの、
本件補正後の本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価できる⇒明らかに不合理とまでいうことはできない。

担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視べき場合において本件特許審査を行ったと認めることはできず、本件特許が無効であるということはできない。
 
<解説>
●特許査定に対する行審法に基づく不服申立ての可否 
特許出願に対する拒絶査定の当否については、その専門性、技術性に鑑みて、裁判所の司法審査に先立ち、特許庁の審判合議体による審判手続において審理される(特許法12条)。
but
特許査定に対する不服を理由とする審判請求は認められない
これを認める実益がないことが指摘されている。

審査官による査定は、拒絶査定のみならず特許査定についても、行政処分の性質を有するが、特許法195条の4は、「査定」について行審法による不服申立てをすることができないと規定
but
拒絶査定とは異なり、行政庁に対する不服申立ての途として審判の制度が設けられていない特許査定については、行審法に基づく不服申立ての途が認められるべきかいなか、すなわち、同条の「査定」は拒絶査定だけでなく特許査定を含むかが問題。
本判決は否定。
 
●特許出願と錯誤無効 
行政過程における私人の意思表示に瑕疵がある場合、
一般的には民法の法律行為に関する規定の適用があるとされるが、行政法関係においては、当該関係を規律している法律の仕組みに即して事案を処理してく必要がある。

最高裁昭和39.10.22:
確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない旨判示。

調査官解説:
私人の公法行為について錯誤の主張が許されるかどうかは、究極的には立法政策の問題
法律に特別の規定のない時は格別、行為者の過誤に対する救済が法律で特別に規定されているときは、当該救済手段の設けられている趣旨・目的を勘案した上でその成否及び限度を決すべき
 
●特許査定の無効 
行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分として外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和31.7.18)。

判例時報2360

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2018年4月24日 (火)

高校の武道大会での柔道の試合で事故⇒担当教諭らの注意義務違反(肯定)

福岡地裁H29.4.24      
 
<事案>
高校の武道大会で柔道の試合に参加した高校生が、試合中、払い腰をかけようとした際に転倒⇒頸髄損傷等の傷害を負い、身体障害者等級表の等級1級の後遺障害⇒高校生とその両親が高校を設置・運営する県に対して損害賠償請求等を追及。 
X1は、平成25年6月、本件事故の受傷につき症状固定し、等級1級の後遺症がが残った。
日本スポーツ振興センターから災害共済給付金のうち、医療費273万6649円の支払いを受けた。

<請求>
X1、その両親X2、X3は、県に対し、

主位的に、A高校の教諭につき柔道の指導に当たって生徒を保護するため常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき注意義務(安全配慮義務)違反を主張し、
国賠法1条1項に基づき
X1につき2億6254万円余、
X2につき333万円余
X3につき300万円の損害賠償を請求し、

予備的に、特別の犠牲を主張し、憲法29条3項に基づき損失補償を請求。
 
<争点>
①本件事故の態様
②事前指導に係る注意義務違反
③試合形式による大会開催に係る注意義務違反
④大会の体制構築に係る注意義務違反
⑤試合当日の指導監督に係る注意義務違反
⑥過失相殺・過失割合
⑦損害額等 
 
<判断>
X1、P1(対戦相手)の体格、柔道経験、文科省の作成に係る柔道指導の手引、全日本柔道連盟の作成に係る柔道の安全指導、文科省の作成に係る高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編、柔道試合審判規定、A高校の体育授業における柔道の指導、本件大会の経過・監督状況等の事実を認定。

争点①:
X1がP1に払い腰を仕掛け、P1と共に前方に転倒し、受け身を取ることなく、左側頭部を畳に衝突させたと認定。

格闘技である柔道には本来的に一定の危険が内在
学校教育としての柔道の指導、特に高校の生徒に対する柔道の指導にあっては、その指導に当たる者は、柔道の試合又は練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護すため、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負い、正課授業における柔道の指導に関わる教諭においても、同様の注意義務を負う。

争点②:
前年度の武道大会の柔道で2件の事故が発生
⇒A高校の教諭らにおいて、本件大会の形式、試合会場の状況、全体の雰囲気等に由来する事故発生の危険性が内在していたこと等から、生徒らが無理に技をかけ、勝ちに拘って危険な行為をしたり、冷静さを欠く試合を展開するなどにより事故が発生する可能性があることを認識し、事前に予見することができた

生徒らに、通常の授業とは異なる、本件大会に固有の内在的危険性を十分に説明し、指導を実施したとはいえない事前指導に係る注意義務違反を認めた。
前年度の事故を踏まえた調査、原因分析、予防策の具体的な協議、安全指導対策が行われなかったこと等

大会を漫然と開催したことにつき争点③の試合形式による大会開催に係る注意義務違反を認め
争点④⑤の各注意義務違反についての主張は排斥。

争点⑥については、X1の3割の過失を認め、過失相殺し、

争点⑦については、X1の1億1998万円余、X2、X3の各210万円の損害を認め、X1らの請求を認容。
 
<解説>
本判決は、
格闘技である柔道の危険性、武道大会の試合の形式・試合会場全体の雰囲気等の武道大会の特徴を強調し、
授業とは異なる武道大会に固有の内在的な危険性を根拠に、
教諭らにおける事前指導に不適切な点があったとし、事前指導に係る注意義務違反を肯定
するとともに、
前年度の事故に関する原因分析、予防策等の具体的な協議、安全指導対策が行われないまま大会を漫然と開催したことによる試合形式による大会開催に係る注意義務違反を肯定
but
本件事故の直接的な原因に照らすと、間接的、抽象的であることは否定できず、微妙な判断で、担当教諭らの注意義務違反を肯定した限界的な事例

判例時報2360

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2018年4月23日 (月)

一方が購入した宝くじの当選を原資とする財産の財産分与

東京高裁H29.3.2      
 
<事案>
妻(原審申立人)が夫(原審相手方)に対し財産分与を求めた事案。 

原審相手方は、婚姻中に宝くじの当選により約2億円を取得し、これを原資とする預貯金や保険を有していた⇒財産分与の対象財産、分与割合が争われた。

離婚時の原審申立人名義の資産の評価額は100万円
原審相手方名義の資産の評価額は約9000万円。
原審相手方名義の資産のうち、預貯金と保険関係として約7200万円あり、その原資は当選金。
原審相手方名義の不動産評価は約700万円。
 
<原審>
当選した宝くじを購入した当事者には、当選金について一定の優位性ないし優越性が認められる
原審相手方名義である金融資産である預貯金と保険関係は、その7割相当が原審相手方の固有財産であり、残り3割相当額が夫婦共有財産
 
預貯金と保険関係の3割が夫婦共有財産で、その分与割合が2分の1
⇒原審申立人は約15%を取得。 
 
<判断>
分与財産について、
宝くじの購入代金は、原審申立人と原審相手方の婚姻後に得られた収入の一部である小遣いから拠出された
②当選金の使途も、家族が自宅として使用していた土地建物の住宅ローン約2000万円の返済に充て、原審相手方の退職後には生活費に充てられた
当選金後原資とする資産は夫婦の共有財産。 

分与割合について、
当選金の購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出
but
原審相手方が自分で、その小遣いの一部を充てて宝くじの購入を続け、これによって偶々とはいえ当選して、当選金を取得し、これを原資として対象財産が形成された

