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2018年3月

2018年3月28日 (水)

東京電力福島第一原発事故福島訴訟(生業訴訟)

福島地裁H29.10.10    
 
■事案
全国各地で審理されている福島原発事故集団訴訟のうち、福島地裁で出された、通常「生業訴訟」の第一審判決。
福島第一原子力発電所の事故により、Xらの本件事故当時の居住地(旧居住地)が放射性物質により汚染されたとして、

Xら(死亡原告を除く)が、Yらに対し、
人格権又は
Y1(国)に対しては国賠法1条1項、
Y2(東電)に対しては民法709条
に基づき、
Xらの旧居住地における空間線量率を本件事故前の値である0.04マイクロシーベルト毎時如何にすることを求める(原状回復請求)
とともに、


Xらが、Yらに対し、
Y1に対しては国賠法1条1項、民法710条、
Y2に対しては、
主位的に民法709条、710条、
予備的に原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項に基づき
各自、平成23年3月11日から旧居住地の空間線量率が0.04マイクロシーベルト毎時以下となるまで(承継原告については、死亡原告の死亡時まで)の間、
1か月5万円の割合による平穏生活権侵害による慰藉料、
1割相当の弁護士費用、
提訴時までの確定損害金に対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(平穏生活権侵害)、


Xらのうち40名(死亡原告を含み、承継原告を含まない。)が、Yらに対し、前記二と同様の根拠法条に基づき、各自、「ふるさと喪失」による慰藉料として2000万円、1割相当の弁護士費用、これに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(ふるさと喪失)た事案。

本判決:
原状回復請求に係る訴え及び将来請求に係る訴えを却下し、
Y1の規制権限不行使による国家賠償責任を認め、
Y2に対し、一般不法行為責任を否定したが原賠法上の責任を認め、
平穏生活権侵害に基づき、
Xらのうち2907名に対して総額4億9795万円(Y1に対しては2905名に対し総額2億5023万円)の支払を命じた。
 
■原状回復請求
● 請求不特定⇒却下。
なお書きで、実現可能性も欠けるとした。

● 一般に、結果発生を防止すべき作為の内容を特定することなく、一定の侵害の結果(一定値以上の騒音の到達など)を発生させることの禁止を求める抽象的不作為請求は適法とされている(大阪高裁H4.2.20、最高裁H7.7.7、最高裁H5.2.25)が、

本判決は、抽象的不作為請求が適法とされているからといって、除染等の作為を必要とする抽象的作為請求まで適法となるものではないとした。

本判決は、Xらの用語に従い「原状回復請求」と呼称しているが、仮に請求が特定され、人格権侵害が認められたとしても、妨害排除請求として認められるのは人格権の侵害が解消される程度までの低減であり、当然に本件事故前の空間線量率への「原状回復」が認められるものではない。

■将来請求
判断:口頭弁論終結の翌日以降に発生する精神的損害の賠償を求める訴えは、将来請求としての適格性を満たしておらず、不適法
 
■国の責任
規制権限不行使の違法性の判断枠組み 
判断:
判例の枠組みに沿い、
国の規制権限不行使の違法性の判断枠組みにつき、
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、
具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く
と認められるときは
国賠法1条1項の適用上違法となる。

「著しく合理性を欠く」とは、
裁量権の逸脱、濫用が認められる(当不当の問題にとどまらない)という趣旨であって、
行政庁の違法を著しい違法とそこまでに至らない違法とに区別して、後者について行政庁の責任を問わないという趣旨ではない。

●規制権限 
Y1:電気事業法(平成14年法律第65号による改正前のもの)40条に基づく技術基準適合命令は基本設計に及ばず、Xらの主張する津波対策は、いずれも基本設計に関する事項⇒詳細設計についての規制である技術基準適合命令により是正させることはできなかったと主張。

判断:
経済産業大臣は、原子炉施設が技術基準に適合しないと認められる場合には技術基準適合命令を発することが可能であり、基本設計の変更に及び得ないという制約があったとは認められない

●予見可能性 
本判決:
文科省自身調査研究推進本部自身調査委員会が平成14年7月31日に作成・公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(長期評価)⇒福島第一原発1~4号機敷地高さを超える津波の到来についての予見可能性を肯定
 
●回避可能性 
判断:
Y1が、平成14年7月31日に「長期評価」が公表された後、「長期評価」に基づくシミュレーションを行うのに必要な合理的期間が経過した後である平成14年12月31日頃までに、Y2に対し、非常用電源設備を技術基準に適合させるよう行政指導を行い、Y2がこれに応じない場合には、技術基準適合命令を発する規制権限を行使していれば、Y2は、
①非常用電源設備の設置されたタービン建屋等の水密化及び
②重要機器室の水密化
を実施し、
平成14年末から8年以上後である平成23年3月11日に本件津波が到来するまでに対策工事は完了していたであろうと認められ、そうしていれは本件事故は回避可能であった
回避可能性を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決
(1)本件事故前の知見を前提に津波対策を施す場合には防潮堤を作るというのが工学的見地から妥当な発想であり、
Xらの主張する
①タービン建屋の水密化、
②非常用電源設備等の重要機器の水密化、
③給気口の高所配置及びシュノーケル設置、
④外部の可搬式電源車(交流電源車・直流電源車)の配備
等の結果回避措置を採るべきとはいえない、
(2)防潮堤の建設には、許認可、建設期間等として長い年月を要する⇒本件事故までに工事が完了するとも認められない、
(3)前記①ないし④の結果回避措置を採っていたとしても、本件地震・本件津波は「長期評価」から予見される地震・津波と全く規模が異なるもの⇒本件事故の結果回避につながっとはは必ずしもいえない

回避可能性を否定
 
●違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)
判断:
Y1は、津波安全性を欠いた福島第一原発に対する規制権限を、規制権限の行使が可能であった平成14年末から8年以上の間、全く行使していなかった
②この規制権限の不行使は、電気事業法の趣旨、目的、技術基準適合命令の性質等に照らし、本件の具体的事情の下において、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認めるのが相当

違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決:
①確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる試算が出されたのであれば、設計津波として考慮し、直ちにこれに対する対策がとられるべきであるが、
②規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等は有限であり、際限なく想定し得るリスクの全てに資源を費やすことは現実には不可能であり、かつ、緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果、緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回るといった危険性もある
⇒予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでないのであれば、当該知見を踏まえた今後の結果回避措置の内容、時期等については、規制行政庁の専門的判断に委ねられる。
③「長期評価」の精度・確度は必ずしも高いものではなかった

経済産業大臣において、長期評価における知見を前提とする津波のリスクに対する何らかの規制措置を必要と判断した場合にも、即時に着手すべきとはいえない。

Xらが主張する平成18年までに、様々採り得る規制措置・手段のうち、本件事故後と同様の規制措置を講ずべき作為義務が一義的に導かれるとはいえず、その精度・確度を高め、対策の必要性や緊急性を確認するため、更に専門家に検討を委託するなどして対応を検討することもやむを得ない。


そのような予見可能性の程度及び地震対策の必要性に関する当時の知見に照らせば、平成18年時点で、耐震バックチェックを最優先課題とし、その中で津波対策についても検討を求めることとしたY1の規制判断は、リスクに応じた規制の観点から、著しく合理性を欠くと評価される状況にはなかった、として違法性を否定。

◎ 本判決~
平成14年末から本件事故まで8年以上規制権限を行使していなかった点に触れているが、これはY1の主張に応答したものにすぎず、
平成14年末から8年以上経った本件事故直前の時点に至って初めて規制権限不行使が違法となるという趣旨ではなく、平成14年末の時点における規制権限不行使が、その後の事情を考慮しても著しく不合理であるとして違法性を肯定
立法不作為の違法性については、立法措置が必要不可欠であることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に初めて違法となるとされるのに対し、
国の行政機関の規制権限不行使の違法性については、予見可能性が認められる時点における規制権限不行使が著しく不合理と認められるか否かを判断するのが一般的であり、
相当期間が経過して初めて規制権限不行使が違法となるような枠組みは採られていない。

千葉判決:
①「確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる」知見に対する結果回避義務と、
②「予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでない」知見に対する結果回避義務とを区別し、
②の場合には資金や人材の有限性といった工学的判断を考慮できるとし、「長期評価」は後者の知見であるから、Y1の判断は著しく不合理とはいえないとした。

前橋判決や本判決:
「長期評価」は、結果回避義務を導くのに十分な予見可能性を示す知見であるとしていた。

一般に、河川の管理については、道路その他の営造物の管理とは異なる特質及びそれに基づく財政的、技術的及び社会的諸制約が存在⇒これらの諸制約を踏まえて設置又は管理の瑕疵について判断
but
このような財政的制約の考慮は、道路の設置又は管理の瑕疵に適用されるものではなく、国賠法1条の違法性の考慮要素となるものでもないとされている。
 
●相互の保証 
韓国籍、中国籍、フィリピン籍、ウクライナ籍のXについて、
いずれの国籍国との間でも相互保証(国賠法6条)を認めた

国賠法 第6条〔相互保証〕
この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
 
●国の責任の範囲 
判断:
Y1の責任は原子力事業者であるY2を監督する第二次的なものY1の賠償額はY2の賠償額の2分の1にとどまる。

前橋判決:
Y1の責任が補充的なものとはいえない⇒Y2の賠償額と同額

国の規制権限不行使の違法性が認められる場合でも、国の責任の範囲は、第一次的な責任を負う原因企業の責任の一部(原因企業が相被告となっていない場合には、全損害の一部)にとどまるとされることが多い
 
