道交法130条2号の「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に該当しないとされた事例
大阪高裁H28.12.6
<事案>
検察庁の取調べで当該車載カメラの映像を示された⇒違反の事実を認め、交通反則通告制度による処理を希望。
but
道交法130条2号にいう「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に当たる
⇒公訴を提起。
<解説>
道交法:交通反則行為に関する処理手続の特例:
警察官において、反則者があると認めるときは、その者の居所や氏名が不明の場合又は逃亡のおそれがある場合を除き、その者に対し、速やかに反則行為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別等を書面で告知し(126条1項)、
警察本部長は、告知を受けた者が反則者であると認めるときは、反則金の納付を書面で通告し(127条1項)、
これに応じて10日以内に反則金納付の通告を受け、かつ、10日の期間が経過した後でなければ、公訴を提起されない(130条)。
その者が書面の受領を拒んだため126条1項の規定する告知又は通告をすることができなかったときはこの限りでない(同条2号)
と規定。
<問題>
どのような場合に、反則者が書面の受領を拒否したものとして直ちに公訴を提起することができるのか?
<判断>
道交法130条2号にいう「受領を拒んだ」の意味について、
反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだため、交通反則通告手続による処理が困難となる場合をいう。
←
①交通反則通告制度は大量に発生する道交法違反についての迅速処理を主眼とするものではあるが、他方、大量の違反者すべてに刑罰を科し犯罪者とするとかえって刑罰の感銘力を低下させるなどの弊害があることも考慮した制度
②受領拒否の「正当な理由」の有無を判断するに当たっても、単に迅速処理の観点だけではなく、比較的軽微な違反行為について公訴提起は抑制的であるべき
①過失による赤信号看過という本件反則行為の内容が、速度超過、駐停車違反、通行禁止違反等のその場で違反者が道路標識や記録紙等を確認することで違反の事実を容易に認識できる類型の違反と異なり、違反者自身に自覚がないことが通常で、かつ、その場で違反の事実を確認できないことがままある類型の違反
⇒被告人が警察官に車載カメラの映像の確認を求めたのは格別不当であるとはいえない。
②警察官が、実際には車載カメラの映像が存在していたにもかかわらず、被告人に対し、そのようなものはないと言ってこれを提示しなかったのは甚だ不誠実な対応
⇒それにもかかわらず、後日、車載カメラの映像を見せられて事実を認め、交通反則通告制度による処理を求めた被告人が一旦告知書の受領を拒んだ以上、道交法126条1項の告知をすることができなかったときに当たるとするのは、信義に反する。
⇒
本件は反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだ場合には当たらない。
⇒
被告人を罰金9000円に処した原判決を破棄し、公訴を棄却。
<解説>
本判決は、
一般論としては、
受領拒否に当たるかどうかは反則行為を現認した警察官がその時点で判断すれば足り、
検察官に事件送致された後に被疑者が反則制度の利用を希望したからといって、同制度による処理に移行する必要がない。
but
違反行為の類型的な特徴に加え、
特に警察官の不誠実な対応があった点を重く見て、例外的に処理するのが相当と判断。
判例時報2354
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