対象財産の資産形成に対する寄与は原審申立人より原審相手方が大きかったといえ、分与割合を、原審申立人4、原審相手方6とするのが相当
 
<規定>
民法 第768条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 
<解説>
●清算的財産分与の対象財産の範囲 
婚姻中に取得した財産は第三者から相続・贈与などにより無償取得した財産を除き、夫婦の協力により取得した夫婦共同財産として清算の対象となる。
偶然の利益取得(宝くじの当選金、競馬の賞金など)であっても、共同財産となる。
 
●清算的財産分与の清算割合 
実務上、衡平の原則に基づき、貢献度に応じた寄与割合を評価して算定。
共有財産は、原則として、夫婦が協力して形成⇒特段の事情がない限り、相互に2分の1の権利を有する(2分の1ルール)

各財産の取得について自己資金ンを一部支出したことや、投資の専門知識を有する当事者が、その才覚によって金融資産の取得・維持のための行動をとったこと等の事実が資料の裏付けをもって客観的に明確にされる
2分の1ルールを修正することもあり得るが、
修正すべき特段の事情たり得る事実が窺われることは多くはない。

 
●夫が競馬の利益によって購入したマンションの売却代金の3分の1を妻に分与した事例(奈良家裁H13.7.24)
万馬券というのは射幸性の高い財産であり必ずしも夫の才覚だけで取得されたものではない⇒前記マンションを夫の特有財産ということはできない。
but
夫の運によるところが大きい臨時収入であり、夫の寄与が大きい。
妻の生活扶助的要素も考慮。
⇒売却代金の3分の1を妻に分与。 
 
判例時報2360

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2018年4月22日 (日)

訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合

最高裁H29.9.5      
 
<事案>
訴訟上の救助の決定を受けた受救助者との訴訟において受救助者に生じた費用の一部を負担することとされた相手方が、裁判所から民訴訟85条前段の費用の取立てとして受救助者に猶予した費用の一部を国庫に支払うことを求められている事案。 
 
<原審>
相手方に対し、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額等を国庫に支払うべきものとした。 
⇒相手方が抗告許可申立てで、原審が許可
 
<判断>
訴訟費用のうち一定割合を受救助者(訴訟上の救助の決定を受けた者)の負担俊、その余を相手方当事者の負担とする旨の裁判が確定した後、
訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、
裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合において、

当該相手方当事者が、訴え提起の手数料として少額とはいえない額の支出をした者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなど判示の事情の下では、
当該相手方当事者に対し上記の差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めることのないまま、上記の同条前段の費用の取立てをすることができる額につき、受救助者に猶予した費用に上記裁判で定められた当該相手方当事者の負担割合を乗じた額とすべきものとした原審の判断には、違法がある

原決定を取り消し、本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
民訴訟 第83条(救助の効力等)
訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一 裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二 裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三 訴訟費用の担保の免除
2 訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3 裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる。

民訴法 第84条(救助の決定の取消し)
訴訟上の救助の決定を受けた者が第八十二条第一項本文に規定する要件を欠くことが判明し、又はこれを欠くに至ったときは、訴訟記録の存する裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、決定により、いつでも訴訟上の救助の決定を取り消し、猶予した費用の支払を命ずることができる。

民訴法 第85条(猶予された費用等の取立方法)
訴訟上の救助の決定を受けた者に支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。この場合において、弁護士又は執行官は、報酬又は手数料及び費用について、訴訟上の救助の決定を受けた者に代わり、第七十一条第一項、第七十二条又は第七十三条第一項の申立て及び強制執行をすることができる。
 
<解説>
●制度の説明
訴訟上の救助の決定は、裁判費用の猶予等の効力を有する(民訴法83条1項)。
前記決定が民訴法84条による取消しにより又は当然にその効力を失う
⇒受救助者は、国庫に対し猶予費用を支払わなければならない(最高裁)。

本案における受救助者の全部又は一部勝訴判決の確定により、訴訟費用残部又は一部が相手方の負担とされることがあり(民訴法61条、64条)、そのときは、受救助者は、訴訟費用額確定処分(民訴法71条)を得た上で、訴訟費用請求権の行使として、相手方からその負担すべき費用を取り立てることになる
受救助者が相手方からその費用を取り立てたときには、実際に取り立てた限度で受救助者の資力が回復⇒民訴法84条により、その限度で訴訟上の救助決定を取り消すことが可能になる。

民訴法85条は、
本来、受救助者が、訴訟費用請求権の行使として相手方からその負担すべき費用を取り立てて、猶予費用を国庫に支払うべきであるところ、
受救助者において、その取立てをすることや取り立てた金員を猶予費用として国庫に支払うことを必ずしも期待できないため、国が相手方において負担すべき猶予費用を相手方から直接取り立てることができるようにしたもの。
民事訴訟費用等に関する法律16条2項、15条1項は、民訴法85条前段の規定による費用の取立てについて、第一審裁判所の決定により、強制執行をすることができると規定⇒同裁判所が前記の取立てをすることができる猶予費用の額を定める

前記の民訴法85条の趣旨⇒
同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額は、受救助者の相手方に対する訴訟費用請求権の額を超えることができない筋合いのものであり、

既に訴訟費用額確定処分が確定
しているのであれば、その費用額確定処分により定められた訴訟費用請求権の額を前提として、同条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定めることになるし、

訴訟費用額確定処分の申立てがされているのであれば、その手続を先行させることになる。

①訴訟費用額確定処分の手続きは、処分権主義が妥当し、その申立てがない限り、訴訟費用確定処分をすることができない
②当事者がその申立てをしないことがあり得る

訴訟費用額確定処分がされる前においても、裁判所は、民訴法85条前段の費用の取立てをすることができるものであると解されている。
両当事者がそれぞれ反対当事者の支出した訴訟費用を負担すべき場合においては、当事者の負担すべき費用につき訴訟費用額確定処分又は差引計算を求めるか否か及びその求める範囲がいずれも当事者の意思に委ねられている

①これらの点についての当事者の意思が明らかにならない限り、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることができない。
②当事者の意思は、訴訟費用確定処分を求める申立てがされる前においては明らかにならないのが通常

訴訟費用額確定処分がされる前においては、裁判所は、当事者が支出した訴訟費用に関する客観的な資料を有していたときであっても、通常は、訴訟費用請求権の額を正確に推認することは困難
 
●本決定 
訴訟費用のうち一定割合を受救助者の負担俊、その余を相手方の負担とする旨の裁判が確定した後、訴訟費用確定処分の申立てがされる前に、裁判所が民訴法85条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定める場合、
当該事案に係る事情を踏まえた合理的な裁量に基づいて相手方に対する猶予費用の取立決定の額を定めるほかない。

傍論ではあるが、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることが当事者の意思に委ねられている同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額としても、直ちに前記の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない
but
相手方が、訴え提起手数料として少額とはいえない額を支出した者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなどの判示の事情

これらの事情の下では、相手方に対しその差引計算を求める範囲を明らかにすることを求めないまま、同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額とすべきとした原決定の判断には違法がある。

判例時報2360

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2018年4月21日 (土)

厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

最高裁H29.10.17      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく障害年金の受給要件を充足するに至ったにもかかわらず、受給権者がこれに係る裁定の請求をせず裁定を受けていなかった場合に、障害年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効がいつから進行するか? 
 