■原子力事業者の責任
原賠法は原子力損害の賠償に関し民法709条の一般不法行為の適用を排除している

一般不法行為の適用に基づくXらの主位的請求を排斥し、原賠法3条に基づく予備的請求を認容。
 
■損害 
●被侵害法益 

①月額5万円の平穏生活権侵害慰謝料と
②2000万円のふるさと喪失慰謝料が請求。

判断:
①の被侵害利益について
人は、その選択した生活の本拠において平穏な生活を営む権利を有し、
社会通念上受忍すべき限度を超えた大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭によってその平穏な生活を妨げられない利益を有している


ここで故なく妨げられない平穏な生活には、生活の本拠において生まれ、育ち、職業を選択して生業を営み、家族、生活環境、地域コミュニティとの関わりにおいて人格を形成し、幸福を追求してゆくという、人の全人格的な生活が広く含まれる

放射性物質による居住地の汚染が社会通念上受忍すべき限度を超えた平穏生活権侵害となるか否かは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべき。
 
◎前橋判決:
平穏生活権は、自己実現に向けた自己決定権を中核とした人格権であり、
①放射線被曝への恐怖不安にさらされない利益
②人格発達権
③居住移転の自由及び職業選択の自由並びに
④内心の静穏な感情を害されない利益
を包摂する権利。
いったん侵害されると、元通りに復元することのできない性質のもの。
 
◎千葉判決:
避難生活に伴う慰謝料につき、避難指示等により避難等をよぎなくされた者は、住み慣れた生活の本拠からの退去を余儀なくされ、長期間にわたり生活の本拠への帰還を禁止される

居住・移転の自由を侵害されるほか、
生活の本拠及びその周辺の地域コミュニティにおける日常生活の中で人格を発展、形成しつつ、平穏な生活を送る利益を侵害されたということができ、
このような利益は、憲法13条、憲法22条1項等に照らし、原賠法においても保護される。 
 
◎以前:具体的な健康被害がなければ慰謝料が認められない傾向
その後、主観的な不快感や不安感を超える生活妨害については賠償の対象となることが認められるようになり、

水戸地裁土浦支部H23.3.28は、
20年以上にわたり環境基準を超える大気汚染、水質汚濁にさらされ、具体的な健康被害はないが健康被害に対する不安を抱いていたXらに対し、各200万円の慰謝料を認めた。 

最高裁H22.6.29は、棄却事例であるが、
本件葬儀場の営業が、社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。」と判示し、平穏生活権が不法行為法上の被侵害利益となり得ることを認める。
 
●帰還困難区域 
◎前橋判決、千葉判決:
Xごとに損害を認定し、Y2からの既払額を控除して損害を認定。

◎ 本件は3800名を超えるX

個別に損害及び既払額を認定することはせず、避難指示区分ごとに損害を算定し、
「中間指針(四次にわたる追補を含む。)及びY2の自主賠償規準(合わせて「中間指針等」による賠償額)」を訴訟物から除外し、
「中間指針等による賠償額」を超える損害があるか否かを審理、判断。
 
帰還困難区域旧居住者に対しては、
自主賠償規準により、
150万円の日常生活阻害慰謝料
600万円の包括慰謝料
700万円の帰還困難慰謝料(総額1450万円)
が支払われているところ、
中間指針第四次追補及び自主賠償規準の解釈

うち1000万円は「ふるさと喪失」慰謝料に、90万円は生活費増額分に対応し、平穏生活権侵害に対応する「中間指針等による賠償額」は平成26年2月分まで月額10万円の36か月分360万円であるとした上で、
平穏生活権侵害慰謝料として平成26年4月までの月額10万円の38か月分380万円(「中間指針等による賠償額」を超える慰謝料は20万円)を認めた。
 
◎前橋判決:
居住制限区域旧居住者15名、避難指示解除準備区域旧居住者27名の慰謝料は既払い額を超えない。
居住制限区域旧居住者1名の慰謝料は300万円⇒既払額105万円を控除した195万円に弁護士費用を加えた金額を認容。 

●居住制限区域・避難指示解除準備区域 
●旧特定避難勧奨地点・旧緊急時避難準備区域 
●旧一時避難要請区域・旧屋内退避区域 
●自主的避難等対象区域 
●県南地域・宮崎県丸森町 
●区域外 
●ふるさと喪失慰謝料 
■総括

判例時報2356

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2018年3月25日 (日)

電子マネーサービスを提供する事業者の注意義務(不法行為を肯定)

東京高裁H29.1.18      
 
<事案>
Xは、
Y1が提供する携帯電話に電子マネーを記録して使用するこのできるサービスを利用し、
Y2発行のクレジットカードを利用して電子マネーを購入。
携帯電話を紛失
⇒紛失の翌日に携帯電話会社に連絡して携帯電話の通信サービスの利用停止を申し込んだ。
but
その翌日から約2か月の間に合計151回にわたり、購入金額合計291万9000円の電子マネーが使用されていたことが発覚
⇒Xは、発覚の日の翌日にY1に依頼して電子マネーサービスの利用停止を措置を採った。
その後Xは、クレジットカードの利用代金の請求を受取、Y2に対し、同額を支払った。
 
<請求>
主位的請求:
携帯電話の利用停止がされていた⇒Xには同額の支払義務はなく、それにもかかわらずYがそれぞれ支払を受けたことについては法律上の原因がない⇒不当利得返還請求権に基づく支払を求める。

予備的請求:
Yらにはクレジットカードが不正利用されることを防止する注意義務があるのに、それに反した⇒共同不法行為に基づく損害賠償請求。 
 
<原審>
●主位的請求
第三者による不正使用によるものであったとしても、Xが支払義務を負う⇒不当利得返還請求は理由がない。
 
●予備的請求 
Y1に対する請求:
Xにおいては、利用者として、携帯電話、電子マネー及びクレジットカードの運営会社が別個のものであることを当然に理解し、携帯電話の利用が停止されることによって電子マネーサービスも利用停止されると考えることが合理的であるとはいえない。

Y2に対する請求:
Y2においては、利用明細書を送付して注意喚起を図り、不正使用による損害を防止する義務を尽くした。
⇒全部棄却。 
 
<判断>
●主位的請求
①本件電子マネーのチャージがX本人による申込みと取扱うことができる
②Y2には利得が現存しない
⇒法律上の原因がないと認めることはできない。
 
●予備的請求 
◎Y2(クレジットカード会社)に対するものは原審を引用して棄却。

◎Y1の注意義務:
Y1には本件サービスの不正使用を防止するため採るべき措置について適切に約款等で規定し、これを周知する注意義務がある。

①Y1においては、本件サービスが携帯電話の通信サービスの利用停止がされても利用することができたことを認識していた
②携帯電話は通信サービスを利用することを前提としており、これに新たな機能の追加等をするものであるとの認識が一般的⇒通信サービスの利用停止をすれば、本件サービスは利用されないと考える者が現れ得ることを想定するのに困難ではない。

Y1は、
①利用者が携帯電話を紛失した場合に、Y1への通知その他の何らかの手続を必須とすることについて、ホームページ、会員規約や利用約款に記載しておらず、
②通信サービスの利用停止によって、電子マネーの新たなチャージを防止することができるとの認識が誤りであることを示唆する記載もしていなかった
Y1には注意義務違反がある

Y1の責任免除の主張:
会員規約及び利用規約によれば、故意又は重過失の場合に限り責任を負うとされている
but
この規定は軽過失による責任を全部免除するもので消費者契約法8条1項3号に該当し、無効。

過失相殺の主張:
Xが、Yらに対応を求めるより前に不正利用が明らかな利用明細書の送付を受けている⇒より早くこれを確認していれば、被害の拡大を防止することができた⇒3割の過失相殺。
 
<規定> 
消費者契約法 第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
 
<解説>
本判決:
事業者において
利用者が採るべき措置について、適切に規定することはもとより、
周知する注意義務がある。
 
平成29年法律第44号による改正民法における定型約款では、利用者への周知がより一層重要な意味を持つ⇒事業者はこの点からも、各種の措置について周知することが求められる。 

判例時報2356

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2018年3月24日 (土)

殺人で因果関係が争われた事案(肯定)

大阪地裁H29.3.1       
 
<事案>
横断歩道の設置された交差点を左折進行した際、同横断歩道上を自転車に乗って横断していた被害者に衝突⇒被害者を車底部等で引きずったまま、自車を蛇行させるなどしながら相当速度で走行⇒停車した通路及び隣接する駐車場において、被害者の体幹部を自車右後輪で2度にわたり轢過し、それによる心配破裂を直接の原因として被害者死亡。 
 
<判断>
①本件引きずり行為及び②本件轢過行為についての殺意の有無が問題となり、前者については肯定、後者については否定
⇒殺人の実行である①行為と被害者の死亡との間に、被告人の殺意によらない②行為が介在⇒因果関係が問題

判断:
本件引きずり行為自体によっても、路面との擦過によって被害者の左足部及び頭部顔面に相当な皮膚の欠損及び真皮の喪失が生じており、筋膜が露出した状態になっていた⇒初期治療を受けていたとしても、感染症を生じ、敗血症等により死亡する可能性があった。
本件引きずり行為によって相当量の出血によるショック状態に陥っており、本件轢過行為がなかったとしても、その場に放置されれば、出血により数時間以内に死亡していた可能性が高かった。
本件引きずり行為によって、既に被害者が死亡する高度の危険性が生じており、本件轢過行為は被害者の死亡時間を数時間早めたにすぎない。
②被告人が本件轢過行為に及んだのは、当初の衝突事故の刑責を免れるため、被害者を引きずったまま逃走行為を開始し、本件引きずり行為を行い、停車した後も車両に引っかかった被害者を外そうとし、外れた後も、さらに逃走行為を継続するためであった。
③被害者が本件轢過行為を避けることができなかったのは、本件引きずり行為によって意識を失っていたから

