会社における弁護士・依頼者秘匿特権(米国判例)
Upjohn Co. v. United States
<控訴審>
弁護士と、その法的助言に従って会社の方針を決定できる立場にあるコントロールグループの間の通信のみが秘匿特権によって保護されるというコントロールグループテストを採用。
⇒
弁護士とコントロールグループ以外との従業員との間の通信に関しては、弁護士・依頼者間の通信とは認められないから、秘匿特権の適用はない。
<争点>
会社の弁護士と、会社のコントロールグループ以外の従業員との間の通信に秘匿特権の適用を認めるか?
<判断>
●
①弁護士が依頼者に対して十分な法的助言や弁護を行うことは、法の遵守や正義の実現といった公共の利益に資する。
②このような助言や弁護は、弁護士が依頼者から全部の情報を得ることによって可能になる。
⇒
弁護士と依頼者との間の全面的で率直な通信を保護することが秘匿特権の目的。
●
秘匿特権は、
①弁護士が専門的な助言をすることを保護するだけでなく、弁護士が法的助言をするために必要な情報を収集することをも保護するためのもの。
②会社関係においては、弁護士が必要とする情報を持っているのは、コントロールグループではなく中級以下の従業員であることも多い。⇒そうした従業員との通信が保護されなければ、弁護士が会社に対して法的助言をするにあたって必要な情報を十分に収集することができなくなる。
⇒
コントロールグループテストは、秘匿特権の目的を妨げるもの。
コントロールグループテストは、依頼者たる会社の方針を実行に移す非コントロールグループの従業員に対して、全面的で率直な法的助言を伝えることを難しくする。
現代の企業が直面する複雑で広範な規制
⇒会社は個人と異なり、何らかの法的問題が起きたときだけでなく、日常業務において法令を遵守するためにも不断に弁護士に相談する必要。
⇒コントロールグループテストを採用し、秘匿特権の範囲を狭く解釈することは、会社の弁護士が、依頼者たる会社に対して確実に法令を遵守させるために有益な活動を行うことを制限することにつながる。
コントロールグループテストは、適用される者の範囲が不明確で、弁護士と依頼者が、自分たちの間の議論が保護されるかどうか予見することが困難。
⇒
コントロールグループテストを採用せず、秘匿特権の適用範囲はケースバイケースで判断されるべき。
●
本件会社の従業員と弁護士との間の通信が、
①従業員が、会社の上層部の指示に従って行ったものであること、
②法令遵守や、訴訟の可能性を考慮した法的助言のために必要であったこと、
③会社における従業員の職務の範囲に属する事項に関するものであること、
④法的な目的で行うことが明示されており、従業員もそれを認識していたこと、
⑤秘密扱いとされていたこと
⇒
本件の従業員と弁護士の間の通信は秘匿特権によって保護されるべき。
●
秘匿特権によって開示から保護されるのは通信に限られ、弁護士と通信を行った者が、その前提となる事実について開示することを妨げるものではない。
⇒
本件のような通信に秘匿特権を適用しなかったとしても、紛争の相手方にとっては通信自体がなされなかった場合と同じ状況になるに過ぎない。
本件においても、IRSは法務部長や外部の弁護士と通信を行った従業員に対して、本件会社の提供したリストに基づいて、自由に質問をすることができる。
実際にIRSはそのうち25名に対して面接調査を行っている。
●
①従業員と弁護士の間の通信のみならず、
②法務部長が法的助言や訴訟の準備のために作成したメモ等に対してもIRSから提出命令
~
職務活動の成果の法理(work product doctrine)の適否が問題。
会社:これらの文書は訴訟準備のために弁護士が作成した職務活動の成果(work product)に該当するとして開示を拒む。
判断:
①IRSの提出命令に対しても職務活動の成果の法理の適用がある。
②証人の供述に基づくメモは弁護士の思考過程を明らかにする職務活動の成果として、特別な保護が与えられるべき。
⇒
控訴審判決を破棄し、職務活動の成果の法理についてさらに審理の必要があるとして、控訴裁判所に差し戻した。
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