<事実関係>
X(昭和25年生まれ)は厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月、交通事故により左下腿を切断する傷害。
but
これに係る障害年金について、裁定の請求をしていなかった。

Xは、平成23年6月30日に至って、厚生労働大臣に対し、生涯年金の裁定の請求をするとともに、年金請求書を提出。

厚生労働大臣は、同年8月、原告に対し、
受給権を取得した年月を昭和45年6月、障害等級を2級とする障害年金の裁定をしたが、
同年7月分から平成18年3月分までの障害年金は時効により消滅しているとして支給せず、同年4月分(その支給期は同年6月)以降の障害年金のみ支給。
←障害年金の支分権の消滅時効(5年)は、裁定を受ける前であっても、その本来の支払期(厚年法36条)から進行するとの見解(支払期説)。

Xは、障害年金の支分権の消滅時効はその裁定を受けた時から進行する(裁定時説)と主張して、支給されなかった障害年金の支払を求める本件訴えを提起。
 
<判断>
支払期説によるべきことを判示。 
 
<解説>
●根拠となる法令
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効特例法)による改正前の
厚年法92条1項:
「保険給付を受ける権利」について5年の消滅時効を規定。

基本権(年金の支給の根拠となる権利)についての規定であるとされ、支分権(基本権から派生する、各月分の年金の支給を受ける権利)については同項の規定はなく、国に対する金銭的債権についての一般法である会計法30条により5年で時効消滅。

年金時効特例法による改正
⇒厚年法92条1項に括弧書が加えられ、支分権についての消滅時効も同項を根拠とすることが明らかに。
but
この規定は、施行日(平成19年7月6日)後に年金を受ける権利を取得したものについて適用⇒Xの障害年金の支分権の消滅時効については従前どおり会計法に従う。
その起算点は、同法31条2項、民法166条1項により「権利を行使することができる時」となり、本件ではこの解釈が問題
 
●消滅時効の起算点に関する一般論 
民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、
権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味(最高裁昭和49.12.20)。
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げるものではない
 
●支分権の消滅時効の起算点 
基本権は、厚年法所定の支給要件に該当したときに、支分権は各月の到来によりそれぞれ発生。
年金は、厚年法36条3項により、毎年偶数月にそれぞれ前月までの分を支払うこととされている⇒支分権については、原則として各支払期の翌日が消滅時効の起算点となる。

×A:裁定時説(裁定を受けるまで時効は進行しない。)

①支分権たる受給権を行使するためには裁定を受けることが必要
②受給権者が裁定請求をしても、裁定という行政庁の判定が介在して初めて年金の支給が受けられる⇒この法律上の障害は、受給権者の意思により除去可能なものであるとはいえない。

〇B:支払時説

裁定について定めた厚年法33条は、保険給付を受ける権利はその権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて裁定するとしており、これは、基本権たる受給権が裁定によって初めて発生するのではなく、法定の要件(同法47条など)を満たすことによって、裁定がされる以前から法律上当然に発生していることを前提としているものと考えられ、裁定は、受給権の発生の有無やその内容を公的に確認する行為にすぎない

障害年金の受給要件や給付金額については厚年法により明確に定められており、これらの判断について行政庁に裁量はないと解される⇒受給権者は、裁定の請求をしさえすれば、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができる裁定を受けていないことは、受給権者の意思によって除去することができる障害又はこれと同視し得るものであると評価できる。

判例時報2360

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2018年4月20日 (金)

薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)

東京地裁H29.7.27    
 
<事案>
本件特許権を第三者と共有する原告が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告らに対し、同行為が前記特許権の均等侵害に当たるところ
同行為により、原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、
②被告らにおけるマキサカルシトール製剤の薬価収載により、原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、それに伴い原告製品の取引価格も下落したことにより、それぞれ損害を被った。

①につき民法709条ないし特許法102条1項に基づき
②につき民法709条に基づき、
それぞれ損害賠償を請求
 
<争点> 
①均等侵害の成否(被告製品の製造方法が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無のみが争点)
②本件特許の共有者の1人である原告が被告らに対してどの範囲で損害賠償請求できるか
③原告製品の市場シェア喪失による損害額(特許法102条1ただし書所定の事情の有無・割合を含む。)
④原告製品の取引価格下落による損害額
⑤被告らの過失の有無(均等侵害事案における特許法103条の適用の有無を含む)
⑥原告の過失の有無
⑦特許法102条4項後段の適用の有無
 
<判断>   
被告らに対して合計10億円を超える損害賠償金の支払を命じた 
 
●争点① 
被告らは「原告による別件特許出願における明細書の記載等からすれば、原告は、本件特許出願に際しては、被告製品と同じ構造の物質を出発物質とする製造方法について意識的に除外した(均等侵害の第5要件)」旨主張
vs.
別件特許出願において原告が被告製品と同じ構造の物質を記載したとは認められない⇒被告らの主張は前提を欠く
⇒均等侵害の成立を肯定
 
●争点② 
原告は、単に本件特許権の共有者の1人であるにとどまらず、
他の特許権者(共有者)から、その本件特許権に係る持分について独占的通常実施権を設定されており、被告らによる本件特許権侵害は、原告に対する同実施権の積極的債権侵害にあたる

原告は、被告らに対し、同侵害行為による逸失利益全額について損害賠償できる。
同共有者が侵害者に対して権利行使し得る場合が制限されている⇒被告らの二重払いのリスクがあるとは解されない。
 
●争点③ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

◎特許法102条1項に基づいて、ほぼ原告の主張どおりの損害額を認め、その際、原告製品の薬価ないし取引価格の下落は被告製品の薬価収載によって発生⇒原告製品の薬価下落前の取引価格を前提として原告の損害額を計算

特許法102条1項但書所定の事情について、

被告らの主張する諸事情:
①原告製品には、被告製品以外ににも複数の競合品(薬効や作用機序もほぼ同じ)があり
②被告製品は後発医薬品であり価格が安く、医師も、薬剤処方の際に価格も考慮している
⇒被告製品は原告製品だけでなく競合品のシェアをも一定程度奪っていたと認められる。

原告が主張する諸事情:
原告製品、被告製品、競合品はいずれも医師の処方箋が必要な薬品であり、有効成分が同じ原告製品から被告製品への変更は患者が自由に行えるものの、有効成分が異なる競合品から被告製品への変更は、患者にとって必ずしも容易でない

を総合的に考慮⇒1割の推定覆滅を認めた。
 
●争点④ 
原告の損害のうち薬価下落に基づくものについて、

①新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し、しかも、同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく、所定の用件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる⇒これは法律上保護される利益というべき。
②被告製品が薬価収載されなければ原告製品の薬価は下落しなかったものと認められる⇒同下落は被告製品の薬価収載によるもの
③医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格も薬価を基準として定められる⇒原告とその取引相手との間における取引価格の下落についても、被告製品の薬価収載に基づく損害

同下落に係る損害賠償請求を認めた
 
●争点⑤ 
規定 特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
 
◎ 被告ら:特許法103条は均等侵害の場合を想定しておらず、仮に想定していたとしても、被告らに過失はなかった。
vs.
特許法103条は、その文言上、均等侵害の場合に適用されないとすうr根拠がない上、被告らの本件訴訟前の対応等からすれば、被告らに過失がなかったとはいえない。 
 
