諫早湾干拓地潮受堤防排水門開放差止請求事件第1審判決
長崎地裁H29.4.17
<事案>
国営諫早湾土地改良事業において、諫早湾干拓地潮受堤防が設置され、それにより締め切られた奥部を調整池とし、その内部に干拓地が形成された。
Y(国)は当該潮受堤防の北部及び南部に排水門を設置し、その開門権限を有している。
福岡高裁H22.12.6は、Yに対し、判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって開放を継続することを命じ、同判決は同月21日に確定。
本件:
Xら(諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営むという者、諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営むという者及び諫早湾付近に居住する者など)が、Yは本件各排水門を開放し、以後5年間にわたってその開放を継続する義務を負っており、地元関係者の同意と協力なしに開門をする可能性があって、Xらは開門により被害を受けるおそれがあるなどと主張
⇒
所有権、賃借権、漁業行使権、人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として、Yに対し、
・・・・開門の開門の各差止めを求めた。
<Yの主張>
事前対策を実施することによって、本件開門によるXらの被害は回避され、
本件開門によって漁業環境が改善する可能性があり、
開門調査を実施し、調査結果を公表することに公共性ないし公益上の必要性がある。
<判断>
●Yが本件開門をする蓋然性
ある者に対して一定の作為をしないことを求める給付訴訟においては、その者によって当該「一定の作為」がなされる蓋然性のあることが、訴えの利益として必要。
Yがケース1~3開門をする蓋然性はあるが、その余の開門をする蓋然性はない。
●ケース3-2開門、ケース1開門およびケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか
◎ 差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するにあたっては、
侵害行為の態様と侵害の程度、
被侵害利益の性質と内容、
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度
等を比較検討するほか、
被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等
の事情を考慮してこれを決すべき。
前記被侵害利益の性質と内容については、個々のXの被侵害利益を考慮すべきであるが、
多数の当事者の権利について妨害のおそれがあることは、公共性ないし公益上の必要性の程度を減殺する事情として考慮することができる。
◎ ケース3-2開門は、本件各排水門の管理水位を維持したまま5年間の比較的長期にわたり、調整値に海水を導入するもの
⇒
これにより各X農業者の所有又は賃借に係る農地には塩害、潮風害又は農業用水の一部喪失の発生する高度の蓋然性があり、これらにより農業被害の発生するおそれがある。
これらの農業被害は、財産的権利に関するものであるが、各X農業者の生活等の基盤に直接関わるものであり、重大。
他方で、ケース3-2開門がなされても、Yが主張する諫早湾及び有明海の漁業環境が改善する可能性及び改善の効果はいずれも高くない。
ケース3-2開門による開門調査を実施し、本件事業と漁獲量減少との関連性等の調査結果を公表することには一定の公共性ないし公益上の必要性はあるが、解明の見込みは不明である上、ケース3-2開門がなされた場合に、多数のXが土地所有権ないし賃借権の行使として営む農業に前記被害を受けるおそれが生じる
⇒ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性は相当減殺される。
Yの予定する事前対策は、その実効性に疑問があり、これによって、Xらの妨害のおそれは否定されない。
⇒
ケース3-2開門によって侵害を受けるおそれのある各Xの被侵害利益とケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性とを比較し、各事情を総合的に考慮すれば、ケース3-2開門については、差止請求を認容すべき違法性がある。
同様に、ケース1開門、ケース3-1開門についても、差止請求を認容すべき違法性がある。
●ケース2開門について
ケース2開門は、5年間の開門をするものであり、
第1段階としてケース3-2開門を行い、
第2段階としてケース3-1開門を行い、
第3段階としてケース1開門を行うという開門方法。
⇒
ケース2開門の差止めを求める訴えは、訴えの利益を欠き、不適法⇒却下。
判例時報2353
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