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2018年3月28日 (水)

東京電力福島第一原発事故福島訴訟(生業訴訟)

福島地裁H29.10.10    
 
■事案
全国各地で審理されている福島原発事故集団訴訟のうち、福島地裁で出された、通常「生業訴訟」の第一審判決。
福島第一原子力発電所の事故により、Xらの本件事故当時の居住地(旧居住地)が放射性物質により汚染されたとして、

Xら(死亡原告を除く)が、Yらに対し、
人格権又は
Y1(国)に対しては国賠法1条1項、
Y2(東電)に対しては民法709条
に基づき、
Xらの旧居住地における空間線量率を本件事故前の値である0.04マイクロシーベルト毎時如何にすることを求める(原状回復請求)
とともに、


Xらが、Yらに対し、
Y1に対しては国賠法1条1項、民法710条、
Y2に対しては、
主位的に民法709条、710条、
予備的に原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項に基づき
各自、平成23年3月11日から旧居住地の空間線量率が0.04マイクロシーベルト毎時以下となるまで(承継原告については、死亡原告の死亡時まで)の間、
1か月5万円の割合による平穏生活権侵害による慰藉料、
1割相当の弁護士費用、
提訴時までの確定損害金に対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(平穏生活権侵害)、


Xらのうち40名(死亡原告を含み、承継原告を含まない。)が、Yらに対し、前記二と同様の根拠法条に基づき、各自、「ふるさと喪失」による慰藉料として2000万円、1割相当の弁護士費用、これに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(ふるさと喪失)た事案。

本判決:
原状回復請求に係る訴え及び将来請求に係る訴えを却下し、
Y1の規制権限不行使による国家賠償責任を認め、
Y2に対し、一般不法行為責任を否定したが原賠法上の責任を認め、
平穏生活権侵害に基づき、
Xらのうち2907名に対して総額4億9795万円(Y1に対しては2905名に対し総額2億5023万円)の支払を命じた。
 
■原状回復請求
● 請求不特定⇒却下。
なお書きで、実現可能性も欠けるとした。

● 一般に、結果発生を防止すべき作為の内容を特定することなく、一定の侵害の結果(一定値以上の騒音の到達など)を発生させることの禁止を求める抽象的不作為請求は適法とされている(大阪高裁H4.2.20、最高裁H7.7.7、最高裁H5.2.25)が、

本判決は、抽象的不作為請求が適法とされているからといって、除染等の作為を必要とする抽象的作為請求まで適法となるものではないとした。

本判決は、Xらの用語に従い「原状回復請求」と呼称しているが、仮に請求が特定され、人格権侵害が認められたとしても、妨害排除請求として認められるのは人格権の侵害が解消される程度までの低減であり、当然に本件事故前の空間線量率への「原状回復」が認められるものではない。

■将来請求
判断:口頭弁論終結の翌日以降に発生する精神的損害の賠償を求める訴えは、将来請求としての適格性を満たしておらず、不適法
 
■国の責任
規制権限不行使の違法性の判断枠組み 
判断:
判例の枠組みに沿い、
国の規制権限不行使の違法性の判断枠組みにつき、
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、
具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く
と認められるときは
国賠法1条1項の適用上違法となる。

「著しく合理性を欠く」とは、
裁量権の逸脱、濫用が認められる(当不当の問題にとどまらない)という趣旨であって、
行政庁の違法を著しい違法とそこまでに至らない違法とに区別して、後者について行政庁の責任を問わないという趣旨ではない。

●規制権限 
Y1:電気事業法(平成14年法律第65号による改正前のもの)40条に基づく技術基準適合命令は基本設計に及ばず、Xらの主張する津波対策は、いずれも基本設計に関する事項⇒詳細設計についての規制である技術基準適合命令により是正させることはできなかったと主張。

判断:
経済産業大臣は、原子炉施設が技術基準に適合しないと認められる場合には技術基準適合命令を発することが可能であり、基本設計の変更に及び得ないという制約があったとは認められない

●予見可能性 
本判決:
文科省自身調査研究推進本部自身調査委員会が平成14年7月31日に作成・公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(長期評価)⇒福島第一原発1~4号機敷地高さを超える津波の到来についての予見可能性を肯定
 
