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2018年1月 9日 (火)

オウム真理教事件に関与し逃亡していた被告人の事案

東京高裁H28.9.7      
 
<事案>
オウム真理教による一連の組織的犯行の後に逃亡⇒17年後に逮捕起訴。
裁判員裁判で、全事件について故意及び共謀等を争ったが、全事件について共同正犯として有罪で、無期懲役。
⇒控訴。
 
<規定>
刑訴法 第157条の3〔証人尋問の際の証人と被告人・傍聴人との間の遮蔽措置〕
裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
②裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。
 
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

憲法 第82条〔裁判の公開〕
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

刑訴法 第281条〔公判期日外の証人尋問〕
証人については、裁判所は、第百五十八条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。

刑訴法 第158条〔裁判所外・現在場所での証人尋問〕
裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれを尋問することができる。
 
<判断・解説> 
●証人尋問に係る訴訟手続の法令違反 
◎証人尋問請求の却下 
教団代表者及び共犯者1名に対する証人尋問請求の却下の違法性を主張
but
両証人の必要性は乏しく所論の違法はない。
 
◎死刑確定者5名の証人尋問における遮へい措置 
最高裁H17.4.14に従って、刑訴法157条の3第2項は憲法37条1項、2項、82条1項に違反しない。
裁判の公開は証人の供述態度や表情を傍聴人に認識させることは要請していない
②本件は一連のオウム真理教事件の一部である
③死刑確定者が、一般的な証人とは異なる心身の状態にあることは容易に推察され、刑事収容法32条1項に沿って死刑確定者の心情の安定に配慮する必要がある
遮へい措置は不要であるという証人の上申には拘束されない

原審の措置に違法はない。

刑訴法157条の3第2項は、「犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは」と定めているところ、
本判決は、遮へい措置をとる積極的な事情としては、事件の性質と死刑確定者の心情の安定を指摘するにとどめている。
 
公判期日外における証人尋問の実施 
①事件の重大性、
②証人の重要性、
③同証人は再度出頭すれば報道されて失職するおそれがあり、出頭に伴う負担や影響が相当大きい、
④勾引すればかえって失職の可能性が高まる、
⑤裁判員の心証形成のためには審理計画のとおり訴因ごとの証拠調べが望ましい
⇒原審の措置に違法なし。

尚、脅迫の被害者で多忙な国会議員の証人尋問を受訴裁判所外で行った措置を適法とした事例(東京高裁H20.9.29)
 
●VX事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が教団の敵対者とされた被害者2名に神経剤VXをかけた殺人及び殺人未遂
被告人は、運転手又は実行役の同行者などとして関与
 
◎殺意 
①被告人が本件前の別の被害者にVXをかけた事件に際し、共犯者からポアするなどと聞いた
②被告人はポアが殺人を意味することは分かっていた

被告人は本件謀議の場に居合わせて話合いの意味を理解し、
VXの殺傷能力も認識していた

被告人は、各被害者にVXをかけることについて、人を死亡させる危険性が高い行為をあえて行うという、殺意と評価できる認識を有していた。
 
◎共同正犯 

原判決:
運転手として重要な役割を果たし(V1事件)、又は実行役に同行して実行行為に準じた重要な行為をした(V2事件)という客観的事情
VX事件は強い精神的一体性を有する教団に属する被告人の目的でもあり、被告人は自己の宗教的な利益を得ようとしたことなどの主観的事情
被告人は自己の犯罪を犯したと評価できるとして共同正犯の成立を認めた。

本判決は、原判決の判断も是認し
運転手が代替可能であることや犯行の計画に関与していないことは、直ちに役割の重要性を否定しない。
ただし、「実行行為を担当するなど、結果発生のために重要な寄与をしている場合は、それ自体だけでも自己の犯罪を犯したと評価するのに大きな事情となるはずである。」と説示し、原判決よりも客観的な寄与を重視している。
 
●V3事件 
教団関係者が、教団信者の実兄V3を自働車に押し込み、教団施設に連れ込んで監禁し、大量の麻酔剤を投与して意識喪失に陥らせて死亡させ、その死体を焼却した事案。
被告人は、被害者を車に押し込んで教団施設に運び込み、死体を焼却場所に運ぶなどして関与した。
 
◎逮捕監禁についての意思連絡 
共謀の前提となる構成要件的故意の内容としても、自己の行為が人の身体・行動の自由を侵害するものであることを認識認容していれば足りる。

被告人は、被害者を逮捕監禁することの認識は十分有しており、被害者を自動車に押し込む時点で麻酔剤を投与することまで認識していたと認められないことは、逮捕監禁の意思連絡を認定する妨げにはならない。