●争点⑥ 
単に被告製品と同じ構造の物質の製造方法を特許出願の際に記載しなかったことをもって、原告に過失があったとはいえない。
 
●争点⑦ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる

◎ 本件に特許法102条4項後段を適用して、損害額を減額すべき事情はない。 
 
<解説> 
後発品(特許侵害品)の販売開始によって先行品が値下げを余儀なくされたことによる逸失利益について、民法709条に基づく損害賠償請求を肯定する学説が多数。
but
製品等の値下げの要因は様々であり得るため、このような因果関係の立証は必ずしも容易でない」と指摘される。 

本件:
新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度⇒「薬価収載後15年以内で、かつ後発品が収載されていないこと」を条件の1つとして、原告製品の薬価が継続的に維持されていたところ、被告製品が薬価収載されたことにより原告製品の薬価が下落

被告製品が薬価収載されたことと、原告製品の薬価が下落したこととの間に因果関係があると認められた
 
特許法102条1項ただし書きに基づく推定覆滅について: 
①市場における競合品の存在
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
③侵害品の性質
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
などが特許法102条1項ただし書所定の「販売することができないとする事情」となるかについて、
肯定説(非限定説)が通説。

本件:
①原告製品・被告製品ともに意思の処方箋を必要とする処方薬⇒有効成分を同じくする原告製品・被告製品間の変更を除き、需要者(患者)が自由に薬品を変更することはできず、必ず医師に処方箋を変更してもらう必要がある⇒需要者が自由に他社製品(競合品)を選択できる場合と同視することはできない。
他方で、
②医師も、薬品を処方する際には、性能がほぼ同等の競合品があることや、患者にとって経済的負担が少ない薬品(被告製品)を処方しようとする動機付けがあること等。

1割につき推定覆滅が認められたもの。
 
特許法102条4項後段は、一定の場合に裁判所の裁量による損害額の減額を定めるが、同条項を適用して損害額を減額した事例はほとんどない

判例時報2359

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2018年4月19日 (木)

宿泊施設の経営者と路上生活者との間の契約の、公序良俗違反、不法行為、不当利得(肯定)

さいたま地裁H29.3.1      
 
<事案>
X1、X2は、路上生活をしていた際、Y1の指示を受けて事業を手伝っていた者から、Y1ないしY2(Y1が代表取締役を務める会社)の経営する施設に入居するよう勧誘され、これに応じて施設での生活を始める傍ら、Y1の従業員の指示により福祉事務所に虚偽の説明をするなどして生活保護費を受給し始め、受領した生活保護費全額をY1に交付。 

X1、X2は、
①Y1の経営する施設における生活環境が劣悪であり、生存権や財産権、プライバシー権等の人権を侵害するものであると主張⇒Y1、Y2に対し、民法709条又は会社法429条1項に基づき、慰謝料の支払を求めるとともに、
②X2、X2とY1との間の施設利用契約が社会福祉法違反、公序良俗違反等により無効⇒Y1に対し、不当利得返還請求権に基づき、Y1がX1、X2から受領した生活保護費のうち現金交付分を控除した残額の返還を求め、
③X2は、Y1、Y2の経営する工場でY1、Y2の業務に従事した際、切断機で中指切断等の傷害を負ったことが使用者としての安全配慮義務違反に当たると主張⇒Y1、Y2に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求
 
<判断>
①X1、X2が入居した施設における生活環境は、居住空間の狭さやプライバシーに対する配慮不足、提供される食事や衣類の質・量等からして相当劣悪なものであり、Y1がX1、X2に提供したサービスの内容は、X1、X2に与えていた小遣いを含めても、X1、X2から受領した生活保護費等と比較して相当に低廉であったと考えられる
②Y1は、Y1の従業員を使って、X1、X2を勧誘し、X1、X2に虚偽の事実を福祉事務所に告げるよう指示して生活保護を受給させた上、X1、X2から生活保護費全額を受領し、これを他人名義の口座で管理してその一部をY1の私用に充てていたこと、
③Y1はX1、X2に対して生活保護基準に満たない劣悪なサービスを提供するのみであり、その差額を不当に収受していたこと

X1、X2とY1の施設利用契約は、生活保護法の趣旨や社会福祉法の趣旨に反するものとして公序良俗違反により無効であり、
Y1はX1、X2の最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして、民法709条に基づく不法行為責任を負う。

X1、X2のY1に対する不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容するとともに、X1、X2のY1に対する不当利得返還請求を認容ないし一部認容

X2のY1に対する安全配慮義務に基づく損害賠償請求も一部認容。

判例時報2359

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2018年4月18日 (水)

土地の所有者である個人に対して投資事業を勧誘し、取引を行った不動産業者につき、事業収支見込みに関する情報提供・説明義務違反に係る不法行為(肯定)

東京地裁H28.10.14      
 
<事案>
土地の所有者が不動産業者と賃貸建物の建築、管理委託を契約し、契約が履行されていた間に収益見込みに問題が生じた⇒不動産業者の情報提供・説明義務違反に係る不法行為の成否が問題。 
Xは、Yに対し、虚偽・不当な勧誘、説明義務違反を主張し、不法行為に基づき本件建物の建築等に要した金額と売却価格の差額1億8885万円、弁護士費用の一部115万円の損害賠償を請求。
 
<争点>
①虚偽・不当な勧誘、説明義務違反による不法行為の成否
②損害の発生
③因果関係の有無 
 
<判断> 
X・Yの属性、利益状況によれば、Yは、本件請負契約の勧誘、説明に際し、Xに対し、契約を締結するか否かにつき的確な判断ができるような正確な情報を提供し、適切な説明をすべき信義則上の義務がある。 
本件では、虚偽・不当な勧誘・説明に関する多くのXの主張は排斥。
but
修繕費に関する説明については、本件建物の大規模修繕が必要になるところ、Yの提案書等による説明は極めて過小であり、駐車場契約における負担が相当に軽度であることに鑑みると、Xが多額のローン債務を負担してまで本件賃貸事業を選択しなかった可能性が高い
修繕費を含む事業収支見込みについての前記義務違反に係る不法行為を肯定

Xの本件建物の売却によって損害を拡大させたとは認められない⇒因果関係を肯定した上、本件建物の建築等の費用と売却価格の差額1億8885万円の損害を認めた

本件賃貸事業による収益のうちローン返済分(1億602万3240円)を控除

他の収益(8561万7681円)の損益相殺は駐車場収入を得られなくなったものであり、全額を損益相殺することは公平の見地から相当ではない⇒一部(5583万3333円)の損益相殺を認め、弁護士費用115万円の損害を認めて(損害額合計5419万2412円)、請求を一部認容。

判例時報2359

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2018年4月17日 (火)

クラブの経営者にみかじめ料を支払わせた⇒暴力団組長の不法行為責任と最上位の指定暴力団の組長の使用者責任(肯定)

名古屋地裁H29.3.31      
 
<事案>
暴力団幹部がクラブの経営者に長期にわたってみかじめ料を支払わせた⇒経営者が暴力団幹部のほか、組長に対して損害賠償を請求。 
Xは、みかじめ料の支払要求が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律31条の2に該当すると主張
Y2に対して不法行為に基づき、Y1に対して使用者責任等に基づき
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料500万円、弁護士費用相当の損害につき損害賠償等請求をした。
 