●回避可能性 
判断:
Y1が、平成14年7月31日に「長期評価」が公表された後、「長期評価」に基づくシミュレーションを行うのに必要な合理的期間が経過した後である平成14年12月31日頃までに、Y2に対し、非常用電源設備を技術基準に適合させるよう行政指導を行い、Y2がこれに応じない場合には、技術基準適合命令を発する規制権限を行使していれば、Y2は、
①非常用電源設備の設置されたタービン建屋等の水密化及び
②重要機器室の水密化
を実施し、
平成14年末から8年以上後である平成23年3月11日に本件津波が到来するまでに対策工事は完了していたであろうと認められ、そうしていれは本件事故は回避可能であった
回避可能性を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決
(1)本件事故前の知見を前提に津波対策を施す場合には防潮堤を作るというのが工学的見地から妥当な発想であり、
Xらの主張する
①タービン建屋の水密化、
②非常用電源設備等の重要機器の水密化、
③給気口の高所配置及びシュノーケル設置、
④外部の可搬式電源車(交流電源車・直流電源車)の配備
等の結果回避措置を採るべきとはいえない、
(2)防潮堤の建設には、許認可、建設期間等として長い年月を要する⇒本件事故までに工事が完了するとも認められない、
(3)前記①ないし④の結果回避措置を採っていたとしても、本件地震・本件津波は「長期評価」から予見される地震・津波と全く規模が異なるもの⇒本件事故の結果回避につながっとはは必ずしもいえない

回避可能性を否定
 
●違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)
判断:
Y1は、津波安全性を欠いた福島第一原発に対する規制権限を、規制権限の行使が可能であった平成14年末から8年以上の間、全く行使していなかった
②この規制権限の不行使は、電気事業法の趣旨、目的、技術基準適合命令の性質等に照らし、本件の具体的事情の下において、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認めるのが相当

違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決:
①確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる試算が出されたのであれば、設計津波として考慮し、直ちにこれに対する対策がとられるべきであるが、
②規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等は有限であり、際限なく想定し得るリスクの全てに資源を費やすことは現実には不可能であり、かつ、緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果、緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回るといった危険性もある
⇒予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでないのであれば、当該知見を踏まえた今後の結果回避措置の内容、時期等については、規制行政庁の専門的判断に委ねられる。
③「長期評価」の精度・確度は必ずしも高いものではなかった

経済産業大臣において、長期評価における知見を前提とする津波のリスクに対する何らかの規制措置を必要と判断した場合にも、即時に着手すべきとはいえない。

Xらが主張する平成18年までに、様々採り得る規制措置・手段のうち、本件事故後と同様の規制措置を講ずべき作為義務が一義的に導かれるとはいえず、その精度・確度を高め、対策の必要性や緊急性を確認するため、更に専門家に検討を委託するなどして対応を検討することもやむを得ない。


そのような予見可能性の程度及び地震対策の必要性に関する当時の知見に照らせば、平成18年時点で、耐震バックチェックを最優先課題とし、その中で津波対策についても検討を求めることとしたY1の規制判断は、リスクに応じた規制の観点から、著しく合理性を欠くと評価される状況にはなかった、として違法性を否定。

◎ 本判決~
平成14年末から本件事故まで8年以上規制権限を行使していなかった点に触れているが、これはY1の主張に応答したものにすぎず、
平成14年末から8年以上経った本件事故直前の時点に至って初めて規制権限不行使が違法となるという趣旨ではなく、平成14年末の時点における規制権限不行使が、その後の事情を考慮しても著しく不合理であるとして違法性を肯定
立法不作為の違法性については、立法措置が必要不可欠であることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に初めて違法となるとされるのに対し、
国の行政機関の規制権限不行使の違法性については、予見可能性が認められる時点における規制権限不行使が著しく不合理と認められるか否かを判断するのが一般的であり、
相当期間が経過して初めて規制権限不行使が違法となるような枠組みは採られていない。

千葉判決:
①「確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる」知見に対する結果回避義務と、
②「予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでない」知見に対する結果回避義務とを区別し、
②の場合には資金や人材の有限性といった工学的判断を考慮できるとし、「長期評価」は後者の知見であるから、Y1の判断は著しく不合理とはいえないとした。

前橋判決や本判決:
「長期評価」は、結果回避義務を導くのに十分な予見可能性を示す知見であるとしていた。

一般に、河川の管理については、道路その他の営造物の管理とは異なる特質及びそれに基づく財政的、技術的及び社会的諸制約が存在⇒これらの諸制約を踏まえて設置又は管理の瑕疵について判断
but
このような財政的制約の考慮は、道路の設置又は管理の瑕疵に適用されるものではなく、国賠法1条の違法性の考慮要素となるものでもないとされている。
 
●相互の保証 
韓国籍、中国籍、フィリピン籍、ウクライナ籍のXについて、
いずれの国籍国との間でも相互保証(国賠法6条)を認めた

国賠法 第6条〔相互保証〕
この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
 
●国の責任の範囲 
判断:
Y1の責任は原子力事業者であるY2を監督する第二次的なものY1の賠償額はY2の賠償額の2分の1にとどまる。

前橋判決:
Y1の責任が補充的なものとはいえない⇒Y2の賠償額と同額

国の規制権限不行使の違法性が認められる場合でも、国の責任の範囲は、第一次的な責任を負う原因企業の責任の一部(原因企業が相被告となっていない場合には、全損害の一部)にとどまるとされることが多い
 
