殺人で因果関係が争われた事案(肯定)
大阪地裁H29.3.1
<事案>
横断歩道の設置された交差点を左折進行した際、同横断歩道上を自転車に乗って横断していた被害者に衝突⇒被害者を車底部等で引きずったまま、自車を蛇行させるなどしながら相当速度で走行⇒停車した通路及び隣接する駐車場において、被害者の体幹部を自車右後輪で2度にわたり轢過し、それによる心配破裂を直接の原因として被害者死亡。
<判断>
①本件引きずり行為及び②本件轢過行為についての殺意の有無が問題となり、前者については肯定、後者については否定
⇒殺人の実行である①行為と被害者の死亡との間に、被告人の殺意によらない②行為が介在⇒因果関係が問題
判断:
①本件引きずり行為自体によっても、路面との擦過によって被害者の左足部及び頭部顔面に相当な皮膚の欠損及び真皮の喪失が生じており、筋膜が露出した状態になっていた⇒初期治療を受けていたとしても、感染症を生じ、敗血症等により死亡する可能性があった。
本件引きずり行為によって相当量の出血によるショック状態に陥っており、本件轢過行為がなかったとしても、その場に放置されれば、出血により数時間以内に死亡していた可能性が高かった。
⇒本件引きずり行為によって、既に被害者が死亡する高度の危険性が生じており、本件轢過行為は被害者の死亡時間を数時間早めたにすぎない。
②被告人が本件轢過行為に及んだのは、当初の衝突事故の刑責を免れるため、被害者を引きずったまま逃走行為を開始し、本件引きずり行為を行い、停車した後も車両に引っかかった被害者を外そうとし、外れた後も、さらに逃走行為を継続するためであった。
③被害者が本件轢過行為を避けることができなかったのは、本件引きずり行為によって意識を失っていたから
⇒
本件引きずり行為と本件轢過行為は密接に関連しており、被害者は、被告人の車両の車底部で引きずられたために、轢過されるに至ったものといえ、本件轢過行為は、本件引きずり行為から死亡に至る経過の単なる1コマにすぎない
⇒
被害者の死亡の結果は、本件引きずり行為によって生じた生命の危険性が現実化したものと評価できるから、本件引きずり行為と被害者の死亡との間の因果関係が認められる。
<解説>
因果関係については、条件説と相当因果関係説があり、相当因果関係説(通説)においては、その相当性を判断する際の判断基底についての対立がある。
最高裁の判例は、因果関係の問題について、極めて個別的色彩が強い⇒明確な理論的立場の表明を避け、具体的な事例の集積を通じてその考え方を示していく態度を基本。
現在は、このような判例を整理して、
「行為の危険性が結果へと現実化したか(危険の現実化)」という基準によって因果関係判断がなされているとの立場(山口)が有力。
被害者ないし第三者の行為が介在した場合、これまでの判例を分析し、被告人の実行行為の危険性と介在事情の結果発生への寄与度の観点から整理した「危険の現実化」の判断枠組みも提示。
判断の①が実行行為である本件引きずり行為の危険性の観点からの評価
②③が、介在事情である本件轢過行為の評価。
②③について、被告人側と被害者側の双方の観点から、本件引きずり行為が本件轢過行為に強い因果的影響を与えており、介在事情である本件轢過行為は因果関係の面で独立して評価する事情にはならないことを指摘。
判例時報2355
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