本件引きずり行為と本件轢過行為は密接に関連しており、被害者は、被告人の車両の車底部で引きずられたために、轢過されるに至ったものといえ、本件轢過行為は、本件引きずり行為から死亡に至る経過の単なる1コマにすぎない

被害者の死亡の結果は、本件引きずり行為によって生じた生命の危険性が現実化したものと評価できるから、本件引きずり行為と被害者の死亡との間の因果関係が認められる。
 
<解説>
因果関係については、条件説と相当因果関係説があり、相当因果関係説(通説)においては、その相当性を判断する際の判断基底についての対立がある。 

最高裁の判例は、因果関係の問題について、極めて個別的色彩が強い⇒明確な理論的立場の表明を避け、具体的な事例の集積を通じてその考え方を示していく態度を基本。

現在は、このような判例を整理して、
「行為の危険性が結果へと現実化したか(危険の現実化)」という基準によって因果関係判断がなされているとの立場(山口)が有力。

被害者ないし第三者の行為が介在した場合、これまでの判例を分析し、被告人の実行行為の危険性と介在事情の結果発生への寄与度の観点から整理した「危険の現実化」の判断枠組みも提示。

判断の①が実行行為である本件引きずり行為の危険性の観点からの評価
②③が、介在事情である本件轢過行為の評価
②③について、被告人側と被害者側の双方の観点から、本件引きずり行為が本件轢過行為に強い因果的影響を与えており、介在事情である本件轢過行為は因果関係の面で独立して評価する事情にはならないことを指摘。

判例時報2355

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2018年3月23日 (金)

日雇派遣の派遣元・紹介元および派遣先・紹介先への損害賠償請求(否定)

さいたま地裁川越支部H29.5.11      
 
<事案>
Xは、日雇派遣労働者としてY1に登録し、複数の派遣先での就労後に、平成24年9月頃からY2 に派遣され、同年10月からはY1により日々の職業紹介のもとY2で雇用され就労。

Xが
Yらに対して、
①日雇派遣や日々紹介という不安定なかたちでXを供給しており、職安法44条等に違反
②労基法6条等に違反する中間搾取をした
③Xの賃金から振込手数料を控除し、労基法24条の賃金全額払の原則に違反
④職安法44条に違反してXを待機させ、Xに対して、Y2での就労に期待を抱かせながらその機会を奪った

Y1に対して
⑤訴外A運送での派遣就労に関し、Y1はXと派遣契約を締結したにも関わらず一方的にキャンセル

それぞれ、民法709条、719条1項にもとづき
慰謝料300万円等の支払を求めた。
 
<規定>
職業安定法 第四四条(労働者供給事業の禁止)
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

第6条(中間搾取の排除) 
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

<判断>
●争点① 
職安法は行政上の取締法規⇒同法違反から直ちに労働者の具体的な法律上保護されるべき利益は損なわれない。
Xは、Y1に登録して派遣ないし紹介によりY2で稼働して、各労働契約に基づき賃金の支払を受けている⇒Xに不利益は生じていない
 
●争点② 
①Y1が労働者派遣事業ないし職業紹介事業の許可を得て適法に日雇派遣及び日々紹介を行っている
②「Y1がY2から得ている手数料は、労働者派遣ないし労働者紹介の対価

賃金からの中間搾取とはいえない
 
●争点③ 
①Yらでは、労働者が申請した場合に、就労した日の所定労働時間医対応する賃金から税・保険料を控除した金額を翌日に受け取る「即給サービス」があり、その場合、金融機関の振込手数料が控除される
②YらがXに対し即給サービスを利用させたことを認めるに足りる証拠は存在せず、即給サービスが労働者にもメリットがある制度
Xは、自らの意思でこれを利用しており、労基法24条に違反しない
 
●争点④ 
Y1は、XをY2のセンターへ日々紹介することに関連して、欠員に備え、センター内の食堂で午前8時20分から午前9時20分までの間、待機を内容とする労働契約を締結することがあった。
センターで欠員⇒待機労働者とY2との間で午前9時から午後5時まで業務に従事すること等を内容とする労働契約が締結され、各労働契約には20分間の重複。

本判決:
供給元であるY1とXとの間及び供給先供給先であるY2とXとの間に同時に雇用関係が存在すること
待機労働者が実際に作業を行う場所の決定をY1の担当者が行っていたことは、Y1と待機労働者の間に支配従属関係がある
点で、職安法44条違反
but
①職安法は行政上の取締法規
②労働契約の重複が20分
③待機を内容とするY1との間の労働契約について、待機のまま就労しても賃金と交通費が支払われ、また、作業内容が告知されている
④Xは、待機してもY2のセンターで就労できない場合があることや、実作業に従事する場合の概ねの業務内容を理解していた
⑤労働契約が重複していても各労働契約どおり賃金が支払われていた

Yに法律上の不利益が生じたとは認められない
 
●争点⑤ 
Y1による4回の派遣就労のキャンセルが問題
①いずれもXに対し代替の派遣先が用意されたり、休業手当の支払はないとしつつ、「日雇派遣である以上、派遣先の都合によるキャンセルが発生する可能性がないとはいえないことは、派遣元としても派遣社員としても理解」している
②XとY1では、専らメールで派遣先や労働条件の連絡がされ、Xはこれによる集合時間、集合場所等を把握していたこと
③4回のキャンセルの連絡後も、Y1は派遣元として代替派遣先を提供する姿勢をXに示した一方、Xはその旨のメールを見ず電話にでもでなかったこと
④Y1は、その後もXに派遣業務の紹介を継続的に行っていた

不法行為を構成するとまではいえない
 
<解説>
裁判例では、いわゆる偽装請負(派遣法違反)のケースで直ちに不法行為責任を基礎づけない⇒個々の事情をふまえて判断するのが趨勢(名古屋高裁H25.1.25(三菱電機事件)等)。
本件では、職安法44条との関係でも同旨の判断が示された。 

日々の派遣労働契約の締結後の派遣元により一方的なキャンセル、「即給サービス」での振込手数料の控除をめぐっては、
休業手当(労基法26条)や賃金全額払いの原則(同24条)との関係が問題となり得る。
前者との関係では、有期の派遣労働契約が締結⇒その中途解約にはやむを得ない理由が必要(労契法17条)で、その間の不就労について民法536条2項や労基法26条が問題となる。
労基法24条との関係で、判例でも、退職金からの合意相殺が賃金全額払いの原則に違反するかが問題となったケースで、こうした同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものだえると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」に労基法24条違反でないとした例(最高裁H2.11.26)。
but
本件は、Yらの不法行為責任が問題
本判決の柔軟な判断もこうした観点から評価すべき

判例時報2355

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2018年3月21日 (水)

求人票記載の労働条件と労働契約

京都地裁H29.3.30      
 
<事案>
Y(被告)に雇用されていたX(原告)が、

主位的
には、求人票の記載通り当事者間の労働契約は期間の定めがないものであったところ、被告がした解雇は無効であると主張し、

予備的
には、当事者間の労働契約が期間の定めのあるものであったとしても被告がした雇止めは無効であり従前の労働契約が更新されたと主張し、

①原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②解雇または雇止めの日の翌日から本判決確定の日までの賃金請求及び遅延損害金の支払、
③解雇または雇止めがXに対する不法行為を構成するとして損害賠償及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<争点>
①本件労働契約が期間の定めのない契約か
②XがYに請求し得る未払賃金額
③YのXに対する不法行為の成否及び損害額
 
<判断>
●争点①について
求職者は当然に求人票記載の労働条件が労働契約となることを前提に労働契約締結の申込みをする⇒求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、労働契約の内容となると解するのが相当。
①求人票上は期間の定めがないこと、定年制がないこと、雇用期間の始期が記載されていたこと
②採用面接における説明内容

期間の定めがない労働契約が成立

◎労働条件通知書(期間の定めと定年制あり)への原告の署名押印により既に成立している労働契約の内容が変更されたか? 

就業規則による労働条件の不利益変更に労働者の同意がある場合に関する山梨県民信用組合事件(最高裁H28.2.19)を引用し、
使用者が提示した労働条件の変更が重要な労働条件の変更である場合には、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重になされるべきであり、
同意の有無については、当該労働者の受け入れる旨の行為だけではなく、諸般の事情に照らして、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき。

期間の定めの有無は契約の安定性の観点から、
定年制の有無も原告の当時の年齢から
それぞれ賃金と同様に重要な労働条件。
②労働条件通知書への署名押印に際して、被告代表者からは、求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を明らかにして説明したとは認められず
被告代表者がそれを提示した時点で原告は既に従前の就業先を退職して被告での就労を開始しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入が断たれると考え署名押印
前記原告の署名押印が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

労働条件の変更について原告の同意がないものと判断。

期限の定めや定年制がない労働契約であって、本件契約の終了は認められないとして、原告の労働契約上の地位を認めた。

●争点②について 
原告が被告から就労を拒否された後に他の職について利益を得た点について、平均賃金の4割の範囲で賃金から控除。
 
●争点③について 
労働契約上の地位が確認され未払賃金が支払われることで原告の不利益は填補される⇒不法行為の成立は否定

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2018年3月20日 (火)

会社が政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらのパーティー券購入と政治資金規正法21条1項の「寄附」

東京高裁H28.7.19      
 
<事案>
A株式会社が国会議員の政治資金パーティーのパーティー券を購入していたことに関して、Aの株主であるXが、Aの取締役として政治対応等を業務の一部とする部署を担当し、その後Aの代表取締役を務めたYに対し、出席する予定がないのに購入したパーティー券の代金相当額を、損害賠償としてAに支払うよう求めた株主代表訴訟。 
 