■原子力事業者の責任
原賠法は原子力損害の賠償に関し民法709条の一般不法行為の適用を排除している

一般不法行為の適用に基づくXらの主位的請求を排斥し、原賠法3条に基づく予備的請求を認容。
 
■損害 
●被侵害法益 

①月額5万円の平穏生活権侵害慰謝料と
②2000万円のふるさと喪失慰謝料が請求。

判断:
①の被侵害利益について
人は、その選択した生活の本拠において平穏な生活を営む権利を有し、
社会通念上受忍すべき限度を超えた大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭によってその平穏な生活を妨げられない利益を有している


ここで故なく妨げられない平穏な生活には、生活の本拠において生まれ、育ち、職業を選択して生業を営み、家族、生活環境、地域コミュニティとの関わりにおいて人格を形成し、幸福を追求してゆくという、人の全人格的な生活が広く含まれる

放射性物質による居住地の汚染が社会通念上受忍すべき限度を超えた平穏生活権侵害となるか否かは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべき。
 
◎前橋判決:
平穏生活権は、自己実現に向けた自己決定権を中核とした人格権であり、
①放射線被曝への恐怖不安にさらされない利益
②人格発達権
③居住移転の自由及び職業選択の自由並びに
④内心の静穏な感情を害されない利益
を包摂する権利。
いったん侵害されると、元通りに復元することのできない性質のもの。
 
◎千葉判決:
避難生活に伴う慰謝料につき、避難指示等により避難等をよぎなくされた者は、住み慣れた生活の本拠からの退去を余儀なくされ、長期間にわたり生活の本拠への帰還を禁止される

居住・移転の自由を侵害されるほか、
生活の本拠及びその周辺の地域コミュニティにおける日常生活の中で人格を発展、形成しつつ、平穏な生活を送る利益を侵害されたということができ、
このような利益は、憲法13条、憲法22条1項等に照らし、原賠法においても保護される。 
 
◎以前:具体的な健康被害がなければ慰謝料が認められない傾向
その後、主観的な不快感や不安感を超える生活妨害については賠償の対象となることが認められるようになり、

水戸地裁土浦支部H23.3.28は、
20年以上にわたり環境基準を超える大気汚染、水質汚濁にさらされ、具体的な健康被害はないが健康被害に対する不安を抱いていたXらに対し、各200万円の慰謝料を認めた。 

最高裁H22.6.29は、棄却事例であるが、
本件葬儀場の営業が、社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。」と判示し、平穏生活権が不法行為法上の被侵害利益となり得ることを認める。
 
●帰還困難区域 
◎前橋判決、千葉判決:
Xごとに損害を認定し、Y2からの既払額を控除して損害を認定。

◎ 本件は3800名を超えるX

個別に損害及び既払額を認定することはせず、避難指示区分ごとに損害を算定し、
「中間指針(四次にわたる追補を含む。)及びY2の自主賠償規準(合わせて「中間指針等」による賠償額)」を訴訟物から除外し、
「中間指針等による賠償額」を超える損害があるか否かを審理、判断。
 
帰還困難区域旧居住者に対しては、
自主賠償規準により、
150万円の日常生活阻害慰謝料
600万円の包括慰謝料
700万円の帰還困難慰謝料(総額1450万円)
が支払われているところ、
中間指針第四次追補及び自主賠償規準の解釈

うち1000万円は「ふるさと喪失」慰謝料に、90万円は生活費増額分に対応し、平穏生活権侵害に対応する「中間指針等による賠償額」は平成26年2月分まで月額10万円の36か月分360万円であるとした上で、
平穏生活権侵害慰謝料として平成26年4月までの月額10万円の38か月分380万円(「中間指針等による賠償額」を超える慰謝料は20万円)を認めた。
 
◎前橋判決:
居住制限区域旧居住者15名、避難指示解除準備区域旧居住者27名の慰謝料は既払い額を超えない。
居住制限区域旧居住者1名の慰謝料は300万円⇒既払額105万円を控除した195万円に弁護士費用を加えた金額を認容。 

●居住制限区域・避難指示解除準備区域 
●旧特定避難勧奨地点・旧緊急時避難準備区域 
●旧一時避難要請区域・旧屋内退避区域 
●自主的避難等対象区域 
●県南地域・宮崎県丸森町 
●区域外 
●ふるさと喪失慰謝料 
■総括

判例時報2356

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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