じん肺管理区分についての決定の取消訴訟の係属中の死亡と訴訟承継(肯定)
最高裁H29.4.6
<事案>
建物の設備管理等の作業に従事する労働者であった亡Aが、福岡労働局長に対し、じん肺法15条1項に基づいてじん肺管理区分の決定の申請⇒管理1に該当する旨の決定⇒じん肺健康診断の結果によれば管理4に該当するとして、Y(国)を相手に、その取消し等を求めた。
亡Aが第1審口頭弁論終結後に死亡⇒亡Aの妻子であるXらによる訴訟承継の成否が争点。
<原審>
本件決定等の取消しによって回復すべき法律上の利益は、管理2以上のじん肺管理区分の決定を受ける地位であるところ、じん肺法上、じん肺管理区分の決定を受けるという労働者等の地位は、当該労働者等に固有のものであり一審専属的なもの。
⇒
本件訴訟は亡Aの死亡により当然に終了。
Xらが上告受理申立て。
<判断>
じん肺管理区分が管理1に該当する旨の決定を受けた常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労働者であった者が管理4に該当するとして提起した右決定の取消訴訟の係属中に死亡した場合には、労災法11条1項に規定する者が当該訴訟を承継する。
⇒
更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。
<解説>
●取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合における訴訟承継の成否
最高裁(昭和42.5.24):
訴訟承継を主張する者が、死亡した原告から、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(原告適格を基礎付ける法律上の利益)を実体法上承継するとみられるかどうかによって判断するとの立場。
●じん肺法23条と労災保険法の関係
じん肺法23条は、「じん肺管理区分が管理4と決定された者・・は、療養を要するものとする」旨を定めているが、これは、その者につき一般的に療養が必要であること及びその者に対する健康管理措置が「療養」であることを明らかにしたものとされている。
同法に「療養」の具体的内容を明らかにした規定が置かれていないのは、「療養」の具体的内容やそのための手続は労基法又は労災法の定めることによるとする趣旨。
じん肺法23条の「・・・・は、療養を要するものとする」との文言も、労災法上の災害補償事由として定められた「じん肺症」(労災法12条の8、労基法75条、労基法規則35条、別表第1の2第5号)が「じん肺のうち療養を要するもの」と解されていたことに対応して定められた。
じん肺管理区分決定の要件や判断方法
⇒じん肺管理区分決定における都道府県労働局長の判断は(じん肺にかかるおそれがあると客観的に認められる)粉じん作業に従事した労働者等を対象として、専ら医学技術上の判断に属するじん肺の所見の有無及び進展の程度に関する事実を確認するものであり、労災保険手続において行われる業務起因性の判断と実質的に同一のもの。
⇒
じん肺法23条は、都道府県労働局長により管理4と決定された者が、じん肺法上の健康管理措置である「療養」の措置として、労災法上の災害補償事由(じん肺症にかかった者)に該当するものとして、円滑かつ簡便に労災保険給付の支給を受けられることを明らかにしたもの。
●じん肺法23条の本件通達の関係
本件通達:
労災保険手続において、管理4と決定された者のじん肺を業務上の疾病として取り扱うものとした上、労災保険給付の請求に当たりじん肺管理区分決定を経ることを原則とし、管理4と決定された者についてはその健康診断を行った日に発病したものとみなして所定の事務を行うものとしている。
~
じん肺法23条及び労災法等の規定を踏まえ、
じん肺に係る労災保険給付に関する事務において、管理4に該当する旨の決定がある場合には業務上の疾病に当たると認めることとした。
⇒
管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該労災保険給付の請求をした場合には、業務上の疾病に当たるとは認めない扱いとなるものと考えられる。
判例時報2355
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