<争点>
①Y2の不法行為責任の成否・損害額
②Y1の使用者責任の成否・損害額
③Y2の不当利得の成否、民法708条の該当性等 
 
<判断>
①Xのクラブの開店、②Y2のみかじめ料の要求、③みかじめ料の減額要請、④みかじめ料の支払、⑤指定暴力団の条の金制度等の事実を認定

Y2のみかじめ料の徴収行為については、Xの意思決定の自由を奪い、Xの意思に反した財産処分を強制する行為であり、Xの意思決定の自由及び財産を侵害する行為

Y2の不法行為責任を肯定し、
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料150万円、弁護士費用120万円の損害を認めた。

Y1の使用者責任について、
Y1は、K組又はL会の下部組織の構成員を、直接間接の指揮の下、それらの威力を利用して資金獲得活動に係る事業に従事させていた等使用者と被用者の関係を認め
Y2が取得したみかじめ料はK組又はL会の威力を利用して資金獲得活動をすることの対価として、上納金制度を介してK組又はL会に支払われていた⇒Y1の業務の執行であったことを肯定

Y1の使用者責任を肯定し、請求を認容

判例時報2359

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2018年4月16日 (月)

区分所有建物が存在する土地の競売による分割請求が権利の濫用とされた事例

東京地裁H28.10.13      
 
<事案>
兄妹間の共有に係る土地(土地上に区分所有建物が存在する)について競売による分割請求⇒分割請求が権利の濫用に当たるかが問題となった事案。 

本件土地は、共同相続、遺言を経て、現在、兄Y1、Y2、妹Xの共有(Xが2分の1、Y1、Y2が各4分の1の持分)

本件土地上には、Xらの父Aが所有していた旧建物があったが、
Aの死亡を機に取り壊した後、昭和60年9月、
Xの夫B、Y1、Y2が3階建ての区分所有建物(各階ごとに区分建物となっている)を建築したうえで、
1階部分をB、2階部分をY2、3階部分をY1がそれぞれ区分所有し、
Bが本件土地につき土地所有権を有する旨及び本件各区分建物と本件土地を分離して処分できる旨の規約を設定。
その後、Bは平成25年6月、1階部分をXに贈与。
 
<争点>
①競売、代金分割による共有物分割の場合、本件建物も併せて売却できるか
②本件分割請求が権利の濫用に当たるか
③本件分割請求につき相当な分割方法は何か 
 
<判断>
争点①について否定

争点②について:
分割による本件建物に与える影響、本件分割請求の目的・必要性、本件土地の分割によるY1らの不利益に関する事情を認定
本件分割を認めることは本件建物の存立を不安定なものにし、各区分建物の所有者に不利益を与えるものであり、分割が認められないことによるXの不利益に比して、分割を認めることによるY1らの不利益が非常に大きい
権利の濫用として本件分割請求は許されない
⇒請求を棄却。 
 
<規定>
民法 第256条(共有物の分割請求)
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
 
<解説>
共有物の分割請求権については、分割の自由が原則であり、いつでも分割を請求することができ、長期の拘束を認めないのが民法256条の趣旨、内容

判例時報2359

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2018年4月15日 (日)

日本舞踊の流派の名取の地位にあることの確認を求めた訴え

東京高裁H28.12.16      
 
<事案>
Xは日本舞踊の流派の名取として活動していた者。
Y1は同流派の家元、Y2は家元及び名取等で構成される流派団体。 

Xは、Y1より、名取から除名する旨の処分を受けた⇒
Xは、本件除名処分が無効であると主張し、
Y1に対し、名取の地位にあることの確認及び除名処分を不法行為として損害賠償を求め、
Y2に対しては、Y2の会員の地位にあることの確認及びY2の総会への出席を拒否したことが不法行為に該当するとして損害賠償を求めるとともに、Y2の総会の理事選任等の決議の不存在の確認を求めた。
 
<原審>
Y1に対する名取の地位にあること及び
Y2に対する会員の地位にあることの確認請求
を認容
各不法行為に基づく損害賠償請求は棄却、
各決議の不存在確認請求は却下 
 
<争点>
本件除名処分が司法審査の対象となり、無効であるか? 
 
<判断> 
控訴棄却 
名取の地位を基礎とする権利利益は、舞踊の振り付けを上演するための権利や職業活動及び事業活動の基盤であり、Y2の総会における議決権を伴う会員資格の基盤⇒法的利益と評価できる
②本件除名処分が規則に基づいて行われたものであって、その効力の有無について、裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったか否かという観点から判断できる法令の適用により終局的に解決できる

本件除名処分は司法審査の対象になる

①本件除名処分によって、Xは日本舞踊家としての活動が極めて大きく制限され、生計の基盤が奪われるなど著しく甚大な不利益を被るのに対し
本件除名処分に際し弁明の機会が付与されておらず、後継者の候補と目されていたXを排除する意図があったことを窺わせる事情が認められる
本件除名処分は無効。
 
<解説>
本件除名処分が司法審査の対象となったとして、それが違法となるかは、
全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合」に限られる(最高裁H18.9.14)

本件は、本件除名処分に至る経緯などを総合的に判断し、社会通念上著しく妥当性を欠いたものとして、本件除名処分は無効であるとしたもの。 

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2018年4月12日 (木)

民法941条1項の規定に基づく財産分離の可否

最高裁H29.11.28       
 
<事案>
被相続人Aの成年後見人であったXが、後見事務において立て替えた費用等につきAに対して債権を有するなどと主張し、民法941条1項に基づき、Aの相続人であるY及びBの財産からAの相続財産を分離する旨の家事審判を申し立てた。 
 
<規定>
民法 第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
2 家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
3 前項の規定による公告は、官報に掲載してする。
 
<原審>
民法941条1項の財産分離について、相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合又は近い将来において債務超過となるおそれがある場合に相続財産と相続人の固有財産の混合によって相続債権者等の債権回収に不利益をを生ずることを防止するための制度

家裁は同項の定める形式的要件が具備されていることに加えて、
前記の意味における財産分離の必要性が認められる場合にこれを命じることができる。

このような財産分離の必要性について審理することなく財産分離を命じた原々審判には審理不尽の違法がある。
   
Xが抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可。
 
<判断>
民法941条1項の規定する財産分離の制度は、相続財産と相続人の固有財産とが混同することによって相続債権者又は受遺者(「相続債権者等」)がその債券緒回収について不利益を被ることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者等が、相続財産について相続人の債権者に先だって弁済を受けることができるようにしたもの。

家庭裁判所は、相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり又はそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあると認められる場合に、民法941条1項の規定に基づき、財産分離を命ずることができるものと解するのが相当。 
 
<解説>
民法は、財産分離について、
①相続債権者等がイニシアティブをとるもの(民法941条~949条)(第1種財産分離)と
②相続人の固有の債権者がイニシアティブをとるもの(民法950条)(第2種財産分離)
を規定。 

第1種財産分離が命じられる⇒相続債権者等は、相続財産について、相続人の債権に先だって弁済を受けることができるが(民法942条)、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に、相続人の固有財産にも権利行使をすることができるものの、相続人の債権者に劣後する(民法948条)。

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2018年4月11日 (水)

