軽犯罪法1条2号の「正当な理由」と「隠して」の意義と存否の判断
広島高裁H29.3.8
<事案>
被告人が、正当な理由がないのに、コンビニエンスストアの駐車場において、ヌンチャク3組を、自動車内に隠して携帯
⇒軽犯罪法1条2号違反に問われた。
<規定>
軽犯罪法 第1条〔軽犯罪〕
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
<争点>
「隠して携帯していた」
「正当な理由」
の有無。
<判断>
●「隠して」につき、本人に隠す意思が必要
⇒
隠れた状態を認識するだけでは足りず、携帯の態様や目的等から隠すことについての何らかの積極的な意思を認定する必要がある。
⇒
本件では否定。
●「正当な理由」について、
本号の器具には、職業上又は日常生活上必要ともいえる器具も多く含まれうる
⇒凶器の危険性の高さを理由に「正当な理由」を限定的には解してよいことにならない。
客観面と主観面の諸事情を総合して判断する必要。
ヌンチャクについて、
武道や趣味などとして適法に使用されることの方が一般的
⇒社会通念上、携帯が相当な場合が十分にあり、本件の事情の下では、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合に当たらないとすることには合理的疑い
⇒「正当な理由」がないとはいえない。
⇒被告人は無罪
<解説>
●「隠して」
①一般社会生活上、接触する他人の通常の視野に入ってこないような状態におくことをいい、
②携帯する者に隠す意思があることが必要。
←
本号が、危険な器具を「隠して」携帯することが人の生命、身体に対する具体的危険と結びつきやすいことに着目して、犯罪として取り締まることとしたものと解される。
●「正当な理由」
銃刀法22条所定のものと同様に解され、
職務上または業務上の必要のため携帯する場合等に認められ、
けんかの際の護身用としてナイフを携帯するような場合には正当な理由が認められないことが多い。
最高裁H21.3.26:
「正当な理由」の有無について、
当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、
隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素を
総合的に勘案して判断すべきと判示し、
深夜のサイクリングの際に専ら防御用として催涙スプレーをズボンのポケット内に入れて隠匿携帯したことは、社会通念上、相当な行為であり、「正当な理由」によるものであるとした。
判例時報2354
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