<主張>
Xは、
主位的には、Aが政治資金パーティーのパーティー券を出席の予定がないのに購入したことが、政治敷規正法上の「寄附」に当たり、会社が正当及び政治資金団体以外の者に対して寄附をすることを禁じている同法21条1項に違反すると主張し、

予備的には、パーティー券の購入を所管する部署の担当取締役であったYには、確実に出席が見込める枚数の限度でのみパーティー券を購入すべき義務、あるいは、国会議員からの違法な便宜供与を受けるなど不当な目的でこれを購入してはならない義務があるのに、これに反してパーティー券を購入した善管注意義務違反がある
と主張。 
 
<判断>
●主位的主張について
本件の対象となったAが購入したパーティー券の中には、Aが当初から出席しないことを見越しながら購入したものが含まれていた。
パーティー券の購入代金の支払は、
その代金額が政治資金パーティーへの出席のための対価と認められるかぎり、政治資金規正ほうにいう「寄附」には当たらないが、
パーティー券の購入代金の支払実態、当該パーティー券に係る政治資金パーティーの実体、パーティー券の金額と開催される政治資金パーティーの規模、内容との釣り合い等に照らして、
社会通念上、それ自体が政治資金パーティー出席のための対価の支払とは評価できない場合にはその支払額全部が、また、支払額が対価と評価できる額を超過する場合にはその超過部分が「寄附」に当たる

but
①政治資金規正法21条1項に違反する「寄附」がされた場合、
寄付をすること及びこれを受けることのいずれも処罰の対象としている(同法26条1号、3号)
⇒同法はこの犯罪類型を刑法上の必要的共犯のうち対向犯として定めていると解される。
②賄賂罪において公務員が賄賂性を認識していなければ同罪が成立しないのと同様、政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらそのパーティー券を購入したとしても、そのことを主催者が認識しておらず、購入されたパーティー券の数に見合った内容の態様で政治資金パーティーを開催した場合は、出席を予定しないパーティー券購入者が支払った代金についても、主催者においては「寄附」に当たるものということはできない
③政治資金規正法には賄賂申込罪に相当するような犯罪類型は定められていない

購入されたパーティー券に出席を予定しないものが含まれていることを主催者が個別的に把握し、その寄附性を認識していない限り、パーティー券購入者についても「寄附」に当たるものということはできない

本件においては、政治資金パーティーの主催者においてAが当該パーティー券につき従業員等を出席させない予定であることを認識しながら購入するものであることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。

Aが出席を予定しない本件パーティー券の購入代金として主催者に支払った金額が「寄附」に当たるものと認めることはできない。

●予備的主張について
①Aの規模・社会的立場と購入したパーティー券の数量を踏まえるとAの購入したパーティー券の枚数や金額自体が不相応であるとは認められない
②パーティー券の購入は正式な社内手続を経て行われており、購入が不適正にならないよう配慮していた
③およそ購入枚数に見合うだけの人数の参加が想定できないようなパーティー券を購入しているものとは認められない
④主催者がAに出席の予定がないとの認識を抱く蓋然性を基礎づける事実を認めるに足りる証拠はなく、Aによる本件パーティー券購入が「寄附」に当たる相当のリスクを負う行為であったとまでは認められない

本件パーティー券の購入についてYにそれを差し控えるべき注意義務があるとまでは認められない。

国会議員からの違法な便宜供与を受けるなど不当な目的でこれを購入してはならない義務違反があるとの主張に対し、
本件パーティー券の購入が保険金支払問題等につき国会議員から便宜供与を受けることを目的としたものであったことを推認させる事実はこれを認めるに足りる証拠はない

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2018年3月18日 (日)

会社法21条3項違反⇒差止請求・損害賠償請求(認容)

知財高裁H29.6.15      
 
<事案>
Xが、Yに対し、 Yからウェブサイトを利用した婦人用中古衣類の売買を目的とする事業を譲り受けたところ、
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに譲渡した事業と同一の事業を行い、Xに損害を与えた

会社法21条3項に基づき、前記事業の差止めを求める。
不法行為による損害賠償請求として801万972円及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年2月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<規定>
会社法 第21条(譲渡会社の競業の禁止) 
事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。
 
<原審>
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに対して譲渡した事業と同一の事業を行った⇒会社法21条3項に基づき、事業の差止請求を認容。
but
不法行為による損害賠償請求については、損害の発生が認められないとして棄却。 
 
<判断>
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに対して譲渡した事業と同一の事業を行った⇒原審と同様に会社法21条3項に基づく事業の差止請求を認容。

損害賠償請求について
①Yは、本件譲渡契約の締結の前にYサイトのドメインを取得し、譲渡契約の締結と前後してYサイトにおいて、譲渡契約の対象となったサイトと同様の商品の売買を目的とする営業を開始
②本件サイトとYサイトの取扱商品は相当程度共通
③Xが営業を休止している間に100名程度の顧客にメールを送付して、運営主体の変更を告知することなく、Yサイトの開設を告知
④その結果、本件サイトとYサイトは姉妹ショップであると誤認する顧客が実際に出現している
本件サイトの売上実績は、Xが本件サイトの事業を開始した直後から大幅に減少

Yの違法行為の結果、本件サイトの顧客の一部が失われ、その結果、Xに損害が発生したものと認めるのが相当。

Yの不法行為と相当因果関係のある期間は、12か月であると認めるのが相当。
①損害額については、譲渡契約の前後の月額平均粗利の差額から月平均販売管理費を控除した額は49万6508円(12か月分に相当する金額は595万8096円)
②譲渡契約後の本件サイトの販売実績が同契約締結前より低下したことについては、Xの商品知識や経験の乏しさ、Xが本件ウェブページのデザインの変更をせず、ブログやツイッターを利用することもしなかったことなども相当程度影響した

民訴法248条により、損害額を、前記595万8096円の約3割に相当する178万7400円と認定し、弁護士費用相当額を加えた、合計196万7400円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容。
 
<解説>
本判決の原審は、「不正の競争の目的」の意義を、「譲渡会社が譲受人の事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指すものと解するのが相当である」と定め、Yには「不正の競争の目的」があったと判断。

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2018年3月16日 (金)

特許権者が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張せず⇒その後に訂正の審決等確定⇒事実審の判断を争えるか?

最高裁H29.7.10      
 
<事案>
特許権者であるXが、Yに対し、Y製品の販売はXの特許権を侵害すると主張して、その販売の差止め及び損害賠償請求等を求めた。 
 
<問題点>
原審:Xの特許権に係る特許には無効理由が存在⇒特許法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(「無効の抗弁」)を容れてXの請求を棄却
⇒上告審係属中に、当該特許の請求の範囲を訂正すべき旨の審決が確定
⇒Xが、上告審において、この審決の確定を理由に事実審の判断を争うことができるか? 

上告審係属中に本件特許に係る特許請求の範囲を訂正すべき旨の審決がなされ、確定し、Xはその旨の上申書を提出。
Xは、訂正審決は遡及効を有するところ、本件訂正審決が確定したことにより、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更さたものとして、民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえる旨を主張
 
<規定>
特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項ただし書の規定は、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。

特許法 第104条の4(主張の制限)
特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの
 
<判断>
前記上申書の提出日まで上告受理申立て理由書の提出期間を伸長する決定をして、Xの上告を受理。 

特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず、その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
 
<解説>   
●再審事由と上告理由の関係 
現行民訴法の下では、法令違反の主張は最高裁に対する上告理由とはならない(民訴法312条)⇒再審事由があっても、当然には上告理由には当たらない
but
判例は、民訴法325条2項による破棄事由となり得ると解している(最高裁H11.6.29)。

特許無効審決等の審決取消訴訟に関しては、その請求棄却判決に対する上告審係属中に、当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審判が確定⇒当該訂正審決の確定は民訴法338条1項8号の再審事由に該当し、同法325条2項による破棄の理由となるものと解されてきた。(最高裁H15.10.31、H17.10.18)
 
<規定>
民訴法 第312条(上告の理由)
上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

民訴法 第325条(破棄差戻し等)
2 上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる

民訴法 第338条(再審の事由) 
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
 
●特許侵害訴訟における再審事由の扱い 
最高裁H12.4.11(キルビー事件)以前:
特許の有効・無効の判断は特許庁における審判手続の専権事項⇒特許権侵害訴訟の手続内においては特許が無効であるとの主張をすることは許されない。

侵害訴訟の認容判決確定後の無効審決の確定は、当然に再審事由に該当する。

平成12年最判:
衡平の理念、紛争の一回的解決等を理由に、特許の無効理由が存することが明らかであると認められるときには、無効審判によらずとも、特許権侵害訴訟の手続内において、そのことを特許権侵害に係る請求に対する抗弁として主張することを認めた

平成16年法律第120号による改正後の特許法は、この判例法理を更に推し進める形で104条の3を新設し、明白性の要件を撤廃して、無効の抗弁を法定
平成12年最判のいう権利濫用の抗弁及び無効の抗弁に対しては、特許権者側が、訂正により無効理由が解消できる旨の主張をすることもできる

特許権侵害訴訟の手続内で、特許の無効理由を主張し、裁判所がその存否について判断ができるようになった⇒侵害訴訟の認容判決確定後に無効審決が確定しても、これを理由とする再審請求は否定すべきする見解が主張。