被告人は被害者を車内に押し込んでから教団施設に至る間において、実際に被害者が注射をされて意識を失ったことを認識しながら行動を共にしている

薬物を使用して被害者を意識喪失状態にして監禁することについての意思連絡も認められる。
 
◎致死結果への帰責性 

原判決:
薬物使用に関する被告人の認識及び意思連絡を積極的に認定していなかったが、致死罪の成立については、被告人が本件逮捕監禁の主要部分(骨格)について共犯者と意思連絡をしたと評価できる以上、その逮捕監禁の流れの中で、被告人が事前に認識していなかった共犯者の行為(麻酔剤の投与)があったとしても、その行為による致死結果についても責任を負う。

共犯者の一部が具体的な意思連絡の範囲を超えて過剰な行為に出たとしても、同一罪名及びその結果的加重犯については、他の共犯者も同一の罪責を負うとの法解釈に基づくもの。

本判決:
薬物使用を監禁の手段とすることについても意思連絡があったという事実認定を前提に、
麻酔薬の投与は全て逮捕監禁の手段であり、教団施設に運び込まれるまでに投与された麻酔薬が被害者に蓄積され、副作用の発生に影響を与えている
⇒その後の投与を被告人が知らなかったとしても、被告人には薬物が監禁の手段として使用されていることの認識が認められ、使用された薬物が死亡の結果発生に影響を与えている以上、致死結果についての帰責性は否定されない
 
●地下鉄サリン事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が、東京都心を走行中の5つの地下鉄電車内で猛毒のサリンを発散させ、多数の死傷者を出した事案。
被告人は実行役5名のうち1名を自働車で送迎。
 
◎殺意・共謀について 
以下の原判決を是認
①本件前にボツリヌストキシンを駅構内に噴霧させようとしたアタッシュケース事件に関与した
②その後、共犯者から一斉に地下鉄に撒くなどの指示を聞き、不特定多数の乗客等に危害を加えると理解した
③サリンに関する教団代表者の説法や報道を通じて、地下鉄に撒くものが猛毒のサリンである可能性を容易に思い浮かぶ状況にあった
④実行役が車内に戻ってくると、体調の異変を感じて換気をし、中毒を心配して注射を打ってもらった
⑤VX事件、V3事件を通じて、人命を軽視する教団の体質を感じ取っていた

故意を認定

サリンを撒くと被告人に言った等の共犯者供述は全面的に信用できない⇒サリンであると確定的に認識していたとは認められない。
but
被告人は、実行役が地下鉄電車内にサリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性が高い行為をあえてするという殺意と評価できる認識を有していた

共謀について:
被告人は地下鉄に撒くものにつき前記認識の限度で意思連絡をしたと認めた上、被告人の関与に係る客観的・主観的事情を総合して、これを肯定
 
◎訴因逸脱認定・不意打ち認定の主張 

判断:
原審検察官が殺意について確定的な内容のみを主張し、未必的な認識を排除する主張をしていたとは認められず、検察官の確定的な殺意の主張と異なる被告人に有利な殺意が認定されたとしても、これは訴因事実に内包されている

訴因外の認定にも不意打ちにもならない

確定的な殺意の主張に対して未必的な殺意の限度で認定する場合、縮小認定として訴因変更は要しないとされており、特段の争点顕在化措置もとらないことが多い。
 
●都庁爆発物事件(爆発物取締罰則違反、殺人未遂) 
教団関係者が、書籍型爆発物を製造して東京都知事宛てに郵送し、これを開披したと職員に傷害を負わせたという爆発物取締罰則違反及び殺人未遂。
被告人は爆発物の製造に関与。
 
◎次の原判決を肯定:
殺人の実行行為について、当該行為が人を死亡させる現実的危険性のある行為であるといえることが必要
爆発による結果、爆発物の構造・外観・威力を検討して、これを肯定。
 
◎弁護人:
原判決が、捜査段階で本件爆発物に関する鑑定をした警視庁科学捜査研究所職員の証言によって、人が死亡する爆風圧の数値を認定したことにつき(本件爆博物の爆風圧はこれを上回る)、この数値についての証言は、専門的知見のない証人が文献の内容を供述した伝聞証拠であるとして、訴訟手続の法令違反を主張。
 
本判決:
専門家証人の供述中に非体験事実が含まれていたとしても、
専門的知見の前提としてその専門分野で所与のものとして共有されている事柄や、専門的知見に基づいて合理性や妥当性を有すると判断された内容に関する事項についての供述は、事実認定を誤らせるおそれが乏しい

体験事実に準じるものとして、伝聞供述とはならず、証拠能力を肯定してよい

判例時報2349

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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