村議会議員に対する地方自治法92条の2に該当する旨の資格決定処分についての執行停止の申立て(肯定)

札幌高裁H29.5.29      
 
<事案>
北海道の留寿都村の村議会議員であったYが、同議会による、平成28年7月14日付けでなされた地方自治法92条の2に該当する旨の資格停止処分には、同条の法令解釈を誤った違法があると主張して、同処分の取消しを求める訴えを提起するとともに、本件訴訟を本案として、本件処分の効力の停止を求めた。
 
<判断>
本件処分の効力を本案事件に関する第一審判決の言渡し後30日を経過するまで停止するのが相当である。

地方議会議員であれば、原決定が認定する重大な損害を被るのが通常であるというべき⇒Yについて重大な損害を被ることのない特別の事情がない限り、「重大な損害を避けるため緊急の必要性がある」ということができる。
Yが「次の選挙まで復職するつもりはない」と言ったとしても、前記の特別の事情があるとはいえない。
②Yの失職による議員の補欠選挙の実施の可否及び選挙の効力等について、村中に大きな混乱が生じたものとは認められない。
Yの業務が議員としての職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いということはできず、「本案について理由がないとみえるとき」に当たらない
 
<規定>
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕 
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。

行訴法 第25条(執行停止)
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
 
<解説>
行訴法25条1項は、業絵師処分の取消しの訴えの提起について、いわゆる執行不停止の原則を定めているが、同条2項は、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより決定をもって、処分の効力等の停止をすることができると定める。

「重大な損害」とは、原状回復不能又は困難な損害もしくは社会通念上金銭賠償で受忍することの不能又は困難な、積極的、消極的損害をいうと解されている。

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2018年4月10日 (火)

工業用水道の使用を廃止した者が納付しなければならないとされる負担金の地方自治法224条、228条1項にいう「分担金」該当性(否定)

最高裁H29.9.14      
 
<事案>
大阪府が営む工業用水道事業に係る条例に基づき、府との間で給水契約を締結して工業用水道を使用していたYが、その使用を廃止⇒府から前記事業を承継した一部事務組合であるXが、前記給水契約に基づき、Yに対し、前記条例において工業用水道の使用を廃止した者が納付すべきこととされる負担金の支払を求める事案。

Yは、昭和53年、大阪府工業用水道事業供給条例に基づき、府との間で給水契約を締結し、以後、同契約に基づき工業用水道を使用してきた。

平成21年の本件条例の改正により、2部料金制が導入されるとともに、使用者の希望により契約水量を減ずること等が認められることとなる⇒使用者は、契約水量の減量や工業用水道の使用の廃止等に当たり、負担金を納付しなければならない旨の規定が設けられた。

Yは、平成23年1月、府に対し、工業用水道使用廃止届を提出⇒府は、Yに対し、本件廃止負担金の額を1308万2795円とすること等を通知。
 
<一審での争点>
①Yに本件規定が適用されるか
②本件規定が工業用水道事業法17条に違反するか
③本件規定の適用が信義則違反若しくは権利の濫用に当たるか 
 
<一審>
争点①について、
府とYとの間には、給水契約締結の際、その後本件条例及び本件規程によって定められる供給規程が変更された場合には、当該変更が違法無効であるなどの事情のない限り、給水契約の内容も同様に変更される旨の黙示の合意があった。
その余の争点についてもYの主張を排斥
⇒Xの請求を遅延損害金の一部を除き認容。 
 
<争点追加>
前記争点①②③に加え、
本件廃止負担金が地方自治法224条、228条1項の分担金に当たるか、また、分担金に当たる場合、本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているといえるかが新たに争点。 
 
<原審>
①本件廃止負担金は分担金に当たる
②本件規定は、本件廃止負担金の額について、具体的な額はもとより基本的な算定方法さえも定めていない
⇒本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているとはいえない
⇒Xの請求を棄却
 
<判断>
本件廃止負担金の目的やその額の算定方法
本件廃止負担金は分担金に当たらず、これに関する事項について条例で定めなければならないものではない
⇒原判決を破棄して、原審に差し戻し。 
 
<規定>
地方自治法 第224条(分担金)
普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる。

地方自治法 第228条(分担金等に関する規制及び罰則)
分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。
 
<解説>
●「分担金」の意義
普通地方公共団体の事業等は、通常はその全体に一般的な利益をもたらすもの⇒法224条は、これが一部の者又は地域に特別な利益をもたらす場合には、特に利益を受ける者から、その受益を理由として、当該受益の限度において、当該事業等の費用の一部に充てるために分担金を徴収することができることとし、受益しない者との関係で負担の公平や一般財源の持ち出しの抑制等を図ることとしたもの。
 
●分担金条例主義(法228条1項) 

分担金を課するかどうか、課する場合にその範囲や徴収方法(金額等)をどのように定めるかについて民主的な統制を及ぼすことにより、分担金を課される者の利益を保護するとともに、
本来徴収してしかるべき分担金を徴収しないといった恣意的な運用により地方公共団体に不利益が生じることを防ぎ、
もって住民の平等な利益享受を実現。
 
本件廃止負担金は、工業用水道の使用を廃止した者が、府の工業用水道事業やその設置する水道施設等からもたらされる利益を特に享受することを利用として、その受益の限度において徴収される性質のものだえるということは困難であり、住民の平等な利益享受の実現という分担金条例主義の趣旨が当てはまる場面であるとも言い難い。 

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2018年4月 4日 (水)

伊方原発3号炉運転差止仮処分命令申立訴訟広島高裁決定

広島高裁H29.12.13    
 
<事案>
広島市及び松山市に居住するXらが、四国電力(Y)が設置した発電用原子炉施設である伊方発電所3号炉(「本件原子炉」)及びその附属施設は、地震、火山の噴火、津波等に対する安全性が十分でない⇒これらに起因する過酷事故が生じる可能性が高く、そのような事故が起これば、外部に大量の放射性物質が放出されてXらの生命、身体、精神及び生活の平穏等に重大・深刻な被害が発生するおそれがある。
⇒Yに対して、人格権の妨害予防請求権に基づいて、本件原子炉の運転j差止めの仮処分を求めた事案。 
 
<原審>
Xらの仮処分命令申立てをいずれも却下。 
 
<判断>
①火山事象の影響による原子炉施設の危険性の評価について、本件原子炉施設が改正原子炉等規正法に基づく新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理
相手方電力会社において本件原子炉施設の運転等により申立人らがその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないとの主張、疎明を尽くしたとは認められない

仮処分申立てを却下した原決定を取り消し本件原子炉の運転停止を命じた。 

保全の必要性の判断において、係属中の本案訴訟において証拠調べの結果異なる判断がなされる可能性もある等⇒相手方に原子炉の運転停止を命じる期間に限定を付した。
 
<判断・検討>   
●本件についての司法審査のあり方に関する判断 
◎ 人格権に基づく妨害予防請求権として発電用原子炉の差止めを求める仮処分を申し立てた場合、
申立人は、被保全権利として、
「当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあり、その運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝によりその生命、身体に直接的かた重大な被害を受ける具体的危険が存在すること」(「具体的危険の存在」)について主張疎明責任を負う。

①改正原子炉等規制法は4号要件の存否につき原子力規制委員会の審査を経ることとしている⇒発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する同審査を経ることを義務付けられた者としてその安全性について十分な知見を有しているはず。
②原発事故の特性。