最高裁H20.4.24(ナイフの加工装置事件):
本件と同様、特許権侵害訴訟の原審が無効の抗弁を容れて請求規約判決をした後、上告審係属中に特許請求の範囲をの減縮を目的とする訂正審決が確定。
同判決の多数意見は、当該訂正審決の確定は、「民訴法338条1項8号所定の再審事由が存するものと解される余地がある」としつつ、当該事案における具体的な事情の下では、これを理由に原審の判断を争うことは当事者間の特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させる⇒特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されない

平成23年法律第63号による改正で、特許法104条の4が新設され、
侵害訴訟の判決確定後に、無効審決(同条1号)又は政令で定める訂正審決(同条3号)等が確定しても、当該判決に対する再審の訴えにおいて、これらの審決が確定したことを主張することは許されない旨が法定
 
●本判決の立場 
侵害訴訟の上告審係属中に無効審決ないし訂正審決が確定したことを上告審において主張することの可否について、
上告理由否定説は採用しなかったが、原則として主張制限がされるとの立場を採用。
←特許法104条の3と同法104条の4の趣旨

①特許法は、
特許法104条の3により、
侵害訴訟の手続内において当事者が特許の効力と範囲に関して攻撃防御(無効の抗弁及び訂正の再抗弁の主張)を尽くすことを可能とし、
さらに、そのような機会と権能が与えられていることを前提として、
同法104条の4 により、
事後的な再審においてこれを実質的に再び争うことを制限
し、
もって、紛争の1回的解決を計るとともに、当事者に侵害訴訟の中で必要な主張立証をすべて提出するよう促すことにより、侵害訴訟の充実を図ろうとしてきた。

上告審において訂正審決の確定を理由に原判決を破棄することとすると、差戻審において訂正後の特許請求の範囲についてほぼ一から審理をやり直すに等しくなる⇒特許権侵害紛争の迅速な解決等のためには、事実審口頭弁論終結後の訂正審決の確定を理由とする主張を制限すべき必要性は、判決確定後だけではなく、上告審においても同様。

③当事者は、侵害訴訟の手続ないにおいて主張された無効理由を解消するための訂正の再抗弁を主張するのであれば、事実審の口頭弁論終結時までにこれをすることが求められており、かつ、同時点までにその機会があるこれを主張しなかった場合に、その後、当該訂正の再抗弁と同じ内容に係る訂正審決が確定したことをもって原審の判断を争うことを制限しても、当事者の手続保障に欠けるとはいえない

事実審口頭弁論終結後に特許の効力と範囲について実質的に再び争うことについても、これを制限的に解することが法の趣旨に沿うものと解し、上告審において訂正審決の確定を理由に事実審の判断を争うことは、原則としてこれを許されないとの立場を採用。

●本件への当てはめ
「Xが、原審口頭弁論終結時までに、本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判請求等をすることが法律上できなかった」という事実に言及した上、このことをもっても、Xが訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないと判断。

平成23年改正の際、
審決取消訴訟提起後の訂正審判請求が禁止されて(特許法126条2項)、訂正審判請求することができる時期が格段に狭められた

同改正後の裁判実務及び学説は、訂正の再抗弁を主張するためには、
原則として訂正審判請求等が必要であるとしつつも、
法律上できない又は困難な場合には、衡平の観点から、これを不要とする見解(条件付不要説)
が有力となり、これを一般論として明示する知財高裁判例も現れ、同見解は広く受け入れられている。

①本件において、Xが、原審口頭弁論終結時までに訂正審判請求をすることが法律上できなかったのは、
本件無効の抗弁が主張された時点では、別件の無効審決が終了して審決取消訴訟が係属し、その後も原審口頭弁論終結時まで別件審決が確定しなかったため。

Xは当該無効審判手続において訂正請求をすることはできず(特許法134条の2第1項)、その間訂正審判請求をすることもできなかった(同法126条2項)
②本件無効の抗弁に係る無効理由は前記無効審判では主張されていなかったもの⇒当該無効審判手続においてあらかじめこれを回避するための訂正請求をすることも事実上できなかった。
③Yが本件無効の抗弁を理由とする新たな無効審判請求もしなかった⇒Xは、当該無効審判手続の中で訂正請求をする余地もなかった

Xは、自らの帰責性がない、Y側の行動に起因する事情により、訂正審判請求等をすることが法律上できなかったものであり、本件は、条件付不要説の立場からは、訂正審判請求等が不要とされる場合に当たる。

本判決は、前記のような事情の下では、Xが、訂正の再抗弁を主張するために、実際に訂正審判請求等をしていることは必要なかったとしたもので、前記裁判実務における条件付不要説に親和的な立場を前提とした判断をした。

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2018年3月14日 (水)

面会交流についての間接強制の申立てを却下した事例

大阪高裁H29.4.28    
 
<原審>
控訴審決定2では、面会交流における監護親(抗告人ら)の給付内容が特定されている⇒特段の事情(例えば、不執行の合意)のない限り、間接強制も許される⇒抗告人らに対して、面会交流の不履行1回につき30万円の連帯支払を命ずる決定。 

抗告人らの、履行不能の主張に対し、控訴審決定2は、このような未成年者の心情等も踏まえた上で決定されている⇒抗告人らに不可能を強いるものではない。
そのような事情は、控訴審決定2の面会交流を禁止し制限するための調停・審判を申し立てる理由となり得ても間接強制を妨げる事情にはならない。
 
<判断>
本件では、未成年者が相手方父との面会交流を強く拒否しており、その年齢(15歳)や精神的成熟度を考慮すると、未成年者に面会交流を強いることは却って子の福祉に反することになる
本件債務は抗告人らの意思のみによっては履行することができない履行不能の状況に至っている
原決定を取り消し、相手方父の間接強制の申立てを却下

①最高裁H25.3.28の事案では、子の年齢が7歳に満たないのに対し、本件の未成年者は15歳3か月の高校生
②抗告人らが、その後、相手方父に対し、再度の面会交流禁止の調停を申し立て、家裁調査官の意向調査において、未成年者が相手方父との面会交流を明確に拒否し、その拒否の程度も強固
③未成年者は抗告人らの意向も踏まえ自らの意思で面会交流を拒否しており、これを本心でないとか、抗告人らの影響を受けたものとして軽視することは相当でない
④未成年者の精神的成熟度を考慮すれば、抗告人らにおいて未成年者に相手方父との面会交流を強いることはその判断能力、ひいては人格を否定することになり、却って未成年者の福祉に反する
 
<解説>
最高裁H25.3.28:
面会交流の内容において監護親がすべき給付の特定に欠けるところがない場合、間接強制決定をするすることができる。

面会交流の審判は子の心情等を踏まえてされている⇒子が面会交流を拒絶する意思を有していることは、これを審判時とは異なる状況が生じたといえるときは前記審判の面会交流を禁止・制限する新たな調停・審判を申し立てる理由となることは格別、前記審判に基づく間接強制を妨げる理由とはならない。 

子の発達段階に応じた場合分けをした上、少なくとも子の判断に独立の価値が認められる場合には(概ね15歳、家事手続き法152条2項)、子に対し可能な範囲で説得(働きかけ)を行えば、債務者として期待可能なすべての行為がを尽くしたことになるとの見解もある。

判例時報2355

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2018年3月13日 (火)

受遺者が、遺留分権利者に、弁償すべき価額の支払を条件として建物の明渡しを求めた場合

東京高裁H28.6.22      
 
<事案>
遺言によって本件建物を単独所有することとなったXが、他の相続人であるYに対し、本件建物の明渡を請求し、これに対しYが遺留分減殺請求権を行使した事案。 
 
<原審>
Aが債務を負っていたものの、債務超過ではなく、遺留分侵害が認められる。

遺留分減殺請求権の行使により、Yが本件建物につき共有持分を有するとして、Xの請求を賃料相当損害金の請求を含め棄却。 
 
<争点>
Xは、価額弁償を条件として本件建物を明け渡せとの予備的請求を追加して控訴し、
控訴審第1回口頭弁論期日において、裁判所の定めた価額をもって弁償する旨の意思表示をした。

①債務超過による遺留分の侵害がないかどうかという原審と同様の争点
②価額弁償の意思表示の主張の扱い
 
<判断>
●本訴請求について:
Yの遺留分侵害額を認定した上で、本件建物明渡請求は理由がない。
賃料相当損害金の請求は持分割合の限度で理由がある。 

●予備的請求について:
Xの価額弁償の意思表示について、
当該訴訟手続内において、判決によって確定された価額を支払う意思を表明し、弁償すべき価額の支払を条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡し等を求めた場合は、
受遺者等に価額を弁償する能力がないなどの特段の事情がない限り、弁償すべき価額を定めた上、支払があったことを条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡し等請求を認容することができる
権利関係の早期確定の必要性とXが弁償すべき価額の原資を準備する期間も考慮

本判決確定後30日以内に支払を受けたことを条件として本件建物の明渡しを認めた
 
<解説>
●遺留分権利者が価額弁償の意思表示をした場合において、受遺者が本件建物の明渡しを受けるためには、価額弁償の意思表示のみでは足りず、価額の弁償を現実的に履行するか、少なくともその履行の提供をするこを要し(最高裁昭和54.7.10)
価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時、訴訟にあっては事実審の口頭弁論終結時(最高裁昭和51.8.30)。

裁判所の判断なくしては弁償すべき価額が明らかにならず、現実の履行も履行の提供も事実上不可能となる⇒あらゆる場合に価額弁償の主張がおよそ成立しないことになる

民法1041条の趣旨を損なう。

民法 第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
⇒本判決は、支払を受けたことを条件として請求を認容した。

●事案を異にするが、
遺留分権利者が持分移転登記請求訴訟を提起し、受遺者が価額弁償の意思表示をした事案で、裁判所の認めた弁償すべき価額を支払わなかったときは、所有権移転登記手続をせよとの判断を示したものがある。 (最高裁H9.2.25)

