第一種少年院に送致した原決定の処分が、著しく不当であるとして、取り消された事例
大阪高裁H28.11.10
<事案>
少年(非行時17歳)が約2か月の間に、
①原動機付き自転車の無免許運転をし
②共犯少年と共謀の上、歩道上の車止め3本を数人共同して損壊し
③普通乗用自動車の無免許運転をした
事案。
原審:短期間の処遇勧告を付して少年を第1種少年院に送致
⇒少年は、処分の著しい不当を理由に抗告
⇒本決定:抗告に理由があるものと認め、原決定を取り消して、事件を原審に差し戻した。
<解説>
●非行事実と要保護性
少年法は、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的として(少年法1条)、
罪を犯した少年等を対象に、
要保護性の程度に応じて、
保護観察や少年院送致等の保護処分を用意。(同法3条、24条)
非行事実には、少年の資質・環境に関する問題点が顕在化しているといえる
⇒非行事実の罪責(行為の客観的な悪質性のほか、少年がそのような非行に及んだことに対する非難の強さ)を検討することは、少年の要保護性の程度を判断する上で重要。
要保護性の検討の方が(量刑の検討よりも)、より動機、経緯、少年の性格等の背景事情等も踏まえ、なぜ少年が当該非行に及んでしまったのかという観点からの検討に重きがおかれる。
保護処分は、少年に対して性格の矯正や環境の調整を行うもの
⇒要保護性を判断する上では、
少年の資質や環境の各問題点を、鑑別所技官及び家庭裁判所調査官の各報告書や審判廷における尋問等を通じて、直接的に検討することも重要。
多くの場合、非行事実の重大性と要保護性とは相関関係にある
but
場合によっては、非行事実の検討だけでは必ずしも明らかにならなかった少年の資質あるいは環境に関する問題点の実情が明らかとなって、非行事実で検討したところよりも要保護性が高いと判断されたり、
逆に、非行事実で検討したところほど要保護性は高くないと判断されたりすることもあり得る。
●本件について
◎ 本件各非行事実は、それだけに着目すれば重大な事案ではない
⇒原決定のように少年院送致を結論づける文脈において悪質な非行と評価するためには、そのことを合理的に根拠付け得る理由が必要になる。
原決定が指摘する少年の資質傾向や問題点は、非行に及ぶ少年であれば大かれ少なかれ有している。
本件各非行は重大な事案ではない⇒そのような資質傾向等が本件各非行に結びついていることを明らかにしても、そのことから直ちに、資質傾向等に根深い問題があるとはいえない。
少年の非行歴や本件各非行前後の行動等⇒その顕在化は一時的なもの⇒少年の資質傾向は施設収容しなければ改善できないほど深刻なものであるとはいえない。
◎少年の資質等の問題の根深さを量るためには、
非行時だけでなく、
その資質等が顕在化した非行歴の有無・内容、
非行前後に少年が取った行動、
少年が持っている良い資質等も併せて考慮し、
資質等を強制して再非行を防止することの難易度を検討しなければならない。
⇒多角的な検討が不可欠。
◎保護者に監護意欲が欠如しているとか、監護意欲はあるものの看護方法が甚だしく不適切で改善の見通しも立たないとか、少年と保護者の基本的な親子関係に問題があってそれが少年の更生の妨げになるとか、少年が家庭から離反してしまっている
~
保護者による教育に期待することはできない
⇒施設収容に傾く
少年の資質上の問題等が根深い⇒専門的で系統的な矯正教育が必要
⇒保護環境の問題点を検討するまでもなく、施設収容に傾くことが多い。
●一般短期処遇勧告付きの事案には、収容処分が相当なのか在宅処遇がまだ行えるのかなど、収容処分相当性の判断が微妙となる事案が含まれていることが少なくない。
判例時報2350
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