申立人が当該発電用原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故によってその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する者である場合には、
設置運転の主体である相手方事業者の側において、まず
「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(「具体的危険の不存在①」)について相当の根拠資料に基づき主張疎明をする必要があり、
相手方事業者がこの主張疎明を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定される。

原子力規制委員会の審査は、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされている

相手方事業者は、その設置運転する発電用原子炉施設が原子炉等規正法に基づく設置(変更)許可を通じて原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合する旨の判断が同委員会により示されている場合には、
具体的危険の不存在①の主張疎明に代え
「当該具体的審査基準に不合理な点のないこと及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準委適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がないこと」(「規準の合理性及び基準適合判断の合理性」)を相当の根拠資料に基づき主張疎明すれば足りる。

相手方事業者が規準の合理性及び基準適合判断の合理性について自ら必要な主張疎明を尽くさず、又は申立人による相手方事業者の前記主張疎明を妨げる主張疎明(反証)の結果として基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明が尽くされない
「基準の不合理性又は基準適合判断の不合理性」が事実上推定される。
そして、この場合、相手方事業者は、それにもかかわらず、当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該申立人の生命、身体に直接かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと(「具体的危険の不存在②」)を主張疎明しなければならない。
 
◎Xらは、本件原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故(放射性物質の放出)によって、その生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住。
Yは、原子炉規制委員会から本件原子炉施設につき平成27年7月15日に設置(変更)許可を受けている⇒具体的危険の不存在①の主張疎明に代え、基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明をすることができ、実際にも同主張疎明を行っている。

Xらの反証を考慮に入れた上で、Yが規準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明に奏功したといえるか否か、
Yがこの点の主張疎明に失敗した場合に具体的危険の不存在の主張疎明に奏功しているか否かについて判断。

本件の争点は本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険があるかどうか。
その危険あり⇒Yが本件j原子炉の運転を継続することは違法であって、原子力発電の必要性や公共性が高いことを理由として、本件原子炉の運転を継続することは許されない。
 
●本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険の存否についての判断 

◎本件原子炉施設の設置(変更)許可に際しての具体的審査基準である新規規制基準については、手続上も実体上も、その合理性を失わせる瑕疵は見当たらない。
  本件原子炉施設が新規性基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がなかった否か、並びにその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がなかったか否かの点につき・・・については、新規制基準の定め(これを具体化した地震ガイド、津波ガイドを含む。)は合理的であり、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的。

◎but
以下の通り判断し、Xらの主張のうち火山事象の影響による危険性に関する新規制基準及びそれに基づく原子力規制委員会の判断は不合理であり、Yにおいて具体的危険の不存在の主張、疎明を尽くしたとは認められない。 

火山ガイドは、安全施設は、想定される自然現象(火山の影響を含む。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(設置許可基準6条1項)等の新規制基準を受け、
「火山の影響」について、原子力発電所への火山影響を適切に評価するため、
完新世(約1万年前まで)に活動した火山を将来の活動可能性を否定できない火山とし、
これを前提として、「立地評価」と「影響評価」の二段階で評価することとしている。

立地評価:主として火山活動の将来の活動可能性を検討しながら、設計対応不可能な火山事象(火砕物密度流、溶岩流、岩屑なだれ、地滑り及び斜面崩壊、新しい火口の開口並びに地殻変動)が原子力発電所の運用期間中にその敷地に到達する可能性を評価することで、原子力発電所の立地として不適切なものを排除するもの。

影響評価:立地評価の結果、立地が不適とされない敷地について、設計対応可能な火山事象(降下火砕物、火山性土石流、火山泥流及び洪水、火山から発生する飛来物(噴石)、火山ガス、津波及び静振、大気現象、火山性地震とこれに関連する事象並びに熱水系及び地下水の異常)に対する施設や設備の安全機能の確保を評価するもの。

このような新規制基準の内容は国際基準とも合致しており、合理性を肯定することができる。
Yは、新規制基準に従い、本件発電所から半径160kmの範囲の領域(「地理的領域」)にあり、本件発電所に影響を及ぼし得る火山として、鶴見岳、由布岳、九重山、阿蘇(本件発電所の敷地殿距離130km)、阿武火山群、姫島、高平火山群を抽出しているが、その抽出の過程には格別不合理な点は見当たらない。

火山ガイドは、抽出された検討対象火山について、
①将来の活動可能性を評価する際に用いた調査結果と必要に応じて実施する②地球物理学的及び③地球化学的調査の結果を基に、原子力発電所の運用期間(原則として40年)中における検討対象火山の活動可能性を総合的に評価し、当該火山の活動の可能性が十分小さいかどうかを判断すべきものとしている。
but
現時点の火山学の知見を前提とした場合に、前記①ないし③の調査によりそのような判断ができると認めるに足りる証拠はない。
本件では、検討対象火山の活動の可能性が十分小さいと判断できない

火山ガイドに従い、次に、火山活動の規模と設計対応不可能な火山事象の本件発電所の敷地への到達可能性を評価

検討対象火山の調査結果からは原子力発電所運転期間中に発生する噴火規模もまた推定することはできない⇒検討対象火山の過去最大の噴火規模(本件では阿蘇4噴火)を想定し、これにより設定対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを検討する必要。
Yは、
①本件発電所敷地の位置する佐田岬半島において阿蘇4火砕流堆積物を確認したとの報告がない
②敷地周辺における地表調査、ボーリング調査等において阿蘇4火砕流大切物は確認されない
③解析ソフトによるシミュレーション結果等
⇒阿蘇4火砕流は敷地まで達していないと判断。
but
火山ガイドにおいて160kmの範囲が地理的領域とされるのは、国内最大規模の噴火である阿蘇4噴火において火砕物密度流が到達した距離が160kmであると考えられているため⇒阿蘇から130kmの距離にある本件敷地に火砕流が到達する可能性が十分小さいと評価するためには、相当程度に確かな疎明が必要
but
Y主張の根拠からは、本件敷地に火砕流が到達しないと判断することはできない。

「設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価されない火山がある場合」
に当たり
、原子力発電所の立地は不適⇒当該施設に原子力発電所を立地することは認められない(火山ガイド)。
 
原決定(及び原決定が引用する福岡高裁宮崎支部H28.4.6):
過去の最大規模の噴火がいわゆる破局噴火であってこれにより火砕物密度流等の設計対応不可能な火山事象が当該発電用原子炉施設に到達したと考えられる火山が当該原子炉施設の地理的領域に存在する場合であっても、当該原子炉施設の運用期間中にそのような噴火が発生する可能性が相応の根拠を持って示されない限り、立地不適としなくても、原子炉等規正法、設置認可基準規則6条1項の趣旨に反しないと判示
but
原子力規制委員会が行う安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査においては、原子力工学はもとより多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要4号要件が審査基準を原子力規制委員会規則で定めることとしているのは、同号の基準の作成について、原子力利用における安全の確保に関する科学的、専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨

当該裁判所の考える前記社会通念に関する評価と火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもって、火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは、原子炉等規制法及び設置許可基準規則6条1項の趣旨に反し許されない。
 