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2018年3月12日 (月)

優越的地位を濫用しての不適切な説明⇒不法行為を肯定

東京高裁H29.3.29      
 
<事案>
X: 建材等の販売を主たる目的とする会社
Y1:木材その他建築用資材の売買等を主たる目的とする会社
Y2:その営業所長
Xは、Y1から住宅用建材等を仕入れ、中小工務店等に販売する取引を50年にわたり継続。
XはY2の紹介により、Y1から住宅用家電を購入してAに転売する取引を開始⇒その取引内容は、Y2の発注指示により、目的物、数量のほかY1からの購入金額とAへの探梅金額を決定し、目的物をY1からAに直送するというもの。
その後、Aが経営破綻に陥り、未払金3億7546万7643円が回収不能。

Xは、
Y2が
Aから売掛金を回収できなくなることを認識していたか、認識することができたにもかかわらず、その説明をせずに取引を勧誘したこと
取引数量、金額を抑制すべきであるのにこれをしなかった
⇒故意又は過失があり、
未回収金額を損害として、
Y2に対して民法709条に基づき、
Y1に対して同法715条に基づき
回収できなくなった売掛債権額相当額の損害賠償請求訴訟を提起。
 
<原審>
XのYらに対する請求を全部棄却。 
 
<判断>
●Yらの不法行為責任を認め、Xの請求を一部認容。 

●説明義務違反について
①Y2においては、Xが、Y1に依存した経営を余儀なくされ、Y1から不利益な取扱いを受けると企業の存亡にかかわる事態が生じるため、Y2からの取引指示や取引勧誘を容易に断ることができない立場になることを知っていた
Aに信用不安があることを殊更に隠していた
Aとの取引において月額1000万円を優に超える取引となる可能性が極めて高いのに、虚偽の説明を行い、Aとその役員の不動産の担保余力の範囲内におさまる売掛金になると誤信させた

Y2の行った説明は、取引上の優越的地位を濫用した不適切なものであって、違法行為に当たり、これによってAとの取引開始を決断させたもの
Y2はXに生じた損害を賠償する責任がある

●取引抑制義務違反について 
①売掛金が当初説明の約10倍の1億円以上となったこと
②Aが弁済期に履行遅滞に陥ったことを知りながら、その後も巨額の発注指示を継続したこと
XがY2の発注指示を容易に断れないことに着目し、取引継続を強いたものであること

Y2には、信義則上、取引当初から売掛金の額を月額換算1000万円程度に抑制すべき義務があり、それもかかわらずY2は月額1億円を優に上回る売掛金を毎月発生させていた

取引抑制義務違反がある。

●Xは本件取引の実行を断ることもできた⇒4割の過失相殺。
損害賠償額からは、損益相殺により、A社からの弁済額が除かれている。
 
<解説>
●優越的地位を濫用して行う行為を禁止する独禁法2条9項5号の考え方。
取引上の地位が優越してるかは、
①加害者と被害者との取引依存度
②加害者の市場における地位
③被害者にとっての取引先変更の可能性等
を総合的に考慮して判断される。

本判決は、これらの点を丁寧に検討して、Y1が取引上の優越的地位にあることを認定した上、Y1の従業員Y2の説明が不適切なものであったとして違法行為を認定。


当初の説明が月額1000万円程度の売掛金⇒当初説明の約10倍となる額の売掛金の発生は、Xにとって想定外
その原因が、Y2が取引上の優越的地位を濫用して発注指示を継続していたことにある

Y2に取引金額を抑制させる義務を負わせたとしても不合理とはいえない

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2018年3月11日 (日)

事務所との信頼関係破壊⇒タレントからの解除を認めた事例

東京高裁H29.1.25      
 
<事案>
Yは、Aとの間で専属契約を締結して芸能活動を行っていた。
Xは、Aから専属契約上の地位を譲り受けた会社。
 
Yは、Xの実質的経営者であったBが脱税事件で逮捕⇒Xとの信頼関係が破壊された⇒専属契約を解除する旨を通告。
それ以後は、出演予定であった番組の出演を拒絶し、又はXに無断で番組に出演。

Xは、Yのこれらの行為は専属契約に違反するものと主張し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、損害金のうち1億円の支払を求めた。 
 
<原審>
Xの請求を全部棄却。 
 
<判断> 
X・Y間の信頼関係が破壊されたとして、専属契約は終了した⇒控訴棄却。 

AとXの法人格は異なるものの、その実態にかわりはない信頼関係が破壊されたか否かについて、YがAに所属していた時から考察するとともに、Xの実質的経営者であったBの行為をXの行為と評価する。

信頼関係が破壊されたか否かについて、
①BはYの意向を無視し又はその意向に反して仕事をさせクライアントの意向であると称してYの結婚を不当に認めなかった
②過去にYの承諾なく、水着姿を裸エプロンのように加工して写真集を出版
③XがYの本名と同一の芸名を焼肉屋チェーン店の名称とした
Bが法人税法違反で逮捕され、所属タレントの移籍を装うなどして約11億円もの所得隠しを行い、約3億4500億円を脱税する極めて悪質な行為により、A及びBが有罪判決を受けた

Yが積み重ねてきたイメージを毀損しかねず、Yが芸能活動を続けていることに不安感を覚え、また、X及びBに対し不信感を抱き、仕事を続けていくことができないと考えたことも無理からぬところ

Xの行為によりX・Y間の信頼関係が破壊されたから、解除は有効
 
<解説>
芸能プロダクションとタレントとの契約は、タレントが労務を提供し、芸能プロダクションが対価を支払うものであるが、その法的性質について、裁判例では、
A:単に労働契約とするもの
B:雇用類似の契約とするもの
C:雇用と請負契約の性質が混合した無名契約とするもの
がある。 
法的性質をいずれに解するにせよ、その契約関係は当事者間の信頼関係を基礎にし、信頼関係が破壊されれば契約の解除原因となる

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2018年3月 7日 (水)

破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた⇒実体法上の残債権額を超過する部分の配当方法

最高裁H29.9.12      
 
<事案>
破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた破産債権者であるXが、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分(超過部分)を物上保証人(求償権者)に配当すべきものとした破産管財人Y作成の配当表に対する異議申立ての事案。

Xは、破産会社のB信用金庫に対する借入金債務を保証⇒B信用金庫に対し、その元本全額並びに破産手続開始の決定の日の前日までの利息全額及び遅延損害金の一部を代位弁済。⇒この代位弁済により取得した求償権の元本を破産債権として届け出た。
Cは、Xとの間で、破産会社のXに対する求償金債務を担保するため、自己の所有する不動産に根抵当権を設定⇒その売却代金から、2593万9092円を本件破産債権に対する弁済として支払った。⇒この代位弁済により取得した求償権2593万9092円を予備的に破産債権として届け出た。
破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された、本件破産債権についての配当額が4512万4808円であるのに対し、その実体法上の残債権額が3057万2141円⇒超過部分をどのように取り扱うかが問題。

本件配当表は、超過部分を(Cが求償権を届け出たにもかかわらず、Cが代位弁済により取得した「原債権の代位行使という性質において」認めるというYの認否を前提に)Cの債権について配当すべきとした。)
 
<規定>
破産法 第104条(全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合等の手続参加)
数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又はそのうちの数人若しくは一人について破産手続開始の決定があったときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができる。
2 前項の場合において、他の全部の履行をする義務を負う者が破産手続開始後に債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為(以下この条において「弁済等」という。)をしたときであっても、その債権の全額が消滅した場合を除き、その債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてその権利を行使することができる。
3 第一項に規定する場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者は、その全額について破産手続に参加することができる。ただし、債権者が破産手続開始の時において有する債権について破産手続に参加したときは、この限りでない。
4 第一項の規定により債権者が破産手続に参加した場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者が破産手続開始後に債権者に対して弁済等をしたときは、その債権の全額が消滅した場合に限り、その求償権を有する者は、その求償権の範囲内において、債権者が有した権利を破産債権者として行使することができる。
5 第二項の規定は破産者の債務を担保するため自己の財産を担保に供した第三者(以下この項において「物上保証人」という。)が破産手続開始後に債権者に対して弁済等をした場合について、前二項の規定は物上保証人が破産者に対して将来行うことがある求償権を有する場合における当該物上保証人について準用する。
 
<判断>
破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において、破産手続開始の時における債権の額として確定しものを基礎として計算された配当額が実体法上の財債権額を超過するときは、その超過する部分は当該債権について配当すべきである。 
 
<解説> 
●超過部分の取扱い 
(1)超過部分が求償権者と破産財団のいずれに帰属すべきであるか
(2)超過部分が求償権者に帰属すべきであるとして、
破産手続においては超過部分も含めて債権者に配当した上で、求償権者の債権者に対する不当利得返還請求により処理に委ねるか、
②超過部分を求償権者に配当するか
 
●本決定 
破産法104条1項及び2項の趣旨
前記各項は、複数の全部義務者を設けることが責任財産を集積して当該債権の目的である給付の実現をより確実にするという機能を有すること(最高裁H22.3.16)に鑑みて、配当額の計算の基礎となる債権額と実体法上債権額との乖離を認めるものであり、その結果として、債権者が実体法上の債権額を超過する額の配当を受けるという事態が生じ得ることを許容している。

超過部分は破産財団に帰属すべきとの見解((1))は採用できない
(←求償権者による代位弁済がなければ、計算上の配当額が全額債権者に配当され、他の破産債権者がその配当を受ける余地はなかったものであり、超過部分を破産財団に帰属させることは、求償権者の負担で他の破産債権者に「棚ぼた」的な利益を得させることになる)