◎⇒
立地評価についてYによる基準適合判断の合理性の疎明がされたということはできない⇒原子力規制委員会の基準適合判断の不合理性が事実上推定
but
本件前疎明資料によっても、Yによる具体的危険の不存在②の主張疎明がなされたとは認め難い。

被保全権利の疎明がされた
 
●保全の必要性についての判断 
本件原子炉は稼働中⇒保全の必要性が認められる。
but
係属中の本案訴訟において、証拠調べの結果、本案裁判所が異なる判断をする可能性もある事等⇒Yに対し運転停止を命じる期間は、平成30年9月30日までと定めるのが相当。

判例時報2357・2358

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2018年4月 3日 (火)

公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が選挙無効の原因として被選挙権の年齢制限規定の意見を主張できるか?(否定)

最高裁H29.10.31      
 
<事案>
平成28年7月10日に施行された参議院議員通常選挙の選挙人であるXが、
①参議院議員の被選挙権を有する日本国民を年齢満30年以上のものとしている公選法10条1項2号の規定(「本件規定」)が憲法14条1項等に違反する、
②本件選挙当時の公選法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定が憲法14条1項等に違反する
⇒Y(東京都選挙管理委員会)を相手に、本件選挙における東京都選挙区選出議員選挙を無効とすることを求めて提起した選挙無効訴訟。
 
<争点>
①公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の意見を主張することの可否
②本件規定の憲法適合性
③本件定数配分規定の憲法適合性
 
<判断>
公選法204条の選挙無効訴訟において、選挙人は、同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の違憲を主張することはできない。 
最大判H29.9.27を引用し、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる著しい不平等状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
 
<規定>
行訴法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
 
行訴法 第42条(訴えの提起) 
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。

公選法 第204条(衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟)
衆議院議員又は参議院議員の選挙において、その選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては候補者又は候補者届出政党、衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては衆議院名簿届出政党等、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者)は、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙にあつては当該都道府県の選挙管理委員会を、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては中央選挙管理会を被告とし、当該選挙の日から三十日以内に、高等裁判所に訴訟を提起することができる。

公選法 第205条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
 
<解説> 
●公選法204条の選挙無効訴訟は、民衆訴訟(行訴法5条)であり、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく、同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」ものである(行訴法42条)。
このような民衆訴訟である選挙無効訴訟につき、公選法204条は、「選挙人又は公職の候補者」のみがこれを提起し得るものと定め、同法205条1項は、同訴訟において主張し得る選挙無効の原因を「選挙の規定に違反することがあるとき」と規定。
 
公選法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」の意義については、主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解されている(最高裁昭和27.12.4)。

最高裁H26.7.9:
公選法204条の選挙無効訴訟は、同法において選挙権を有するものとされている選挙人らによる候補者に対する投票の結果としての選挙の効力を選挙人又は候補者が上記のような無効原因の存在を主張して争う争訟方法であり、同法の規定において一定の者につき選挙権を制限していることの憲法適合性については、当該者が自己の選挙権の侵害を理由にその救済を求めて提起する訴訟においてこれを争うことの可否はおくとしても同条の選挙無効訴訟において選挙人らが他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されていない

選挙人が公選法204条の選挙無効訴訟において同法205条1項所定の選挙無効の原因として前記各規定の違憲を主張することはできない。

自己の選挙権の制限について主観訴訟で争い得る余地があることを示唆しているのは、最高裁が、公選法205条1項所定の選挙無効の原因に当たるか否かにつき、他に同法の規定の違憲を主張してその是正を求める手段があるか否かという観点をも考慮した上で判断していることを示すもの。
(最高裁昭和51.4.14も、他に是正を求める機会がないこと等を理由として公選法204条に基づくいわゆる定数訴訟の提起を認めている。)
 
●本件規定による被選挙権の制限については、これにより本件選挙に立候補することができなかった満30歳未満の国民が自ら主観訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え)を提起してこれを争う余地がある。 

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2018年4月 2日 (月)

再生債務者の無常行為の否認につて債務超過であることが必要か?(不要)

最高裁H29.11.16      
 
<事案>
㈱ユタカ電機製作所(A社)の民事再生手続において、上告人Xが再生債権として届出をした連帯保証債務履行請求権につき、再生管財人である被上告人Yがその連帯保証契約(本件連帯保証契約)に対し無償行為否認をし、その額を0円と査定
⇒Xがその変更を求める異議の事案。
 
<規定>
民再法 第127条(再生債権者を害する行為の否認) 
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。

3 再生債務者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。
 
<事実>
グラス・ワンホールディングス㈱(B社)は、平成26年4月、㈱トーヨーコーポレーション(C社)から、A社の株式の買収資金として13億円を借り受けた。
B社は、A社を買収後、A社から6億円を借り受けて一部弁済。

Xは、C社と代表者を共通とする関係会社であるが、
平成26年8月29日、C社からB社に対する貸金債権(元本残額役7億円)の譲渡を受け、A社との間で、A社が前記貸金債権に係るB社の債務を連帯して保証する旨の本件連帯保証契約を締結。

A社は、平成27年2月18日、再生手続開始の申立てをし、その後、再生手続開始決定。
Xが平成27年4月にA社に対する連帯保証債務履行請求権を再生債権として届け出た⇒Yは、XとA社との間の連帯保証契約につき無償行為否認をして、Xの届け出た再生債権を認めないとの認否。

Xが東京地裁に、再生債権につき査定の申立て
⇒同裁判所は平成27年10月、Yの無償行為否認の行使を認め、前記再生債権につき0円と査定する決定。
⇒Xが本件査定決定の変更を求めて本件訴えを提起
⇒一審、原審共に、本件査定決定を認可すべきものとした。
⇒Xが上告受理申立て。

<判断>
再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは、民再法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと判断し、
上告を棄却。

①民再法127条3項に再生債務者の債務超過等を否認権行使の要件とすることをうかがわせる文言がない
同項の趣旨が「その否認の対象である再生債務者の行為が対価の伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにある」
 
<解説> 
●債務者の行為の効力を否認する否認権を発動するためには、その債務者の行為によって債権者を害する結果が生ずるだけではなく、更にその発動を正当化す根拠が必要。 
①その行為の時に、債務者の財務状況が破綻しており、その行為の相手方がそれを認識しているということを正当化根拠とする危機否認
②その行為の時に債務者が債権者を害する意図を持ち、その行為の相手方がそれを認識していることを正当化根拠とする故意否認
③その行為が無償性を有することを正当化根拠とする無償否認
という3類型。 
 
●再生手続において無償行為否認をするに当たり、再生債務者の資産状況の悪化を必要とするか?

A:必要説
←民再法127条1項又は2項の詐害行為否認をするに当たり再生債務者の資産状況の悪化を要するものと解されるところ、平成16年の一連の倒産法改正における民再法の改正により無償行為否認が詐害行為否認の一類型とされたという体系的な理解。

〇B:不要説

①無償行為否認については、前記一連の倒産法改正において、実質的な議論がほとんどされず、法文上も基本類型(民再法127条1項)と組み合わせて否認が基礎付けられる同条2項とは異なり、同条3項においては単独で否認が基礎付けられており、無償行為否認の行使要件につき実質的な改正がされなかったものとみるのが相当
改正前においては、否認の対象となり無償行為等の際の債務者の資力を問題とする必要性を採るものは見当たらず、これを問題としない不要説が通説。 

判例時報2357・2358

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