破産法104条3項ただし書及び4項の趣旨
⇒債権者が破産手続j開始の時において有する債権について破産手続に参加している場合、債権の一部を弁済したにとどまる求償権者は、求償権又は原債権を破産債権として行使することはできない

超過部分を求償権者に配当するとの見解((2)②)は採用できない
(←債権者と求償権者との間で代位弁済額等をめぐる争いがある場合に、超過部分の額及びその割付けをめぐる争いが破産手続に持ち込まれ、破産管財人の負担が増加するとともに、配当手続の実施に支障を来すおそれがある)

本決定は、
超過部分は求償債権者に帰属すべきものであるが、
破産手続においては超過部分も含めて債権者に配当した上で、
求償権者の債権者に対する不当利得返還請求による処理に委ねられる

との見解を採用。

実務上は、破産管財人が超過部分の存在を認識した場合、債権者に対し、超過部分の配当請求権を求償債権者に譲渡するよう促すことになる。

● Xは、本件破産債権のほかに代位弁済額に対する代位弁済の日の翌日からの遅延損害金等を劣後的破産債権として届け出ている。
このような場合、超過部分は劣後的破産債権に充当されるからその限度において不当利得が成立しないとの考え方もあり得る。
but
超過部分を含む配当は飽くまで一般の破産債権である本件破産債権についてされたもの
⇒配当の対象となっていない劣後的破産債権の存在を理由に不当利得の成立を否定することはできない

本決定:
「そのような配当を受けた債権者が、債権の一部を弁済した求償権者に対し、不当利得として超過部分相当額を返還すべき義務を負うことは別論である。」と付している。 
求償権者が保証人である場合、求償権者の不当利得返還請求に対し、債権者は遅延損害金等についての保証債務履行請求権との相殺を主張することができると考えられるが、求償権者が物上保証人である場合には同様の相殺は考えられないであろう。

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2018年3月 6日 (火)

じん肺管理区分についての決定の取消訴訟の係属中の死亡と訴訟承継(肯定)

最高裁H29.4.6      
 
<事案>
建物の設備管理等の作業に従事する労働者であった亡Aが、福岡労働局長に対し、じん肺法15条1項に基づいてじん肺管理区分の決定の申請⇒管理1に該当する旨の決定⇒じん肺健康診断の結果によれば管理4に該当するとして、Y(国)を相手に、その取消し等を求めた。 
亡Aが第1審口頭弁論終結後に死亡⇒亡Aの妻子であるXらによる訴訟承継の成否が争点。
 
<原審>
本件決定等の取消しによって回復すべき法律上の利益は、管理2以上のじん肺管理区分の決定を受ける地位であるところ、じん肺法上、じん肺管理区分の決定を受けるという労働者等の地位は、当該労働者等に固有のものであり一審専属的なもの。

本件訴訟は亡Aの死亡により当然に終了。 
   
Xらが上告受理申立て。
 
<判断>
じん肺管理区分が管理1に該当する旨の決定を受けた常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労働者であった者が管理4に該当するとして提起した右決定の取消訴訟の係属中に死亡した場合には、労災法11条1項に規定する者が当該訴訟を承継する。

更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。
 
<解説>
●取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合における訴訟承継の成否
最高裁(昭和42.5.24):
訴訟承継を主張する者が、死亡した原告から、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(原告適格を基礎付ける法律上の利益)を実体法上承継するとみられるかどうかによって判断するとの立場。
 
●じん肺法23条と労災保険法の関係 
じん肺法23条は、「じん肺管理区分が管理4と決定された者・・は、療養を要するものとする」旨を定めているが、これは、その者につき一般的に療養が必要であること及びその者に対する健康管理措置が「療養」であることを明らかにしたものとされている。
同法に「療養」の具体的内容を明らかにした規定が置かれていないのは、「療養」の具体的内容やそのための手続は労基法又は労災法の定めることによるとする趣旨

じん肺法23条の「・・・・は、療養を要するものとする」との文言も、労災法上の災害補償事由として定められた「じん肺症」(労災法12条の8、労基法75条、労基法規則35条、別表第1の2第5号)が「じん肺のうち療養を要するもの」と解されていたことに対応して定められた。

じん肺管理区分決定の要件や判断方法
じん肺管理区分決定における都道府県労働局長の判断は(じん肺にかかるおそれがあると客観的に認められる)粉じん作業に従事した労働者等を対象として、専ら医学技術上の判断に属するじん肺の所見の有無及び進展の程度に関する事実を確認するものであり、労災保険手続において行われる業務起因性の判断と実質的に同一のもの。

じん肺法23条は、都道府県労働局長により管理4と決定された者が、じん肺法上の健康管理措置である「療養」の措置として、労災法上の災害補償事由(じん肺症にかかった者)に該当するものとして、円滑かつ簡便に労災保険給付の支給を受けられることを明らかにしたもの
 
●じん肺法23条の本件通達の関係 
本件通達:
労災保険手続において、管理4と決定された者のじん肺を業務上の疾病として取り扱うものとした上、労災保険給付の請求に当たりじん肺管理区分決定を経ることを原則とし、管理4と決定された者についてはその健康診断を行った日に発病したものとみなして所定の事務を行うものとしている。

じん肺法23条及び労災法等の規定を踏まえ、
じん肺に係る労災保険給付に関する事務において、管理4に該当する旨の決定がある場合には業務上の疾病に当たると認めることとした

管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該労災保険給付の請求をした場合には、業務上の疾病に当たるとは認めない扱いとなるものと考えられる。

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2018年3月 5日 (月)

防衛行為の相当性

東京地裁立川支部H28.9.16    
 
<事案>
交通トラブルの相手方が自車の窓枠をつかんだ状態で同車を発進、加速させ、ついていけなくなって転倒した相手方を轢過して死亡させた。
検察官は、被告人が自分や同乗の娘の身体を防衛するためにしたものではあるが、防衛の程度を超えた傷害致死罪として起訴
 
<争点>
①暴行の故意の有無
②防衛行為の相当性 
 
<判断・解説> 
●暴行の故意
判断:
被告人が車を発進・加速した時点で被害者の身体が車体と接触し又はごく近くにあることを認識⇒その状態で走行すれば被害者の身体の安全を侵害する危険があると認識⇒暴行の故意を肯定。 

◎暴行の故意を否定した裁判例(大阪地裁):
相手方が運転席側ドアノブ付近をつかんで並走する状態で加速走行させ、路上に転倒させた
but
ドアミラーが前方に倒れていたなどの事情⇒
相手方の状態を認識できず、
自車と並走する相手方を現実に認識していたこと、自車の走行によって相手方に傷害を負わせるような近い位置に相手方がいるかもしれないと思っていたことが認められない

同裁判例は、
被害者はドアノブから手を離さず併走し、自ら危険な状況に飛び込んだもので、被害者の行動が大きな原因になっている
⇒客観的危険性の高さや過失の内容を理由に被告人の行為が防衛行為として相当な範囲を超えていたとはいえない⇒自動車過失致死罪(予備的訴因)に正当防衛が成立するとした。

●「やむを得ずにした行為」の意義 
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

最高裁:
公共的法益に対する侵害を私人が防衛することが問題となった事案において:
防衛行為がやむことを得ないとは、当該具体的事態の下において当時の社会通念が防衛行為として当然性、妥当性を認め得るものを言う」(最高裁昭和24.8.18)

押し問答を続けていた交渉相手から突然手指をねじあげられ、これを振りほどこうとして胸付近を1回強く突き飛ばしたところ、相手が仰向けに倒れて頭部に重傷を負わせた事案において:
「やむことを得ざるに出でたる行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味する。
反撃行為が右の限度を超えず、したがって侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない
(最高裁昭和44.12.4)

◎判断:
被告人車発進後も被害者が並走しながら怒号するなど旺盛な侵害の意思を示していた⇒急迫不正の侵害が継続。
防衛行為の程度について、
①予想される侵害と防衛行為との均衡、
②防衛行為者の意思
③他に取り得る手段の存否
の観点から検討。

③について、運転者窓を閉めるなどして侵害を防ぎつつ、警察官等の救援を求めることはできたものの、通常人の立場で考えて、停止・減速すれば逆上した被害者から何をされるか分からないという状況で、車の発進・加速以外の手段を取ることは困難

◎駐車をめぐってトラブルになり、・・後ずさりしたが、更に目前まで追ってくるので、逃げようとしたところ、運転席に菜切包丁があることを思い出し、窓越しに取り出して腰辺りで構え、「殴れるのなら殴ってみい」「切られたいんか」と言って脅迫した事件:
控訴審:素手の被害者に対し殺傷能力のある菜切包丁を構えて脅迫したのは相当性の範囲を逸脱したもの

上告審:
被告人は被害者からの危害を避けるための防御的な行動に終始していたものであるから、防御手段としての相当性の範囲を超えたものではない。 

●過剰防衛・正当防衛の裁判例 
◎  停車した被告人車のドアを開け、被告人を引きずり降ろそうとした⇒被告人は手を振りほどきドアを閉めたが、運転席側ステップに上がった被害者から窓越しに肩をつかまれたため、急発進⇒ハンドルを握ってきて車が右方に進行して欄干に激突しそうになり、とっさにハンドルを切った⇒被害者が振り落とされ、死亡。

一審:
被害者が不安定な状態で素手で攻撃してきたのに対し、運転席にいてある程度安全な状況にあった被告人としては、素手での反撃等他にとるべき手段があったはず⇒相当性の範囲を超えている。

控訴審:
被告人が感じていた侵害の危険性と恐怖感は相当に強く、素手での反撃を期待するのは困難であり、それによって被害者の侵害から逃れることも容易ではない。⇒自動車の発進より軽い打撃によって被害者の攻撃を防ぐことが可能だったとは考え難い
⇒重大な結果の発生を理由に防衛の程度を超えたものとすることはできない。

 
◎過剰防衛を肯定 
①被告人は、被害者をボンネットに乗せたまま運転を開始し、振り落とすべく高速で蛇行し、急ブレーキをかけるなどした
~生命の安全に対する危険を多分に含むもので被害者から受ける可能性のあった侵害の程度と著しく均衡を失する。
②より低速で走行し、被害者が転落することがないよう急ブレーキ等を控え、より安全な場所に奏功して他人に助けを求めるなど被害者の生命身体に配慮した行動が可能。

防衛行為としてやむをえない程度を超えた。(京都地裁)

①窓は全開だったがドアで遮られており、被害者は何らの武器も示しておらず、車両に並走しそれが困難となって飛び乗ったもの⇒侵害行為はその限度にとどまっている。
②車両の走行は、速度が上がるにつれ被害者の身体・生命の危険を増大させるもので、被告人は速度を容易に調整することができた
⇒加速し続けた行為は相当性を欠く。(札幌高裁)
・・・回し蹴りをしてきたことから口論になり、手拳でで顔面を殴られた⇒複数回顔面を殴り返し、被害者が転倒して頭部を打ちつけ死亡

第1審:被告人が素手で殴り返したのは「武器対等」であり、一方的な攻撃ではない⇒相当性の範囲を超えていない。

控訴審:
最後の段階では被害者はもはや互角に戦える状態ではなく、被告人の暴行は一方的かつ圧倒的攻撃⇒量的に過剰
急所である下顎部に2回命中させるなど被告人の暴行はボクシングの素養を用いたもの⇒質的にも過剰
(名古屋高裁)

判例時報2354

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2018年3月 4日 (日)

軽犯罪法1条2号の「正当な理由」と「隠して」の意義と存否の判断

広島高裁H29.3.8      
 
<事案>
被告人が、正当な理由がないのに、コンビニエンスストアの駐車場において、ヌンチャク3組を、自動車内に隠して携帯
⇒軽犯罪法1条2号違反に問われた。 
 
<規定>
軽犯罪法 第1条〔軽犯罪〕
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
 
<争点>
「隠して携帯していた」
「正当な理由」
の有無。 
 
<判断>
「隠して」につき、本人に隠す意思が必要

隠れた状態を認識するだけでは足りず、携帯の態様や目的等から隠すことについての何らかの積極的な意思を認定する必要がある。

本件では否定。

●「正当な理由」について、
本号の器具には、職業上又は日常生活上必要ともいえる器具も多く含まれうる
⇒凶器の危険性の高さを理由に「正当な理由」を限定的には解してよいことにならない。

客観面と主観面の諸事情を総合して判断する必要

ヌンチャクについて、
武道や趣味などとして適法に使用されることの方が一般的
社会通念上、携帯が相当な場合が十分にあり、本件の事情の下では、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合に当たらないとすることには合理的疑い
⇒「正当な理由」がないとはいえない。 

⇒被告人は無罪 
 
<解説> 
「隠して」 
①一般社会生活上、接触する他人の通常の視野に入ってこないような状態におくことをいい、
②携帯する者に隠す意思があることが必要。

本号が、危険な器具を「隠して」携帯することが人の生命、身体に対する具体的危険と結びつきやすいことに着目して、犯罪として取り締まることとしたものと解される。
 
●「正当な理由」 
銃刀法22条所定のものと同様に解され、
職務上または業務上の必要のため携帯する場合等に認められ、
けんかの際の護身用としてナイフを携帯するような場合には正当な理由が認められないことが多い。

最高裁H21.3.26:
「正当な理由」の有無について、
当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、
隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素
総合的に勘案して判断すべきと判示し、

深夜のサイクリングの際に専ら防御用として催涙スプレーをズボンのポケット内に入れて隠匿携帯したことは、社会通念上、相当な行為であり、「正当な理由」によるものであるとした。

判例時報2354

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2018年3月 3日 (土)

道交法130条2号の「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に該当しないとされた事例

大阪高裁H28.12.6      
 
<事案>
検察庁の取調べで当該車載カメラの映像を示された⇒違反の事実を認め、交通反則通告制度による処理を希望。
but
道交法130条2号にいう「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に当たる
⇒公訴を提起。 
 
<解説>
道交法:交通反則行為に関する処理手続の特例:
警察官において、反則者があると認めるときは、その者の居所や氏名が不明の場合又は逃亡のおそれがある場合を除き、その者に対し、速やかに反則行為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別等を書面で告知し(126条1項)、
警察本部長は、告知を受けた者が反則者であると認めるときは、反則金の納付を書面で通告し(127条1項)、
これに応じて10日以内に反則金納付の通告を受け、かつ、10日の期間が経過した後でなければ、公訴を提起されない(130条)。

その者が書面の受領を拒んだため126条1項の規定する告知又は通告をすることができなかったときはこの限りでない(同条2号)
と規定。
 
<問題>
どのような場合に、反則者が書面の受領を拒否したものとして直ちに公訴を提起することができるのか? 
 
<判断>
道交法130条2号にいう「受領を拒んだ」の意味について、
反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだため、交通反則通告手続による処理が困難となる場合をいう。

①交通反則通告制度は大量に発生する道交法違反についての迅速処理を主眼とするものではあるが、他方、大量の違反者すべてに刑罰を科し犯罪者とするとかえって刑罰の感銘力を低下させるなどの弊害があることも考慮した制度
②受領拒否の「正当な理由」の有無を判断するに当たっても、単に迅速処理の観点だけではなく、比較的軽微な違反行為について公訴提起は抑制的であるべき

①過失による赤信号看過という本件反則行為の内容が、速度超過、駐停車違反、通行禁止違反等のその場で違反者が道路標識や記録紙等を確認することで違反の事実を容易に認識できる類型の違反と異なり、違反者自身に自覚がないことが通常で、かつ、その場で違反の事実を確認できないことがままある類型の違反
被告人が警察官に車載カメラの映像の確認を求めたのは格別不当であるとはいえない
警察官が、実際には車載カメラの映像が存在していたにもかかわらず、被告人に対し、そのようなものはないと言ってこれを提示しなかったのは甚だ不誠実な対応
それにもかかわらず、後日、車載カメラの映像を見せられて事実を認め、交通反則通告制度による処理を求めた被告人が一旦告知書の受領を拒んだ以上、道交法126条1項の告知をすることができなかったときに当たるとするのは、信義に反する

本件は反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだ場合には当たらない

被告人を罰金9000円に処した原判決を破棄し、公訴を棄却。
 
<解説> 
本判決は、
一般論としては、
受領拒否に当たるかどうかは反則行為を現認した警察官がその時点で判断すれば足り
検察官に事件送致された後に被疑者が反則制度の利用を希望したからといって、同制度による処理に移行する必要がない。
but
違反行為の類型的な特徴に加え、
特に警察官の不誠実な対応があった点を重く見て、例外的に処理するのが相当と判断
。 

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2018年3月 1日 (木)

会社代表者によるパワハラと、退職願の提出が会社都合退職とされた事例

長野地裁松本支部H29.5.17      
 
<事案>
Y1社は医療機器の販売を主な業務とする会社で、Y2はY1社の代表取締役。
X1ないしX4はY1社の元従業員。
①Xらが、在職中にY2からパワーハラスメントの被害を受けたとして、Yらに対し慰謝料の支払を求める。
②X1及びX2が、夏季賞与を根拠なく減額されたとして、Y1社に対し減額分を求める。
③Xらには自己都合退職の係数に基づき算定された退職金が支給されたところ、各原告には会社都合退職の係数に基づく退職金が支給されるべきであるとして、Y1社にその差額の支払を求める。
④X2が、Y1社が違法な降格処分をしたとして、Y1社に対し、同所分により支給されなかった賃金相当額の支払を求める。
 
<判断>
●請求①について 
Y2の言動について、X2がY2の言動等を書き留めていた手帳の記載当事者尋問の結果等に基づき、概ねXらが主張するとおりに認定
その上で、Y2の言動はXらに対する不法行為を構成
⇒Yらに対し慰謝料の支払いを命じた。

最も高額な慰謝料(100万円)を認めたX2については、
退職させる目的で賞与減額や降格処分を立て続けに行ったこと、
不法行為の期間が長くはないものの、侮辱する発言が繰り返されたこと
が重視されている。

次いで高額な慰謝料(20万円)を認めたX1については、
X2と同様、侮辱する発言が繰り返された点が考慮された一方、
X2に見られたような根拠のない降格処分等がX1に対してはなされていない点が斟酌された。

◎ 控訴審
⇒、X1に対する退職強要行為及びX3、X4に対する間接的な退職強要行為があったと認定の上、同人らの慰謝料を増額。 
 
●請求②について 
X2について、退職強要目的で理由のない賞与減額と降格処分をし、その直後にX2が退職願を提出
Y1社からの退職勧奨によって退職した場合と同視できる

その余の原告については、Y1社からの退職勧奨によって退職した場合と同視できる事情が見当たらない。
 
<解説> 
労働者がパワーハラスメントと主張する行為が認定された場合に、これを違法と評価すべきか否かの判断基準として、

裁判例には、
A:他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は原則として違法であるというべきであり、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される。(福岡高裁H20.8.25)

B:企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をした場合には不法行為を構成する。(当居高裁H25.2.27)

具体的な考慮要素として、
行為の目的、態様、頻度、継続性の程度、被害者と加害者の関係性を挙げる文献。

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